平成18年5月25日号から
高性能住宅Q&A
熱損失係数の計算方法
石油高騰など背景に高省エネに関心高まる
 本紙では昨年暮れからNPO法人新住協が展開しているQ1.0住宅を取り上げているが、Q1.0住宅の熱損失係数(Q値)計算について読者から何度も質問をいただいた。ここでその質問についてお答えするとともに、Q値など省エネルギー住宅の断熱性能を示す値の意味と、議論の多い換気熱ロスの回収などについてまとめた。

換気ロスをどう見るか
 NPO法人新住協が昨年から展開しているQ1.0住宅は、住宅の暖房燃費を次世代省エネルギー基準比で5割削減しようというプロジェクトで、この運動に参加する会員工務店が昨年から道内を中心にQ1.0住宅を建設している。
 Q1.0とは、次世代省エネ基準比で暖房燃費を5割削減するためには、熱損失係数(Q値)で1.0W程度の性能が必要となることから名付けられたもの。
 このプロジェクトでは、暖房燃費の試算のために同会代表理事である室蘭工業大学鎌田紀彦教授が開発したQPex(キューペックス)というQ値・暖房燃費計算ソフトを利用する。このソフト上で断熱仕様などを変えながら暖房燃費をシミュレーションし、仕様を決めるわけだ。

Q値・灯油消費量計算ソフト「QPex」の画面
 本紙読者からの質問が集まったのはQ値計算の中の換気負荷計算の部分。
 Q値はおおざっぱに言えば、外壁や天井など外表面から逃げる熱と換気によって逃げる熱を合計して床面積で割ったもの。外表面の断熱性能を上げれば上げるほど、Q値に占める換気ロスが相対的に増えることになる。このため換気ロスをどう抑えるかが、Q値に大きく影響してくる。
 換気ロスは基本的には室内容積の0.5回/h分と計算する。これは建築基準法で室内換気を0.5回/h以上と定めているため。これより少ない換気回数は、基本的には基準法違反になるので計算上は使えない。一方、気密性が低いために起きる隙間換気についてはQ値計算に入れない原則なので、気密性が低い住宅はそもそもQ値計算を行う意味がない。
 さて、0.5回/h換気の例外が1つある。それが熱交換換気を採用した場合だ。換気量自体は0.5回分あっても、熱損失は排気から熱を回収するためQ値計算上は換気回数を少なくしてもいいと次世代省エネルギー基準が定めており、たとえば0.2回分を熱回収するとしたら、Q値計算の換気回数は0.3回でいい。
 次世代省エネルギー基準では熱交換換気による換気回数低減の計算方法を定めているが、この方法はきわめて難しい。おおざっぱに言えば、回収熱から第一種換気による動力エネルギーの増加分、具体的には空気抵抗と消費電力の増加、その他のロスなどを割り引かなければならないことになっている。
 一方、新住協方式はたとえばカタログ上の熱交換効率が90%の機械の場合、熱交換率をやや低めの80%とみて、換気廃熱の8割を回収するという考え方で計算している。0.5回の8割、つまり0.4回を熱回収した残りの0.1回が換気負荷となるわけだ。式は下の通り。

換気負荷(回)=0.5×(1-熱交換効率)

燃費表示の方法(ドイツのエネルギーパスの表示例)。燃費レベルがaからIまでランク分けされており、どのランクに相当するのかがわかりやすい
熱交換換気ともう1つの熱回収方法
 省エネルギーを真剣に考えるとき、換気による熱ロスは何とか減らしたい。高断熱住宅では全体の熱損失のうち換気による熱ロスが3割以上にも達するからだ。そこで熱交換換気による熱回収が注目される。
 この分野の先進国である北欧では、換気熱の回収方法として80年代から2通りの方法がある。1つは熱交換換気、そしてもう1つは第三種換気と換気排熱を利用したヒートポンプシステムを組み合わせるやり方だ。
 日本では熱交換換気しかあまり知られていないが、スウェーデンでは古くから換気排熱を利用するヒートポンプが多いといわれ、2つの方法が現在まで続いている。まず、換気排熱の回収には2通りの方法があることを押さえておく必要がある。
 このうち手軽なのは熱交換換気だ。また熱交換換気を採用すればQ値を低減することができるが、換気排熱のヒートポンプはQ値の低減が計算できないため、Q値というスペック面で熱交換換気のほうが有利という面もある。



