新聞記事

2011年01月25日号から

高性能住宅Q&A 743回 大雪で巻きだれがひどい

パラペットの工夫で解決も

Q・・・22年来、雪庇に悩んでいます。屋根融雪もつけましたが完全ではないし、今回の大雪はうっかり電源スイッチを入れ忘れて、あっという間に雪庇が。まわりの家と比べても大きいようです。何とかなりませんか。(札幌市・主婦)

A・・・札幌では、穏やかな年末年始のあと、1月6日から降り出した雪が1週間以上続きました。気温も真冬日で、まったく融けません。この結果、道路は大渋滞、どこの屋根も巻きだれということに。
 今回は個別回答ではなく、ご質問の主旨を雪庇問題ととらえ、1月にあっという間にできた屋根の雪庇・巻きだれを観察してまとめました。
〈札幌の気象データ〉
雪:6日から13日まで8日間降りっぱなし
気温:5日から15日まで11日連続の真冬日。このうち大雪となった6日から13日は平均気温がマイナス5℃以下という厳しい寒さ。
風:15日に南南東の風に変わるまで、最大風速はすべて北西方向。
 この間は、低温、一定の風向、降雪という3条件が揃っていたのです。
   *   *
20110125_01_01.jpg 雪庇とか巻きだれという言葉の意味を、ここでは次のように整理してみました。
【雪庇(せっぴ)】スキー場や近所の雪山にできる庇状のジャンプ台形状が屋根にできたもの。重さや降雪で徐々に庇部分が垂れ下がり、巻きだれ状態となる。
【巻きだれ】屋根雪のせり出しや雪庇により、屋根の先端部に雪が跳ね出し、垂れ下がって下に巻いた状態。
【せり出し】屋根の勾配によって雪が滑り、軒先に出てくる状態。多くの場合、先端部は凍っており、氷堤やツララがせり出すため危険。
   *   *
 観察は札幌北西部で1月15日の日の出とともに開始し、午前9時ころに終了しました。三角屋根、Mこう配屋根、屋根材も雪止め型、落雪型とさまざまです。
〈巻きだれの方位〉
 札幌の場合、冬は北西の風が多いため、雪庇・巻きだれは主に南東側にできます。街並み区画が45度傾いているため、多くの住宅は南東面に巻きだれが集中。北向きの家は北東面にもできます。南東向きで総2階建てだと、巻きだれは南東面のみ。それ以外だとやや複雑になる傾向があります。
〈できやすさ〉
 ほとんどの屋根で巻きだれができていますが程度の差があること、軒の出がない、短い、パラペットの立ち上がりが低い、そして隣家と屋根が連続すると巻きだれが大きくなりやすく、風下側に下屋があるとさらに大きな巻きだれが下屋に発生します。
 ただ、そうとばかり言えない例もあり、この問題を難しくしています。家並みや地形も影響するからです。
〈雪庇切りの方法〉
 今回見て回った中で感じたことは、雪庇切りを設置すると有効だということの確認と、パラペット立ち上げで建築的に解決する方法があるということです。
 これは発見でした(写真⑨)。
 質問者のお宅はフラットルーフで南東側に水勾配がついており、南東側は巻きだれとツララ、雨だれが避けられないそうです。悪いことに南東に玄関と階段があるため、落雪があると危険とのこと。まわりの家と比べても巻きだれの量が多く、それはフラットルーフのせり出しなども関係していそうです。


2011年01月25日号から

◆戻って来ている感じ

札幌市 住宅会社 社長
 住宅業界はおおむねいい年を越せたと思いますが、年明けに倒産が出ているそうです。11月末から2ヵ月続いており、経営がキツイ会社もかなりあるのだろうと思います。ただ、一方では久しぶりに新聞の年賀広告がにぎわったり、年明け早々に求人が出たりしています。かなり戻って来ている感じです。
 当社はあいも変わらず、同じ人員で2011年に臨んでいます。今年は長期優良の補助金をやろうかなと思っています。

