平成17年1月5日号から
人と地球の命を守る
100年の耐久性とCO2削減
『提案と信頼』の家づくり

構造と断熱が問われる時代に
 地震や災害が多かった昨年。そのたびに住宅が人の命と財産を守れるか、という点がクローズアップされる。一方で快適な暮らしを送るために住宅内でのエネルギー消費は増え続け、地球温暖化防止京都会議(COP3)の約束であるCO2削減は、このままでは不可能という事態に至っている。安全性と快適性を追い求めるユーザーに、住宅はどのような提案をできるのか。21世紀5年目の今年、「150ミリ断熱とCO2削減」「小屋裏換気を考える」「在来木造の合理化新提案」の3つのキーワードに沿って、ユーザーへの『提案と信頼』の家づくりを考える。

150ミリ断熱とCO2削減
 21世紀に必要な住宅に求められるものとして、さらなる省エネとCO2削減は避けられなくなってきている。平成9年の地球温暖化防止京都会議(COP3)で日本は、2008年から2012年の期間中にCO2など6種類の温室効果ガスを1990年度比で6%削減することが定められたが、現状ではほぼ達成不可能な状況。今後、エネルギー消費量の伸びが顕著な民生部門、特に家庭で使われるエネルギーの削減は至上命題と言える。その中で本紙でこれまで提言してきた150断熱による省エネとCO2削減を、改めて考えてみたい。
 実際に150ミリ断熱と言っても、どれほどの省エネ効果があるのか。現在では旭川など冬の寒さの厳しい地域で、軸間断熱+付加断熱のダブル断熱を標準仕様としているビルダーは存在するが、暖房灯油消費量などの詳しいデータについては現在、手元にないために実態はわからない。それでは何も参考になるものはないのかと言えばそうではない。15~16年前に建てられたR-2000住宅がある。

■R-2000の事例■
年6~7リットルに納まる

 R-2000住宅は、カナダが開発した超高断熱・高気密・省エネルギーのツーバイフォー住宅。断熱性能はツーバイシックス以上(140ミリ断熱)、気密性能は50パスカル時の漏気回数が1.5回/h、暖房・換気はセントラル方式と、現在でもトップレベルの仕様を誇る。ここで提言している150ミリ断熱の参考とするには最適だ。
 弊紙では道内で1988年に5棟、翌年に1棟建設されたR-2000実験住宅のうち4棟を1年前に取材し、ユーザーから暖房灯油消費量をヒアリングするとともに気密測定も行った。その結果、1m2あたりの年間暖房灯油消費量は、現在でもおおよそ6~7リットルに収まっていることがわかった。

コールドルーフ実現へ
小屋裏換気を考える

屋根面の融雪を抑えたベリーコールドルーフ
 寒さとならぶ北海道の住宅の悩み、“スガモリ・落雪障害”が新技術によって徐々に解決してきた。『コールドルーフ』と呼ばれるこの技術は、小屋裏結露を防ぐための換気を一歩進め、屋根の雪を融かさない小屋裏換気によってこう配屋根の無落雪化と無落雪屋根の氷堤解消を実現する。住宅金融公庫の北海道版共通仕様書に記載された『コールドルーフ』実現のための新しい小屋裏換気基準について、基準制定にかかわった道立北方建築総合研究所・鈴木大隆科長に取材するとともに、コールドルーフを実現するための屋根工法を改めてチェックした。

