新聞記事

2008年12月05日号から

編集長の目

次世代基準普及へ大きく踏み込む 一方で不幸な消費者生む可能性も

 09年4月以降の国の省エネ政策は、正直「なぜ」という疑問も多いと思う。概要は1~2面に掲載したが、いわゆる次世代基準と呼ばれる平成11年基準を最低基準として一気に普及させる一方、誘導基準も示した今回の政策を評価した上で、苦言を呈したい。第1になぜ気密性能基準がなくなったのか、第2に断熱基準の強化は必要ないのか、第3にトップランナーを一次エネルギーで判断する意味は何か。

1.気密除外
普及のためか逃げのためか

 まず、なぜ気密性能基準がなくなったのか。国では、「住宅構造形式にかかわらず一定程度の気密性が確保される状況にある」ことを主な理由としている。
 確かに、外壁下地構造用面材の使用、根太レス工法の普及などにより、以前よりは格段に気密性能値が高くなっていることは確かだ。しかし、それにもかかわらず気密性能が重要なのは、制御できない漏気、それによる熱ロスの増大、場合によっては壁内結露などが心配されるからだ。
 実は、気密性能基準をなくしたもう一つの理由は、次世代基準を最低限の基準として運用するときに、気密性能基準や結露防止措置の規定が「じゃまになる」からという面がある。うるさいことが書かれていると、最低基準になじまないのだろう。底上げのためにいわば片目をつぶったわけだ。
 しかし、片目をつぶったことで住宅を取得する国民が不幸になる可能性もある。予定通りの断熱性能が発揮されない、悪くすれば壁内結露や寒さという欠陥住宅の危険性が高まる。
 そのとき、気密性の低さなどを理由に確認申請の窓口や、基準を制定した国の責任を追及することは難しいだろう。すべて住宅会社責任。これが気密基準をなくした本当の意味かもしれない。

2.基準強化
わかりにくい基準の全体像

 第2の断熱基準強化については、トップランナー基準の参考資料にⅠ、Ⅱ地域Q値1・4W、Ⅲ~Ⅴ地域1・9Wという性能値が示されている。これをもっとわかりやすくスッキリさせることはできなかったのだろうか。
  法規上は基準ではない。しかし基準の解説に書かれている以上、業界内では事実上の基準として動くだろう。しかも算定方法が細かい。非常にわかりにくい基準体系だ。今後は国交省の政策トップが主導権を持ち、わかりやすい基準作りをしてほしい。

3.一次エネルギー
使いやすさより国の都合優先

 第3に、トップランナー基準が一次エネルギーで判断する意味は何か。国際間の約束事では一次エネルギー換算で判断することが必要だろう。しかし、国内の政策として基準を作るときは、翻訳してわかりやすくすることが当然ではないか。同じ量のエネルギーを使っても電気と灯油を一次エネルギー換算すると量が違うという結果は、現場をただただ戸惑わせるばかりだ。そもそも、一次エネルギーに換算する際に使う灯油・ガスの変換効率や電気の発電効率は、住宅会社や消費者の努力によってどうにかできるものではない。基準は使用エネルギー量で規制すべきであり、手を出せない部分にまで責任を持たせるかたちの一次エネルギー算定は間違っていると考えるがどうか。こういう部分から見えてくるのは、国の都合しか考えていない基準作りのあり方だ。

工務店への影響
必ずしもマイナスではない

 最後に、これらの基準改定が地場のマジメに取り組んできた工務店などにとってどういう影響があるか。気密性能基準の削除が強くマイナスに働くことはないだろう。断熱性能をスペックだけで見る風潮はより強まるとしても、その暗部として増えそうな欠陥住宅の被害が、結果として気密性能の重要性を再認識させてくれるはずだ。
  また省エネラベルが大手・中小の区別なく制度運用されれば、その点でもマイナスはない。むしろ、いち早く新基準対応を宣言することが重要なのではないか。
 いずれにしても、09年春からの省エネ政策はすでに動き出した。工務店は消費者のためになる提案を、わかりやすく行えばよいのだ。


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