◆高い気密性をわかってもらうには
札幌市 リフォーム会社 部長
 一昨年くらいから断熱・気密改修に力を入れ始め、徐々に施工件数も増えてきましたが、いまだに営業や現場で苦労するのが"高気密"の説明です。私たちは高い気密性能が快適な住宅に欠かせないと、経験と知識によって理解していますが、目で見えるものではないだけに、説明してもお客様はわかったようなわからないような顔をすることがほとんど。気密測定を行っていい結果が出ても、あまり反応はありません。うまく説明できる方法はないかと、いつも悩んでいます。


2011年01月15日号から

バトンをつなぐ。会社DNAの承継

 コストが厳しくギリギリの現場が増える一方で、「承継」をキーワードにした取材も増えている。厳しい現実の商売に向かい合いながらも、同時にバトンをつなぐことを考えている経営者が増えているからだ。ただ、昔のような「教えない、ワザを盗め」ではうまくいかないし、事業承継については主導権は現経営者側にある。2011年の事業計画として「承継」をテーマに掲げる会社も少なくないと思う。当社が取材を通じて感じたこと、心に残った言葉をまとめてみた。

営業承継
会社力+個人力の統合

 常に新規の顧客を開拓し続ける住宅販売営業は、ルートセールスで行われる担当者交代→顧客引き継ぎはさほど発生しない。住宅営業はキツイとされ、最近はやり手の営業が少ない、ちょっときつくしかると翌日からこないなど、人事面で幹部の悩みは多い。
 逆に、「スーパー営業マンをつくらないよう気をつけている」と語る社長も多く、個人の力に頼りすぎない営業の仕組みを構築して、営業をマニュアル化する志向が強まっている。
「何名集客できれば何組成約できるかの過去データがあり、集客数で受注が予測できる。営業はそれをフォローするのがメイン」(札幌市、ミニハウスメーカー社長)。
「お客さまへのアプローチづくり、すなわち仕込みですべてが決まる。しかし、社員は自分の接客が受注のカギだと誤解しがち。この点で経営側と社員は相互理解ができない」(札幌市、中堅ビルダー社長)。
 看板や商品といった会社の力と社員個人の力。どちらかというと会社の力を重視する傾向にあるが、しかし、個人の力を高めることも当然必要。2つの力が合わさったとき、強い会社になるという点で異論はない。

事業承継
社長の最後の大仕事

 事業承継こそは、社長以外誰もできない、社長の最後の仕事とも言える。取材していてわかるのは、10年程度の準備期間を費やしていることだ。
 会社をたたむのも1つの方法だが、あえて事業を継続する道を選んだ経営者は共通して「使命」を口にする。これはきれいごとではなくホンネだと思う。
 後継者が子どもでもそうでなくても、不透明なこの時代、社長を引き継ぐことは当たり前だがリスクも大きいし責任も重大だ。それでも事業を継続する道を選ぶのは、お客さまのために会社を存続させるという使命感、そして後継者が全力で経営にあたれば事業は継続できるという会社への自信と雇用維持の責任感だろう。
 税理士で中小企業基盤整備機構北海道支部の事業承継コーディネータを務める吉川孝氏は、原稿や講話の結びに「事業承継は経営者個人とご家族の人生や財産に関する繊細で情緒的な問題でもあり、これを軽視しないこと」と指摘している。まさに人生の区切り。
 中小企業の社長にとって、会社は事実上家業であり、家業である以上、家族もこの問題と無関係ではないという意味だ。

技術承継
後回ししがちだから・・・

 コスト削減と忙しさに忙殺され、技術承継ができなくても家は建つ。後回しになりやすいからこそしっかりやらなければならないということも言える。
「なるべく研修に出すようにしている。ただし、研修内容を吸収できるかどうかは個人の心構え次第。その点の資質向上が、じつは一番重要かもしれない」(札幌中堅ビルダー社長)。
「『やりたい』と言ってきたら費用が許す限りやらせるようにしている。自発性こそが自己啓発のポイントだから」(札幌近郊住宅会社社長)。
 研修にでかければ仕事にしわ寄せが来ることもあり、社員にとって研修に行かないことのほうが正しい選択になる場合もある。
 それでも研修を実施するには、会社全体の向上心が重要になる。


