今年もアリの季節がやってきた。6月に入って2週間あまりでアリの相談が立て続けに6件も編集部によせられている。不快な虫・アリ。ユーザーの嫌悪感と建築業者の誤解がクレームを招く。アリについてまとめた。
誤解されているアリ
住居に侵入するアリは、北海道では6月ころから活動が活発になり、8月ごろ羽アリになって飛び立つ。ほとんどはトビイロケアリと呼ばれるどこにでもいるアリだそうだ。ここで勉強するのはシロアリではなく、黒アリのほうです。
古い木造住宅に出てくるなら、さほど問題ない。問題になるのは...。
1.新築したばかりのころ。
2.新築後数年してから。
3.リフォーム後すぐに。
多くの場合は室内に出てきて気がつく。「気持ちが悪い」「アリが出るような(ひどい)家なのか」。
アリが出ただけで最近の新築・リフォームはクレームになりかねない。それが第一の問題。
第二の問題は、アリが基礎断熱材を巣としてしまう事。
第三は、「アリが出たら木材が腐っていると疑え」を超えて、食害があったと勘違いしてしまうこと。
基礎断熱材に巣を作ったとしても、断熱性能の低下は心配しなくていいと思う、とある専門家は語っています。
アリ退治は、ハエ・蚊用の市販の殺虫剤(エアゾール)でじゅうぶんですし、土から出てくるアリを退治するのもホームセンターに売っているアリ退治でじゅうぶん。シロアリ用薬剤を使えばより強力に効くと勘違いしている人もいるそうですが、それは間違いです。
4つのケースを見る
その1
リフォームしてすぐにアリが出た。
基礎断熱材を巣にした被害である可能性は低いでしょう。この場合は「不快だ」というクレームです。誠実に対応することが解決策です。
新築で同じクレームをもらったある住宅会社は、アリを採取して保健所に持ち込み、調べてもらった。そして「シロアリのような木材をダメにする食害はない」という回答をもってユーザー宅を訪問。この対応で信頼を回復したそうです。
その2
2度も基礎断熱材をやられている。
断熱改修のおりに基礎断熱材に巣を作られ、対策を打ったつもりだったが、またやられたという例。
基礎断熱がアリにやられても、一般住宅ではなかなか気がつかないと思います。また、敷地の条件などもあるでしょうから、『こうすれば出て、こう対策したら出ない』と言いにくいのです。
基礎断熱材はその固さなどからアリのお気に入りらしく、蟻道をつくったり巣にしたりする傾向があります。
アリはすき間から侵入します。なので基礎の打ち込みに型枠代わりに使う場合はいいのですが、あと貼りのときは布基礎としっかり密着させてください。少しでもすき間があると、この例のように出てきます。
打ち込み後は、できればメッシュを伏せてモルタルを下塗りします。こうすれば小口などから侵入される心配がかなり低下します。
その3
外壁リフォームでサイディングをはがしたところ、透湿・防水シートに穴が開いて、そこにアリがいた。
もっとも新しく今年2月25日号のQ&Aに掲載した例です。詳しくはバックナンバーを見ていただくか編集部へお問い合わせください。透湿・防水シートにアリが穴を開けた疑いは、アリは穴あけはあまり得意ではなくかなり低いそうです。
対処としては、アリが這い出てきた部分に市販されているハエ退治用などの殺虫剤をスプレーして(シロアリ駆除剤ではありません)、テープで穴をふさぐだけでじゅうぶん。
その4
リフォーム時に腐った木材に食害が見られた。
この場合も難しいです。腐った木材は基礎断熱材と同じく巣にしたい固さのようで、穴を開けて巣にすることがあることは確かなようです。ただ、シロアリのように健康な木材をダメにするのではありません。つまり、順序として腐った木材があったからアリがきたのであって、アリが木材をダメにしたのではありません。
札幌市保健所に取材すると、同じ事を説明されます。またホームページには食害の心配はないと書かれています。
終わりに-クレームになりやすい
今回、施主、賃貸住宅のオーナー、研究者、駆除業者、そして建築会社といろいろな立場の方の話を聞く機会がありました。この中で一番深刻だと感じたのは、アリが出るとクレームになりやすい、という点です。
「アリが出た」という施主の訴えに対して、『そりゃ虫が出ることもありますヨ』的対応をすると、本当にクレーム化しかねません。まず、ユーザーは虫が大嫌い、という気持ちを理解した上で、先の例のように誠実に対応することが求められているようです。要するに、技術的に解明することを優先すると、ときに感情のもつれが大きくなるということのようです。
札幌市保健所の該当ページ
http://www.city.sapporo.jp/hokenjo/f3seikatu/f80mushi/
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寄稿・前編 トビイロケアリ(黒アリ)が 新築住宅に侵入する事例について (株)青山プリザーブ 青山 修三
(2008年・平成20年7月15号 北海道住宅新聞)
前年記事の続報(2009年07月15日号)
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