北総研 鈴木科長に聞く 公庫北海道版仕様書の意味


公庫の北海道版共通仕様書に定める小屋裏換気の基準
(クリックで拡大を別窓で表示します)
屋根の雪を融かさない
 公庫の北海道版共通仕様書に定める小屋裏換気の基準を一言で説明すると、全国版の基準よりも多くの換気量を確保する、という1点につきる。軒天有孔板なら全面、積層プラスチック換気部材も軒天に全周設置する。これは全国版の基準と比べ2~3倍の設置量になるが、すでにこの基準をクリアしている住宅も増えている。
 少し詳しく見ていこう。
 小屋裏換気は、小屋裏結露を防ぐとともに夏は温暖地を中心に排熱、冬は積雪寒冷地で屋根面融雪の防止が求められる。そして夏場の排熱や屋根面融雪の防止を図るには、結露防止に必要な換気量よりも多くの換気量が必要になる。
 一方、いくら換気しても天井面から逃げる水蒸気や熱が多ければ、小屋裏結露でさえも防ぐことはできない。躯体の高断熱・高気密化が重要になる。この点は壁の通気層と同じ理屈だ。
 このような視点で見ると、公庫全国版の仕様書には不十分な点もある。道立北方建築総合研究所(北総研)鈴木科長によると問題点は2点。第一は換気部材は開口面積が同じでも通気抵抗によって実際の換気量が変わるが、この点があいまいになっているなど基準設定が不十分。第二に、北海道の基準としては、結露防止だけでなくさまざまな問題の原因である屋根に載せた雪の融雪‐結氷をなくすための基準設定が必要という点だ。
 北海道版の基準は、小屋裏の温度上昇によって屋根の雪が融けるこれまでの小屋裏換気のあり方を見直し、「雪が一定期間以上、屋根に載ったまま融けないようにしよう。そのために小屋裏の温度をできるだけ外気に近づける」(鈴木科長)ことを中心に設定されている。
 外気がプラス温度ならツララはできない。マイナス気温のときに、小屋裏もマイナス温度を維持して融雪・結氷を起こさないようにする狙いだ。
 そのためには空気を動かして熱を捨てなければならない。大きな換気量が必要になる理由はここにある。


軒天の合板をすかした部分
有孔板を軒先に全面張り
 実際に基準を見てみよう。M型屋根(フラット屋根)の場合は、天井見付面積に対し360分の1以上の有効開口面積を確保することとなっている。ここでいう“有効開口面積”とは何か。
 先ほども触れたように、開口面積が同じでも通気抵抗によって実際の換気量は変わってくる。有効開口面積とは通気抵抗を考慮した換気面積をいい、ほとんどの場合、単純な開口面積よりも小さくなる。カタログに有効開口面積が記載されている場合もあるが、ない場合は参考表の23.4.3のように単純な開口面積に係数をかけて有効開口面積を算出する。例えば有孔ボード(孔径5ミリ)の場合、係数は0.15、つまり有効開口面積は単純な開口面積の15%ということになる。
 では軒先にボコボコ穴を開けなければならないのか。詳しくは基準をもとに計算しなければならないが、イメージとして鈴木科長は「有孔ボードを例にいうと、平ボードと有孔ボードを1枚おき交互ではなく、すべて有孔ボードにしてほしい。それ以上の換気措置は不要」としている。積層プラスチック換気部材の場合も同じく全周に回すことになる。


ベリーコールドルーフの詳細
新省エネ以上の躯体性能
 これらの換気基準は躯体の最低限の性能として、新省エネ基準以上の断熱・気密性能を前提としている。同基準よりも熱損失・漏気が多いと、さらに換気量を増やさなければならなくなり、現実的には屋根面融雪を止めることは不可能だ。
 逆に言えば、水こう配程度のフラット屋根や雪止め金具などによるこう配無落雪屋根を設計するには、安全を考えれば次世代基準以上の気密性能(C値で2cm2/m2)と天井・屋根断熱の強化が絶対条件となる。
 断熱に関連する問題として、屋根下地に押出スチレンフォームなどの断熱材を敷き込む工法が多い。この工法は屋根面の温度と通気層内の温度を絶縁する方法としては安全性が高いが、必ずしも必要はないと鈴木科長は語っている。とくに北海道版の換気量基準をクリアすれば、それだけでじゅうぶんに安全であり、絶縁体として断熱材を使うくらいなら、屋根断熱を増やすほうに回してほしいとしている。極寒冷地の旭川でも先進的ビルダーは絶縁のための押出スチレンフォームを使わずにこう配無落雪タイプの屋根を施工し、ツララなどによる障害は発生していない。
 なお、特例もある。道東などのように氷点下の気温でも晴天が続くと、トタン面が暖まることで気温はマイナスでも屋根面の融雪を促進する場合がある。こういう地域では押出スチレンフォームなどによる絶縁は有効だという。

屋根工法と小屋裏換気を見直す
必ず通気層確保

 北海道版の仕様書をベースに、ここからは屋根工法と断熱手法などについて改めて見ていきたい。三角屋根・屋根断熱
30ミリ以上+棟換気併用 屋根通気層を最低でも30ミリ以上、できれば45ミリ確保し、棟換気を併用する。通気層の厚さや通気層そのものの必要性について疑問視する声があるが、鈴木科長は次のように答えている。
 「こう配屋根で無落雪タイプの屋根材を使う場合は、必ず通気層をとってほしい。躯体の断熱性能がどれだけ高くても通気層がなければ屋根材の下地がプラス温度となり、融雪が始まる時間帯がある。その後結氷するとツララなどの障害が発生する。
 また、通気層の厚さは18ミリでいいという考え方があるが、それは間違っている。例えば切妻屋根で北風という条件のとき、通気層が18ミリだと棟換気からの排出量が多いため、風下側の南面では屋根通気が極端に減ってしまう。風下側の通気を確保するためには最低でも30ミリ以上が必要だ」


