新聞記事

2014年09月15日号から

札幌・奥野工務店 減築とフルリフォームを同時提案 広すぎる3階建て2世帯

 (株)奥野工務店(札幌市、奥野智史社長)では、オーナーのライフスタイルの変化に対応し、減築を行いつつ新築並みの断熱・気密施工で築25年程度の住宅をフルリフォーム。経済産業省の補助事業を利用することで断熱施工にかかるコストも抑えた。
 物件は札幌市内の1階RC、2・3階木造の3階建てで、施工前の延床面積は約52坪。当初はキッチンと浴室が2つある2世帯住宅として建設され、その後オーナー夫婦と子供1人の3人暮らしとなったが、子供が近い将来に独立するため、一部の部屋が必要なくなること、室内の寒さが気になること、高齢の夫婦2人暮らしになった時に備えて、敷居など段差を解消したかったことなどを理由にリフォームを検討。オーナーから相談を受けた同社では、躯体は基礎を含めてしっかりしていたことから、使わない部屋を減築してフルリフォームする提案を行った。
20140915_1_1.jpg 同社はオーナーの経済的負担を抑えるため、当初は最大50万円の補助を受けられる札幌市のエコリフォーム補助へ申請を検討していたが、補助額が最大150万円で、申請もやりやすいことから、経済産業省の「既築住宅・建築物における高性能建材導入促進事業」を利用。断熱材と窓の材料・工事費のうち、70万円を補助でまかなっている。
 躯体は約6坪の減築を行うにあたって、1階のRC壁や2・3階の柱を新設したり、小屋組みを新たに造り直したほかは、既存のRC壁と軸組をそのまま流用。
 断熱仕様を見ると、リフォーム前より一次エネルギー消費量を15%以上削減という経産省補助事業の要件を満たすため、外壁は軸間に充てんされていたグラスウール10K100mmと、付加断熱の押出スチレンフォーム20mmを、それぞれ高性能16K品とB3種品に交換。床は土台間にグラスウール10K100mmのみ施工されていたが、高性能品16K100mmに入れ換えると同時に、根太間にはグラスウールボード32K45mmを納めた。天井はブローイング300mmを吹込み、窓は樹脂サッシ・アルゴンガス入りLow-Eペアガラスに交換している。
 気密施工は新築と同様に行ったが、胴差し回りは先張りシートと同じサイズにカットしたポリフィルムを胴差回りにタッカーで留め、梁が当たる部分はY字に切込みを入れて落とし込んでから、梁回りをテープ処理する"先張りシートの後張り"を行った。
 同社の奥野社長は「仮に建て替えるとなると、混構造なので解体にもコストがかかり、フルリフォームより1千万円は多くかかったと思う。経産省の補助は申請手続き・要件ともに取り組みやすく、断熱にかかるコストが浮いた分、設備などのグレードアップが可能になったので、お客様の満足度も高めることができた。来年度も物件に応じて利用していきたい」と話している。


2014年07月25日号から

その場で燃費計算できる 営業マンを育成

高性能を燃費保証で見える化2 室蘭・住まいのウチイケ

 
「今後は絶対必要」と社長が即断
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内池秀光社長

 住まいのウチイケでは、14 年前に建てたモデルハウス兼事務所に、付加断熱や木製トリプルサッシを採用。「いろんな面で差別化を図っているが、重要視しているのは断熱と暖房」という性能志向の強いビルダーだ。現在の外壁断熱性能は高性能グラスウール230㎜相当で、窓はエクセルシャノンのトリプルガラス入り樹脂サッシ、そして低炭素住宅が標準仕様だ。「ウチイケさんで家を建てたら、暖房費が半分に減った」とOB 客に感謝されるなど、性能には自信があった。
 ところが、外壁200㎜断熱など高性能をうたう住宅が他社でも建てられるようになり、圧倒的な差をつけるのが難しくなってきた。また、見込み客に「暖かくて暖房費も安い」とアピールしても、北海道では高断熱・高気密住宅は当たり前と思っている客層も多い。「地元ビルダーが『我が社が一番』とアピールし合う中、どう差別化するか悩んでいましたが、わかりやすいのは数字で見える化すること。その時知ったのが栃木・島野工務店さんの燃費保証でした」と内池社長。
 この考え方を知ってすぐに、燃費保証住宅に取り組むことを決め、さっそく地元フリーペーパーに「暖房費負担します」と大きく書いた広告を掲載した。

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今年1月に掲載したフリーペーパーの広告

 
 反響は大きく、手応えを感じた。一方で突っ走る社長の姿に、社員は戸惑った。営業担当の成田智明さんは、「自分たちで燃費計算できるのか」と不安に思ったという。
 内池社長は、「お客さまと打ち合わせの時にその場で燃費計算ができる営業マンなら差別化できる。これからは絶対必要になる。まずは宣言してしまおうと始めました」と苦笑する。ちょうど、新しい燃費計算ソフトを入手し、その使い方をマスターしようかと言っていた矢先だった。成田さんは「最初は2時間かかったが、今は10 分もあれば燃費計算できる」と胸を張る。
 
 
年間の暖房費相当分を前渡し
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暖房費負担サービス第1号の住宅外観

 
 同社では、引き渡し後1年目は燃費計算ソフトで計算した年間の暖房費相当分を引き渡し時に「当社が負担する暖房費です」と、お客さまに渡す。今年2月から試験的に開始し、今後建築する住宅は全て保証する。
 暖房費負担第1号のお客さまとなったのは室蘭市内の佐藤邸。昨年暮れに契約しており、契約後に住まいのウチイケから暖房費負担の話をした。2階建で延床面積は約32 坪。断熱性能は同社の標準仕様で、暖房と換気は、日本スティーベルの熱交換換気に空気熱ヒートポンプを組み合わせ、各部屋の給気ダクトからヒーポンで暖められた新鮮空気が供給される換気暖房システムにグレードアップしている。同社が計算した暖房費は、年間約7万5000 円。
 佐藤さんは「暖房費が高いために暖房を我慢して厚着で過ごすような生活はしたくない」と言い、冬が来るのを楽しみにしている。
 今回の取り組みは、北海道新聞からも取材を受け、「暖房費『1年分負担』」と大きな見出しで全道版に掲載された。反響も大きく、問い合わせがかなりあったという。
 
 
「省エネ行動につながる可能性も」 北大 羽山教授
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佐藤邸で測定機器を置く羽山教授

 北海道大学大学院羽山広文教授は、栃木県の島野工務店が4年前から実施している「1年目は光熱費全額負担、2、3年目は光熱費の試算値から超過しても節約してもその差額を払う」という独自のインセンティブ(報酬)を付与した高断熱・高気密住宅に注目し、それが住まい手の省エネ行動やエネルギー消費の抑制にどう役立っているかを実証研究している。道内の住宅も研究対象に入れることで、栃木県と北海道の消費者の行動の差異も比較する。
 同社もこの研究に協力しており、羽山教授の研究成果を見ながら2年目、3年目の保証についても今後検討する。佐藤邸も測定を開始した。
 
 


2014年07月05日号から

全村避難の飯舘村、200mm断熱で復興住宅

 東京電力福島第1原発の事故によって全域が避難指示地域となっている福島県飯舘(いいたて)村は、福島市内に子育て世帯向けの復興村営住宅「飯野(いいの)町団地」を計画、9月入居に向けて工事を進めている。被災者向け住宅の先行事例であるとともに、これまでも断熱住宅を整備してきた飯舘村にとっても初めての200mm断熱の仕様が注目を集めている。

子育て世代の不便解消

 復興村営住宅「飯野(いいの)町団地」は、多くの村民が避難している福島県福島市の飯野町に計画された。飯舘村の全住民およそ5900人は、福島市など近隣市町に分散して避難し、中でも幼稚園児と小・中学生およそ370名は、スクールバスを使っても通園・通学に1時間以上もかかるなど、負担が大きかった。村は昨年まとめた復興計画の中で、これらの不便を解消する子育て拠点として、集会所と戸建て9戸、2戸1棟式14戸、合計23戸の飯野町団地の整備を盛り込んだ。

20140705_1_1.jpg 敷地は約8500㎡。プロポーザルによって採択された案は、中央の集会所とそれを囲むように住戸を配置し、ループ状の団地内道路から車を直接住戸に乗り入れられるよう駐車スペースを配置しながら、道路に走行速度を抑える工夫をした子育て世代に優しい配置計画。
 もうひとつの大きな特徴は、外壁200mmの超高断熱仕様だ。
 飯舘村では1998年の定住促進住宅から、快適で省エネな高断熱・高気密工法を採用してきた。今回はその延長線上にある。村は、年平均気温が10℃、冬の最低気温はマイナス10℃以下と北海道並みに寒く、旧省エネ地域区分ではⅡ地域。一方、建設地はそこまでの寒さではない3地域だが、やはり寒い。村の考え方として、快適で省エネな住環境を提供したいという思いと同時に、村外に整備する住宅なので、将来的にどこかに譲渡することになったときにも価値のある建築を造りたいという思いが重なった。

施工者研修会も開く

 主な断熱仕様は、外壁と屋根が高性能グラスウール16K200mm、基礎が外部押出スチレンフォームB3種100mm、土間下同30mm。開口部は樹脂サッシLow-Eペア、断熱ブラインドつきなど。熱損失係数は1.2W程度となる。
 設計・監理は(株)邑建築事務所(福島県いわき市)、施工は(株)英工務店(福島県飯舘村)で、気密工事を経験している大工が少なかったため、邑建築事務所が加盟するNPO新住協が主催して施工者向けの研修会を開くなど、支援も得られた。現在、大工工事が終盤を迎え、外構が始まっている。被災者向け住宅としては他地域に先行しており、超高断熱仕様という技術面からも注目が集まっている。
 設計・監理する邑建築事務所陽田秀夫所長は「これまでもずっと高断熱・高気密でやってきた飯舘村にとって、今回の提案はさらに省エネを目指すための自然な流れだった。人手不足の中、現場指導はたいへんだったが、『何のために気密シートを張るのか』を理解してもらってからでないと工事はうまく進まない。研修会などがとても効果的だった」と振り返る。
 また、村建設管理係高橋係長は「飯野町団地ができると、車利用で幼稚園の通園が5分、中学は3分、小学校でも20分となり、負担が大幅に軽減される。快適で省エネな住宅で子育て環境も改善されるはず」と語る。同村は今後、村内でも木造2階建て程度の村営住宅を計画している。
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2014年06月25日号から

燃費保証で高性能を「見える化」

~栃木の地場工務店の挑戦~

 
「安い」って言うけどいくらなの?140625_web_shimano_0372.jpg

光熱費保証している住宅

 
きっかけはオーナーのひと言
 島野工務店が高断熱・高気密住宅に取り組み始めたのは今から16 年ほど前。消費税率が3%から5%に上がり、「建てれば売れる」という好景気が終わった頃で、他社との差別化のためだった。
 全国の優良工務店を見学し、試行錯誤の末に住宅性能は大幅に向上した。押出スチレン100mmの外断熱やエクセルシャノンの樹脂トリプルサッシ(クリプトンガス封入)を採用、すき間相当面積C 値= 0.2cm2/m2など、北海道の高性能住宅並みの仕様をアピールした。
 同社は、OB 客の9割以上を島野社長自身がアフター訪問する。住宅技術には自信があったが、小さなクレームはある。それを早く発見して改善し、満足度向上と紹介営業につなげようという考えだ。訪問時に「冬はほんとに暖かい」など高評価する人がいる一方、エアコンのスイッチが入ってないOB 客の割合が多かったのが気になった。
 「高性能住宅だから、24 時間エアコンを運転し続ける方がむしろ省エネ」とお客さまに何度も説明してきたが、聞いてみると「社長は安いって言うけどどれくらいなの?電気代払ってるのは私だから」とOB 客に言われた。
 そこで、島野社長は過去1年間の電気代をOB 客に声がけして調べた。30 件ほど反応があり、集計すると住宅1 坪あたり月平均250 円以内に収まっていることがわかった。安全を見て、保証金額を1坪300円に設定し、2010 年から光熱費保証を始めた。
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「最近はゼロエネ仕様も多い」と島野工務店(栃木県)の島野社長

 
光熱費を気にせず快適に暮らしてほしい
 1年目はいくらかかっても電気代全額を同社が支払う。2年目、3年目は保証内容の電気代を超えたら、超過分を支払う。それだけでなく、電気代が保証内容を下回ったら、下回った分を施主に支払って還元する。島野社長は、「家族でディズニーランドでも行ってきて」と下回った額をお客さまに渡すとき、喜ぶ顔を見るのが楽しみだ。
 延床面積40 坪の住宅なら、300 × 40 =12,000円×12 =年間144,000 円が保証金額となる。広さだけで保証金額を決めるシンプルな方式だ。
 設備は全棟オール電化。暖冷房設備は、同社が指定する高性能エアコンのみ。電気カーペットやコタツ、電気毛布など個別の間欠暖房器具は認めない。
 断熱・気密仕様は外壁100mm外断熱に樹脂トリプルサッシなど、北海道の北方型ECO レベル以上の家しか建てない。このやり方で4年間、約30 軒で光熱費保証を行ったが、光熱費が保証金額を超えたことは1件もなかった。
 保証制度は、「電気料金を気にすることなく快適に生活してもらうことを目的にしている」がポイントだ。
 北海道では、24 時間全室暖房という考え方が定着しているが、栃木では高断熱・高気密住宅に取り組む会社が少数派なので、快適に暮らして光熱費が安く済むことを実感した人が少ない。だから、冬は暖房をこまめに消したり設定温度を低くする人がいる。安く快適に暮らせることが実感できれば、島野工務店の住宅はお客さまにもっと高く評価され、紹介受注も増えるはずだ。
 同社は年間十数棟規模の地域工務店。小山市は人口16 万人で県下第2位の都市だ。工業団地には大企業が多く進出しており、従業員などの住宅需要が旺盛だ。同社は技術の高さを売りにしてきたが、競合すると値引きした。数十万円以上になることもしばしばだった。今回の光熱費保証制度導入で、この値引きをきっぱり止めた。
 「当社はきめ細かく計算した分厚い見積書を作っていましたが、値引きしてしまうと、『この見積は何だったの?』と思うこともありました」と島野社長。値引きしない代わりに光熱費保証する。保証できるのは、30 件のデータが実証しているからだ。この仕組みで同社の家づくりが宣伝文句だけでないという信頼に変わる。

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島野工務店の新しい社屋

 
アフター訪問を兼ねて光熱費を手渡す
 光熱費保証は、住宅価格の値引きとは意味が全然違うという。「値引きしても、お客さまが感謝するのは契約時だけ。しかし、光熱費保証では、アフター訪問でお客さまの小さなクレームにもこまめに対応し、1年後に社長自らが電気料金の領収書と引き替えに光
熱費を手渡すことで、細かな不満は帳消しになり、当社に対する印象が格段に良くなる」と社長は言う。
 その結果、目先の価格ではなく、「ほんとにいい家がほしい」という客が集まるようになった。平均坪単価も10 万円ほど上昇した。
 こうした成果を受けて、同社は次のステップに進もうとしている。社屋を新築移転し、社屋をショールームとして活用できるようにした。また、この地域の次世代省エネ基準= Q 値2.7W レベルで2,000 万円の予算しかなかったお客さまが、太陽光発電を加えた同社のゼロエネ仕様で3000 万円の住宅を建てられる仕組みを考えた。光熱費保証も、高性能な坪200 円タイプをラインナップし、性能を選べるようにする。
 光熱費保証は、北海道の住宅会社も採り入れ始めている。関心を持ったのは、住宅会社だけではなかった。光熱費を保証してもらうことによって居住者の省エネ行動がどう変わるのか、研究者も注目し、計測が始まった。


2013年12月25日号から

土屋ホームトピア 都市部の営業強化とMSに注力 菊地社長に事業の現状と今後を聞く

20131225_01_01.jpg リフォーム専門企業として、道内を始め全国で営業展開を進めている(株)土屋ホームトピア(本社札幌市、菊地英也社長)。新築業者の参入や国の既存ストック重視の政策が進みつつあるリフォーム市場で、断熱・耐震リフォームを得意とする同社はどんな戦略を描いているのか。菊地社長に話を聞いた。

