新聞記事

2009年07月15日号から

日本初のパッシブハウス

20090715_01_01.jpg ドイツの超省エネ住宅基準「パッシブハウス」の認証を受けた日本初の住宅が神奈川県鎌倉市で建設中だ。ハイテクによるCO2削減政策を推し進める日本・とくに関東で、あえてヨーロッパの考え方を紹介し「ローテクの集大成によって省エネと経済性が両立することを知ってほしい」。建築家・森みわさんの挑戦が始まった。20090715_01_02.jpg
 
(写真...パッシブハウスの認定書を背景に設計者の森さん。ドイツに5年、アイルランドに5年滞在してヨーロッパ(EU)の省エネ政策を肌で感じた)

実現可能なコスト

20090715_01_03.jpg ドイツのパッシブハウス研究所によると、パッシブハウスの条件は年間暖冷房負荷がそれぞれ、15kWh/m2以下、暖冷房、換気、給湯、照明などすべての使用エネルギーが一次エネルギー換算で120kWh/m2以下、気密性能が50パスカル測定法で0.6回/h以下であること。
 鎌倉パッシブハウスはこの基準をクリアするために、外壁断熱が240ミリ、開口部はU値が1Wを切る木製のトリプルガラスサッシを採用。専用のシミュレーションソフトを使って、基準をクリアできる仕様を決定していったという。
20090715_01_04.jpg 断熱材は熱伝導率がグラスウールとほぼ同じで、蓄熱効果が高い木質繊維断熱材を使用。また換気はドイツの熱交換換気を採用。
 このほか、温暖・多湿地対策として、夏場の逆転結露を防ぐ調湿効果のあるという気密シート「インテロ」や、アメリカで開発されたシロアリに強い基礎断熱材を採用するなど、日本への適応を考えた。
 7月4、5日は現場見学会が開かれ、一般消費者のほか全国から専門家も見学に訪れるなど、関心は高かった。
 森さんによると、パッシブハウスはCO2削減や快適性を実現することだけでなく、実現可能なコストでなければならない。ドイツの現行基準である2002基準は、暖冷房・給湯・一般電灯を合わせて210kWh/m2。これを120kWhまで減らすためには当然、多額の建設コストがかかるが、暖房負荷が15kWh/m2以下になると、暖房設備はほとんど不要となり、その費用がかからなくなる。断熱などで費用アップしても暖房設備が不要になる分の費用が浮く。そのレベルがパッシブハウスの基準となっている。
20090715_01_05.jpg また、このレベルまで来ると、あとは太陽光発電などごくわずかなアクティブエネルギー活用でゼロカーボン(CO2排出ゼロ)が達成できるとしている。
 鎌倉パッシブハウスでは、暖冷房にルームエアコンを利用する予定だ。これは第一に暖冷房設備費としてもっとも安いこと、第二に施主の希望であるオール電化という条件で選ぶ場合、パッシブハウス基準をクリアするためにCOP6・5が必要だったことによる。
 施主は共働き。仕事で建築家・森さんとパッシブハウスを知り、「ちょうどわが家を計画しているので、パッシブハウスで」と依頼されたそう。当然予算の制約は厳しく、施工した㈱建築舎(東京都八王子市)には技術への投資と考えて協力してもらったという。
 竣工は8月中旬ころの予定。
 
(写真上...建築中のパッシブハウス 写真中...壁体の模型。外壁はツーバイシックス、その外に100ミリ付加 写真下...2階室内。気密シートのインテロ、熱交換換気のサプライ側ダクトが見える。内胴縁は配線スペース確保のため)
 
 
建築家のメッセージ「燃費表示・世界標準・ローテク」/編集長の目

 関東の中でも温暖な鎌倉でなぜ240ミリ断熱? そう思った読者諸兄も多いと思う。答えは最後にして、森さんが強調していたことは次の3点。
 ①自己申告制の省エネ性能に終わりを。
 ②これからの世界標準は、2011年EU標準となりつつあるパッシブハウス(ローテクの集大成)。
 ③この技術をどうやって日本で実現するかをずっと考えてきた。
 取材して感じたのは、投入する技術とそれによって得られる効果、そしてそれらが取得可能なコストであること、これらがわかりやすくハッキリと説明できて当然、という考えかただ。
 日本の次世代省エネ基準を筆頭とする省エネ住宅は、Q値などを規定していてもその結果暖冷房消費がどうなるかを明示しない。また温暖地域では、住宅の省エネを高効率給湯設備と太陽光発電などのアクティブ技術(ハイテク)だけで達成しようという考え方に流れつつある。
 森さんはそれは違うと考えている。EUでは暖房燃費を表示しなければ家の貸し借りすらできなくなっている。そして住宅省エネの基本は、断熱構造化(ローテク)であることを忘れてはいけないという主張だ。
 鎌倉でなぜ240ミリ断熱なのか、その答えは、「ローテクの集大成」で何ができるかを関東で知ってもらうため、ということだと思う。


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