新聞記事

2013年06月15日号から

繁忙期を前に現場の安全管理

 厚生労働省の統計によると、労働災害で命を落とす人は全国で毎年1000人以上いる。北海道の建設業に限っても、平成24年に27人が亡くなり、960人がケガしている。増税前で現場が多忙を極める中、事故の危険性は増えている。安全に現場を管理するためにはどうすればいいだろうか。

足場の安全意識高まる
法改正が浸透し現場も取り組む

 住宅関連の10団体で構成する?住宅生産団体連合会は、全国635社から平成23年に集められた40万件以上の住宅新築・リフォーム現場の報告書を元に、「平成23年低層住宅の労働災害発生状況報告書」をまとめた。それによると、労働災害の発生件数は415件あり、約半数が墜転落事故、次に工具がらみの事故が約2割を占める。この割合はここ数年ほとんど変わっていない。
 報告書を細かく見ていくと、平成21年から23年の3年間で足場からの墜転落事故件数は約4分の3に減ったのに対し、脚立からの事故は2倍以上に急増している。また、ハシゴ事故や屋根からの墜転落事故も増え続けている。
 この結果についてまず考えられるのは、仮設足場に対する安全意識の向上だ。本紙では平成21年6月15日号で「足場に新たな規制」と題して国の労働安全衛生規則の一部改正を報じた。それまで規則を守っていても墜転落事故が起きていた現状を踏まえ、新たに中さんや巾木の設置など墜転落の防止措置を義務化することで足場の安全性を高めようという改正だった。
 さらに国は、昨年2月に「足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱」を各都道府県の労働局長宛に通達し、労働者の作業実態などを踏まえて、法律ではカバーしきれない建築物の設計段階から足場の解体まで総合的な安全対策を求めている。
 こうした取り組みが功を奏したのか、足場からの墜転落事故による死傷者数は5年で半減している。
 柳求環境安全部長は、「住宅会社の間でも『足場の組立て等作業主任者』の資格取得者が増えるなど、足場の事故防止への取り組みが進んでいる」と話している。足場リース会社も「資格取得の講習会を今年開いたところ、定員を大幅に上回る申込が来た。大半が住宅会社の工事担当者や大工だった。これは今までにないほどで、関心が高まっている証拠ではないか」という。
 足場作業主任者は、足場の構造や仕組みを理解し、組み立てや解体に際して労働災害の防止を行う役割がある。足場リース会社の社員が取得していたのはもちろんだが、住宅会社側も足場をリース会社が組んだ後に作業工程上の都合で巾木を1枚動かしたり取ったりすることがあり、本来この資格が必要だという。資格者が住宅会社におらず、大工が運搬や作業の邪魔だと足場のパーツを一部取り外してそのままにしたために、足場が傾いた現場もあるという。

脚立からの事故増える
「少しぐらい」という気の緩み

 一方、脚立やハシゴからの墜転落が増えている背景は、多くが屋内作業であり、足場を使わない高さや規模の作業のため「これぐらいは大丈夫だろう」という気の緩みがある。柳部長は「たとえば2階で高所取付作業をする時、1階に下りて適正な脚立を持ってくることをせずに『作業時間が少しで済むから』と手元にある120㎝の脚立で無理な姿勢で作業を行い、バランスを崩して落下した例がある。この高さからの落下でも4日以上の休業となり得る」と危険性を警告する。
 また、工具がらみの事故では、丸鋸の安全カバーを外して作業中に刃が体に当たったり、電動釘打ち機のトリガーを引いたままうっかり先を足に当ててしまい、釘が自動的に打たれてしまった事例など、一瞬でケガをしてしまう。作業上の便利さを優先するあまり、基本的な安全確保がおろそかになったのが原因だ。

新しい職人に十分な教育を

 たとえ意識の高い住宅会社でも事故は起こり得る。たとえば規律の緩い住宅会社で働いていた職人が、規律の厳しい住宅会社で働き出すと事故を起こすことがある。また、忙しくて応援で来てもらった職人や大工に限って事故を起こすこともある。いずれも、新しい現場の環境・規律を理解し、慣れる前に事故を起こしてしまったようだ。
 こうした事故を少しでも減らすには、働き出す前に十分な安全教育・説明の時間を取るほかに、今いる職人に対しては元請側が根気よく働きかけて1人1人の安全意識を高めていくしかない。
 ある工務店では月1回午前中に取引業者を集めて現場をパトロールさせ、午後には安全大会を開いてその状況と改善点を発表させる。さらに夕方には現場から大工を呼んでその場でダメなところを指摘する。手間はかかるがこれを何年も続けている。
 そこまで徹底するのは難しくても、職人や大工に給料を渡すときに必ず労働安全に関する話をしたり、どのような状況で働いているのかヒアリングするだけでも効果がある。
 また、北海道労働局の山川和巳主任産業安全専門官は、「『足場からの墜転落防止対策要綱』や、安全帯など墜落防止工法・関連器具の使い方を啓蒙する小冊子を用意しているので活用してほしい。作業に潜むリスクを未然に防止するリスクアセスメントの考え方を取り入れることが重要だ」と話している。

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