―消費増税を控えた今年は、どのような事業を進めてきたのでしょうか。
 今年特に力を入れたのが、都市部の営業強化です。特に首都圏と東北を重視し、首都圏は軽井沢に拠点を設けたのが大きなポイントでした。これまでの経験から、アベノミクスによる株価上昇の恩恵を受けた別荘のオーナーが改修に動くと予測しましたが、思った以上の成果を挙げることができました。
 東北は、最大都市・仙台の3営業拠点を1つに集約。経費を抑えつつスタッフが一丸となって仕事をできる環境を整えました。今後も札幌並みに宣伝広告も強化していくつもりです。

―道内はいかがでしたか。
 道内ではマンションと太陽光発電に注力しました。マンションリフォームは、札幌では30〜40年前に建ったマンションに暮らすお客様のライフスタイルが変化する時期にきており、間取りや内装を一新したり、古くなった設備を交換しようという動きが出てくると考えました。担当するスタッフの人数が限られていたため、当初の予想より受注は伸びませんでしたが、先日札幌市内で行ったセミナーでは、82組115名が来場。ニーズは十分あるという手応えがあり、戸建てと違ってどこに頼んだらいいかわかりにくいマンションリフォームの需要掘り起こしは十分可能だと思いました。
 太陽光発電は戸建てだけでなく、企業やビルのオーナーなどを対象とした事業用の太陽光発電も進めていますが、定期的にセミナーや自社の社屋に設置している太陽光発電の見学会を行ってきたことで、先月後半くらいから採用の動きが出てきました。

―今年は九州・福岡にも営業拠点を開設しました。
 東京と同様に福岡は、断熱リフォーム・耐震リフォームのノウハウが活かせる地域と考えています。
 東日本大震災以降は、温暖地のお客様も断熱・耐震性能がしっかりした家を建てて、エネルギーを極力使わないようにすることが大切だと考えるようになってきました。暖かい地域でも断熱・遮熱という当社の得意とする技術を活かしていく環境が整ってきたと感じています。

―今後のリフォーム市場をどう予測し、どんな手を打っていきますか。
 来年のリフォーム市場も、今年とそれほど変わらないのではないでしょうか。今は消費増税前の駆け込みが多少あり、来年3〜4月までは今年の受注残の影響が残りそうですが、その後はお客様の動きがいったん止まり、6月くらいから緩やかに回復していくと思います。
 そのような中で、当社は引き続き都市部での強化と、需要がまだ開拓されていないマンションに力を入れていきます。道内・札幌圏も同様です。
 また、来年度は国も長期優良リフォーム推進事業を創設するなど、既存ストックの優良化を加速させる方向ですが、それは当社が目指す方向と変わりませんし、過去に長期優良住宅先導事業で2年続けて採択された実績もあることから、積極的に関わっていきたいですね。


2013年09月05日号から

カラマツ心持ち柱の現場公開 輸入集成柱より寸法変化小さい

北方建築総合研究所・林産試験場

20130905_02_01.jpg 道総研・北方建築総合研究所は8月18日、旭川市内でカラマツ小径木を柱材に使った住宅の構造見学会を開催した。ポイントは、輸入集成材ばかりになった在来軸組工法の柱材に、北海道産の木材を使うための木材乾燥技術。
 乾燥技術が上がれば、割れとねじれを抑えられる-というのが開発を進めている道総研・林産試験場の視点。実際に、今回採用した心持ちのカラマツ乾燥材「コアドライ」は寸法安定性の面で輸入の集成材を上回る良い数値を残しているという。
 ポイントは、芯まで均一に乾燥させる新技術。従来技術では表面の乾燥が進んでも芯は含水率20~25%程度までしか下げることができず、このため乾燥処理後にもねじれが進むという不具合が現れた。コアドライでは、最初に100℃以上の高温で表面の乾燥を一気に行って割れを防ぎ、その後温度を下げて芯を乾燥させる2段階の乾燥工程をふむ。これによって表面割れも芯のねじれも抑えられ、輸入の集成柱との比較でも寸法変化が少ない高精度が実現する。もちろん背割れを入れる必要もない。
20130905_02_02.jpg 実験に協力しコアドライを採用したのは、旭川市の㈲新濱建設・新濱寿男社長。柱がねじれることで石こうボードのあばれ・クロスの割れがでないか心配だったため、今回の物件は柱を表して真壁仕上げとし、築後の形状変化をチェックできるようにした。ただ、柱材が同社の工場に搬入され、加工から工事まで1ヵ月ほどの様子を見た限り、ねじれは起きておらず大丈夫そうだという。加工した大工によると、材が硬いもののほかの面での扱いにくさはないという。真壁仕上げにするため、気密層は外壁下地を利用する合板気密工法とし、付加断熱で断熱性能を高めた。
 今後、市販化を目指すなかでのクリアすべき課題は、確かな品質の柱材が一定の量供給可能であること。
 林産試験場では、開発当初から『新たな投資をせず製材工場が所有する既存の乾燥施設で行える』ことを条件とし、新技術の広い普及を目指している。価格を抑え、輸入集成材に代わる管柱として質も量も対抗するために、今後は製材工場への技術移転と品質管理を含む流通の研究も進めるという。


[写真]カラマツの心持ち柱「コアドライ材」。ミゾ加工は真壁仕上げのためのしゃくり
[グラフ]正角製品の冬季暖房室内のねじれ変化グラフ(林産試験場提供)


2013年06月15日号から

繁忙期を前に現場の安全管理

 厚生労働省の統計によると、労働災害で命を落とす人は全国で毎年1000人以上いる。北海道の建設業に限っても、平成24年に27人が亡くなり、960人がケガしている。増税前で現場が多忙を極める中、事故の危険性は増えている。安全に現場を管理するためにはどうすればいいだろうか。

足場の安全意識高まる
法改正が浸透し現場も取り組む

 住宅関連の10団体で構成する?住宅生産団体連合会は、全国635社から平成23年に集められた40万件以上の住宅新築・リフォーム現場の報告書を元に、「平成23年低層住宅の労働災害発生状況報告書」をまとめた。それによると、労働災害の発生件数は415件あり、約半数が墜転落事故、次に工具がらみの事故が約2割を占める。この割合はここ数年ほとんど変わっていない。
 報告書を細かく見ていくと、平成21年から23年の3年間で足場からの墜転落事故件数は約4分の3に減ったのに対し、脚立からの事故は2倍以上に急増している。また、ハシゴ事故や屋根からの墜転落事故も増え続けている。
 この結果についてまず考えられるのは、仮設足場に対する安全意識の向上だ。本紙では平成21年6月15日号で「足場に新たな規制」と題して国の労働安全衛生規則の一部改正を報じた。それまで規則を守っていても墜転落事故が起きていた現状を踏まえ、新たに中さんや巾木の設置など墜転落の防止措置を義務化することで足場の安全性を高めようという改正だった。
 さらに国は、昨年2月に「足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱」を各都道府県の労働局長宛に通達し、労働者の作業実態などを踏まえて、法律ではカバーしきれない建築物の設計段階から足場の解体まで総合的な安全対策を求めている。
 こうした取り組みが功を奏したのか、足場からの墜転落事故による死傷者数は5年で半減している。
 柳求環境安全部長は、「住宅会社の間でも『足場の組立て等作業主任者』の資格取得者が増えるなど、足場の事故防止への取り組みが進んでいる」と話している。足場リース会社も「資格取得の講習会を今年開いたところ、定員を大幅に上回る申込が来た。大半が住宅会社の工事担当者や大工だった。これは今までにないほどで、関心が高まっている証拠ではないか」という。
 足場作業主任者は、足場の構造や仕組みを理解し、組み立てや解体に際して労働災害の防止を行う役割がある。足場リース会社の社員が取得していたのはもちろんだが、住宅会社側も足場をリース会社が組んだ後に作業工程上の都合で巾木を1枚動かしたり取ったりすることがあり、本来この資格が必要だという。資格者が住宅会社におらず、大工が運搬や作業の邪魔だと足場のパーツを一部取り外してそのままにしたために、足場が傾いた現場もあるという。

脚立からの事故増える
「少しぐらい」という気の緩み

 一方、脚立やハシゴからの墜転落が増えている背景は、多くが屋内作業であり、足場を使わない高さや規模の作業のため「これぐらいは大丈夫だろう」という気の緩みがある。柳部長は「たとえば2階で高所取付作業をする時、1階に下りて適正な脚立を持ってくることをせずに『作業時間が少しで済むから』と手元にある120㎝の脚立で無理な姿勢で作業を行い、バランスを崩して落下した例がある。この高さからの落下でも4日以上の休業となり得る」と危険性を警告する。
 また、工具がらみの事故では、丸鋸の安全カバーを外して作業中に刃が体に当たったり、電動釘打ち機のトリガーを引いたままうっかり先を足に当ててしまい、釘が自動的に打たれてしまった事例など、一瞬でケガをしてしまう。作業上の便利さを優先するあまり、基本的な安全確保がおろそかになったのが原因だ。

新しい職人に十分な教育を

 たとえ意識の高い住宅会社でも事故は起こり得る。たとえば規律の緩い住宅会社で働いていた職人が、規律の厳しい住宅会社で働き出すと事故を起こすことがある。また、忙しくて応援で来てもらった職人や大工に限って事故を起こすこともある。いずれも、新しい現場の環境・規律を理解し、慣れる前に事故を起こしてしまったようだ。
 こうした事故を少しでも減らすには、働き出す前に十分な安全教育・説明の時間を取るほかに、今いる職人に対しては元請側が根気よく働きかけて1人1人の安全意識を高めていくしかない。
 ある工務店では月1回午前中に取引業者を集めて現場をパトロールさせ、午後には安全大会を開いてその状況と改善点を発表させる。さらに夕方には現場から大工を呼んでその場でダメなところを指摘する。手間はかかるがこれを何年も続けている。
 そこまで徹底するのは難しくても、職人や大工に給料を渡すときに必ず労働安全に関する話をしたり、どのような状況で働いているのかヒアリングするだけでも効果がある。
 また、北海道労働局の山川和巳主任産業安全専門官は、「『足場からの墜転落防止対策要綱』や、安全帯など墜落防止工法・関連器具の使い方を啓蒙する小冊子を用意しているので活用してほしい。作業に潜むリスクを未然に防止するリスクアセスメントの考え方を取り入れることが重要だ」と話している。

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2013年04月05日号から

北東北の工務店4団体 住宅展示場オープン

130405-1men.jpg 大手ハウスメーカーやパワービルダーの進出、地域経済の疲弊や人口減にともなう住宅市場の縮小など、地場工務店を取り巻く環境が厳しさを増す中、青森・岩手・秋田の地場工務店グループが、今年2月から4月にかけて住宅展示場を相次いでオープン。"大手にも負けない家づくりを地元ユーザーに見てもらいたい"と、工務店がその想いを一つにした。


奥津軽ECO住研 -青森・五所川原
3年で地場のシェア6割に拡大

 津軽半島の根元に位置する青森・五所川原市で、性能が高い環境配慮型のエコ住宅を提案する展示場作りをきっかけに、地場工務店シェアを高めていこうと結成されたのが「奥津軽ECO住研」(岩渕司会長、㈲岩渕建築工務所専務)。同会が今年3月にオープンした総合展示場「エルムECOタウン」は平成21年4月の結成以来3回目の展示場となる。
 津軽半島の根元に位置する五所川原市には、もともと複数のモデルハウスを見ることができる総合住宅展示場がなく、地元ユーザーは青森市などの住宅展示場まで足を運んでいた。そのためか大手ハウスメーカーや青森・弘前の両市から進出してくる住宅会社も多く、新築住宅における地元工務店シェアは3~4割にも満たない。「このままでは地域の経済・雇用環境も良くならない」と、性能・品質にこだわる市内の工務店6社が集まり、地場工務店でも性能が高い住宅を建てられることを示していこうと、総合住宅展示場の運営を企画し、結成した平成21年12月に展示場第1弾、同23年春に第2弾をオープンさせた。
20130405_01_01.jpg 今年3月9日(土)オープンの第3弾は"未来型住宅"をテーマとし、省エネ・節電を意識して太陽光発電・ヒートポンプ暖房給湯・HEMSを全棟で採用。来場する地元ユーザーが様々なタイプのモデルを楽しめるように、会員会社で異なるデザイン・プランとなることも意識した。
 オープン2日間での来場者数は、約250組、600名と、これまでで一番多く、ユーザー対象のセミナーなども含め同会の活動が着実に地元ユーザーに浸透していることがうかがえる。
 同会会員もこれまでの展示場の成果が現れてきていることを実感しており、来場者の中には近いうちに新築しようと思っていたので見に来たというユーザーや、新しい展示場ができるのを楽しみにしていたというユーザーもいるという。同市の地場工務店シェアも6割強まで伸びた。
 岩渕会長は「会員6社だけでなく、会員外の地場工務店や大工にも展示場の効果が波及して、地域の住宅産業全体の活性化につながればいいと思う。地場工務店同士が手を組んで展示場を継続して行っているのは全国でも珍しく、他の地域からの視察もあるが、それもいい刺激になっている。これからも時代の変化に対応しつつ、地元ユーザーのことを考えた展示場を続けていきたい」と、今後の抱負を語っている。

むつECO住宅研究会 -青森・むつ
先進的な住まいを地元に提案

20130405_01_02.jpg 下北半島の厳しい気候風土を知り尽くした青森・むつ市内の地場工務店5社が、地元で建てられる住宅の性能水準向上と地元ユーザーへの情報発信、そして環境に配慮した良質な住宅ストックの形成を目的として昨年5月に立ち上げたのが、「むつECO住宅研究会」(工藤敬人会長、㈱シーエスホーム社長)。同会の事業第1弾となるのが市内苫生町で今年2月にオープンした下北初の総合住宅展示場「むつ苫生(とまぶ)ECOタウン」だ。
 むつ市は大手ハウスメーカーや県内のパワービルダーが進出しているほか、他地域の住宅業者が入ってくるケースもあり、広告宣伝力・営業力の差で受注が決まることもあるという。しかし、同会の会員は営業マンを持たず、社長が現場管理から図面作成、営業まで1人でこなす工務店が中心。
 そこで、むつ苫生ECOタウンは会員5社がそれぞれエコで先進的な家づくりを示すことで、地元ユーザーはもちろん、会員外の地場工務店にも性能の高い住宅に対する意識を高めてもらうとともに、1社単独よりも効果的な広告宣伝や営業展開につなげることを狙いとしている。
 モデルハウスは、いずれも県が策定した青森型省エネ住宅の推奨断熱基準であるQ値1.4Wをクリアし、より省エネ化・低炭素化を目指して暖房・給湯ともヒートポンプを採用。さらに来場者に省エネ性の高さを目で見てわかってもらえるよう、HEMSも全棟で設置した。
 2月23日?のオープン初日にはテープカットともちまき、豚汁の振る舞いなどを実施。昨年行った家づくりセミナーや事前の広告によるPR効果もあって、土日の2日間で600名を超える地元ユーザーが来場した。その後、来場したユーザーと新築の打ち合わせが進んでいる会員や、どの業者で建てるか悩んでいたユーザーからの受注が決まった会員もいるなど、早くも成果が表れてきたという。
 同会会員の㈱菊池組・菊池洋壽氏は「展示場の運営はすべて初めての経験で、手探り状態で進めていったが、会員各社が志を一つにして取り組んだ結果、メーカーや商社、建材店、関連工事業者の協力や応援もあって、無事にオープンできた。今後は会の予算を見ながら市民セミナーも実施していきたい」と話している。

