平成19年11月15日号から
需要創出を移住で!!
地域工務店は何ができるか 
 「いつか住んでみたい、憧れの地・北海道」と言われて久しいが、移住者による地域活性化や住宅需要で活況を呈しているという地域は非常に少ない。移住による住宅需要を開拓しつつある八雲町、伊達市、当別町の取り組みを取材した。

求められる民間提案
  北海道は首都圏では沖縄に並ぶ移住の人気エリアで、北海道庁が05年に行った首都圏1万人アンケートでは、約5割が移住に前向きと回答している。
 道内の多くの自治体が、ここ数年で移住促進の強化を図っているのは、特に団塊世代と前後のシニア世代が合わせて1000万人と言われていることに加え、移住者による地域活性化等を図る狙いがある。しかしその一方で国内外に幅広い選択肢を持つ移住希望者にとって北海道は「寒い」「遠い」「有効求人倍率が最低レベル」「情報もきっかけも少ない」というマイナス要因も大きく、潜在需要の大きさを実需に結びつけられていないのが実態だ。
 こうした状況の中で、一部の地域が、役場による情報提供や民間企業の活動などを積極的に行い、一歩抜けだそうとしている。
 限られた予算の中で、地方自治体の担当者や地元工務店・団体などが知恵を絞り、質の高い「おもてなし」と、「広報」を行うにはどうしたらよいか。知恵と汗を絞りながら、徐々に成果も見えてきた。


スロータウン花浦で現地説明。朝日新聞社、北海道新聞社の記者も同行取材

地元の人の話を聞ける機会も
 八雲町 
土地タダ!で話題作り
 八雲町は大都市近郊ではなく、しかも全国的には知名度も弱く、必ずしも移住促進に有利な状況は揃っていない。しかし道内では温暖、商業施設や医療などの面で中核都市としての機能を備えていること、自然が豊かであることなど魅力も多いことから、移住事業を町の重点施策としている。
 本格的な移住事業を開始したのは平成17年度から。北海道のパートナー市町村の選定を受け、移住相談のワンストップ窓口を開設。また町内の民間8団体と「八雲町移住推進協議会」を設立した。17年度には移住に関する照会が74件、移住者は13名、平成18年度はそれぞれ53件、33名の実績があった。移住希望者を対象に年2回ほど開催している移住ツアーでは17年度は10名以上の参加があったものの、今年度は参加者が半減、新たな取り組みが必要な状況となっていた。

1カ月で問い合わせ77件
 「八雲町を訪れる移住希望者の多くが自然環境や利便性を評価してくれるものの、郊外で景観が良く家庭菜園ができる土地を希望する人が多く、そういう物件は農地であることも多いので、住宅用地の入手が難しい」と同町企画振興課。
 こうした状況を地元工務店から聞いた町内の地主・平野康子さんが、町のため、移住者のために内浦湾にほど近い花浦地区3万2000m2の土地を町に寄贈。役場はこの寄贈を受けて、住宅用地初年度10区画の無償提供計画に着手。
 「スロータウン花浦」と名付けた募集事業を目玉とした上で、宣伝広告費を抑えつつ首都圏や道内を中心に全国に向け広報を行うという北海道住宅新聞社の提案を採用。共同通信社によるプレスリリースをマスコミ350社に発信、朝日新聞東京版、田舎暮らし希望者向けの専門誌「月刊ふるさとネットワーク」に広告を掲載した。
 その結果、複数媒体に記事が掲載され、開始1ヵ月で移住希望者からの問い合わせが合計74件、移住ツアー申し込みが17件(当日参加は13組)、役場のホームページ閲覧数の増加につながった。


スロータウン花浦の地図
移住ツアーでおもてなし
 11月1日~4日の4日間で行われたツアーには鹿児島県や東京都、千葉県、道内からも岩見沢市や余市町などから13組23名が参加。初日は歓迎レセプションが行われ、2日目は町の移住施策と住宅に関するセミナー、町内施設案内などを開催。
 3日目は、朝からバスに乗って町内の物件を視察。最初に訪れたのは無償譲渡のスロータウン花浦で、周辺環境や区画の面積、合併浄化槽を設置した場合の費用補助などについて町の担当者が説明。また海岸で鮭釣りをしている人や隣接地の地元居住者に気候風土などについて気軽に聞ける機会もあった。
 その後も土地面積44坪、1200万円の中古住宅や土地面積280坪で価格は坪3万円の宅地、モデルハウスなどを見学。総走行距離100キロ以上、約10件の物件を訪れた。参加者からは「予算は1500万円から2000万円程度。家庭菜園ができる物件や景色が良い物件など良い物件があった。詳しく現地案内などをしていただけたので八雲に移住したい気持ちが強まった」「果樹があったことと手頃な面積の物件が見つかった」「物件によっては牛舎からの臭いや除雪のこと、価格が高すぎるなど実際に見ると気になる点もはっきりわかった」などの声も聞かれた。