換気排熱ヒートポンプの考え方(技術資料から)と、地中熱と換気排熱を利用して温水をつくるヒートポンプ(ドイツの展示会で)。スウェーデンでは80年代の資料から、換気排熱を回収する方法として第三種換気+ヒートポンプという組み合わせが掲載され、現在も主流という
ヨーロッパに多い燃費表示方式(kWh/m2a)
 前号では熱損失係数(Q値)計算のうち換気ロスについて、熱交換換気を採用した場合の換気回数低減に触れてから、換気排熱回収の方法として熱交換換気とともにヒートポンプがあることを説明した。今回は再びヨーロッパの話から。
 日本は住宅の省エネルギー性能を見るとき、Q値を使う例が多いが、ヨーロッパは主に燃費表示(暖房負荷)で見る。自動車の燃費表示と同じ考え方だ。
 表示方法は床面積1m2あたり年間(aで表す)でどれだけのエネルギーを使うかをkWhの単位で表示する。この方式だとヒートポンプなどの高効率機器を使った場合の省エネルギー効果を燃費のかたちでシミュレーションできるほか、延床面積を掛けてやれば住宅規模ごとに燃費予測ができる。
 たとえば100kWh/m2aなら、札幌地区で次世代省エネルギー基準を上回るレベルの性能に相当する。これを灯油に換算するときはおおざっぱだがゼロを1つとればいい。つまり10リットル/m2a、130m2、およそ40坪の家では1300リットルになるわけだ。
 ただこの方式は、同じ断熱性能でも寒さや日照時間という気象・立地条件の違いによってエネルギー消費は大きく変わるほか、暖房温度の設定などの暮らし方によっても消費量が変わるという面もあり、住宅性能そのものの比較には役立たない。Q値がいいのかエネルギー消費がいいのかではなく、何をシミュレーションしたいかがポイントになる。
 自動車も性能表示は数種類ある。住宅もQ値とエネルギー消費の2本立てで表示するのがいいのではないか。
 また、これらシミュレーションが実際値と大きくかけ離れないためには、気密性能が大切であることをスウェーデンやドイツでは改めて強調し、ドイツは法制化している。特に熱交換換気の場合は気密性能をうんと高めないと隙間換気で熱回収効率が下がることをスウェーデン・無暖房住宅の設計者であるハンス・エイク氏は指摘し、そのレベルを相当隙間面積で0.2~0.3/m2程度としている。

 kWhを灯油へ換算:
 灯油(リットル)/m2a≒kWh/m2a×0.1
 例:100kWh/m2a×0.1≒10リットル/m2a

ドイツの断熱基準(EnEV2002)

部 位
ドイツの熱貫流率
日本(※1)との比較
次世代省エネルギー基準Ⅰ地域
熱貫流率
相当断熱厚など
外 壁
0.35 Ⅰ地域と同じ 0.35 135
屋根・天井
0.25~0.30 Ⅱ地域以南と同じ 0.17 300
0.40 Ⅲ地域より厳しい 0.24~0.34 135~200
窓・ドア
1.70 Low-Eトリプル 2.33 Low-Eペア
気密性能
1.5回/h・at50pa(※2) ≒1.0cm2/m2 2.0cm2/m2 Ⅰ・Ⅱ地域
ドイツのEnEV2002は義務基準
※1:次世代省エネルギー基準
※2:機械換気を行うとき
熱貫流率の単位はW/m2K、断熱厚はミリ



過敏症は予防が大切
木材学会道支部研究会 病気を知らずに症状悪化も

小島氏
 日本木材学会北海道支部では、去る11日、旭川市内で第37回研究会「住環境を考える―シックハウスの現状と課題 ―」を開催。室内VOC濃度の現状や化学物質過敏症患者の治療の実態、行政や住宅会社のシックハウス対策について4名の講演者が報告を行い、森産婦人科病院の小島貴志氏は旭川医科大における化学物質過敏症患者の診療状況を紹介する中で病気の予防と周知の大切さを訴えた。
 小島氏は「化学物質過敏症患者は自宅を新築する人が多い年代で職場の影響も受けやすい30代と、比較的家にいる時間が長い50代、特に主婦が圧倒的に多い。建物が原因で発症した人が7割強を占め、他に農薬や防虫防蟻剤が原因である人も少なからずいる。
 更年期障害に近い症状が出るので、更年期が重なると発症しやすいのかもしれない。薬や手術で直るものではないので、治療は運動療法や食餌療法などのカウンセリングが中心になるが、点滴や酸素吸入、ビタミンの投与を行う場合もある。
 このように治療が難しい一方で、この病気を知らなかったばっかりに、病院へ行った時には症状が進行していたという人も多い。予防が最も大切で、この病気を知っておくことも重要だ」と、化学物質過敏症患者の現状を紹介した。

ノーマーク物質に注意
 最初に報告を行った道立林産試験場企画指導部の石井誠氏は、平成16~17年に実施した道内新築住宅のVOC濃度調査の結果(詳細は5月5日付1・2面に掲載)について、「道内の住宅の空気質はシックハウス新法施工後に改善されてきているが、指針値がないノーマークの化学物質の濃度が高い場合があり、状況によって入居後の換気や窓の開け閉め、放散源の特定などが必要となる。さらに家具がVOC対策品でない場合には、ホルムアルデヒドなどの濃度が上がってくることもある」と、まだあまり知られていない化学物質や家具からのVOC放散にも注意する必要があることを指摘した。
 このほか、旭川市都市建築部公共建築課の石井幸氏が旭川市の公共建築物における室内空気汚染対策の指針、ホーム企画センターの森田孝之氏が自社で採用している木炭利用の換気システムについて講演。最後に講演者と会場による総合討論も行われた。