THMネット'99 -岩手・花巻
大手との違いを明確に打ち出す

20130405_01_03.jpg 北国・岩手で地域に合った暖かく快適な住まいを考えていこうと、盛岡・遠野・花巻・水沢の地場工務店や設計事務所などが中心となって活動している「THMネット'99」(藤田好造会長、㈱拓三建設社長)。同会の設立は平成11年と今回紹介する4団体の中では最も長い活動歴を誇る。その同会の会員4社が力を合わせ、今年3月に花巻市内で全9区画の分譲地「THMネット・エコタウン」をグランドオープン。各社モデルハウスを展示・公開した。
 同会ではこれまで、会員の勉強会や研修会、北海道や海外への住宅視察など主に住宅の性能向上を目的とした活動を進め、その成果を家づくりやセミナーなどを通じてユーザーに還元してきた。
 今回オープンしたTHMネット・エコタウンは、会員4社が他の会員や取引先などの支援も得ながら造成とモデルハウスの建設を行った。資本力・営業力に勝る大手ハウスメーカーに対し、技術力・提案力では勝るとも劣らない地場工務店のことを地元ユーザーに認知してもらうことが大きな狙いだ。3~4年前に会員の完成物件が同じ時期に揃った時も、合同で完成見学会を行ったことはあったが、同じ場所で同時期にモデルハウスを建設・公開するのは初めて。
 4社のモデルハウスは、"花巻の地域性に根ざした高性能な住宅の提供"を共通コンセプトとし、全棟Q値1.3W以下の断熱性能で暖房・給湯はヒートポンプを採用。そのうえで、女性目線のプランを特徴とするモデルや、Q値1.0Wとより高い性能を提案したモデル、太陽光発電を搭載して省エネ・低炭素化を重視したモデル、県産材や自然素材を活かしたモデルと、各社それぞれオリジナリティをアピールしている。
 今年2月9日(土)のプレオープン時は、約100組、200名が来場。訪れた地元ユーザーは、まず室内の暖かさに関心を示し、「それぞれ特徴あるプランなので、とても参考になった」という声も聞かれたという。
 同会の事務局を務めるSS建築デザイン室㈲の佐藤さよ子社長は「性能に優れた家づくりができる工務店が地元にいるということに、気付いてもらえた感触があった。地場工務店が地域で仕事を続けていくためには、それぞれ自社の特徴を明確にし、地域に根ざした家づくりを行うことで地元ユーザーの信頼を得ることが一番大切。そのために今回、大手との違いをわかってもらえるモデルハウスを展示・公開できたことは、とても意義がある」と、確かな手応えを感じている。

にかほ・eco・カーペンターず -秋田・にかほ
1社単独では不可能な集客数達成

20130405_01_04.jpg 秋田県南西部の"にかほ市"で、地元の気候風土にあったエコ住宅を提供し、地域の活性化につなげようと活動しているのが「にかほ・eco・カーペンターず」(加藤末五郎会長、㈲加藤建工社長)。一昨年11月に地場工務店7社で結成し、今年3月に7社7棟の住宅展示場「夕日ケ丘タウン にかほ・eco・カーペンターず展示場」を市内金浦にプレオープンした。
 同会結成は、今回展示場をオープンした分譲地58区画の造成が決まった時、地元工務店で展示場をやってはどうかという話が持ち上がったのがきっかけ。同市は大手企業の工場があり、県内でも景気の良い地域だったが、大手企業が撤退し始めたことで景気は悪化しつつあり、大手ハウスメーカーの進出も顕著になっている。そこで地場工務店同士が切磋琢磨し、技術力・営業力を高めることで、この状況を乗り越えていこうと、市の建設技能組合に加入している7社が一致団結。展示場オープンに向けて活動を進めてきた。
 展示場を運営するにあたっては、奥津軽ECO住研など青森・岩手・新潟の地場工務店による展示場の成功事例を視察し、オープン前には会員会社のプレゼンと地元金融機関による住宅ローンの紹介を行うセミナーも実施して、地元ユーザーへの周知を図った。
 モデルハウスは各社とも40坪前後の規模とし、全棟ヒートポンプ暖房・給湯を採用。デザイン・プランは事前に会員各社が完成予想図と平面図を出し合い、それぞれ似たようなものにならないように配慮している。
 今年3月9日(土)にプレオープンし、土日2日間で約250組、500名が来場と、「1社単独ではとても不可能な集客」(加藤会長)を達成。来場者からは「いろいろなタイプの住宅を見学できるのがいい」「地元で画期的なことをよくやってくれた」などの声が聞かれ、地元ユーザーにかなりのインパクトを与えた様子。
 加藤会長は「金浦地区は今後、公共施設や病院などが整備される予定で、市民がどんどん集まってくることが予想される。それだけに展示場をやる意義も大きく、今回のモデルハウスが完売したら、残っている区画ですぐに第2弾の展示場をやりましょうと会員のみなさんに話している」と、早くも次の展示場開催に意欲を見せている。


2012年12月05日号から

いい家にこだわって毎年25~30棟

秋田県大館市・ワイズホーム

20121205_02_01.jpg秋田県の内陸部、青森との県境に位置する人口8万人弱の大館市は、真冬は札幌並みの寒さ。そんな大館市で15年以上にわたり、高断熱・高気密住宅だけを年間25~30棟建て続ける工務店がある。北海道とは異なり、ローコスト系や地元工務店の多くは気密化しない旧来型の家、しかし性能による差別化は同市でも難しい。そんな中奮闘する㈲ワイズホームを取材した。
 山内裕一社長は工務店3代目。工法改良や設備の見直しを続け、現在は充てん+外張り付加断熱のオリジナル工法「マルチスタック工法」が全体の7割を占めている。同工法は軸間にウレタン吹き付け、外張りにアキレスQ1ボードを採用。開口部はトリプルシャノンを使い、C値0.6以下、熱交換換気なしでQ値1.2W程度の性能を誇る。大館市は地域区分で2地域、次世代省エネ基準が1.9Wなので、性能レベルは際立って高い。今年は顕熱熱交換換気とヒートポンプ暖房を採用した家も増えている。

どう伝えたらわかってもらえるか

20121205_02_02.jpg 建て主との出会いは内覧会が中心。そして、内覧会の告知にはこだわっている。
「内覧会は、新聞に段ヌキでカラー広告を掲載しています。新聞は1日限りでも広告は残るし、気に入った方は保存してくださる。2年前の広告を持ってお見えになる方もいらっしゃるんですよ」と山内社長。
 大館市には新聞が多い。秋田県のブロック紙「秋田魁(さきがけ)新報」のほか、地方紙を含め全部で4紙。市民の購読が支えるこれらの新聞を使った新聞広告がメインとなっている。
 物づくりにこだわってきた会社だから、内覧会では語りたいことがたくさんある。「何かひとつ欠けても障害の発生につながる。だから自分が最高と認めたモノだけを使って信頼できる仲間と家を建ててきた」と社長。しかし一方で、ものづくりの違いをどう説明したらわかってもらえるか。このことを悩み続けた15年でもあった。

これからは社員が輝く会社へ

20121205_02_03.jpg 『家を建てるならワイズホームさん』というユーザーを少しずつ増やし、口コミの底力で顧客の支持を広げていく。営業マンを置かず、お客さま担当は社長1人。朝イチで手描きのプランおこし。出勤して社長を支えるスタッフと、プランの打ち合わせ。その後現場、夜はお客さまとの打ち合わせ。このスタイルを15年続けてきた。事務所も現場も心の通う仲間と仕事がしたいから、社員大工だけで工事をおこなう。
 これからも棟数を伸ばすつもりはない。目標を、どこにもマネできない性能とデザイン性を兼ね備えたオンリーワンの家に据えて、スタッフが活躍する場を拡大し、お客さまから『社員が素晴らしい』と言われる会社になりたい。山内社長の挑戦は続いている。

有限会社 ワイズホーム
秋田県大館市字観音堂298-5
代表取締役 山内裕一
設立 1969年3月
ホームページ・http://yshome-net.com


2012年11月15日号から

車いす生活で自立目ざす家

生活動作を検証しながら設計

 アウラ建築設計事務所(山下一寛代表)は、札幌市西区に車いす対応の木造2階建て2世帯住宅をこのほど完成させた。車いすを利用するのは、子育て中の主婦。そのため、プランニングには今までと違った工夫が必要となった。

20121115_01_02.jpg
突然の車いす生活に対応する
 依頼主は、小さな子どものいる夫婦。奥さまが交通事故に遭い、退院後も車いすが必要となった。それまで住んでいたマンションでは、車いす生活には不便が多く、子育ても含めてある程度自立した生活を送るため戸建の新築を決意。住宅会社選びサイト「札幌良い住宅」に掲載された同事務所が手がけた車いすの住宅事例が決め手となった。
 プランは、まず市道からのアプローチに工夫が必要だった。奥さまは片麻痺で左半身が不自由なため、車いすで住宅前にある縁石の5㎝弱の段差を乗り越えるのも大変だと考えた。
 そこで段差を解消する工事の許可を市から取り、段差をなくした。玄関は道路から60㎝ほど高い位置にあり、道路からのアプローチは1/15勾配近くになるため自力で上るにはきつい。そこで上りやすい緩い1/50勾配として、残りの段差は玄関前に段差解消機を設置することでクリア。
 また組み込み車庫は、車から降りた後にスムーズに室内に入れるよう室内との段差をなくし、車庫内の通路幅も1700㎜とドアを開けても横に車いすが通れる余裕を持たせた。

20121115_01_01.jpgゆとり持ったプランで動線確保
 動線は、玄関から廊下を通ってLDKの奥まで直線で続く「表動線」と、2つの寝室とユーティリティーを直線で結ぶプライベートな「裏動線」の2つを確保。動線を直線化することで、車いすでの行き来をしやすくする。
 建物は敷地いっぱいに建てているが、LDKは区切りのない大空間とし、さらに全て吹き抜けとして天窓やハイサイドサッシなどで採光を確保。キッチンは、車いすの奥さまに合わせるとカウンター高さが750㎜となるが、メーカー品はオーダー範囲に限度があった。そこでキッチンでの動作を車いすで検証しながらキッチン家電の収納位置や収納を設計するなど、全て造作した。
 トイレは、夫婦の寝室に隣接して設置。専用の車いすでそのまま乗り入れられる便器を選定した。
 山下代表は、「障がい者対応住宅は、施主の話をまずはじっくり聞くことからスタートする。設計を煮詰めていくのに通常の住宅設計よりも時間がかかるが、今後もこうした車いす対応住宅を造っていきたい」と話している。


[写真上]2つ並ぶ玄関戸のうち、右側が施主用、左側が親世帯用
[写真下]縁石を段差の小さいものに交換し、さらにアスファルトで小さな段差も解消


2011年07月15日号から

短期間で不陸修復

十勝・英秀外田組

 (株)曳家建築物不陸調整英秀外崎(えいしゅうとのさき)の事業・特許を引き継ぎ、新会社の英秀外田組(株)が十勝・足寄町にこのほど設立された。代表取締役社長は、(株)外田組(足寄町)の代表取締役社長を務める菅原智美氏が兼任。外崎英人氏が取締役に就任し、技術指導する。
 地震被害による建物の不同沈下を修正するには、従来は施工期間が約2ヵ月必要だったが、「英秀式アンダーベストパイル耐震沈下調整工法」により約4分の1の2週間に短縮。引越する必要もなく、電気、ガス、水道の使用も含め、入居者がふだん通りの生活をしながら工事を進行できる。2003年の十勝沖地震で地盤が液状化を起こして27cm不同沈下した鉄骨3階建ての修復など、多数の実績があるという。
 このほか、木造住宅の土台揚げや、曳家では特許取得のアイアンスタンドフレーム工法を使用することにより、建物に歪みや損傷を与えずに嵩上げや曳家を短期間で施工できる。
 連絡先は以下の通り。足寄郡足寄町西町6丁目1ノ70、tel0156・25・4210。


2011年03月25日号から

3月25日号をpdfでダウンロード配信します。

北海道住宅新聞 ご愛読者各位

前号に続き、郵便が正常に戻るまでのあいだ、本紙紙面をpdfファイルとして当社公式ホームページからダウンロードできるようにいたします。

ご面倒をおかけいたしますが、ダウンロードしてご覧くださいませ。なお、ファイルは1ページずつの分割ファイルと、統合したファイルを用意いたします。

統合ファイル(3,415KB)

分割ファイル
1面(694KB)
2-3面(702KB)
4面(639KB)
5面(735KB)
6面(822KB)
7面(1,090KB)
8面(870KB)

北海道住宅新聞社


2011年03月05日号から

茨城・石岡市のパッシブハウス

普及型を目指す

 ドイツ・パッシブハウス研究所が認定した日本で2棟目のパッシブハウスが先ごろ茨城県・石岡市に完成した。地元ビルダーの(株)島田材木店(島田恵一社長)が設計施工、キーアーキテクツ(株)森みわ社長が温熱環境面のコンサルティングを行った。現在、モデルハウスとして公開されている。

20110305_02_01.jpg 「茨城パッシブハウス」はパッシブハウスの暖冷房負荷基準をクリアするため、Q値で0・8W、外壁は290mm断熱。今回特徴的なのは、パッシブハウスのコンセプト通り、熱交換換気の配管に暖冷房を組み込んで暖房設備をなくし、コスト抑制に挑戦した点。
 高断熱化すればするほど建築コストが上昇するが、暖房器がいらないほどに断熱化すると暖房設備の省略によってコストが低下する。このコスト低下点がパッシブハウスのそもそもの基準であり、換気配管に組み込む暖冷房も大がかりなものは不要になる。
 今回はメーカーの協力を得て、ヒートポンプ温水暖房ユニットを採用。運転モードの最適化などを検証する。
 もう1点の特徴は、壁の断熱厚を確保するために120×240mmの平角材をタテに使用し240mm充てん+50mmの付加断熱に挑戦した点。これにより施工コストを抑制しながら木部熱橋の影響を抑える付加断熱の最適厚を試算した。
20110305_02_02.jpg パッシブハウスジャパンの代表理事も務める森さんは、「パッシブハウスの暖冷房負荷試算値と実測値に違いがあるかどうかは、鎌倉パッシブハウスで検証できた。鎌倉の例では試算より実測のほうが少ない。茨城では、次の大きなテーマとして普及型をつくるための提案をした。断熱構成では平角材の採用、暖冷房設備面では熱交換換気システムを前提として単独の暖冷房設備をなくすこと。この方法をベースに、関西や九州でも取り組むつもりだ」と語っている。
 北海道でも1棟、スタートしそうだという。

写真
茨城パッシブハウス外観はかわいらしい感じ
室内で説明する森さん(左)。参加者は全国各地から


2011年02月05日号から

タマホーム全道展開

今年夏に4店舗オープン

 タマホームが2年ぶりに道内出店を再開、この夏に札幌を含む4箇所で同時オープンし、いよいよ全道展開する。出店場所はいずれも北海道マイホームセンター会場。札幌は札幌北会場(札幌市北区太平)、ほかに函館会場(函館市桔梗町)、帯広会場(帯広市西4条南16丁目)、旭川会場(旭川市緑が丘東1条4丁目)に出店。間もなくモデルハウス建設も始まる。
 タマホームは2008年11月、札幌市手稲区に札幌支店をオープンして道内初上陸し、翌年1月には苫小牧営業所を出店。派手なテレビCMとチラシ攻勢を武器に早期に全道展開すると思われていた。しかし、リーマンショックによる景気の低迷、住宅市場の急速な縮小で新規出店はそれ以降止まっていた。
 これまで単独のロードサイド店として出店してきたが、今回の4店舗は住宅展示場内にモデルハウスを出店することで大量出店時の投資コスト圧縮を狙っている。札幌支店は30名近い体制だが、今回オープンする営業所は10数名の体制でスタートするという。
 道南、道北、道東を代表する都市にそれぞれ出店し、札幌市内も2店舗目を出店することで道内拠点はこれまでの札幌支店、苫小牧営業所と合わせ1支店5営業所の6拠点となり、全道展開はひとまず完成する。
 同社札幌支店の新田浩文支店長は、「道内進出から2年が過ぎ、受注は順調に伸びている。今年は既存2店舗と併せて全道で400棟以上の受注を目指しており、達成できれば道内ナンバーワンが見えてくる。そのことは、住宅関連産業の活性化にもつながると信じている。また、常設住宅展示場内に出店することで展示場全体の集客も大幅に増えると思う」としている。