地元工務店のモデルハウスも見学

郊外では眺望の良い物件も多く参加者も思わず長居してしまう
先輩移住者の体験談も
 最終日には先輩移住者3組の家族との交流会を開催。兵庫県から移住、平成14年に中古住宅を購入したという藤内さん夫妻は「山に近くロケーションの良い中古住宅を購入し仕事を見つけた。冬道運転は慣れが必要だが、除雪は小型除雪機があれば楽。地元の人は行事があれば誘ってくれたり、適度に関心を持ってくれて、鮭やイチゴなどを玄関先に届けてくれる。子供達もいじめなどもなく元気に過ごしている」と報告。
 漁師町の山越地区に住宅を建て移住した石亀さん夫妻は「近所の漁師さんに質問したことがきっかけでビール会に誘われて、酒は飲めなかったのに今では毎日焼酎を飲んでいる。魚や野菜は買う必要がないし、娘夫婦が頻繁に訪ねて来るようになったので事前に漁師さんに言っておくとウニをどっさりくれたりする。家庭菜園やパークゴルフなど楽しいことがいっぱいある。最近は冠婚葬祭にも呼ばれるようになった」と話した。

先輩移住者の体験談も好評だった
 東京都から4月に移住した桜井夫妻は、初期費用を抑えるために、持家感覚で暮らせる仕組み“スケルトン賃貸住宅”に移住。「人間関係はほどよく都会的でさっぱりしている。日本海側の紅葉には感激した。暖房費はオール電化で冬場で最大1月あたり3万円程度。物価が安く食べ物もおいしい。年金だけで暮らせる」と述べた。

 当別町 
競合は世界中の地域
 過疎化が進行し、地域社会(コミュニティ)としての機能を失った集落のことを「限界集落」と言い、買い物や福祉サービスなどの支障、町内会の消滅、冠婚葬祭などで手助けできる人がいない、お年寄りの孤立など様々な問題が発生、道内各地でこの状態が深刻化している。
 当別町は、移住事業の目的を人口減少対策ではなく、地域コミュニティの維持のためと捉えている。同町は札幌に近く利便性が高いことと豊かな自然があることに加え、民間がスウェーデンヒルズ、優良田園住宅、中古住宅の情報提供などを実施。役場も地元住民を移住コンシェルジュに養成したり、「冬の生活フォーラム」と題して、雪かき講習や冬道運転の指南を行い、移住者が抱える不安要素である冬の寒さと雪の問題などに正面から向き合っている。こうした取り組みが注目され平成17年度以降305件の移住者からの問い合わせを得ている。
 同町企画部の担当者は「移住事業の目的は、町民が移住者の反応などによって町の魅力を再発見したり、地域社会を維持すること。郊外の優良田園住宅は人気なので募集はすぐに定員オーバーとなるが、郊外に人口が拡散すると行政サービス効率も低下する」と指摘する。「移住者と地元住民の交流組織や官民の協力体制を作ったり、首都圏に向けた広報戦略を考えるなど、移住促進は地域間の知恵比べ。何もしなければ地域は疲弊する。主役は町民であり、町民よりも移住者を優遇することはしない。移住者はカナダなど世界中を視野に入れているのでライバルは世界」という。