2011年01月15日号から

アンケートから見た厳しい現実

営繕が必要でもガマン

20110115_02_01.jpg 本紙では昨年に引き続き、新築戸建住宅を建てたオーナーにアンケートを実施した。
 昨年の新年号では、新築戸建住宅を購入してまもないエンドユーザーにアンケートを実施した結果、左円グラフのよな不満が多いことが分かった(円グラフ参照)。

 新築住宅を建てたことで得られた幸せについては
①子どもが騒いでも近所迷惑にならない
②家族がのびのびと生活できる。居場所ができた。
③部屋が暖かい、家事動線が良いなど快適
 といった回答が多かった。

 また住宅のプランなど、家づくりの意志決定の約70%は主婦が握っていること、住宅会社のアフターフォローや接客態度などが満足度に大きく影響していることも明らかになった。新築戸建住宅を建てても光熱費の負担に関してエンドユーザーと住宅会社との間に誤解が生じやすいことと、必ずしもオーナーの要望に添ったプランが実現できないケースも少なくないことがわかった。

 今年のアンケートでは前年のアンケート内容に加え、より具体的に、現在の住まいに対する不満と、解決策、予算などについて聞いてみた。
 不満を見ると営繕・リフォームが必要と思われる不満が多く聞かれた(別表)。
 その一方で「リフォームか、建て替えをしたいと思っていますがそこまでのお金がない」「住宅会社の設計・施工のミスではないかとも思うので、私がお金を出して直すのではなく、今度トラブルが発生したら直させたいと思っている」「既に10年位の間に外壁の塗り替えなどお金を掛けて手直しをしている部分が多いのでこれ以上は予算がない」「不満はいろいろあるが、経済的な備えがないのでリフォームができない」といった回答が目立った。
 回答者の7割近くがリフォームや建て替えを考えてはいるものの、実際には、お金を出して家を希望通りに手を加えることには踏み切らないと考えているという回答だった。
 なお質問には、問題解決のために支払える金額の上限についても聞いたが、100万円以下、300万円以下、500万円以下、1000万円以下、それ以上という選択肢の中で8割以上の回答者が100万円以下と回答。1度住宅を取得した人は、新たな出費を避けたがる傾向も明らかとなった。

別表 現在の住まいに対する不満(2010年アンケートより)
●押し入れの結露(40代女性)

●トイレが狭い(30代女性)

●築10年で外壁塗装や設備交換が頻発(40代女性)

●風呂や台所のシャワー・蛇口等が水漏れする(50代女性)

●下水の配管の勾配が緩く、つまりやすい(30代女性)

●2階の特定の部屋のドアが、屋根に雪が積もるとゆがんで床をこする様になる(30代男性)

●床が沈んでいる(30代女性)

●1階が寒い(30代女性)

●車庫の高さが低く、駐車しにくい(40代女性)

●スノーダクトが氷結し、春先に雪融け水が押し入れの配管から漏れてきた。修理しても再発し、結局配管を電熱線で巻いて凍らないようにするのが一番良いと言われたが、設計ミスではないかという思いがぬぐえない(30代女性)


2011年01月15日号から

忙しいが冬場は大事

札幌市 工務店 専務
 おかげさまで昨年は忙しい1年でした。越年工事もけっこうあって、新年から現場も忙しいのですが、冬の間に見学会を2度開こうと思っています。性能訴求型の当社としては、やはり冬場に完成住宅を見ていただくことが性能をご説明する際にとても重要だからです。引き渡し後の住宅にお客さまをお連れすることもよくあるのですが、それだけでは出会いの数が増えません。ホームページからお問い合わせいただくケースも増えていて、そういうお客さまも見学会をやるとご案内しやすいです。

◆棟梁らしい人がいなくなった
北見市 工務店 社長
 昔は棟梁と言えば、腕がいいのはもちろん、下の人間に技術や礼儀作法などをしっかり指導でき、地域の人たちにとっても何か困った時などにとても頼りになる存在だったと思うんですが、最近ではそのような意味で棟梁と呼べる人をめっきり見かけなくなりました。私も棟梁は尊敬に値する存在だったのですが、そんな気持ちを持てる棟梁はごく僅か。どちらかというと大工たちをまとめる"大工部長"といった管理職の棟梁が多い気がします。