木造戸建住宅復活の道・その6
「e-家」に住みたい-に込めた思い
札幌・アスペック 100年WALLシステム

資産価値の高い100年住宅の概念
LCC低減が重要
 木造住宅の構造部分は50年は持つといわれるまでになり、100年の耐久性も夢ではない時代となりました。
 そこで先ずは低質ストック住宅をどうするかです。現在の新築住宅の居住水準まで増改築するには新築並みの費用がかかります。部分的に改修しても不満が解消されず、二度三度と改修を重ねて結局は建て替える、経費と資源を無駄に使った昭和30年代の繰り返しになります。
 そこのところをオーナーにきちんと情報を提供し、将来の資産価値をも見据えた建て替えを促すことが必要です。その場合、暮らし方によって規模・間取りをどのように設定するかが大切です。
 では、新築住宅は現状でいいのか、というと、そういうわけにはいきません。二世代、三世代にわたる持続性のある資産価値の高い住宅にする必要があります。住み続けることによって生じるライフスタイル(生活様式)・ライフステージ(人の一生)の変化にフレキシブルに対応できる機能性を備えることが重要なポイントです。そして、建築コストを、これまでのイニシャルコストではなく、ライフサイクルコスト(LCC、住宅の生涯にかかわる費用)として提案します。
 住み替えのため譲り渡すときにも、今までとは異なり、中古住宅として高い価値を維持することができます。

外部は耐久性と日射遮蔽対策など
 外郭は、高断熱・高気密工法、無暖房を前提とした超高断熱化。
 構造材・設備機器は、高い耐久性・耐震性、制御性。進化を続けている暖房と換気設備は機種の選択と点検・交換性・セキュリティーがポイント。
 屋根・小屋根は、耐久性の高い材料。日射の遮蔽や外壁を保護する工夫。
 外壁は、単純な形態。耐久性の高い外装材・開口部製品と交換性を考慮した施工。庇などによる開口部の日射コントロールとセキュリティー。遮熱・排熱効果を高める通気層工法の工夫。

内部は生活の変化に対応する仕組み
 内部構造は、暮らし向きによって柔軟に対応できる機能を持たせる。
 間取りは、間仕切壁の可変性。室内ドア・廊下・階段・間口のゆとり、設備・機器など誰もが違和感なく、便利で、効率的に生活できるユニバーサルデザインの導入とバリアフリー対応の下地補強。
 耐久性が向上した住まいにこうした機能性と安全性とメンテナンス性を追求することは、快適性を高め、ライフサイクルコストを軽減し、結果として住まいのトータルコストを引き下げます。

ポスト高断熱時代
 冬暖かい快適な暮らしを実現したユーザーが、新たな不快や不満、課題を突き付けています。

【記事全文は紙面にて。見本誌をご請求ください】



床剛性と遮音性向上
ネダレスボード 廃木材使用で価格も安定

ネダレスボードの施工例
 (株)イワクラが製造、島田産業が販売する根太レス工法用の長尺床下地材「ネダレスボード」が発売から1年を経過し、その評価を高めている。特に床の水平構面耐力や遮音性の向上に効果的で、輸入合板の価格が上昇傾向にある中、価格的にも安定しているといったメリットが好評だ。

455×3640ミリサイズのネダレスボード。最大12尺のスパンを1枚で施工可能
 ネダレスボードは、廃木材のチップから造られた3層構造のパーティクルボード。12尺サイズを使用すれば土台と土台、梁と梁の間を1枚のボードで施工することができ、床の水平構面耐力を大幅に向上させることが可能になる。板厚が30ミリあるのでたわみが少なく、床鳴りも発生しにくいほか、接着剤に撥水性のあるワックスを混ぜることで吸水時の厚さ膨張率も4.5%程度に抑えている。
 また、3層のうち中間層は目の粗いチップだけで成形しているが、表面層と裏面層にはさらに目の細かいチップも入れることで密度を上げ、歩行音や物の落下音などの固体伝播音に対する遮音効果を高めているのも大きな特徴。
 廃木材を使った工業製品なので、価格・供給ともに安定しており、エコマークとF☆☆☆☆の認定製品にもなっている。
 施工は3尺グリッドに組んだ大引・梁等にCN75の釘またはCN75の釘と同等以上の強度のビスを150ミリピッチで打ち付ける。
 規格と設計価格は、実付が455×3640ミリ・3000円、455×2730ミリ・2400円、910×1820ミリ・2900円。実なしは910×1820ミリのみで2700円(いずれも税別)。
 問い合わせは島田産業(Tel.011・241・0711、Fax.011・241・0716)へ。

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