2010年09月05日号から

神奈川・横浜パッシブハウス

コスト抑え日本らしく

20100905_01_01.jpg 8月21日・22日の2日間、横浜市金沢区で「日本版パッシブハウス」(K's House=きらり1号)施工現場見学会が開催され、110名が参加した。
 パッシブハウスとは、ドイツの研究所が開発し普及を進めている省エネ住宅の基準。その基準はほぼ無暖房を実現する高い断熱・気密性能と熱交換換気に加え、給湯と電灯も含む住宅の全エネルギー消費についても厳しい基準を定めている。
 見学会は、昨年鎌倉パッシブハウスの施工を行った東京都八王子市の(株)建築舎とジャパン・パッシブハウス・プロジェクトというパッシブハウス推進の企業グループが主催し、坂本雄三・東京大学大学院工学系研究科教授が応援する形で開催された。
 21日15時からは『低炭素社会の実現に向けた「日本版パッシブハウス」への挑戦』と題した記者会見が同プロジェクトの総合プロデューサー、(有)イーアイ代表堀内正純氏の司会で行われた。
 最初に主催者を代表して建築舎・齋藤敏晴社長があいさつ。「日本版パッシブハウスとは、国産材料、日本で入手できる海外の優れた資材を活用した建物で、従来のパッシブハウスと比較して25%コストダウンを実現した」と概要を説明。
 つづいて、東京大学坂本教授が『低炭素社会の実現に向けた「日本版パッシブハウス」への挑戦』と題して講演。坂本教授は、省エネは外皮+設備+創エネの総力戦になるとし、日本が目標とする低炭素社会を実現するために求められる性能として、1.省エネルギー性能はドイツ・パッシブハウス基準を目標 2.日本に馴染む設計(気候風土、住まい方、建材) 3.日本の特長を活かす選択(優れた家電・設備、建材)―の3点をあげた。

20100905_01_02.jpg断熱性能はQ=0.7W
 続いてイーアイ代表堀内氏から、「日本版パッシブハウスへの挑戦」と題して今回の建物が紹介された。
 性能値は、壁:U値(熱貫流率)0・15W/m2K以下(高性能グラスウール16K140㎜+フェノールフォーム板50mm)、屋根:U値0・1W/m2K以下(ロックウールブローイング400mm)、窓:U値0・8W/m2K・熱取得50%、換気:熱交換率90%以上(インヴェンター)。
 調湿気密シート(インテロ)、透湿防水シート(ソリテックス)。
 断熱性能は、Q値でおよそ0・7W/m2K。全1次エネルギー消費量試算は112kWh/m2・年で、120kWhのパッシブハウス基準値をクリアしている。
 最後にパッシブハウスのオーナーから住宅に対する想いなどが語られた。今回の物件のオーナーは、今後もモデルハウスとして公開するつもりだと説明。鎌倉パッシブハウス住人の蓮見太郎氏からは、1年を経過したパッシブハウスでの暮らしについて「冬は暖房をほとんど使わないことはもちろん、夏もエアコンをあまり使わずに快適に暮らしている。子供のアレルギーもよくなった」などの報告があった。
 記者会見が始まるころには、60名近い参加者で室内はオーバーヒート状態。それでも、熱心に坂本教授らの話に耳を傾けていた。
 22日には、ドイツ公認パッシブハウスコンサルタント、クーラー・アンドレアさんのパッシブハウス講座が開かれた。
 20100905_01_03.jpgジャパン・パッシブハウス・プロジェクトは、総合プロデューサー・イーアイ、基本設計・ハウスタイルズ(株)、設計施工・建築舎、コーディネータ・オフィスコンドウという専門家が集まり、パッシブハウスを推進するグループ。今後、第2、第3の「日本版パッシブハウス」(きらり住宅)の受注を目指している。


2010年05月15日号から

現場のジャッジ 第11回 北方型サポートシステムの使い勝手

 20100515_02_01.jpg道が国に先駆けて立ち上げた住宅履歴の作成・保管システムが北方型住宅サポートシステム。今では北方型住宅ECOが国の補助事業に選ばれたこともあり、利用する工務店も増えている。その使い勝手やメリットについて聞いた。

3年前から全棟登録 
 (株)奥野工務店(札幌市、奥野智史社長)では、3年前から全棟でサポートシステムを利用。同社が入会している"欠陥住宅を考える会(現北海道の家づくりを学ぶ会)"で、全棟北方型住宅での建設推進をパンフレットでうたったことがきっかけだった。
 サポートシステムはそれより前から運用を開始していたが、奥野社長によると「当時は専用ソフトをダウンロードしてパソコン上で使う形だったが、うまく動かなかった。それでいつも道に電話してどうやればいいか聞いていたが、結局使えなかった」という。
 その後、同社が全棟北方型住宅対応を開始した同時期に、ウェブブラウザーから利用できるサポートシステムのWeb版が提供され、これまで登録した物件はすべてWeb版で情報入力を行っている。

将来的に役に立つ
 サポートシステムについて奥野社長は「お客様にとっては安心感につながるシステム」と評価する。
 「サポートシステムを利用すれば、当社とお客様と北海道建築指導センターの3者で設計・施工データを保管することになるので、いつの間にか図面などがなくなってしまったという心配がなく、将来的に何か問題が発生した時や売買する時にはそれらの情報が役に立つと営業段階で説明している。
 それによって建主に安心してもらえるし、できない業者との差別化にもなっているのでは」と話す。
 施工の要所要所で写真を撮り、情報を入力することは、自社の現場を改めて見直す機会にもなるという。

初めて利用するときは注意
 それでは使い勝手はどうか。同社セールスエンジニアの稲辺賢司氏は「最初は入力画面の記述があいまいだったり、何とでも解釈できる記述があったりして、いくつか道にも質問した。例えば開口幅について入力する時、芯々が内々かなど、解説書を見ないとわからずに苦労した。また、入力しようとしている項目が、他の入力項目の影響で操作を受け付けてくれないこともあった。今では慣れてしまったが、初めて利用する時は注意したほうがいい」と語る。
 今時間がかかっているのは、設計情報を入力するにあたってCADデータをPDFデータに変換し、アップロードする手間。特に北方型ECOでは構造計算を行った場合、計算書類をアップロードするのにかなりの時間を取られることになるという。

今後も積極的に利用
 建主にもパスワードを発行して、入力した施工過程を見ることができるのもサポートシステムの特徴の一つだが、「工事の進行状況はお客様が見ても確認できるでしょうが、そこにある写真が何を意味しているのか、なぜそのような施工が北方型では必要なのかといったことはおそらく理解できないのでは。一般ユーザーでも意味がわかるものにしてもらいたい」と稲辺氏。
 まだ改善の余地もあるようだが、同社では今後も全棟での利用を進めていく考えだ。

photo:奥野智史社長(左)と稲辺賢司氏


2010年05月05日号から

生まれ変わった北総研 福田所長に聞く

20100505_01_a.jpg 今年4月に道内22の試験研究機関が地方独立行政法人北海道立総合研究機構(道総研)に統合され、道内の住宅性能向上に大きな役割を果たしてきた北方建築総合研究所(北総研)は、道総研建築研究本部内の一研究機関として新たな一歩を踏み出した。ここでは北総研が担う役割や今後の業務体制などを福田聖治所長に聞くとともに、同研究所が行ってきた代表的な調査・研究をここで改めて紹介したい。

研究機関同士の連携活かした総合力

 平成21年4月に6代目の北総研所長に就任し、道総研への統合・移転後は建築研究本部長も兼ねる福田聖治氏に、北総研が果たす役割と調査研究の方向性について、話をうかがった。

―今年の4月から道総研の一研究機関として新たなスタートを切りました。
 「これまで当研究所をはじめ22の道立試験研究機関は、それぞれ道民の様々なニーズや課題に対応してきましたが、近年ではそのニーズが複雑化・多様化し、私たち試験研究機関を取り巻く環境も大きく変わってきました。
 そこで今まで以上に試験研究機関同士が連携することで得られる総合的な力を活かし、現代の道民ニーズにも柔軟に対応していこうと新たに設立されたのが道総研です。
 今や北海道の住宅は、産学官の努力によって世界のトップレベルにあります。当研究所でも道総研設立を機にさらに他の試験研究機関との連携を強化し、環境問題をはじめとする様々な地球規模の課題を、世界に先駆けて解決していきたいと考えています」

―道総研における北総研の位置付け・役割は、これまでと変わってくるのでしょうか?
 「道総研には約1200名の職員がおり、そのうち当研究所の職員は56名で全体の5%ほどですが、北総研は6つの研究本部のうち、建築研究本部に属する唯一の試験研究機関であり、道総研の6分の1を担うとも言えるわけで、しっかりとその役割を果たしていきたいです。
 ただ、北海道の住宅建築における当研究所の位置付けや役割が変わることはありません。これまでやってきたことを継続していきますが、他の試験研究機関との連携を強化するという意味では、林業部門や農業部門などとも協力して、今までにない新しい調査研究にも取り組んでみたいです。
 特に地域に根ざした研究開発は調査研究の視点の一つで、当研究所がある旭川を中心とした上川地域ならではの特色を出していきたいと考えていますが、同じ地域にある林産試験場と上川農業試験場とも共同研究などで連携すれば、新たな可能性が生まれるのではないかと思います。さらにその中で地域産業のお手伝いをし、地域と結び着いた研究を行っていきたいです。
 まずは各研究本部・各試験研究機関相互で情報を共有化する中で、当研究所の業務も進化させていきたいと思います」

組織改編し研究体制を強化

―業務・組織体制も見直しを行いましたね。
 「これまで居住科学部・環境科学部・生産技術部の3部体制でしたが、所内の研究体制強化と組織のスリム化を図るため、居住科学部と環境科学部の2部体制としました。
 さらに各部を構成していた各科は、居住科学グループ、建築環境グループ、工法材料グループにまとめ、部や科の垣根を越えた調査研究も今まで以上に柔軟に対応できるようにしています。
 また、これまでの主任研究員を、各グループの研究マネージメントを行う管理職である研究主幹に格上げし、研究主幹のもとに主査と研究員を配置しています。
 このほか、総務部門と企画部門が建築研究本部となりましたが、当研究所と一体であり、これまで通り対応してまいります」

地域振興や産業化支援も

20100505_01_b.jpg―これからの調査研究で特に力を入れたいところは?
 「現在、道総研の一試験研究機関として第1期中期計画を策定しているところですが、その中には3つの柱があります。
 一つは環境負荷の低減です。道内の住宅では暖房エネルギー消費量が減ってきていますが、地球規模の環境問題はまだまだ深刻。省エネやCO2排出量削減という点で、太陽光発電やヒートポンプなどに代表される省エネ技術の開発や未利用エネルギーの活用、そしてエネルギーを作り出す創エネについては、重点的に行っていきたいと考えています。
 2つ目は良質な住宅ストックの形成です。これは、性能評価と断熱・耐震補強など適切な改修を行った中古住宅を流通させていくことで、ストックの良質化を図るとともに、その仕組みを支えるための家歴システムの普及なども力を入れていく必要があると思います。
 3つ目は地域の自立型経済を支援すること。産業興しやまちづくり、高度成長時代に造られた団地の改修、コンパクトなまちの開発などを、地域に密着した形で進めていきたいですね。
 他の調査研究機関との連携や地域との繋がりを深めていく中で、下川町や美幌町などのように、各地域が豊かな森林資源を活かし、地場産材で住宅を建てることによって、環境保全や林産業の活性化、自立型循環経済の確立につなげていく取り組みへの支援も、より強く打ち出していきたいところです。これは林産試験場や工業試験場などと、全道的に展開していくことを想定しています。
 また、道内の断熱・気密や省エネに関する技術は世界のトップレベルにあると思いますし、本州の温暖地でも有効な技術ですので、道内企業の住宅を通じた国際貢献や、本州への進出も積極的に支えていきたいと考えています」

道内工務店の技術は高水準

―最後に、道内の住宅建築業界へのメッセージを。
 「今改めて思っているのは、道内の住宅建築レベルの高さです。例えば北方型住宅ECOは、Q値・C値を高い水準に設定しましたが、実際にどれだけ建てることができるか不安もありました。しかし、これまで全棟軽々とその性能水準をクリアしており、道内の工務店の技術力には改めて驚いています。
 これほど地場の工務店が高い技術力を持っている地域は、ほかにあるでしょうか。私たちも自信を持ちましたし、工務店のみなさんも国際的に高い技術水準に達していることを誇りに思っていただきたい。
 私たちも道総研ができて良かったと道民のみなさんから言ってもらえるよう、機動性、柔軟性、スピード感などを重視して調査研究業務を進めるとともに、道内全体を元気にするためのお役に立てればと思います」


2010年04月15日号から

太陽光発電2010 メーカーの戦略1 京セラ

20100415_02_01.jpg あるシンクタンクの試算では、今後新築戸建住宅の約半分に太陽光発電システムが採用されれば、2020年に家庭からのCO2排出量を一割削減する効果があるという。政府も昨年11月からFIT(固定価格買取制度)方式による太陽光発電システムの普及に乗り出し、国内販売量も倍増の勢いで増えている。そこで、メーカー各社に太陽光発電システムの普及に向けてどのような取り組みをしているのか、アンケートを送り回答してもらった。メーカー別に順次掲載する。

台風被害にも対応
屋根防水は総合補償制度

1.製品のPRポイント
 京セラ㈱(本社京都市)は1982年に多結晶シリコン太陽電池の量産化に世界で初めて成功。原料シリコンの調達からセルの製造、モジュール組み立てまでの一貫生産体制を生かして太陽電池の変換効率をアップさせ、研究レベルでは世界最高クラスの変換効率を達成。
 住宅用の主力商品は、長短2種類の太陽電池モジュールを組み合わせ、寄棟屋根や複雑な屋根形状にもムダを少なくレイアウトできるSAMURAI(サムライ)。また、切妻など傾斜屋根には、ECONOROOTS(エコノルーツ)タイプR、陸屋根用は防汚仕様の同タイプGと、合計3種類をラインナップ。

2.今年の生産・販売量
 3月に滋賀県野洲市に新工場が完成し、生産拠点が2ヵ所になったことから生産計画を上方修正し、2010年度が前年度比5割増の600MW(=60万kw)、2012年度に1GW(1000MW)を見込んでいる。1GWは、家庭用に換算すれば約30万軒分だ。

3.システムの保証体制
 システム全体を対象に10年間の保証が付く。太陽電池モジュールの出力保証だけでなく、設備工事が原因の機器不具合も対象となっている。さらに、期間中2度の有料点検を受けることで火事や台風、落雷被害に対しても10年間保証するのがポイント。なお、発電モニタの保証期間は1年間。

4.施工品質の確保
 積雪への備えとして、フラットルーフへの施工時には滑雪・落雪しやすいよう設置角度を大きく取ったり、架台をかさ上げしている。
 施工品質の確保は、同社独自の「京セラソーラー施工士認定制度」を設け、基礎セミナーや模擬屋根で施工実習する専門技術セミナーなどを開催して正しい施工が行える施工士を育成している。
 なお、同社の施工基準を守って施工すれば、万一雨漏りしても総合補償制度で補償される。

5.普及に何が必要か
 無落雪屋根など北海道特有の屋根形状や、寒冷地の特性に対する十分な知識と設置スキルのある工事業者が増えること。

6.その他
 製品~販売~施工~アフターサービスの品質を重視し、エンドユーザーに接する販売店の人材育成に注力している。「京セラソーラーFC店」というフランチャイズ方式の販売網構築は国内業界唯一で、地域密着型の総合的サポートを行う。道内では札幌、帯広、北見の3店舗を展開中。今年3月5日現在で全国88店舗だったFC店を来年3月末には150店舗に拡大予定。


2010年02月15日号から

現場のジャッジ 第8回 断熱ブラインドの悩み

 住宅の性能向上とともに開口部は二重サッシからペアガラス入りサッシ、トリプルガラス入りサッシと変わってきた。ところがガラス部の性能が上がると熱損失が少なくなる代わりに太陽の熱も室内に入りにくくなり、住宅の性能向上と太陽熱のパッシブ利用は両立しにくい。なんとかならないものだろうか。

ハニカムサーモを採用

20100215_03_01.jpg 勇和建設(札幌市、齋藤保雄社長)は、「南側は日射取得率の高いペアガラス入りサッシで太陽熱を室内に取り込み、夜は断熱ブラインドを下ろすことで室内の熱を封じ込める」という考え方で、2年半前に断熱ブラインドのハニカムサーモスクリーン(発売・セイキ総業)をQ1・0住宅に採用した。
 ハニカムサーモスクリーンは、断面がハニカム(=蜂の巣状)形状のプリーツスクリーンを二重に張り合わせたダブル・ハニカム構造。ハニカム内部が空気層となって断熱する。
 プリーツスクリーンの意匠性と断熱戸の断熱性能の特徴を合わせ持っており、さまざまな色が選べ、遮光タイプもある。価格はカーテンの2倍程度(齋藤社長)するが、カーテン代わりに設置することが多いので、住宅全体の予算で見ればさほどアップにはならないという。単体ペアでは頑張っても熱貫流率1・5W程度の性能なのに対し、ハニカムサーモスクリーンを併用すれば1・0W近くまで性能が向上すると見ている。

