北入り玄関だが閉塞感を感じない外観。側壁は光をコントロールするための小窓が並んでいる |
地下鉄駅に近い都市の暮らしと利便性、スタイリッシュでモダンなデザインを一次取得者が手に入る価格で。札幌市北区の地下鉄麻生(あさぶ)駅にほど近い北向きの間口の狭い敷地に、デザインの統一感を意識した2棟の木造3階建て建売住宅が発売された。老後の住み替えを前提に大胆なプランと売却時の資産価値を実現するため、若手の建築家が設計した。
札幌の市場に変化
札幌の戸建住宅市場はここ数年変化を見せている。都心回帰志向が強くなり、マンションの購買層をターゲットにした、地下鉄駅から近い狭小敷地の建売住宅がヒットしている。立地条件、価格が周辺のマンション並みという手頃さと、プライバシーや駐車場確保など戸建住宅のメリットが評価されているようだ。
(株)ベストホーム(札幌市、藤江真吾社長)は、この流れに目を付けさらに付加価値を加えた建売住宅を考えた。こうした住宅の販売対象は30代から40
代の一次取得者層。モダンデザインを支持する年代で、こだわりを持つ人も比較的多い。そこで内外観のデザインに力を入れた。
また、間口の狭い3階建住宅は老後の生活には必ずしも便利ではないと考え、「ライフステージに応じた住み替え」を想定して売却時になるべく高い値段で売れる住宅づくりを考えた。
価格をなるべく抑えながら高い強度を実現するため組込車庫の入口と玄関部分に門型ラーメンフレーム構法を採用した。消費者へ安心を提供するために構造計算は専門の設計事務所に依頼、プラン上必要ならば門型ラーメンなど新しい工法にもチャレンジする。
2階から上の階段は蹴こみがなく、手すりも細い素材で目立たなくしている。金属の素材感だけではクール過ぎるので、木質建材と明かり取りの窓を設けて温かみも演出
南向きの明るいダイニングキッチン |
建築家がデザイン
現在販売中の「キアラ麻生」は、地下鉄麻生駅や大手スーパーから徒歩3分という好条件の立地で建物込み3480万円という価格を実現、延床面積は約41坪(車庫込)と家族4人が暮らせる十分な広さと建築家に平面プランと空間デザインを依頼することでデザイン面で付加価値を高めた。
建築家はスタジオ・シンフォニカ(有)の畠中秀幸代表。市内の設計事務所に所属して札幌ドームほか施設の設計にたずさわり、その後現会社を設立、個人住宅などの設計経験を積んだ。一方、別の顔として吹奏楽団の代表で指揮者兼フルート奏者、コンサートイベントのプロデューサー、舞台の空間美術を担当するなど、多方面で活躍している。
畠中氏は3階から風や光がうまく入るように吹き抜けなどを工夫、1年中直接光や反射光が2階のリビングに射し込むよう配慮した。
こうした空間デザインを生かすため室内は凸凹を極力避け、フラットにした。照明は一部を除いて埋め込み式とし一部屋を複数の白熱灯で照らし、窓枠も室内に見えないようにしている。外観もフラットな形状にするため平板サイディングのジョイント部をパテで埋め、その上から耐紫外線劣化が少ないフッ素樹脂系塗料をローラーで塗って木造住宅らしさを消し、スタイリッシュな雰囲気に。
3階から射し込む光がドラマチックな2階リビング |
組込車庫の入口は電動シャッター、玄関ポーチのタイルには床暖房を埋め込むなど、冬の生活に配慮している。また、ボイラー室をユーティリティーから独立させ、来客時に洗濯干し場としても使えるよう提案している。3階にはルーバー状の手すりで目隠しをしたバルコニーを設置、隣地と接近した狭小地のハンディを克服し、開放感を演出している。暖房は温水セントラル式でキッチンはIH。
今後も同様の建売を企画中
同社によれば、来場しているのは想定通り30代から40代前半の家族連れで、来場者アンケートなどの分析結果ではプランニングに対する評価が特に高く手応えを感じている。今後も西区山の手などで同様の建売住宅を計画しており、不動産売買などの本業を生かして利便性の高い立地の土地仕入れを行い、付加価値の高い建売住宅としてシリーズ化する考えだ。 |