新聞記事

2012年11月15日号から

車いす生活で自立目ざす家

生活動作を検証しながら設計

 アウラ建築設計事務所(山下一寛代表)は、札幌市西区に車いす対応の木造2階建て2世帯住宅をこのほど完成させた。車いすを利用するのは、子育て中の主婦。そのため、プランニングには今までと違った工夫が必要となった。

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突然の車いす生活に対応する
 依頼主は、小さな子どものいる夫婦。奥さまが交通事故に遭い、退院後も車いすが必要となった。それまで住んでいたマンションでは、車いす生活には不便が多く、子育ても含めてある程度自立した生活を送るため戸建の新築を決意。住宅会社選びサイト「札幌良い住宅」に掲載された同事務所が手がけた車いすの住宅事例が決め手となった。
 プランは、まず市道からのアプローチに工夫が必要だった。奥さまは片麻痺で左半身が不自由なため、車いすで住宅前にある縁石の5㎝弱の段差を乗り越えるのも大変だと考えた。
 そこで段差を解消する工事の許可を市から取り、段差をなくした。玄関は道路から60㎝ほど高い位置にあり、道路からのアプローチは1/15勾配近くになるため自力で上るにはきつい。そこで上りやすい緩い1/50勾配として、残りの段差は玄関前に段差解消機を設置することでクリア。
 また組み込み車庫は、車から降りた後にスムーズに室内に入れるよう室内との段差をなくし、車庫内の通路幅も1700㎜とドアを開けても横に車いすが通れる余裕を持たせた。

20121115_01_01.jpgゆとり持ったプランで動線確保
 動線は、玄関から廊下を通ってLDKの奥まで直線で続く「表動線」と、2つの寝室とユーティリティーを直線で結ぶプライベートな「裏動線」の2つを確保。動線を直線化することで、車いすでの行き来をしやすくする。
 建物は敷地いっぱいに建てているが、LDKは区切りのない大空間とし、さらに全て吹き抜けとして天窓やハイサイドサッシなどで採光を確保。キッチンは、車いすの奥さまに合わせるとカウンター高さが750㎜となるが、メーカー品はオーダー範囲に限度があった。そこでキッチンでの動作を車いすで検証しながらキッチン家電の収納位置や収納を設計するなど、全て造作した。
 トイレは、夫婦の寝室に隣接して設置。専用の車いすでそのまま乗り入れられる便器を選定した。
 山下代表は、「障がい者対応住宅は、施主の話をまずはじっくり聞くことからスタートする。設計を煮詰めていくのに通常の住宅設計よりも時間がかかるが、今後もこうした車いす対応住宅を造っていきたい」と話している。


[写真上]2つ並ぶ玄関戸のうち、右側が施主用、左側が親世帯用
[写真下]縁石を段差の小さいものに交換し、さらにアスファルトで小さな段差も解消


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