※写真:齋藤保雄社長


効果高いが故の・・・

20100215_03_02.jpg 取り付けた住宅では、断熱効果への評判も上々。昼間スクリーンを上げれば日差しがさし込んでパッシブ効果で部屋を暖め、夜はスクリーンを下ろすことで冷気が室内に侵入するのを防ぐ。入居者からも「とても暖かい」と高評価。一方、性能が良い故の悩みも。
 それは床面の結露だ。断熱ブラインドは室内に取り付けて熱を遮ることはできるが、完全な気密ではないので湿気がブラインドと窓の間に入り、床面で結露することがある。引き違いタイプは注意が必要だ。腰高窓では問題は起きていない。
 同社では、基礎断熱下に放熱器を置いて床ガラリから室内に放熱する方式を取っているが、ネタレス工法を採用しているため床ガラリの位置をスクリーンと窓の間の床に取ることができず、床面を暖めることができない。
 齋藤社長は、「設計の工夫で何とかなるはず」と考えている。これから設計に入る住宅では、テラス窓の取付位置を10cmほど上げて床面に窓の冷気の影響を与えにくくしようとしている。「市販の結露防止用電気ヒーターを取り付ける選択肢もあるが、本末転倒だと思うのでなるべくやりたくない」と話している。

※写真:ハニカムサーモスクリーン採用の施工例。性能向上のため「断熱レール」という縦枠を取り付けている


2009年10月25日号から

地場5社が常設展示場/美幌.木夢クラブ

20091025_02_01.jpg オホーツク・美幌町で地場住宅会社を中心に地元森林認証材による家づくりを進めているグループ・美幌.木夢クラブ(びほろどっとこむクラブ、髙橋広明会長・(株)髙橋工務店社長)では、FSC認証による森林経営や人に優しいまちづくりなど、同町の地域特性を表現した5棟のモデルハウスによる総合常設展示場「BIHORO.COM ECO LAND」(びほろ・どっとこむ・えこらんど)を去る10日に同町稲美の分譲地・テアトロにオープン。3日間で約400組、1000名が来場した。
 この展示場は、国交省が地場産材の利用や地域特性に配慮した木造住宅の展示などに対し補助を行う地域住宅モデル普及推進事業に提案し採択されたもの。展示場の開催期間は平成25年3月末までで、当面は毎週土曜・日曜のみの公開。宿泊体験も可能になっている。
 モデルハウスはいずれも1.道の北方型住宅 2.北海道木材産業協同組合連合会の北の木の家 3.国の長期優良住宅の3つの認定基準に適合させるとともに、使用する木材には町内産の森林認証材(FSC認証材)および道産材を100%使用。太陽光発電システムも全棟設置している。
 これらを満たしたうえで、緑豊かな家庭菜園を設けるなどスローライフに適した「緑の家」(株)宮田建設)、ユニバーサルデザインによって障がいがある人でも安全・安心な「優の家」(㈲種田工務店)、珪藻土など環境に優しい地域エネルギー・資源を活用した「環の家」((株)金岩建設)、南面の大開口や光ファイバー製品を使って太陽光を最大限取り入れる「輝の家」(㈲山岸工務店)、内外装に町内産FSC認証材を使用した「木の家」(髙橋工務店)と、5棟それぞれ美幌町の地域特性をテーマに設計・施工を行った。
 
地元カラマツで町を活性化/髙橋会長
 オープン初日は午前9時半からセレモニーが行われ、冒頭に同クラブの髙橋会長が「当会は地元のカラマツを使った家づくりが町を活性化する切り札になると考え、地材地消を合言葉に活動を進めてきた。今回の展示場オープンを新たなスタートととらえ、FSC認証材の地元カラマツによる家づくりの普及を目指し、今後も会員みんなで力を合わせて頑張っていきたい」と挨拶。
 また来賓の土谷耕治・美幌町長は「この展示場は地域資源を活かしたいという同クラブの想いが実を結んだものであり、地球環境にも貢献できる家づくりにつながる。町の情報発信の場としても充実した展示場になることを願っている」と祝辞を述べた。
 この後、テープカットと行政関係者や報道関係者を対象とした内覧会が行われ、午後から一般公開を開始。同町を含むオホーツク管内はもとより、釧路・根室から訪れたユーザーもいたといい、5棟のモデルハウスはそれぞれ多くの来場者で賑わった。
 
 
(写真...公開されたモデルハウス5棟の外観(上から緑の家、優の家、環の家、輝の家、木の家))


2009年10月05日号から

瑕疵保険時代の防水対策

 住宅瑕疵担保履行法によって、今月から引き渡す新築住宅を対象とした瑕疵保険への加入または保証金供託の義務化がスタートした。すでに多くの住宅会社が選択している瑕疵保険は、地盤や基礎、雨水の浸入防止について設計施工基準に適合することが必要となる。特に外壁・屋根回りの防水は事故が多い部分と言われているだけに、適切な工法・部材で施工しておきたい。そこで今回は瑕疵保険時代に対応する防水工法や防水部材にスポットを当てた。
 
瑕疵担保法のおさらい/今月から保険等義務化
 20091005_01_01.jpg住宅瑕疵担保履行法は、構造計算書の偽造事件、いわゆる姉歯事件をきっかけにできた法律。平成12年に施工された品確法で住宅会社に10年間の瑕疵担保責任が義務付けられたが、瑕疵が見つかっても住宅会社が倒産していれば瑕疵担保責任が履行されないため、住宅所有者は経済的にも精神的にも大きなダメージを受けてしまう。
 そこで住宅瑕疵担保履行法では住宅会社が倒産した場合でも瑕疵の補修等が確実に行われるよう、今年10月1日以降に引き渡す住宅を対象に瑕疵保険への加入または保証金の供託を義務化。いずれも年2回の報告義務があり、違反業者には請負契約の禁止や罰金などの罰則が課される。
 瑕疵保険は1戸ごとに加入し、費用は掛け捨て。一方、保証金の供託は過去10年間の引き渡し戸数に応じた額を法務局に10年間預ける形になる。保証金の供託は最低でも2千万円は必要となるため、実際には瑕疵保険への加入を選ぶ住宅会社がほとんどだ。
 
(図...住宅瑕疵担保履行法で対象となる瑕疵担保責任の範囲。外壁と屋根の防水については特に事故が多い部分だけに、設計施工基準にのっとって適切に施工したい)
 
防水事故の保険金支払が目立つ
 瑕疵保険を扱う保険法人各社は、保険料の無事故割引や損害率に応じた割引などを行っているケースがあるので、瑕疵保険は使わずに済むのが一番いい。そのためには瑕疵保険の設計施工基準をよく理解し、適切な施工部材の選択・施工を行うことが重要だ。
 瑕疵保険の設計施工基準は、当初保険法人ごとに定めていたが、今年7月に国交省によって基準が統一された。これによって住宅会社は一つの仕様で6社の保険法人に対応できるようになった。また、一定の条件はあるものの、着工後・完成後の住宅でも保険加入が可能となっている。
 住宅瑕疵担保履行法で補償対象となるのは、品確法の瑕疵担保責任と同じく「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」の2つだが、住宅保証機構が今年6月末までに扱っていた住宅保険・住宅性能保証制度の平成17年度保険金支払件数を見ると、外壁の防水部分が64%、屋根の防水部分が12%で、合わせて全体の4分の3が防水関連の不具合。道内は外壁と屋根の件数がほぼ同比率だという。
 
屋根の防水/フラットは1/50こう配
 20091005_01_02.jpg統一された基準で雨水の浸入防止に関する部分を見ると、木造住宅の屋根でフラットルーフ(陸屋根)を認めたのが大きなポイント。具体的には①50分の1以上のこう配を取ること②防水工法は金属板(鋼板)ふきやアスファルト防水など6種類の中から採用することを規定している。
 ただ、こう配については、使用する防水材のメーカーが50分の1未満のこう配も可能な施工基準を定めている場合、保険法人が適切と認めれば、その基準で施工できる。
 M型、いわゆるスノーダクトの無落雪屋根については、道内で住宅保証機構の瑕疵保険・まもりすまい保険を扱っている北海道建築指導センターが「基準外でも保険法人が特別に認めたものは保険適用を認める」という設計施工基準の第3条規定に基づき、独自に作成した無落雪(M型)屋根設計施工基準の保険適用を住宅保証機構に申請。同機構から認定され、道内限定で採用可能となっている。
 
(写真...統一された設計施工基準では屋根の仕様に陸屋根(フラットルーフ)が追加された。また、北海道は同基準の第3条規定の適用によってM型無落雪屋根(スノーダクト屋根)も採用可能となっている)


2009年10月05日号から

瑕疵保険時代の防水対策(つづき)

M型無落雪の基準/屋根こう配は3/100~15/100
  20091005_02_01.jpg以前の住宅保証機構の保険でM型無落雪屋根の基準として使われていた「性能保証住宅設計施工基準北海道版(無落雪屋根)」と比べると、屋根こう配は100分の5~100分の15から100分の3~100分の15程度となったほか、シーリングは鋼板屋根材を止める釘頭等の露出部や、横どい・縦どいの接続部など6箇所を明記。横どいはこう配が原則60分の1以上から原則100分の2以上となり、横どい周囲の断熱も不要となるなどの変更があった。
 M型無落雪屋根を採用した住宅で保険に加入する場合は、住宅保証機構の『確認書』の写しを申込み時に添付する。どの保険法人でも、この確認書を添付することで保険に加入できる。
 なお、第3条規定に基づく特例措置として、外装材で樹脂製の「ゼオンサイディング」も確認書の添付により、通気胴縁なしのオープンジョイントで施工できるようになっている。
 このほか、統一設計施工基準では、屋根の防水で「屋根の軒先部の下ぶきは、防水テープを用いて軒先の雨押さえ金物に密着させる」という規定が削除された。
 
外壁の防水/シートの重ね幅は90~150ミリ以上
 外壁の防水は、透湿防水シートの重ね幅を上下左右とも90ミリ以上、かつ窯業系・金属サイディング仕上げの場合は左右とも150ミリ以上とする。設計施工基準が統一される前は、金属サイディング仕上げの場合、左右の重ね幅を180ミリ以上としていた保険法人もあったが、現在は窯業系サイディングと同じ150ミリ以上に統一された。
 また、窓回りや給排気口回りは、防水テープを用いて透湿防水シートをサッシのツバなどに密着させることが必要。乾式の外装仕上げでは、通気層の厚さを15ミリ以上取ることとしているが、軸組屋外側に構造用合板などを張る場合は15ミリ未満でも認めるとしている。
 このほか、屋根の下ぶき材の重ね幅やサイディングを留める釘・ビスのピッチ、外壁の透湿防水シートの重ね幅、バルコニーの防水施工などについては、フラットルーフのこう配と同様、保険法人が適切と認める場合に限り、部材メーカー独自の施工基準で施工可能だ。


2009年10月05日号から

進化する防水工法1

 瑕疵保証が義務化されてから、防水性能がより確実で、施工性の良い新工法、新部材が出てきた。今回はこの中から代表的な工法・部材を取り上げて紹介し、防水施工を見直すきっかけになれば幸いだ。
 
屋根工事に防水保証/ルーフマン
 20091005_03_01.jpg北海道特有の板金屋根は、「屋根材で防水する」という考えが主流で下地での防水には注意があまり払われていなかった。しかし、断熱・気密と小屋裏換気が不十分な住宅では、室内から小屋裏空間に上がってきた暖気の影響で野地裏に結露が発生し、その結露・結氷が室内を汚したり、暖気で融けた雪融け水がハゼ部分から入り込んでスガモリの原因になった。またスガモリなどを起こした住宅では、その原因特定に時間と費用がかかるという問題もあった。
 (株)ミスター・ルーフマン(札幌市、秋山信介社長)は、屋根施工会社数社などが共同出資して作った会社。同社はこうした屋根施工の問題点を解消し、責任ある施工体制を構築するため「ルーフマン工法」を数年前に考案、現在道内全域に施工店が広がっている。
 同工法は、屋根材の防水に加え、下地でもしっかり防水する2次防水の考え方が定着している本州の瓦施工を参考に開発した。野地板に改質アスファルト系ルーフィングを専用防水テープで留め付け、専用縦桟、屋根材の順番に施工する。縦桟を入れることで屋根材と下地の間に通気層を兼ねた排水層ができ、ハゼの間や万が一の穴あきなどで屋根材の裏側に水が回っても排水されるため躯体に影響がないという。
 さらに、同社ではこの工法をマニュアル化し、研修を受けた技術者に認定書を発行する方式で全道に一定レベル以上の施工品質が担保できる仕組みを作った。現在札幌市内で5店、その他全道10地区に認定加盟店が広がっている。標準施工法や工事記録の保管などの規定があり、認定技術者の施工に対して施工後10年間の防水保証を行っている。万が一屋根回りで防水事故が起きても、工事記録を参照するなどして原因の特定がしやすく、結果的に入居者へ迅速な対応ができる。
 同社ではこのほか、ルーフマン工法を応用した太陽光発電システムの施工も請け負っている。
 
(図上...縦桟でできた空間が排水路となるルーフマン工法 写真下...ルーフマン工法の施工)
 
 
先付け防水カバー材/フクビなど
 20091005_03_02.jpg開口部回りの防水施工に、「防水カバー材」という新ジャンルができたのは6年ほど前。フクビ化学工業(株)(本社福井市)が発売した「ウェザータイト サッシ用」が先駆けだ。
 それまではサッシ下地の隅角の防水処理など3面にわたる部分は、透湿防水シートの端部を一部切り落とすなど前処理して貼り合わせていたが、熟練度により施工精度に差が出ることがあった。より確実で能率良く防水施工をするため、専用のポリエチレン製先付け防水カバー材を開発した。
 施工は、サッシ用は、中間部材、角部材の2種類を組み合わせて使う。先に窓台回りにウェザータイトを固定し、あとは通常のサッシ施工と同じ手順で行う。立ち上がり高10ミリの水返し部分があるので、サッシ枠から漏水した場合でも躯体内への雨水の浸入を防げる。
 現在では、サッシ用のほか、換気口用やダクト用、エアコン配管用、バルコニー防水用とバリエーションが増え、シリーズ化された。
 換気口用、ダクト用、配管用は、オーバーフロー管に用いられる40ミリ径から、換気システムの換気口に用いられる150ミリ径まで、防水層を貫通する管材の大きさに合わせて4種類を用意している。同社では、曲面と防水層の取り合い部分の防水テープ処理のみに比べて、長期間より確実に防水施工ができるとしている。
 このほか、バルコニー防水用では(株)クワザワがEPDMゴム製の一体カバー「スパット」を今年から発売、瑕疵保険時代に対応した防水部材としてPRしている。
 
(図上...ウェザータイトは、エアコン用の75ミリ径ダクトにも対応 図下...ウェザータイト・サッシ用。本州向けに、アルミサッシで描かれている)


2009年10月05日

進化する防水工法2

外装材の新施工法/ゼオン化成など
 20091005_04_01.jpgゼオン化成(株)は、十数年前からオープンジョイント工法の塩ビ樹脂製サイディングを北米から輸入し、販売している。北米では40年の歴史があり、一般的な外装材の1つとなっている。
 樹脂は、朝夕の温度差でも伸び縮みする特性がありシーリングをその変化に追従させるのは難しい。そこでサイディングとサイディングを重ね合わせるだけでシーリングを使わないオープンジョイント工法が採用されている。
 同社では寒地住宅都市研究所(現・道立北方建築総合研究所)との共同研究でオープンジョイント工法でも十分な防水性があることを立証した。
 また、同社オリジナルの工法として、通気胴縁を省略する施工法も開発している。この新しい施工法に関しては、今年6月に住宅保証機構の瑕疵保険設計施工基準の第3条の認定を受け、通気胴縁を用いなくても通気層工法と同等の防水・排湿性がある工法と認められた。このため、瑕疵保険の申込みもスムーズになった。
 窯業系サイディングは、板材の表面塗装とシーリングで止水するが、塗装やシーリングの補修が必要だ。万が一劣化したときは通気層が2次防水の役割を果たすが、ゼオン化成では塗り替えが必要なく、長期にわたって防水性能が安定して維持できる点で樹脂製サイディングにメリットがあるとPRしている。
 現在は、同社が中層住宅向けにも用途を開拓し、また信越ポリマー(株)も戸建市場に参入していることから、普及に弾みがつきそうだ。
 