◆コスト優先のツケは消費者に
札幌市 設備工事会社 社長
 「暖房工事の見積がほしい、工事を頼みたい」とご依頼をいただくことはよくありますが、いざ図面をもらって提案すると「そこにパネルはいらない」など言われることがあります。こちらはプロとしてお施主様が快適に暮らせるよう提案をするのですが、どうも住宅会社の中にはコストやプラン優先の会社があるようで、こちらの提案などお構いなしです。そんなところは断るか、下請けで入るようにしています。当社の責任でそんな仕事をしたとは思われたくないので。


2011年01月05日号から

春の工事確保は業界全体の課題

 業界全体が後半メチャクチャに忙しかった2010年。しかし終盤にはやや暗い話も聞こえるようになり、2011年の展望が必ずしも開けていない。その原因の1つに「忙しすぎた」2010年の状況がある。忙しいことはいいことだが、仕事量の波が大きすぎるのはマイナスだ。2011年は、受注の波とどうつき合うか、この問題を考えてみたい。

本当のリスクは何か?
 住宅会社の経営にとって大きなリスクは、利益率が低いことと受注に波があることではないだろうか。
 2008年、2009年に住宅着工がどん底に落ち込み、多くの企業は売上が2009年より小さくてもバランスがとれるような予算を2010年に組んだ。ふたを開けてみると売上は伸びたが前半は着工のズレなどで工事が少なく、後半に集中。年間を通してバランス良くとれていればさほど問題にならない程度の受注でも、集中したことでパニックになった面があると思う。
 受注の波は補助金とからんでいるため、根本的には補助金制度が改良されることが一番だが、現状を前提に考えれば、どう会社を適応させていけばよいか、ということが大きな経営課題になってきた。

本気で取り組む谷間対策
 1つは谷間をどう埋めるかということ、もう1つはピーク時の現場管理の改善策だ。
 谷間を埋めるというのは、『言うは易し、行うに難し』簡単ではない。それでも本気で対策に挑戦し、谷を少しでも浅くできれば、資金繰りや収益性が改善される。増員による忙しさ解消のメドも立ってくる。
 しかし、谷が深いままだと、増員できないし秋までの資金がキツイ。受注が少ない心理的なつらさもバカにならないと語る経営者もいる。何より忙しさの対応だけに追われると、谷間対策が打てないまま次の年を迎えてしまう。
 方法はさまざまだ。考え方として、次のような流れがあると思う。
▽規格商品→違う顧客層の開拓→社内活性化や外部とのコラボレーション。
▽工事確保を最優先→価格引き下げや建売。
 規格商品を用意する、または建売という方法は、言葉を換えれば新しい顧客層をつかむために商品構成を増やすことだ。夏までに家を建ててもらうためには、ある程度、着工までの手離れがよいこと、顧客側に補助金を活用しにくい事情がある、または興味がないこと、が条件になる。
 新しい顧客層を獲得するには、違った発想が必要になる。社内活性化によってタレントを発掘し育てるか、外部との連携によって企画を進めるか、いずれにしても従来と違った動きが必要になる。ただ、そのことはきっと従来の商品にも相乗効果を生むはずだ。
 一方、価格引き下げは、補助金と同等の値下げを実施するという決断になる。大幅な値下げ(値引)になるが、谷間の時期に工事してくれるなら、それもアリではないか。想定範囲内の値引幅で、かつ期間限定なら他の顧客への影響もないだろう。

振り返れば以前は公庫が
 この問題の背景を考えると、旧住宅金融公庫の回次別募集が使われなくなって以降、春先の着工遅れはずっと言われ続けてきたことに気がつく。北海道の場合、4月着工→6月引き渡しというサイクルは、現状として家を建てる側にとってあまり魅力がないのだろう。また春先から動き出したユーザーにとっては、4月着工はあまりに時間がない。
 こういうことを考えると、4月着工のユーザーを増やす受注営業をすることは、業界全体の課題であり、実現すれば共通利益につながるとも言える。