屋根通気層をとれば非滑雪屋根材を使っても氷堤による障害はない
現場も通気効果を実証
 屋根通気層の効果を証明するこんな実話もある。
 旭川市のある工務店では、昨シーズンの冬、自社事務所を改修したところ、一部分だけに長さ1m以上にも達するツララができてしまったという。“これは間違いなく屋根断熱の断熱欠損だ”と考え、赤外線熱画像装置で天井(屋根)面を撮影したところ、ツララのない屋根とツララができた屋根で断熱性能に差はなかったことがわかった。
 屋根断熱工法を採用して改修する際、すべてに屋根通気層を設置する予定だったが、じつは都合で通気層をとらずに屋根を仕上げた部分があった。ツララが発生したのはこの通気層がない屋根面だったという。
 札幌圏の工務店では軒天からの通気と屋根通気層、棟換気のほかに、いっそう徹底した屋根面の通気対策を行っている例もある。
 屋根の構成は構造たる木に充てん断熱、構造上の野地板、透湿・防水シートの上に通気たる木をとる二重たる木工法とし、その上に押出スチレンフォーム、野地板、そして防水層・屋根材となるが、軒先で構造野地板をすかし、軒天から屋根通気層までの通気をさらに促進させるという工法だ。『屋根面の雪を絶対に融かさない』という考えのこの工法は、ほぼ完ぺきにツララや氷堤による障害を防いでいるという。いわば“ベリー・コールドルーフ”だ。淀には雨樋をつける。
 三角屋根に二重たる木で軒を出すとなれば、工事は相当にたいへんだ。二重たる木ではなく、たる木の中で通気層をとったとしても工事のたいへんさに変わりはない。屋根を地上で組んでクレーンで吊るなどの合理化も考えたいところだ。

フラット・無落雪屋根
改良防水材もポイント

 フラット・無落雪屋根については昨年、住宅保証機構が新たな基準を打ち出し、同機構の保証住宅についてはフラット系屋根を禁止。北海道だけを特例的に認めるという措置を取った。じゅうぶんな設計・施工配慮があればスガモリ事故を避けられるほか、道東や道北で広く普及している点も踏まえ、条件付きで認めることになったもの。

在来木造フラット系無落雪屋根の軒天換気

ツーバイフォー工法M型無落雪屋根の軒天納まりの例
 まずM型無落雪は、住宅金融公庫の仕様書分冊北海道版などとの大きな変更はない。基準の主なポイントは1.屋根板金と横樋とのつかみの部分をしっかり施工する(この部分からのスガモリが多い)2.横樋を途中で継がない 3.横樋まわりと野地下に断熱材を施工する 4.横樋の下は小屋裏換気を妨げないよう高さを確保する 5.縦樋は階下にまっすぐ下ろす(小屋裏等で横引きしない)。
 次にフラットルーフだ。基準は1.材質は塗装溶融亜鉛メッキ鋼板(同等以上の鋼板)2.葺き方は立平葺き(同等以上の防水性能)3.パラペットを設ける場合、立ち上がりは原則水上部で120ミリ以上 4.勾配は100分の5程度以上 5.シーリングは適切な個所に連続して施工 6.天井及び屋根の下部を適切に断熱 7.積雪時に屋根面にたわみが生じないよう根太および下張り合板等の仕様は地域の積雪量に応じたじゅうぶんなものとする―の七点。
 このうちポイントは4.の水勾配と7.のたわみの問題。特にたわみについては、積雪荷重によってたわみが発生してしまうと水勾配がとれなくなるため、たる木や母屋のピッチを十分に検討し、安全な設計をしてほしいとしている。たわみがなければ勾配については水勾配が確保できる程度で設計してよい、という考え方だ。
 このほか小屋裏の換気と天井面の断熱・気密性、継ぎ手の防水材などについては十分に配慮してほしいとしている。