(図上...胴縁を省略したおさまり例 写真下...ゼオンサイディングの施工例) 
 
 
アクリル防水テープ/光洋化学など
 20091005_04_02.jpg気密防水テープは、粘着性が高く、柔軟ですき間を強力に塞ぐなど、実績と信頼性のあるブチル系が主流を占めていたが、そこに現れたのがアクリル基材を使った気密防水テープだ。
 光洋化学(株)は、十数年前からアクリル基材の気密防水テープ「エースクロス」を発売、徐々に販売実績を伸ばしてきた。手切れ性が良く、薄いので重ね合わせ部分に段差が発生せず、温度を問わず接着力が安定しており、コストも比較的安いことなどが評価されているポイントだ。日本窯業外装材協会(NYG)の推奨品にも選ばれており、この10年で普及が進んでいる。
 同シリーズは、スウェーデン基準に準じた防湿フィルムの耐久性規格・JIS A6930に準拠した独自の耐久試験を行い、初期接着力の約95%を維持するという。これにより、50年後も新品同様の接着力が維持されるとしている。気密防水テープは、防湿フィルムと同等の過酷な環境に置かれるため、このような試験を行っている。
 なお、同シリーズは従来、製造過程で溶剤として使われていたトルエンの代わりに安全性の高い酢酸エチルを使用、環境ホルモン問題が指摘される可塑剤も使用しないなど、健康住宅への配慮もなされている。
 特に透湿・防水シート、断熱板やツーバイパネルの継ぎ目などに適していると言われており、ブチルテープとの使い分けをしているビルダーも少なくない。
 このほか、日本住環境(株)が「ツーエステープ」を、住化プラステック(株)も「カットクロス」といったアクリル系気密防水テープを販売している。
 
(写真右...NYG推奨品の光洋化学のエースクロスSBW(両面接着タイプ) 写真左...道内でよく使われる片面接着のエースクロス011)
 
 
3次元防水テープ/光洋化学など
 20091005_04_03.jpg気密防水テープによる防水施工で厄介なのが防水層を貫通する配管部分や窓台部分の角などの施工だ。防水カバー材が新ジャンルの製品として市場に流通している一方、気密防水テープメーカーも縦横両方向に伸縮性を持たせることで、施工性を追求した専用テープを開発した。
 光洋化学は、アクリル系粘着剤使用のテープでは初めて縦にも横にも伸びる「3次元粘着」を実現した「スパンエースG」を発売している。
 スパンエースGは、アクリル系粘着剤の持つ高耐久性、低VOC、粗面にも安心の強粘着力、重ね張り可能などの特長はそのままに、これまでブチル系テープにしかなかった、のびて止まる『3次元粘着』機能を持たせた。これにより、配管貫通部や窓台部分などの防水施工が簡単になる。
 基材に特殊フィルムを採用し、元の長さの最大2.5倍に伸びる。製品は45ミリ幅と90ミリ幅の2種類で、長さは5メートル。スリット入りの片面剥離紙付。
 また、日東電工(株)ではEPDM系ゴムとブチルゴムの特性を最大限利用した「ハイパーフラッシュ」を5年前から発売している。変形しやすいゴム基材とブチルゴム系粘着材とはく離紙で構成されており、ダクト回りや窓台コーナー部などに一体的に追従して貼ることが可能。補助防水材を必要としないため、工程数が削減できるという。
 
(写真上...光洋化学のスパンエースG。縦横両方向に伸びる 図下...スパンエースGの使用イメージ)
 
 
キャッチ工法を展開/丸十商事
 20091005_04_04.jpg太陽光発電システムは、国の政策もあって人気が急上昇しているが、雨水浸入防止に重要な役割を持つ屋根の上に重量があるパネルを載せるだけに、取付方法は確実か、防水施工は万全な工法かなど、確認しておくべき事項がある。
 そんな中、独自の「キャッチ工法」を展開しているのが、丸十商事(株)(札幌市、関野光信社長)だ。同工法は横葺き勾配屋根に専用取り付け金具で屋根材を挟んでボルトで固定、その上に太陽光パネル設置用のレールを敷き、パネルを取り付ける。
 専用金具は雪止め金具と同様の施工方式だ。屋根面に穴を開ける必要がないので防水上の弱点を作りにくく、また太陽光パネルメーカー指定工法の1つにもなっているため、メーカー保証や国の補助金対象となる。
 (株)セキノ興産(本社富山市)が開発、道内では金属製屋根材の加工・販売を行う丸十商事が6年前から取り扱い、現在はキャッチ工法と太陽光パネル部材両方を道内二十数社の板金工事会社に供給し、責任施工体制を敷いている。工事会社は、セキノ興産とパネルメーカー両方の施工講習を受講し、施工品質を担保している。
 キャッチ工法は横葺き屋根のほか、折板屋根や瓦棒屋根、丸十商事が発売するオリジナル縦葺き屋根にも使える。ただしM型無落雪屋根や石付き金属屋根などは今のところ対応していない。
 
(写真...横葺き屋根へのキャッチ工法施工例)


2009年08月25日

震度6強で問題なし/防災科研・NEESWOOD

木造2×6で実大7階建て震動実験

20090825_01_01.jpg 独立行政法人防災科学技術研究所では、去る7月14日、木造建物の研究を行っているアメリカのプロジェクトチーム・NEESWOOD(ニースウッド)との国際共同研究の一環として、より地震に強い耐力壁や金物を採用したツーバイシックス工法による7階建て木造アパートの実大震動実験を兵庫耐震工学研究センターで実施。震度6強レベルの震動を与えたところ、損傷はほとんどなく、木造建物でも中高層化に十分対応できることが確認された。
 
(写真...兵庫耐震工学研究センターのE-ディフェンスで建てられたツーバイシックス工法による7階建て木造共同住宅)
 
木造中高層に朗報
 
 防災科学技術研究所(防災科研)と国際共同研究を行っているNEESWOODは、アメリカ国立科学財団のプロジェクトで、主に木造建物を研究しているチーム。今回の実験は1.大地震時における7階建て木造建物の耐震性能の検証 2.木造建物の中高層化の可能性を検討するための各種データ取得などを目的として実施したもの。実際に7階建て建築物の実大震動実験ができるのは、世界でも兵庫耐震工学研究センターにあるE-ディフェンス(実大三次元震動破壊実験装置)だけであり、実験当日は国内外から約500人が見学に訪れた。
20090825_01_02.jpg 建物は1階部分が鉄骨造、2~7階がツーバイシックス工法による木構造で、幅12.4m×奥行18.4m×高さ20.4m。全23戸の共同住宅で、各階床には生活状態を想定して家具と同じ程度の重さの錘(おもり)を設置しており、建物の総重量は約367tになる。
 木構造部分はツーバイシックススタッドとOSBで構成。耐力壁は日本のCN75相当の長さの釘を使うとともに、1本の釘で2面せん断となるミッドプライウォールを室内壁の一部に採用した。この耐力壁はスタッドの屋外側に構造用面材を釘打ちする通常の壁構成と異なり、スタッドを構造用面材の両側から平使いで重ね合わせるように釘打ちする。構造用面材を2本のスタッドでサンドイッチした形となり、通常の壁パネルより大きな耐力を発揮できるという。
 また、ミッドプライウォールを含む耐力壁にはATS(アンカー・タイダウン・システム)を設置。ATSはホールダウン金物の一種で、1階から7階まで連続したアンカーボルトで緊結することにより、耐力壁の浮き上がりを防止する。
 
(写真...ミッドプライウォールによる室内耐力壁。壁の右側を上下に貫通している金物がATS)
 
構造的な強度実証

20090825_01_03.jpg 実験では1994年1月にアメリカで発生したノースリッジ地震の時にカリフォルニア州カノガパークで記録した地震波の加速度を1.8倍に増幅し、建物を40秒間揺らしたところ、ほとんど損傷は見当たらず、構造の強さが証明された。今回の揺れは震度で言うと、6強に相当するという。
 実験を担当した防災科研・兵庫耐震工学研究センター契約研究員の清水秀丸氏は「ところどころで、石こうボードに亀裂が入ったり、釘が曲がったりした部分はあったが、構造的にはまったく問題なかった」と話す。また、個人的な感想としたうえで「木造であっても中高層建物の建設が可能であることが確認されたと思う。今後、防火や経年変化の問題が解決されれば、日本でも建設を検討すべきではないかと考えている。ただ、上階では家具の固定などが必須条件となりそう」と語っている。
 今後、清水氏を含めてこの実験に参加した日本側の研究者が在来・ツーバイを問わず、木造の中高層建物について研究を進める予定だ。
 
(図...ミッドプライウォールと一般的な耐力壁の構成)


2009年07月15日号から

日本初のパッシブハウス

20090715_01_01.jpg ドイツの超省エネ住宅基準「パッシブハウス」の認証を受けた日本初の住宅が神奈川県鎌倉市で建設中だ。ハイテクによるCO2削減政策を推し進める日本・とくに関東で、あえてヨーロッパの考え方を紹介し「ローテクの集大成によって省エネと経済性が両立することを知ってほしい」。建築家・森みわさんの挑戦が始まった。20090715_01_02.jpg
 
(写真...パッシブハウスの認定書を背景に設計者の森さん。ドイツに5年、アイルランドに5年滞在してヨーロッパ(EU)の省エネ政策を肌で感じた)

実現可能なコスト

20090715_01_03.jpg ドイツのパッシブハウス研究所によると、パッシブハウスの条件は年間暖冷房負荷がそれぞれ、15kWh/m2以下、暖冷房、換気、給湯、照明などすべての使用エネルギーが一次エネルギー換算で120kWh/m2以下、気密性能が50パスカル測定法で0.6回/h以下であること。
 鎌倉パッシブハウスはこの基準をクリアするために、外壁断熱が240ミリ、開口部はU値が1Wを切る木製のトリプルガラスサッシを採用。専用のシミュレーションソフトを使って、基準をクリアできる仕様を決定していったという。
20090715_01_04.jpg 断熱材は熱伝導率がグラスウールとほぼ同じで、蓄熱効果が高い木質繊維断熱材を使用。また換気はドイツの熱交換換気を採用。
 このほか、温暖・多湿地対策として、夏場の逆転結露を防ぐ調湿効果のあるという気密シート「インテロ」や、アメリカで開発されたシロアリに強い基礎断熱材を採用するなど、日本への適応を考えた。
 7月4、5日は現場見学会が開かれ、一般消費者のほか全国から専門家も見学に訪れるなど、関心は高かった。
 森さんによると、パッシブハウスはCO2削減や快適性を実現することだけでなく、実現可能なコストでなければならない。ドイツの現行基準である2002基準は、暖冷房・給湯・一般電灯を合わせて210kWh/m2。これを120kWhまで減らすためには当然、多額の建設コストがかかるが、暖房負荷が15kWh/m2以下になると、暖房設備はほとんど不要となり、その費用がかからなくなる。断熱などで費用アップしても暖房設備が不要になる分の費用が浮く。そのレベルがパッシブハウスの基準となっている。
20090715_01_05.jpg また、このレベルまで来ると、あとは太陽光発電などごくわずかなアクティブエネルギー活用でゼロカーボン(CO2排出ゼロ)が達成できるとしている。
 鎌倉パッシブハウスでは、暖冷房にルームエアコンを利用する予定だ。これは第一に暖冷房設備費としてもっとも安いこと、第二に施主の希望であるオール電化という条件で選ぶ場合、パッシブハウス基準をクリアするためにCOP6・5が必要だったことによる。
 施主は共働き。仕事で建築家・森さんとパッシブハウスを知り、「ちょうどわが家を計画しているので、パッシブハウスで」と依頼されたそう。当然予算の制約は厳しく、施工した㈱建築舎(東京都八王子市)には技術への投資と考えて協力してもらったという。
 竣工は8月中旬ころの予定。
 
(写真上...建築中のパッシブハウス 写真中...壁体の模型。外壁はツーバイシックス、その外に100ミリ付加 写真下...2階室内。気密シートのインテロ、熱交換換気のサプライ側ダクトが見える。内胴縁は配線スペース確保のため)
 
 
建築家のメッセージ「燃費表示・世界標準・ローテク」/編集長の目

 関東の中でも温暖な鎌倉でなぜ240ミリ断熱? そう思った読者諸兄も多いと思う。答えは最後にして、森さんが強調していたことは次の3点。
 ①自己申告制の省エネ性能に終わりを。
 ②これからの世界標準は、2011年EU標準となりつつあるパッシブハウス(ローテクの集大成)。
 ③この技術をどうやって日本で実現するかをずっと考えてきた。
 取材して感じたのは、投入する技術とそれによって得られる効果、そしてそれらが取得可能なコストであること、これらがわかりやすくハッキリと説明できて当然、という考えかただ。
 日本の次世代省エネ基準を筆頭とする省エネ住宅は、Q値などを規定していてもその結果暖冷房消費がどうなるかを明示しない。また温暖地域では、住宅の省エネを高効率給湯設備と太陽光発電などのアクティブ技術(ハイテク)だけで達成しようという考え方に流れつつある。
 森さんはそれは違うと考えている。EUでは暖房燃費を表示しなければ家の貸し借りすらできなくなっている。そして住宅省エネの基本は、断熱構造化(ローテク)であることを忘れてはいけないという主張だ。
 鎌倉でなぜ240ミリ断熱なのか、その答えは、「ローテクの集大成」で何ができるかを関東で知ってもらうため、ということだと思う。


2009年06月25日号から

本物使い環境貢献/物林・イコロの森

20090625_01_01.jpg 物林(株)北海道支店は、苫小牧にあるイコロの森(企画運営・(株)ラウムランドスケープ)と協力して今年12月のクリスマスから「クリスマスツリーファームミッション2009」を実施する。クリスマスに北海道のアカエゾマツを送り、クリスマスを楽しんだあとに北海道に返送して苗木として翌春に植樹するという新しい企画で、クリスマスツリーをカーボンオフセットに使って環境意識を高める新しい試みに、自治体関係者や観光業界からも注目を集めている。
 
(写真...植樹について説明する物林の金川晃室長(左)。右下にあるのがツリーに使ったアカエゾマツの苗木) 

年末から事業開始

20090625_01_02.jpg 事業開始に先立ち、昨年12月に試験的にアカエゾマツの苗木を購入してもらい、クリスマス期間中は自宅にクリスマスツリーとして飾った。クリスマス終了後にイコロの森に送り返してもらって保管、それを森周辺にある荒れた林に植樹することで森の再生を願う。
 6月14日にイコロの森で関係者らを集めてクリスマスツリー植樹イベントを行った。昨年12月からの一連のプロセスを検証して問題点がないか探り、本番に備える。イコロの森は、ラウムランドスケープの鈴木敏司社長((株)アトリエアク社長)が企画し、花と炭をテーマに昨年開園した。
20090625_01_03.jpg 当日は雨が降り続く肌寒い天気にもかかわらず30名以上の参加者が集まった。植樹方法の説明を受けた後、お父さんが穴を掘ってみんなで苗木を植え、子どもたちが上に土をかけるなど、家族が仲良く役割分担しながら植樹を行う姿が見られた。
 鈴木敏司氏は、「イコロの森周辺は50年ほど前まで地元の木を使った炭焼きが行われていた場所で、適度に人の手が入っていたが、エネルギーが石油主体となって林が手入れされなくなった。植樹した場所は、放置されて細く曲がった木の多い25年生カラマツ林で、商品価値がほとんどないこともあり、すべて切り倒した。そこにアカエゾマツを4m間隔で植樹し、しばらくして間に広葉樹の苗木などを植えることで自然林に近い針交混交樹林に戻していきたい」と話している。
 物林の金川晃室長は、「夢のあるイベントだと思うので、今後イコロの森で継続的に植樹するだけでなく、自治体などにも声掛けをして同様のイベントを道内各地で開催できるようになればと考えている。今回、プログラムが無事開催できるメドもついたので、今年のクリスマス開催に向けて、道外も含め幅広く周知していきたい。航空会社や道内自治体関係者らも見学に訪れており、今後の展開に期待している」と話している。
20090625_01_04.jpg 「クリスマスツリーファームミッション2009」は、誰でも申込みが可能。高さ50~60センチのアカエゾマツの苗木を購入し、今年クリスマス前に申込者の自宅に宅配する。ツリーには木の実などオーナメント(飾り)がついた状態なのでそのまま飾って楽しめる。
 クリスマスが終わるとすぐに宅配便でイコロの森へ返送、来年のゴールデンウイークに植樹する。間引きされることも考え、ツリーとして使用した苗木以外にもう1本、合計2本植樹する。
 参加費用は2本の苗木代、往復の宅配料金、苗木の保管料、植樹料を含め1万3000円(税込)。植樹に参加する場合の交通費などは別。遠方などの理由で植樹イベントに参加できなくてもスタッフが代わりに植樹してくれる。
 問い合わせは、物林北海道支店(Tel.011・271・1685)。
 