2011年01月05日号から

温暖化防止を背景に第1種熱交換にも関心

 換気システムの採用動向に、ここ数年変化が見られるようになってきた。長期的に安定した換気性能が得られる第3種換気が主流であることに変わりはないが、住宅の快適性や省エネ性の向上を目指す中で第1種熱交換を選択肢として検討する住宅会社が出てきている。ここで改めて換気システムを取り巻く状況を見ていきたい。

換気設備と省エネの関係
空気浄化が主目的

20110105_02_01.jpg 現在、換気システムの種類としては、第3種や第1種熱交換のセントラルシステム、ダクトレスの第3種および第1種、パッシブ換気、第2種換気などを挙げることができるが、その中で主流となっているのが自然給気・機械排気の第3種セントラル。換気の最大の目的である換気性能を長期にわたって安定的に確保することができ、良好な室内空気質を維持するという点で信頼性が高いからだ。
 しかしその一方で、国内では地球温暖化の原因と言われるCO2の排出量削減へ向け、エネルギー消費量が少ない住宅を目指す動きが活発化。熱損失係数=Q値1・0Wを目標とするNPO新住協のQ1・0住宅や、道の北方型住宅ECOのほか、大手ハウスメーカーではゼロエネルギー住宅やCO2オフ住宅などと銘打った商品を開発・販売し、最近ではドイツ発の高省エネ住宅・パッシブハウスに取り組む住宅会社も目に付くようになってきた。
 このように、環境問題への関心や身近な地球温暖化への危機感などを背景とした省エネ意識の高まりによって、時にはユーザーから、時には住宅会社から「熱回収できる第1種熱交換を使いたい」という声が出てくるようになっている。
 住宅の省エネ化を進める手段としては、太陽光発電やヒートポンプなどの自然エネルギー利用・高効率設備の採用も有力な選択肢だが、世界の省エネ住宅の考え方は、住宅本体からの熱損失をできるだけ抑えたうえで、自然エネルギー利用やエネルギー効率の良い設備を導入するというのが基本。住宅全体の熱損失の3~4割は換気によるものだけに、第1種熱交換への期待は大きいと言える。

課題解決なら試験採用も

 ただ、熱交換換気を採用するにあたっては、これまで認識されていた課題が解消されていることが必要だ。
 その課題はと言うと、割高な設置コストや、2つのファンとヒーターを使うことによる消費電力の増加、フィルター清掃などメンテナンスを怠った時に引き起こされる窓の結露やシックハウスといった換気障害、そしてこれらを原因としたユーザーのクレーム感情だとされてきた。
 これらの課題が解決できるのであれば第1種熱交換を採用してみようと考え、久しぶりに、あるいは初めて換気の選択肢に入れる動きが出てきており、これまで第3種しか採用したことがない札幌市内のある工務店は「第1種熱交換は、ヒーター使用による消費電力の増加がどの程度になるのか、メンテナンスは簡単にできるのかがはっきりすれば、お客様に選択肢の一つとして提案したい。第3種と比べてどれくらい省エネになり、コストアップ分をどれくらいで回収できるのかをキチンと説明できるようになるからだ。後はお客様にどちらがいいか選んでもらえればいい」と話す。
 また、熱回収効果をQ値に反映できるので、小さい住宅などQ値計算に不利な住宅の場合、第1種熱交換換気の採用でQ値を小さくするといったことも考えられるほか、給気温度を上げることで厳寒期でも室内の快適性を維持できると考える住宅会社もあり、道内で換気システムを販売している各メーカーも来年中には概ね第1種熱交換を商品ラインアップに揃えると見られる

