新聞記事

2010年05月05日号から

生まれ変わった北総研 福田所長に聞く

20100505_01_a.jpg 今年4月に道内22の試験研究機関が地方独立行政法人北海道立総合研究機構(道総研)に統合され、道内の住宅性能向上に大きな役割を果たしてきた北方建築総合研究所(北総研)は、道総研建築研究本部内の一研究機関として新たな一歩を踏み出した。ここでは北総研が担う役割や今後の業務体制などを福田聖治所長に聞くとともに、同研究所が行ってきた代表的な調査・研究をここで改めて紹介したい。

研究機関同士の連携活かした総合力

 平成21年4月に6代目の北総研所長に就任し、道総研への統合・移転後は建築研究本部長も兼ねる福田聖治氏に、北総研が果たす役割と調査研究の方向性について、話をうかがった。

―今年の4月から道総研の一研究機関として新たなスタートを切りました。
 「これまで当研究所をはじめ22の道立試験研究機関は、それぞれ道民の様々なニーズや課題に対応してきましたが、近年ではそのニーズが複雑化・多様化し、私たち試験研究機関を取り巻く環境も大きく変わってきました。
 そこで今まで以上に試験研究機関同士が連携することで得られる総合的な力を活かし、現代の道民ニーズにも柔軟に対応していこうと新たに設立されたのが道総研です。
 今や北海道の住宅は、産学官の努力によって世界のトップレベルにあります。当研究所でも道総研設立を機にさらに他の試験研究機関との連携を強化し、環境問題をはじめとする様々な地球規模の課題を、世界に先駆けて解決していきたいと考えています」

―道総研における北総研の位置付け・役割は、これまでと変わってくるのでしょうか?
 「道総研には約1200名の職員がおり、そのうち当研究所の職員は56名で全体の5%ほどですが、北総研は6つの研究本部のうち、建築研究本部に属する唯一の試験研究機関であり、道総研の6分の1を担うとも言えるわけで、しっかりとその役割を果たしていきたいです。
 ただ、北海道の住宅建築における当研究所の位置付けや役割が変わることはありません。これまでやってきたことを継続していきますが、他の試験研究機関との連携を強化するという意味では、林業部門や農業部門などとも協力して、今までにない新しい調査研究にも取り組んでみたいです。
 特に地域に根ざした研究開発は調査研究の視点の一つで、当研究所がある旭川を中心とした上川地域ならではの特色を出していきたいと考えていますが、同じ地域にある林産試験場と上川農業試験場とも共同研究などで連携すれば、新たな可能性が生まれるのではないかと思います。さらにその中で地域産業のお手伝いをし、地域と結び着いた研究を行っていきたいです。
 まずは各研究本部・各試験研究機関相互で情報を共有化する中で、当研究所の業務も進化させていきたいと思います」

組織改編し研究体制を強化

―業務・組織体制も見直しを行いましたね。
 「これまで居住科学部・環境科学部・生産技術部の3部体制でしたが、所内の研究体制強化と組織のスリム化を図るため、居住科学部と環境科学部の2部体制としました。
 さらに各部を構成していた各科は、居住科学グループ、建築環境グループ、工法材料グループにまとめ、部や科の垣根を越えた調査研究も今まで以上に柔軟に対応できるようにしています。
 また、これまでの主任研究員を、各グループの研究マネージメントを行う管理職である研究主幹に格上げし、研究主幹のもとに主査と研究員を配置しています。
 このほか、総務部門と企画部門が建築研究本部となりましたが、当研究所と一体であり、これまで通り対応してまいります」

地域振興や産業化支援も

20100505_01_b.jpg―これからの調査研究で特に力を入れたいところは?
 「現在、道総研の一試験研究機関として第1期中期計画を策定しているところですが、その中には3つの柱があります。
 一つは環境負荷の低減です。道内の住宅では暖房エネルギー消費量が減ってきていますが、地球規模の環境問題はまだまだ深刻。省エネやCO2排出量削減という点で、太陽光発電やヒートポンプなどに代表される省エネ技術の開発や未利用エネルギーの活用、そしてエネルギーを作り出す創エネについては、重点的に行っていきたいと考えています。
 2つ目は良質な住宅ストックの形成です。これは、性能評価と断熱・耐震補強など適切な改修を行った中古住宅を流通させていくことで、ストックの良質化を図るとともに、その仕組みを支えるための家歴システムの普及なども力を入れていく必要があると思います。
 3つ目は地域の自立型経済を支援すること。産業興しやまちづくり、高度成長時代に造られた団地の改修、コンパクトなまちの開発などを、地域に密着した形で進めていきたいですね。
 他の調査研究機関との連携や地域との繋がりを深めていく中で、下川町や美幌町などのように、各地域が豊かな森林資源を活かし、地場産材で住宅を建てることによって、環境保全や林産業の活性化、自立型循環経済の確立につなげていく取り組みへの支援も、より強く打ち出していきたいところです。これは林産試験場や工業試験場などと、全道的に展開していくことを想定しています。
 また、道内の断熱・気密や省エネに関する技術は世界のトップレベルにあると思いますし、本州の温暖地でも有効な技術ですので、道内企業の住宅を通じた国際貢献や、本州への進出も積極的に支えていきたいと考えています」

道内工務店の技術は高水準

―最後に、道内の住宅建築業界へのメッセージを。
 「今改めて思っているのは、道内の住宅建築レベルの高さです。例えば北方型住宅ECOは、Q値・C値を高い水準に設定しましたが、実際にどれだけ建てることができるか不安もありました。しかし、これまで全棟軽々とその性能水準をクリアしており、道内の工務店の技術力には改めて驚いています。
 これほど地場の工務店が高い技術力を持っている地域は、ほかにあるでしょうか。私たちも自信を持ちましたし、工務店のみなさんも国際的に高い技術水準に達していることを誇りに思っていただきたい。
 私たちも道総研ができて良かったと道民のみなさんから言ってもらえるよう、機動性、柔軟性、スピード感などを重視して調査研究業務を進めるとともに、道内全体を元気にするためのお役に立てればと思います」


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