通気確保できる小屋組を
 北海道限定で認められたとは言え、禁止の背景にはスガモリなどの事故多発がある。ハゼに織り込む防水材が改良されたため、しっかりとした施工を行えばスガモリは起きにくくなってはいるが、いちばんの問題は屋根面に小屋裏の暖かさが伝わることだ。原因療法を行うには、躯体の断熱・気密性能を高めて熱の逃げをできるだけ抑えた上で小屋裏換気を促進するしかない。この場合、軒先全周に積層プラスチック換気部材を設置する方法で大きな障害は発生していない。
 一概には言えないが、フラット屋根で障害を起こすのはツーバイフォー工法が多いようだ。これは小屋裏スペースがとれる工法に変更しない限り、たる木の間では小屋裏の通気がとりにくいことに原因があると見られる。
 300ミリ以上の断熱を確保した上で通気層をとるには、小屋組の改良が必要となる。

在来で使用するTJI
在来木造の合理化新提案

TJIをフラット屋根のたる木に利用した在来木造
 ツーバイフォー住宅では、木やせによるクレーム防止や供給量・価格が不安定なランバーの代替品として、木質I型梁(以下TJI)を床根太などに採用するビルダーが増えているが、在来木造でもその安定した品質や優れた強度などに着目して屋根たる木や床根太に採用するケースが徐々に増えている。ここでは在来木造におけるTJIの活用法について見ていきたい。

安定した品質が魅力
 TJIは、ウェブと呼ぶ構造用合板やOSBの上下に、フランジと呼ぶ38~58ミリ×38ミリサイズのLVL等を組み付けたI形状のエンジニアードウッド。同じサイズのランバーと比べて寸法安定性や強度に優れ、軽量で取り回しも良いといった特徴があるが、コスト的にはランバーよりも割高になるため、これまでは標準仕様として採用されることは少なかった。
 しかし、ランバーの供給量や価格が安定せず、木やせによる床鳴りやクロスのしわが発生することがあるなど品質面でも課題があったことから、ツーバイビルダーで採用が広まり、価格についても全国的に代理店の整備が進んだことによって、かつての割高感は薄れつつある。また、木やせによる建具の調整などにかかる手間暇や職人の人件費が解消されるため、コストアップ分は吸収できるというビルダーもいる。
 このように普及へ向けた環境整備が進んだことで、TJIの採用を積極的にアピールするビルダーも現れており、自社の仕様にうまく取り込むことで品質の安定化や差別化につなげられる可能性も見えてきた。


TJIを使った在来木造の床組
床剛性向上に効果
 TJIはツーバイでの採用が目立つものの、在来木造でも床根太や屋根たる木に使用可能だ。
 床根太に使う場合はツーバイ同様に床鳴り防止に効果的なほか、梁背が大きいサイズを使用したり、1間間隔で転び止めを施工することによって床剛性を上げることが可能になることから、床のバウンド感や2階からの振動音の低減も期待できる。また、床をプラットフォームで施工する場合、2階床は梁に欠き込みを入れて根太を同面で入れる仕様にすると、梁の強度低下や音の響きが心配となるが、それらの不安を解消するため、TJIを303ミリまたは455ミリピッチで梁間に入れた上に厚手の構造用合板を直張りする施工例も見受けられる。
 さらにビルダーによってはスパンを飛ばすのに利用するケースもあるほか、国内では最大11.8mの製品が在庫されていることもあり、長物を使えば端から端までつなぎのない連続梁となるので施工も簡略化できる。


転び止めなどTJIと接する部材は必ずエンジニアードウッドを使う
多雪地域で屋根強化
 屋根たる木としての使用は、在来での施工もツーバイとほとんど変わらないが、特に多雪地域においては屋根廻りの剛性を高めるのに有効だ。
 積雪荷重にある程度余裕を持って対応できるようにするためには、2×12サイズのランバーなどを屋根たる木に使う必要があるが、ランバーはやせや狂いが大きいことを考えると、梁背286ミリ以上のサイズのTJIが有力になる。また、天窓を設置する時には、ランバーのたる木を使うと窓周辺のクロスが切れたり、しわが寄ることもあるが、TJIを使用することでこれらの不具合を抑えることができる。
 施工上の注意点として、TJIを受ける梁や桁などは必ず集成材やLVLなどのエンジニアードウッドを使うことが挙げられる。梁や桁などに無垢材を使った場合、エンジニアードウッドであるTJIとは寸法安定性に違いがあるため、構造上の問題が発生する可能性もある。
 このほかにも、換気システムのダクト配管や給水給湯配管を通すための穴をいくつか開ける時、穴の間隔は隣り合う穴の最大径の2倍以上取ることが必要だ。

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