第1種熱交換のポイント
給気加温と省エネ

20110105_02_02.jpg 換気システムには第1種熱交換や第3種を始めいくつか種類があるが、第1種熱交換については意外と知らないこともあるのではないだろうか。そこでここでは、第1種熱交換の性能・機能の特徴や最近の製品のポイントなどについて各製品を通して改めて勉強してみたい。
 まず第1種熱交換は、その最大の特徴は排気の熱を給気に受け渡す熱交換ができる点にある。それによって1.給気の冷たさによる不快感が解消できるし、2.暖房負荷の低減にもつながる。
 熱交換効率については、メーカー公表値によると90~70%ほど。熱交換素子の仕様はメーカーによって様々で、一定以上の熱交換効率を確保するには、隙間からの給気をできるだけ減らすことが重要になってくるだけに、高い気密性能も求められ、0・5cm2/㎡以下が必要とする研究者もいる。
 また、熱だけでなく水蒸気も交換する全熱交換タイプであれば、3.夏の冷房節約 4.冬期の課題となっている過乾燥を和らげる効果も期待でき、熱だけを交換する顕熱交換タイプであれば、トイレや浴室などからの排気も熱交換可能だ。
 外気温が低くなってくると、熱交換素子のデフロスト(霜取り)のために熱交換を停止して専用ヒーターを作動させたりする製品もあるが、外気の取り込み経路をダンパーで閉じ、室内からの戻り空気を再循環させて、熱交換効率を維持する製品もある。

国ごとで異なるコンセプト

 市販されている製品を見ると、国内メーカーは全熱交換タイプが中心、欧米メーカーは顕熱交換タイプが中心。ただ、欧米では同じ第1種熱交換でも法律や気候風土の違いが製品開発に反映される傾向にあるようだ。
 例えば、冬期の気象条件が厳しいスウェーデンの製品は、室内環境の快適性向上を重視し、給気加温用のヒータ付きで本体は大型の金属製が主流。温度交換効率も誇示しない。一方、省エネが国策として進められているドイツの製品は、エネルギーロスをいかに抑えるかを重視し、ヒータがなく、本体内部パーツはエンジニアリングプラスチック製が主流となっている。
 なお、最近ではダクトレスの製品も市販されている。一定時間おきに給気と排気が切り替わり、本体内の蓄熱材で排気時には熱回収、給気時には新鮮外気の加温を行う仕組み。ヨーロッパでは累計6万台を販売した製品もあるといい、日本でも市場に受け入れられるかどうか注目される。

Q値計算で換気回数有利に

 第1種熱交換換気を採用する際に注意したいのは、性能評価や長期優良住宅の技術的審査、住宅エコポイント対象住宅証明などで、熱交換効率をQ値計算に反映させる時。
 次世代省エネ基準では熱交換換気を採用した住宅の場合、熱回収効果を考慮して0・5回/時より少ない換気回数でQ値を計算できることになっているが、そのためにはメーカーが出す『換気用消費電力増分量』の数値が必要であることを覚えておきたい。パワーズトレーディング(株)が輸入販売しているカナダ製熱交換換気システム「ライフブレス」や国内メーカーの一部機種で数値を公表しているが、ライフブレスでは機種によるものの換気回数を約0・13~0・2回/時としてQ値を計算可能だ。
 また、これまで第1種熱交換換気の課題と言われていた給気と排気の2つのファンによる電力消費や、熱交換素子とフィルターのメンテナンスなどはどうかというと、電力消費の点ではDCモーターの採用や、給排気を一つのファンで行う方式の採用、第3種・第2種換気への切り換えモード採用などによってシステムの省エネ化を図る製品が目に付く。
 熱交換素子とフィルターのメンテナンスに関しては、多くの製品が給排気ファン・フィルター・熱交換素子のいずれも容易に取り外し可能として、メンテナンス性を高めているほか、製品によってはメンテナンス時期のお知らせ機能搭載や、水洗い可能なアルミ製熱交換素子の採用、点検しやすい本体の壁掛け設置なども行っている。
 このほか、独自の機能・制御で室内の快適性向上を図る製品もあり、例えば(株)ウエスト札幌営業所が販売する顕熱交換タイプの「Temovex」では、夏の夜間など屋外が涼しく、室内が暑い時は、屋外の新鮮空気を熱交換せずに給気するオート・バイパス機能を搭載。1年を通して室内を快適に保つように考えられている。

第1種熱交換換気のイメージ(『北方型住宅の熱環境計画』より)


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