(写真上...ラウムランドスケープの鈴木敏司社長 写真中...家族で土を掘って苗木を植える貴重な体験 写真下...植樹イベント参加者) 

記事の背景
 欧米でクリスマスツリーと言えば、本物のもみの木を使って飾る家庭も多いが、日本ではプラスチック製のツリーを使うのが一般的。プラスチック製のツリーは取扱いが簡単で何年でも使えるメリットがある一方、本物の木には香りの良さや環境にやさしいイメージがある。ただし、生きている木を使う以上、使用後の処理が問題となり、捨てられることもある。
 物林は、本物の木を使ったクリスマスツリーの楽しみ方を提案する一方、日本の住宅事情も考え、廃棄物とならず地球温暖化防止に役立つやり方を考えた。利用した後に植樹する試みは、このほかにも十勝・広尾町がサンタランドのイベントとしてノルウェースプルースを使い行っている。


2009年06月15日号から

足場に新たな規制1/安全確保に中さんや巾木

20090615_01_01.jpg 6月1日から労働安全衛生規則の一部が改正され、建築用足場の安全確保に新たな規制が加わった。これまで必要とされてきた手すりのほかに、中さんや巾木などの設置が義務づけられ、人の転落事故や、物の落下事故を防ぐことが求められる。これにより、重大事故が減ることが期待される一方で、規制強化から除外される足場もあり、その解釈をめぐって現場で波紋が起きている。
 
(写真...ビケ足場に1.手すり、2.中さん、3.幅木を設置した例)
 
ビケ足場も対象か
20090615_01_02.jpg 規則の改正では、足場、架設通路、作業構台の3通りについて墜落防止措置が記載されている。いずれも手すり以外に新たに中さん、下さん、幅木などが必要となる。
 このうち足場に関する改正では、わく組足場とそれ以外の足場で必要な措置が異なる。わく組足場は、これまで必要だった交さ筋かい以外に下さん、幅木、手すりわくのいずれかが新たに必要となった。それ以外の足場の場合は、高さ85センチ以上の手すりと中さん等を設ける必要があり、物体落下防止措置として幅木あるいはメッシュシート、防網が必要となる。ただし、『一側足場(ひとがわあしば)』は今回の規則改正の対象から外れると明記されており、これまで通りの措置で良い。
 わく組足場は中高層ビルや公共建築物などの工事でよく使われる一方、木造住宅の現場では組み立てのしやすさや狭小地・複雑な形状へ柔軟に対応できることから「ビケ足場」のようなくさび緊結式足場が使われている。このくさび緊結式足場が『一側足場』かそうでないのかはっきりしないため、現場で波紋が広がっている。
 そもそも一側足場とは、足場をかける柱が一列に並んでいる状態の足場を言う。くさび緊結式足場はコーナー部などは柱が2列並ぶが、部分的に1列になる架け方が多い。このため足場全体として一側足場と見るのか、そうでないのかが問題となるが、監督官庁の北海道労働局では、「現場を見て全体として判断する」としているだけで明確な判断基準は示していない。
 そこで足場レンタル会社などに取材すると、現場を直接見て回る労働基準監督署によって見解が異なるという声が出ている。
20090615_01_03.jpg くさび緊結式足場は、作業床の奥行きが24~25センチと40センチの2種類あるが、24~25センチの作業床なら柱が2列であっても『一側足場』と見なす労働基準監督署がある一方、実際の柱が一列か二列かで一側足場を判定する監督署もある。前者ならば幅の狭い作業床を使えば今回の規則改正に対応する必要はないが、後者であれば改正への対応措置が必要となる。
 
(写真上...規則改正への足場対応例・建設業労働災害防止協会(建災防)発行の資料より 写真下...24センチの作業床(写真)に幅木を設置するのは現実的ではない、という意見も出ているが、今のところ統一した見解は出ていない)
 
 
続き「足場に新たな規制2」はこちら


2009年06月15日号から

足場に新たな規制2

拒否する住宅会社も
20090615_02_01.jpg ところで住宅会社側の対応はどうなっているのか。
 ハウスメーカーの中には規則改正への対応が必要と判断して5月の現場から足場に中さんを入れている会社がある。ただし幅木は使わずメッシュシートで対応している。一方で、関東のある労働基準監督署が「くさび緊結式足場は一側足場と見なす」という見解が出ていることを示して、「当社では一側足場と考え、今回の規則改正で新たな対応措置はとらない」と明言しているハウスメーカーもある。
 工務店の対応はまだこれからだ。足場レンタル会社も、「すべての工務店に営業担当が詳しく説明して回ることは時間的に困難」だという。また、札幌の工務店も取材に対し「足場のことは足場屋さんに任せているから」と答えて規則改正を詳しく知らない社長もいた。
 レンタル会社によると、規則改正を説明されても「コストアップになるのなら必要ない」と対応を突っぱねる住宅会社もあったという。「その場合は『万が一の足場事故時には、責任は住宅会社側にある』と一筆書いてもらおうかと考えている」と話している。
 別のレンタル会社は、「今はサービスで中さんを付けるなどの対応を行っているが、今後労働基準監督署の一斉パトロールの指導で明確な判断基準が示されるのではないか。その後にコストアップの打診をしたい」と話している。
 
(写真...わく組足場の例。鳥居型のわくを組み上げていく(写真は規則改正前に撮影))
 
コストアップ200円/m2
 規則改正に対応した場合のコスト増は、足場レンタル会社に聞くと「架け払いで200円/m2程度のアップが必要」という。しかし、完成した住宅に直接反映されないコストアップはなかなか住宅会社も認めがたい。
 足場レンタル会社が規則改正に地道に対応しようとしても、工務店側が法改正をよく知らなかったり、コストアップ要因として拒否する、そして規則改正の対象外かどうかの判別基準が明確でないということが対応を難しくしている。
 
<<足場に新たな規制1はこちら


2009年03月05日号から

超高断熱と自然エネ活用/秋田・池田建築店

国土交通大臣賞を受賞

20090305_1_1.jpg 持続可能な住宅の普及を目的として建築環境・省エネルギー機構が実施した「第3回サステナブル賞」の受賞作品がこのほど発表され、最も優秀な住宅に贈られる国土交通大臣賞に、室蘭工業大学鎌田研究室と(有)西方設計(秋田県能代市、西方里見社長)が設計、(有)池田建築店(同、池田新一郎社長)が施工した「Q=0.64臥龍山の家(サステナブル住宅)」が選ばれた。熱損失係数=Q値0.64Wという高い断熱性・省エネ性と自然エネルギーの有効利用、地場産材の積極的な採用などが高く評価された。
 
(写真...池田社長)

外壁はGW230ミリ断熱
20090305_1_2.jpg この住宅は平成18年11月末に完成した秋田県能代市内の物件。外観は秋田杉を外装材として使った5×4間の総2階建て、延床面積約150㎡というコンパクトな形状となっており、①外壁230ミリ断熱など高いレベルの断熱性能②太陽光や太陽熱、地熱、バイオマスなど自然エネルギーの有効利用③地場の循環資源の利用の3つを持続可能な住宅のポイントとしている。
 断熱仕様は、外壁が高性能グラスウール24K2層充てん+グラスウールボード32K30ミリ内付加による230ミリ断熱、屋根が高性能グラスウール24K400ミリ、基礎が押出スチレンフォームB3種外側100ミリ+内側100ミリ。窓は木製サッシ・アルゴンガス入りトリプルLow-Eガラス、換気は第1種熱交換とし、Q値0.64WとⅢ地域ながら極めて高い断熱性能を確保した。
 このうち外壁の断熱構成は間柱に2×10材を使って100ミリ厚のグラスウールを2層充てんし、さらに室内側からグラスウールボード30ミリを施工した内側付加断熱。
 間柱の2×10材は柱の屋外側の面に合わせて配置しているため、室内側に130ミリほどせり出す形となるが、その分は建物の矩形を屋外側に広げることで、通常と同じ広さの室内空間を確保している。
 
(写真...「Q=0.64臥龍山の家」の外観。両サイドの1階から2階にかけて黒く見えるのが大工の造作による日射熱集熱壁)

日射熱集熱壁を造作
20090305_1_3.jpg 自然エネルギーの有効利用については、建物南面の両サイドに大工の造作による簡易日射熱集熱壁を設けたのが大きな特徴。
 これは耐熱ガラスで覆った密閉壁の中に秋田杉の下見板を入れたもので、下見板は空気が上方に流れるよう角度を付けて取り付けられており、太陽熱を吸収しやすいよう墨汁で黒く塗り、さらにその上からごま油を塗布している。
 この中で暖められた空気は90℃程度になるといい、住まい手が2階の暖気取り入れ口を操作して室内の暖房に利用する。
 また、太陽光発電の電力を動力に使った太陽熱給湯器や、地中に約16メートルの長さで埋設した塩ビ管を利用し、給気する新鮮外気の温度をコントロールするクールチューブ、ペレット兼用薪ストーブなども設置。暖房については簡易日射熱集熱壁の効果もあり、冬期は1日平均で長さ24㎝の105ミリ角材(薪)が8本あれば快適に過ごせるという。
 
(写真...秋田杉と珪藻土の塗り壁で仕上げた室内。暖房はペレット兼薪ストーブ1台で行う)

構造材と内外装材は秋田杉
 地場の循環資源の利用としては、外装材に加えほとんどの構造材と床・天井材、造作材に秋田杉の乾燥材を使用。合板も秋田杉合板を使っている。
 池田建築店の池田社長は「今回の受賞は室蘭工大の鎌田紀彦先生や西方設計・西方社長のご協力のおかげであり、これまで当社が進めてきた家づくりが間違っていなかったことが裏付けられたことにもなった。これからも地域に根ざして快適で高性能な住宅を提供し続けていきたい」と話している。


2009年02月25日号から

超高断熱は夏も有効/パッシブシステム研究会

20090225_3_1.jpg NPOパッシブシステム研究会(中野隆二理事長、(有)フォルムデザイン社長)では、今月10日に札幌市内で研修会と懇親会を兼ねた新年会を開催。昨年建設した外壁315ミリ断熱の実証住宅とアースチューブを採用したRC造のペンションの室内環境実測結果、リフォームによる超高断熱住宅の可能性などについて報告が行われた。
 研修会では、始めに札幌市手稲区で(株)テーエム企画が建設した外壁315ミリ断熱の同会実証住宅と、後志・余市町でフォルムデザイン設計により建設された外断熱・RC造ペンションの性能測定の経過を、北海道大学大学院工学研究科の羽山広文准教授と菊田弘輝助教が報告。
 このうち実証住宅は菊田助教が「外壁315ミリ断熱という超高断熱住宅なので夏期のオーバーヒート対策が課題の一つだったが、8月の一番暑かった時期の室温の上昇は、外気温の上昇より2時間程度遅れており、これは断熱性能の高さと150ミリ厚の土間などの熱容量の大きさが効いていると考えられる」などと夏期の室内環境効果を中心に説明を行った。

(写真...大勢の会員が参加した研修会の様子)
 
満足度高い全面改修

20090225_3_2.jpg この後は、「リフォームによるQ1住宅の可能性」をテーマにはるす工房主宰の高杉昇氏が講演。高杉氏は「住宅の軸組と基礎だけ残し、新たに断熱・気密化を行ってリフォームする場合、解体は35坪程度で14~15人工かかるが、構造体の加工工賃がかからず、税金も不動産取得税が不要で、固定資産税は多少増えるものの新築ほどはかからないというメリットがある。そう考えると古い住宅を壊して建て替えるより、手間をかけても全面リフォームしたほうがいい。特にQ値1.0~1.3Wレベルになると、圧倒的な室内環境の変化を感じてもらえるので、ユーザーの満足度は非常に高い」と、断熱・気密改修も含めた大規模リフォームのメリットを紹介。
 
(写真...札幌市手稲区にある315ミリ断熱とハイブリッド換気を採用した実証棟外観)
 
リフォームの北方型開始へ
 
 最後に道立北方建築総合研究所居住科学部の福島明部長が「これからの北方型住宅」について講演し、「北方型住宅は、北方型ECO以外の登録業者が少ないが、間もなくリフォームによる北方型住宅の登録も始まる。新築と同じ基準で一部試験運用を開始しているが、各地域の工務店が生き残っていくために、ぜひ取り組んでもらいたい」と、北方型住宅の新たな動きを紹介した。
 研修会終了後に懇親会が行われ、参加した会員各社は親睦を深め、今年の健闘を誓いあっていた。


2009年01月25日号から

地中熱HPなど装備

20090125_3_1.jpg ヒートポンプ・蓄熱センターが主催するローエネルギー住宅の見学が昨年12月12日、札幌市中央区で開かれ、多くの参加者が寒冷地の取り組みを見学した。
 07年末に竣工したこの住宅は、基本的にはコンクリート外断熱工法で、南面ファサード全面が3重ガラスで覆われ、熱損失係数(Q値)が0・94W/m2・Kのパッシブソーラーハウス。ここに地中熱や太陽熱、換気排熱を熱源とする暖房・給湯・融雪ヒートポンプシステムを組み合わせ、暖冷房・給湯・換気に要する年間電力消費量が20kWh/m2を下回るローエネルギー住宅として計画された。
 暖房と融雪は主に地中熱ヒートポンプ、給湯は地中熱ヒートポンプに太陽熱温水器を組み合わせ、さらに熱交換換気ユニットを通過した後の排気からもう一度熱を回収する徹底利用を試みている。
20090125_3_2.jpg また夏場はヒートポンプを使わずに循環ポンプだけを運転して地中の冷たさを利用するフリー・クーリングを実施している。
 ヒートポンプ4台(合計熱出力29kW)に対して熱交換井戸は深さ75メートルが4本で合計300メートル。この中に採熱管を2本挿入したダブルチューブ方式で地中との交換熱量増加を図っている。
 暖房面積は約200m2で1、2階とも全面床暖房。外気温度がマイナス10℃でも1日10時間前後、30℃の低温水を通水すれば全館20℃を保つことができる。ロードヒーティングは100m2を6.3kW2台で低い温水温度で連続運転。換気システムは、全長40メートルのアースチューブにより予熱・予冷された外気を、湿度70%以上で大きな調湿作用のある稚内層珪質頁岩1・5tが敷設されたピットに取り込み、調湿した後、熱交換換気ユニットに入る仕組み。また、室内の壁、天井も稚内層珪質頁岩の塗り壁材で仕上げており、高湿度域での調湿や臭気、VOC除去に寄与している。このほか、木質ペレットストーブや定格出力3kWの太陽光発電、500リットルの雨水利用タンクなどを備えている。
20090125_3_3.jpg 環境設備を監修、コミッショニングを行っている北海道大学長野克則教授は、「完成から丸1年が過ぎ、ほぼ計画通りの性能が確認された。性能的にもデザイン的にも世界的に誇れるローエネルギー住宅だ」と話している。
 
(写真上...採熱管の心臓部が集まるマンホール下部 写真中...機械室のヒートポンプ本体など。実験用の計測機器も並ぶ 写真下...屋根たる木の下に設置したフリー・クーリング用の放熱器。底部が結露水受け、横引きの配管がドレン)