  伊達市 
優良田園は申込殺到
 道内の移住事業の中では高い成果をあげていると言われる伊達市。市では移住実績は把握していないものの、今年度は9月末現在で移住の問い合わせ129件、役場に来庁し移住の相談や物件案内を行ったのが104件。10月9日から募集開始した「田園せきない」は開始2週間で申し込みが19件に達するなど依然として人気エリアとなっている。
 移住の先進地として大学関係者や全国の県議会議員、市町村職員の視察を始め、テレビ、新聞、雑誌などの問い合わせが多く、広報活動はホームページ制作とイベント参加などが中心で、広告宣伝費などの負担は低く抑えられている。
 移住事業は、高齢者にとって暮らしやすいまちづくり「伊達ウェルシーランド構想」の一部という位置付けで、地域住民の暮らしやすさが結果的に移住促進に結びつくという姿勢を持っている。
 移住希望者が中長期で滞在する「お試しくらし」は7月から9月にかけて実施しているが、用意している貸家などは期間中ほぼ満室。また移住希望者向けに地域を満喫する提案として「ゴルフ」「釣り」「藍染め」の体験ツアーも実施。特にゴルフは人気だったという。
 住まい探しの方法を役場に問い合わせる移住希望者が多いため、民間運営の地域情報センターを設置、地元工務店の紹介をはじめ、おいしいお店など、その他の地域情報の提供は同センターに任せることで官民一体の移住促進が進められている。

地元工務店は知恵を
 移住事業は、地方交付税額の維持など財政上のプラス面に加え、地元ではいないような経験を持った人材の移住による地域活性化や、地域コミュニティの盛り上がりなど間接的な効果も期待できる。また新築需要増が期待しにくい地元住宅業界にとって新たな需要創出に結びつく。
 八雲町の場合、地元工務店が移住者の住宅を建ててからも、地域の農家などとの交流など橋渡し役などを行ったり、地元と協力したスケルトン・インフィル賃貸住宅の提案など、移住促進のための民間からのアイデアを提供し、需要を切り開いている。知名度や雇用の受け皿が少ない地域などは官民が協力して今まで以上に知恵を絞る必要があり、それこそが地元工務店が地域で生き残る方法だと考える経営者も出てきた。

輸送コストを削減
森町・ハルキ プレセッター工法を導入

プレセッターの接合部分
 製材・プレカット販売の(株)ハルキ(森町、春木芳則社長)は、自社のプレカット設備を(株)カネシンの金物工法「プレセッター」に対応させ、高強度な金物工法を輸送コストの削減によって普及を進める提案を住宅会社に向け行っている。
 プレセッターは、プレカット工場で加工された構造用集成材に金物を取り付けたうえで現場に納品する金物工法。採用に至った動機についてCAD課酒井佳奈主任は「社内で複数の金物工法を検討した結果、輸送効率と強固な接合力、日本住宅・木材技術センターの木造住宅合理化システム認定を取得している点が決め手になった」と強調する。

春木芳則社長。写真中央手前は道南杉を使ったラップサイディング、奧は羽目板
 輸送効率について春木芳洋主任は「構造材の運搬で戸建住宅1棟あたり4トントラックで4回前後往復する必要があるが、標準的な金物工法では金物の出幅が100ミリなので空載率が高く、それが6回になるなど輸送コストがアップしてしまう。プレセッターでは出幅が38ミリとコンパクトなので輸送コストは通常工法とさほど変わらない。本体とプレートを分割する2ピース構造で、梁側のプレートに取り付けられたドリフトピンを柱側の本体にアゴ掛けする。金物同士の接合によってどの角度からの力に対しても抵抗力が強く、実際に触ってみると信頼感が高い。現在までに5棟実績があり、現場でも作業性の良さなどが好評。同業のプレカット工場からも引き合いがある」という。

道産材供給にシフト
 同社は昨年来、取り扱う原木を輸入材から道産材に変更、道産材活用の視点からテレビの取材を受けるなど、その取り組みが注目を集めている。
 春木社長は「先代から引き継いだ道南杉の森を自分自身が子供の頃から枝打ち・間伐など維持管理の手伝いをしてきた経験がある。適度なしなりで台風でもなかなか折れず、昔は道内でも昆布漁に使う船や建材などに積極的に使われていた道南杉を、本州に原料のまま供給するのではなく、製品化して地元や本州に販売したいと思ってきた」と話す。道南杉を使った羽目板やラップサイディングなど加工品の商品化も行っており、住宅会社の賛同を得ながら地産地消と地元の森の保護、育成につながる方法で道産材活用に取り組んでいく予定。
 問い合わせは(株)ハルキ(本社茅部郡森町字姫川11番13、Tel.01374-2-5057)。

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