新聞記事

2013年08月05日号から

TPPで住宅はどうなる?

 日本がついに交渉の席に着いたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)。マスコミ報道では関税撤廃によって国内農業が受ける打撃ばかりが目に付くが、住宅業界に影響はあるのだろうか?

木材:ほとんど影響なし。集成材・合板の価格下がるか

201308_01_01.jpg TPPとは、太平洋を取り囲む国々の間で、モノやサービス、投資などが、できるだけ自由に行き来できるよう、各国間の貿易や投資の自由化やルールづくりを進めるための国際条約。アメリカやカナダ、マレーシア、ベトナム、オーストラリアなど11ヵ国で交渉を進めてきたが、日本も力強い経済成長を達成するためには、TPPを通じた経済の活性化が極めて重要との判断から参加を表明。先月23日にマレーシアで行われている交渉会合に初めて参加した。
 交渉分野は多岐にわたるが、その中で最も影響が懸念されているのが"例外なしの関税撤廃"。関税がなくなることで安い輸入品が市場に出回り、特に高い関税で守られている国内の農産品は大きなダメージを受けるとも言われている。
 住宅においても、関税の撤廃は安価な輸入木材・輸入建材の流通量増加につながると考えられるが、実際にはどうか。
 まず木材については、集成材・合板を除いて、ほとんど影響がなさそうだ。北海道木材産業協同組合連合会(道木連)では「すでに木材関連は半世紀前に貿易自由化の状態。これ以上国内の木材出荷量が目減りすることはまずないのではないか」と話す。
 というのも、輸入木材についてはすでに戦後の国の政策で大量の住宅建設を進めた時、関税が大幅に引き下げられている。戦時中に国内の木を切り過ぎたため、木材を輸入に頼らざるを得なかったからだ。現状すでに原木や製材にはほとんど関税がかかっていない。もともと高い関税率で保護されている米や小麦、乳製品などとは状況が異なっている。
 また、日本はアメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドを除くTPP参加7ヵ国と、すでに関税撤廃など経済面での連携・協力促進を目的としたEPA(経済連携協定)を結んでおり、木材関連の関税は無税または数%にすぎない。
 ただ、集成材と合板はEPA締結国も含めて関税は最大10%かかることから、関税がなくなることにより輸入品の価格が下がる可能性がある。林野庁では、合板・集成材の国内生産量のうち、約6%が安価な輸入品に置き換わると試算しており、林産物貿易対策全国協議会では「TPPの参加国には合板産業が強いマレーシアが入っており、わが国の合板業界にとっては脅威」とのコメントを出している。
 道でも独自に試算を実施。道内の合板・集成材は出荷額ベースで約1割が輸入品に置き換わると見ており、「安い輸入品が入ってくることで、道内木材関連企業との価格競争が激化し、道産品も安くなる可能性があるのではないか」(道水産林務部林業木材課)と話す。

建材:規制や規格変更も?

 輸入建材はどうかというと、道内外の輸入建材メーカー・商社等にTPPの影響を聞いたところ、「特に考えていない」「住宅に関連がないと思っていた」などと、まだ関心はそれほど高くない。
 実際、TPP参加国のうち7ヵ国はEPAによって、すでに水回り製品や窓・ドアなどの関税が無税か数%程度となっている。「為替相場の変動のほうが価格に大きく影響する」(輸入建材メーカーA社)といい、NPO住宅生産性研究会の戸谷英世理事長は「1985年のプラザ合意で急激に円高が進み、輸入建材が安く入手できるようになった時も、ハウスメーカーの価格は変わらなかった。今回も住宅価格には反映されないと思う」と言う。
 一方、関税撤廃よりも輸入建材の性能・仕様に関する規制・規格がどうなるのかを不安視する声も出ている。北米の塗り壁材・塗料などを輸入販売するブライトン(株)社長で輸入建材事業者連絡会会長(IBMF)の松本繁氏は「TTPの交渉分野の一つである"貿易の技術的障害(TBT)"で、性能の試験・表示方法やJIS・JAS規格などが、どう扱われることになるのか、まったく見えてこない。例えばアメリカの建材の断熱性や防火性の試験方法は国内で認められていないので、日本国内で改めてJISに定められた方法により試験する必要があるが、貿易が自由化されればこれらの基準・規格についても参加国間ですり合わせする必要が出てくるはず。IBMFでは今のうちから勉強しようと話をしている」と語る。
 日本のJIS・JAS規格などと他の参加国の規制・規格をどう整合させるのか、TPPでは交渉状況など情報が厳しく統制されているためにうかがい知ることもできないが、長野県が今年3月、内閣官房にTPP交渉参加に関する疑問点として、国際標準に整合しない法令やJIS規格等の取扱いを尋ねたところ、「各国の分野ごとの個別基準は数百?数千に及び、(TPP交渉で)個別に規定を定めることは考え難い」という回答を得ている。
 これは輸入建材だけでなく、国産建材にも関係してくるだけに、見通しをはっきり示してもらいたいところだが、JIS規格を扱う経済産業省産業技術環境局基準認証政策課ではこの件について「まったく情報がないのでコメントできない」としている。


試読・購読のお申し込みはこちら 価値のある3,150円


関連記事

powered by weblio


内容別

月別

新着記事