2009年01月25日号から

検査済証が未交付、融資受けられない現場も

20090125_2_1.jpg (株)エクセルシャノン、三協立山アルミ(株)、新日軽(株)ら5社が防耐火認定を取得した仕様とは異なる仕様の樹脂サッシを製造・販売、あるいは認定仕様と異なる試験体で認定を取得するなどの不正を行っていたことが今月8日明らかになり、認定を取り消される事態となった。不正は、最も古い製品では平成8年まで遡るという。
 防耐火認定を取り消された樹脂サッシを採用した住宅の現場がどうなるのか、まとめてみると、1.建築中の現場の場合、完了検査は通らない、2.場合によっては外壁や内壁を剥がしてでも交換作業を行う、3.費用は仮住まい費も含め全額メーカー側が負担、4.具体的対応内容については、現在メーカーとユーザーの間で交渉中、となる。改修に伴う費用などは各メーカーではこれから算定するとしており、業績への影響は計り知れない。
 問題の樹脂サッシは、戸建住宅では準防火地域に用いられるもので、ガラスは網入り、枠内に防火用の遮炎材などを補強して通常商品よりも防耐火性能をアップさせている。認定試験を受ける際に、遮炎材を増強するなど認定仕様と異なる不正を行い、さらに販売時に認定仕様と異なる仕様で販売した製品もある。
 道内戸建住宅では、エクセルシャノン、三協立山アルミが既に各サブユーザーへ訪問してお詫びと事後対応の相談を行っているが、道内はユーザー数が多いために対応に時間がかかりそうだ。道内ハウスメーカーでは、(株)土屋ホールディングスなど3社がホームページ上でエンドユーザー向けに告知を行っている。
 怒りがおさまらないのは当該サッシを採用し完了検査直前だった現場の担当者。「完了検査が下りないだけでなく、銀行も融資が実行できないと断ってきた。引き渡し日も延期となり、結局お客さまから怒られるのは我々だ。何の落ち度もないのになぜこんな目に遭うのか」と話す。
 別の住宅会社では、「完了検査の担当者からは、『御社には何の落ち度もないのにたいへんお気の毒ですが』と言って完了検査が通らないことを通知された。無償改修といっても、引渡日が大幅に伸ばせないお客さまの物件なので、どうしたらいいのか」と困惑を隠せない。
 
(写真...防耐火認定を取得した樹脂サッシのガラスは、すべて網入り(三協立山アルミのカタログから))

緊急の対応策
20090125_2_2.jpg 緊急の対応として、外付けの防火シャッターを付けて完了検査をクリアし融資実行ができる体制をまず作り、その後についてはメーカーと住宅会社でじっくり話しあうという案も浮上している。
 エクセルシャノンの親会社、(株)トクヤマの広報は「無償改修とは、改修工事の間仮住まいが必要ならばその費用も含めて負担するという意味ととらえている」と話している。これまで樹脂サッシ普及のトップリーダーとして市場をけん引してきた会社を含めたおよそ8万窓に及ぶ不正だけに、その衝撃は大きい。
 
(写真...防火試験で『スペシャル仕様』の試験体が使われたことが発覚した(エクセルシャノンのカタログから))


2008年12月25日号から

『北のブランド』に認定

札幌・北一タカハシ建設 宮大工が建てる数寄屋住宅

20081225_2.jpg(株)北一タカハシ建設(札幌市、髙橋一彦社長)では、札幌商工会議所が毎年行っている北のブランド認証事業に"北の宮大工が建てるQ1数寄屋住宅"で応募。このほど『北のブランド2009』として認証された。
 札幌商工会議所の北のブランド認証事業は、同会議所会員企業がこだわりを持って開発した製品を『北のブランド』として認証することによって、道内外への販路拡大を支援しようというもの。ものづくり部門と食品部門の2部門があり、認証を受けるには優れた技術やこだわりを持っているか、市場において高い評価・信頼を得ているか、市場での将来性があるかなどの選考基準をクリアすることが条件。
  認証されると認証盾とロゴマークが交付され、「北のブランドカタログ」や広報誌、ホームページなどへの掲載のほか、道内外で開催される見本市・物産展などへの参加・出品などの支援が受けられる。
 同社が認証を受けた"北の宮大工が建てるQ1数寄屋住宅"は、多数の社寺建築実績がある宮大工の技術を活かした数寄屋造りに、熱損失係数=Q値1Wレベルの断熱性能と、夏期に屋根からの輻射熱を遮る遮熱シートを採用した省エネ型伝統住宅。これまで社寺建築や文化財級の建物の修復が専門だった宮大工の技術を戸建住宅にも取り入れて、北海道に適した高性能な和風モダンを提案している点が評価された。
  同社の髙橋社長は「今回の認証によって、当社の家づくりがオンリーワンであると認められたと思っている。今後、このブランドを積極的にアピールして他社との差別化を図っていきたい」と話している。


2008年11月15日号から

タマホーム札幌進出

3日間で1011組

20081115_2_1.jpg07年度1万棟の住宅受注実績を持つタマホーム(株)が11月1日北海道に初上陸。148店舗目となる札幌西支店をレポートする。

「全部見れる」仕掛け
 建設地は手稲区新発寒5条4丁目、自動車ディーラーが3つの角にそれぞれ出店している交差点の一角という交通量の多いエリア。約800坪、モデルハウス2棟に事務所兼ショールーム棟、そして駐車場10区画ほどで出店した。
  3連休の初日、車内でタマホームのラジオコマーシャルを聞きながら取材に向かうと、青のハッピを来た営業マンに誘導された若い夫婦が数組、モデルハウスを見学中だった。
 来店客は「プランは選べるの」「テレビとラジオで見て楽しみにしていた」「値引きはできますか」など男女問わず営業マンにしきりに話しかけている様子。子供が「うわー、これ見てー」と騒いでいる横でお母さんも「こんな寝室で過ごしたいね」とニコニコしているような場面を何度も見かけた。
20081115_2_2.jpg 北海道向け新商品、本体工事価格34万8000円の「大地の家」2棟をそれぞれ見比べ、続いて案内されるトリコロールカラーのショールーム棟で、構造が分かる実物大の展示で性能や仕様面の解説を受ける。さらにバスルームや窓、キッチンやドアなどの実物を見ながら営業マンが説明。ユーザーが具体的なイメージをふくらませたところで、不動産会社3社提供による土地情報や、デザインや間取り・ローンなどをパソコンのモニターなどでシミュレーションも含めて解説する。
 少なくとも30分以上は必要なこうした一連の流れで、ユーザーはモデルハウスを一度に複数見学でき、構造や仕様、設備のチョイス、そして土地の取得や自分のニーズに合ったプランまで、目に見える形で楽しく「家づくり」ができる仕組みになっている。
 一般的に女性は構造・性能などといったハード面の解説などにはあまり関心を示さないが、モデルハウス見学直後の目に見える形での構造見学という手法をとっていることで熱心に聞き入っている女性も多かった。
連休期間中の3日間で、来場者は1011組。8割は札幌圏のユーザーだが、旭川・苫小牧・千歳など道内各地からの来場もあった。
 通常は1支店あたり約20名体制だが、オープン時接客応対は、宮城や福島など東北からの応援部隊、道内の2号店や3号店のスタッフ要員も含め36名。1人の営業マンが1日に案内できるのは最大で12組程度。ピーク時にはモデルハウス内もごった返しになり、十分な接客営業ができない状態になるほどの盛況ぶりとなった。
 すでにタマホームで家を建てたいというユーザーの声が10組程度寄せられているものの、同社はユーザーとの基本契約を結ぶには、契約内容をほぼ固めるというルールを定めているため11月6日現在の成約はゼロ。なお4日目は平日にもかかわらず21組、5日目は17組の来場も得ている。
 札幌で現地採用された営業マンもタマホームの集客力に衝撃を受けたようで、「住宅会社でこれだけの集客を実現できるのか」「大きな声で呼びかけをしたり、駆けずり回るような接客対応をしたのは初めて」「お客さんの反応がすごくいい」といった声が聞かれた。

お客様目線の営業手法
 お客様目線での接客や営業方針が徹底されていると思われる点がいくつか見られた。
 たとえば年始の2日間以外は無休で夜9時まで営業。共働きや夜型の生活を送る若い世代のニーズに応える体制を整備している。小売店などでも営業時間の延長は時代の流れとして定着しているが、閉店時間を遅くするとユーザーは、「まだ閉店まで2時間あるから遠慮なく訪問できる」という心理になり、来店しやすくなるという。
 また、訪問営業や電話掛け営業は原則行わず、雰囲気づくりが行き届いたショールームという「ホーム」で商談する方式だ。
 入口でアンケート記入と引き換えにガソリン券1000円プレゼント、モデルハウスではオリジナルブランドの家具などトータルコーディネート的提案なども好評だった。

20081115_2_3.jpg3年目には年間2000戸
 北海道進出にあたって、新商品「大地の家」を新発売。「鉄筋入りコンクリートベタ基礎」「オール4寸角柱」「軸組み&パネル」「外張り断熱」「オール電化」「24時間第1種熱交換換気」「パネルヒーターによるセントラル暖房」「スノーダクト対応」など10の付加価値などを標準装備した。
  実際に「大地の家」のモデルハウスを見学したユーザーからは「タマホームってローコストの会社だと思っていたけどなかなか良いイメージ」という声や「本州メーカーだが北海道向けの断熱仕様なので大丈夫と説明された」との声も聞かれた。
  また幅広いニーズに応えられる100通りのイージーオーダーが可能な企画住宅「賢者の住宅」も用意している。
  体制としては、北海道地区本部の丸山喜一郎本部長が、現状は北海道ブロックのブロック長と札幌西支店の支店長を兼務しているが、今後支店拡大などが行われるためそれぞれ専属の役職者が配置され、規模も拡充する予定。
  3年後には道内だけで年間2000戸の受注を達成するという目標を立てている。各支店は20名体制で年間120棟の受注を目標としているので、支店の拡大が必要になる。
  09年1月上旬には苫小牧市沼の端地区の国道沿いに出店する予定。今後も25万人から30万人の商圏に対し1支店を配置するペースで新規出店を行い、道内10店舗の出店を行う。また目標達成のために戸建て以外も視野に入れる方針。
  協力業者への説明会には道内258社の企業が参加するなど、施工体制も整備している。
  広告手法はこれまではチラシを主体としていたが、全国ネットのテレビコマーシャルやインターネットなどによる手法にシフトしつつある。
  北海道進出にあたって行われた従業員募集では、約400名近い応募者があり、道内の主だったハウスメーカー勤務経験者が揃うほどの人気となった。
  今回の北海道進出について、丸山本部長は「住宅購入をためらう人が多い停滞ムードの中で、家づくりに前向きになれる環境を作ることが大切。消費者に家づくりは楽しいことを知ってもらいたい。そうすれば北海道市場全体が活性化するはずだ」と強調する。
  今後の抱負については「住宅業はサービス業なので、ユーザーに明るく、楽しく、ためになる提案を行うということが一番難しいが一番重要。接客のスピード感や誠実さ、笑顔、分かりやすい商品を提案できるようにレベルアップしていきたい」と述べている。


2008年11月05日号から

来年4月施行

省エネ新基準1.3Wか?

来年4月に施行と言われている次世代省エネ基準の改定に住宅業界の関心が高まりつつある。これまでにも様々な憶測が飛び交い、行政関係者からは北海道などⅠ地域の熱損失係数=Q値が1.3W(/m2K)という話も聞こえてくる。そこでこれまで得られた情報をもとに、次世代省エネ基準改定の方向性を検証してみた。

20081105_3_1.jpg2本柱で基準構成
 まず基準の方向性については、これまで2つの案が検討されていたようだ。一つは現行基準通りに暖冷房負荷により判断する方向で、地域ごとに熱損失係数や相当隙間面積=C値を定めるもの。そしてもう一つは空調や給湯、照明なども含めた住宅の総エネルギー消費量だけで省エネ性を判断する方向だ。ここ何年かは総エネルギー消費量で見る方向に転換するのか、それとも暖冷房負荷で見る方向も残して2つの判断基準を設けるのかが議論されていたというが、最近の行政筋の話によると、Ⅰ地域の熱損失係数は1.3Wになるとのこと。つまり暖冷房負荷で見る現行基準の方向は残しつつ、総エネルギー消費量でも見るという2本立ての基準になる公算が高い。
折りしも北海道が国の超長期住宅先導的モデル事業に提案・採択された北方型住宅ECOもQ値1.3W。憶測の域を出ないが、換気による熱回収を計算に入れるか否かの違いはあるものの、北方型ECOのQ値が1.3Wとなっているのは次世代省エネ基準改定にどれだけの住宅会社がついてこれるかを見るテストモデルの役割もあったのではないだろうか。
なお、Ⅰ地域以外のQ値については、Ⅱ・Ⅲ地域が1.6W(現行Ⅱ地域1.9W、Ⅲ地域2.4W)、Ⅳ・Ⅴ地域が1.9W(同2.7W)、Ⅵ地域が2.7W(同3.7W)になるという説が有力だ。

20081105_3_2.jpg建売業者は総エネ1割削減
このほか、建売住宅については年間150戸以上を建設・販売する業者に、すでに販売されている住宅のうち最も高性能な住宅以上の性能を義務付けるトップランナー制度の義務化がほぼ確定。施行される来年度から5年後の2013年を目標とし、次世代省エネ基準+一般的な設備の住宅と比べてエネルギー消費量1割減の性能水準を義務付ける内容で検討されているという。
 今後は、今月中にも国土交通省から改定案が出され、パブリックコメントを募集した後、年末に告示。年明けから技術マニュアルを使用した講習会を開催し、4月1日施行というスケジュールが予想される。


2008年11月05日号から

八雲町移住促進

「街なか」「女性視点」を提案

20081105_2_1.jpg少子高齢化や一次産業の衰退、都市一極集中などが進む中で、道内各地の自治体が熱心に取り組んでいるのが「移住」だ。企業誘致が難しい地域では、まちの活性化と移住促進は重要なテーマになる。
  本紙が企画と広報戦略の一部に協力させていただいている八雲町の場合、昨年度は「宅地の無償提供」という目玉プランを用意して、100件を上回る移住希望者からの問い合わせを得て数件の移住も実現した。
  今年は、移住者が憧れる「大自然に囲まれた田舎暮らし」に適した宅地が少ないこともあって、左上の広告のように「免許がなくても快適に暮らせる都市の利便性を兼ね備えた田舎暮らし」というコンセプトで、地元の女性や、女性移住者の発想・意見を踏まえた企画を実施した。
  10月23日から26日にかけて、今年度第1回の移住体験ツアーも開催した。

20081105_2_2.jpgツアーでおもてなし
 初日に歓迎レセプションを終え、2日目には住宅セミナーを開催。中古住宅では高断熱・高気密の物件が手に入りにくいこと、地価の相場や降雪量などについて説明した後にバスで地元住宅会社のモデルハウスを2件見学、病院や図書館など町有施設なども見学したほか、希望者は町民招待で「民泊」も体験した。
  3日目には、趣味の乗馬施設を手作りで建設中の移住者を訪問。「正面に海、利便性の良い市街地にも近く、背後には緑豊かな森、駒ケ岳や内浦湾も一望できる広い土地を安く入手したい」といった贅沢?な要望も夢ではないことを知り、参加者にも大好評だった。
 その他景観にすぐれる複数の分譲地を見学したり、地元の主婦グループが隔週土曜日に開催している産直市も見学。同じく主婦グループ「ハンドメイドの会」の招待でチーズなど手作り料理でのおもてなしも受けつつ、町の暮らしについて体験談も聞いた。

行政と連携しながらPRを
 移住者の声を取材していると、移住希望者は理想の田舎暮らしを長年思い描いた上でツアーに参加しているので、希望に叶う土地の紹介やもてなしを受け、同時に田舎暮らしや北国の暮らしへの不安を解消してくれる提案があれば移住を決意しやすいようだ。
 移住相談の受け皿は自治体担当者であることがほとんどで、そこで信頼されるかどうかが極めて重要である点は間違いない。また住居探しになった場合、地元が何も提案しないと、受注は移住希望者もよく知っている全国大手ハウスメーカーの手に渡るケースが多いようだ。地場工務店はホームページなどで移住者向けの提案をきちんと行う必要がありそうだ。20081105_2_3.jpg


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