新聞記事

2010年03月05日号から

住宅コスト1/10に この夏にも実証住宅

赤平市・植松電機

 宇宙開発の技術を使って住まいのコストを10分の1にするプロジェクトを北空知・赤平市の(株)植松電機が進めている。同社のARCプロジェクトの一環だ。基礎研究は終わり、次の段階として夏に実験住宅を建設、実用化に向けて大きな一歩を踏み出す。

宇宙技術を家づくりへ

20100305_01_01.jpg 同社は大学の研究者と共に宇宙開発に乗り出し、これまでの常識を覆す低予算でCAMUI(カムイ)ロケットの打ち上げに成功し、全国から注目を浴びている。今進めているARCプロジェクトは家だけでなく、街作りや人材づくりも同時並行で行って北海道や日本を良くしていこうという壮大な構想だ。プロジェクトの中心的存在である同社の植松努専務に取材した。
 住宅については分野別の基礎研究がほぼ終わり、コストを10分の1にするメドがほぼついたという。今年夏に基礎研究内容をすべて盛り込んだ実験住宅の1モジュールを建設し、事務所として実際に使いながら検証する。来年中に実験住宅を完成させ、事業化のメドをつけたい考えだ。
 「当社で住宅を施工する、販売するというところまで考えていない」と言い、事業化にあたっては住宅業界との共同開発を希望している。「北海道の多分野の企業が協力し、家電の領域まで踏み込んで開発することで、住宅に圧倒的な優位性が出てくる。新たな輸出産業にもなる」と植松氏は話している。
(写真:「住まいのコストを10分の1にするメドがほぼついた」と語る植松努専務)

50cmの断熱層。窓は新開発の真空

20100305_01_02.jpg 10分の1にするカギは、運べる大きさに分割したユニット化。製造・建築コストを低減し、維持管理が容易で建て直さなくても良い構造にすること。もう1点は、熱の最大有効利用。排熱回収などの手法を徹底することで住宅から排出されるエネルギーをゼロに近づけることにある。
 ユニット化に関しては、構造躯体と内装を分離して工場で製造し、現地でビス止めして組み立てる。ヒントになったのは大型船のブロック建造法。内装を先に仕上げ、船体は小さなブロックに分けて後で組み立てている。
 躯体と内装空間の間に50~60cmの空気層を設け、ライフラインの収納場所として活用、配管や配線の維持管理がしやすい構造にする。しかも分厚い空気層が断熱材として機能する。開口部は新開発の真空断熱ガラスで断熱性能をアップする。年に1回居住者が自分で真空度をメンテナンスする。ポンプなどで空気を抜けば真空のメンテナンスができる。これまでの宇宙開発研究から出てきたアイディアだ。
 空気層断熱は昨年夏建設した研修室など3棟の鉄骨造建物にさっそく採用した。H形鋼の柱の間にできる空間は断熱材を入れていないが、取材に訪れた2月下旬、深夜電力で土間床に蓄熱する電気床暖房は最弱にセットされていたにもかかわらず、室温は17℃以上あった。現在は、室内の温度変化などデータを採取している。
(写真:ARCプロジェクトで研修スペースとして使用している建物は実際に空気層断熱を採用し、開口部が出窓のように見えている)

20100305_01_03.jpg その次のステップとして考えているのが家電と住宅の融合だ。たとえば家電で一番電力を消費しているのは冷蔵庫だ。日本では住宅スペースが狭く、断熱厚を薄くすることが求められるからだ。そこで、分厚い空気層で包んだ冷蔵庫を造作し、建物と一体化する。故障する可能性のある冷却ユニットは、交換容易な構造とする。
さらに冷蔵庫の排熱で衣服を乾燥させたり、エアコンや換気の排熱を給湯に活用するなど、家から排出される熱をできるだけ回収できる仕組みを考えている。これは人工衛星で省エネルギー化のために実践している技術で、それを家庭用に応用しようとしている。
 最後のステップとして、家庭で使う電気の直流化を挙げた。LED電球や液晶テレビも直流で動くし、最近の換気システムは省電力化のために直流モーターを採用している。一方で家庭用電源は交流のためこれらの機器を使うために交流から直流に変換する装置が機器内に必要で、それがエネルギーロスとなっている。また、太陽光パネルが発電するのは直流で、それをわざわざ交流に変換している。直流化によって変換の無駄がなくなり、トータルの消費電力が3割近く減り、エネルギー消費の少ないコンパクトな家が完成する。
(写真:同社敷地内には世界に数ヵ所しかない無重力実験装置などが並ぶ)

低コスト化で人材呼び込め

「決して奇跡的な新技術を使っているわけではないが、既にある技術を組み合わせて住宅コスト、食のコスト、学ぶコストが大幅に下がれば従業員の生活コストを引き下げることができる。また、これらによって産業が活性化すれば、普通の注文住宅の着工も増える。その結果、生活が豊かになる」と植松氏は言う。
 同社はもともと建築物の解体などの際に金属を選り分ける特殊マグネットの開発・製造を行っており、市場で圧倒的なシェアを持つ。他社にはできない高付加価値な仕事をベースに、もっと大きなことをやってのけようとしている。
 「田舎は土地が余っている。だから省スペース化の必要はない。田舎こそ、住のコストを引き下げて人材を都市から呼び込むべきだ」植松氏の挑戦はこれから正念場だ。


試読・購読のお申し込みはこちら 価値のある3,150円


関連記事

powered by weblio


内容別

月別

新着記事