平成16年5月5日号から
自然の力を有効利用
秋田・鷹巣町 ミサワハウス 独自の地域型住宅を提案へ

地元の住宅展示場に建てられたモデルハウス。屋根にパッシブ換気の排気塔が見える
 (有)ミサワハウス(秋田県鷹巣町、三沢正悦社長)では、内外温度差を利用して換気を行うパッシブ換気や、磁場の改善とマイナスイオン効果が期待できる埋炭などを標準採用。地場産材の活用を含め、地場資源や土地の持つエネルギーを積極的に利用することにより、環境と健康に配慮した住宅づくりを進めている。


地熱融雪のパイピングを行っている現場
パッシブ技術を導入
 同社では、16年ほど前からSHS工法を採用し、地元・鷹巣町で高断熱・高気密住宅を提供してきたが、換気システムのメンテにかかる負担軽減や省エネ化を図るためには、自然の力をうまく利用することが必要と考え、3年前からパッシブ換気を全棟標準採用した。道立北方建築総合研究所の仕様に準じたパッシブ換気の施工は、東北では同社だけという。
 同社のパッシブ換気は、150φの塩ビパイプ二本を通して新鮮外気を基礎断熱した床下空間に導入し、放熱器で温めて一階へは床面のガラリから、2階へは1階間仕切り壁内と1階天井ふところを経由して床ガラリから給気、汚染空気は屋根に設置した排気塔から排出する。
 新鮮外気を床下に取り入れる塩ビパイプは、道内では一部分を地中に埋設して地熱を利用する例が多いが、同社では鷹巣町は道内ほど冬の寒さが厳しくないことや、湿度が高くなる夏期には管内の結露が心配なことを考慮し、直接布基礎に塩ビパイプを貫通。地熱利用はできないが、押さえコンクリートの厚さを地元で標準的な50ミリから120ミリに増やし、その下に押出スチレンフォームB3種30ミリを全面に敷いて基礎部分の蓄熱性を向上させ、床下暖房の熱量を有効利用している。
 床下や間仕切り、天井ふところが換気経路となるため、土台と大引は室内空気汚染の心配がある防腐処理が不要なヒバ材、他の構造材や床・壁の下地材なども全てF☆☆☆☆対応品とすることで空気質を維持。建築基準法では通年でパッシブ換気のみの換気対策は認められていないため、トイレやユーティリティーなどに0.5回/時の換気回数を確保できるパイプファンを複数設置し、ユーザーには室内外の温度差が大きい冬期はパッシブ換気、室内外の温度差が小さい夏期や暖房端境期はパイプファン併用のハイブリッド換気とするよう説明している。
 また、同じパッシブ技術として、アプローチ部分の地熱融雪もオプションで施工している。これは地下水の熱を地表まで伝える液体が入った特殊パイプ数十本を、地表から3メートル程度の深さまで埋設することで実現。舗装部分が完全に乾くのは難しいが、雪をシャーベット状にすることは可能であるため、除雪負担の軽減に効果的とのこと。



埋炭の様子

腰壁に使われている秋田杉
地場産材を積極活用
 埋炭は6年ほど前から行っており、40坪程度の住宅であれば敷地に直径1.2~1.5メートルの穴を3つ掘り、地元のナラ炭を粉炭にしたものを1穴につき1トン埋設。地中を走る微電流が粉炭と接触することで磁場エネルギーが増加し、その結果、マイナスイオンが地中と地上に補給され、居住者の健康や植物の育成促進、水・空気の浄化などの効果が期待できる。
 ナラ炭以外にも柱を中心に構造材の七割には秋田杉を使うなど、地場産材の利用にも積極的。真壁として秋田杉の柱を積極的に現しにしているほか、腰壁にもデザイン上のアクセントとして使用する。
 また、地元・鷹巣町で採掘される珪藻土を内外装に使用するため、現在、同町の工務店や建材店、左官業者などが集まり、地場産珪藻土の強度やクラックなどを検証。地元商工会ともタイアップし、鷹巣町型住宅として提案する意向だ。
 同社の三沢社長は「これからもパッシブをキーワードに、自然のエネルギーや天然素材をできる限り多く取り入れることで、住まう人と環境に優しい住宅を造っていきたい」と話している。
製品プロフィール ※価格は全て税抜
製品名 アエレコ湿度感知制御型自然換気口
(GNH-792JA)
部位等 排気グリル
価格 14,300円/個
問い合わせ ハウスプロジェクト
秋田県北秋田郡田代町長坂字下岱
78-1
0186-47-3300
製品名 アクアネスト40/80
部位等 床ガラリ
価格 1,000円/枚
問い合わせ ジェイベック(株)
札幌市東区東苗穂1条2丁目3-9
011-781-8201
http://www.jbeck.co.jp/
工法名 トップホッド
部位等 排気塔の頭部
価格 14,000円/個
問い合わせ ジェイベック(株)
札幌市東区東苗穂1条2丁目3-9
011-781-8201
http://www.jbeck.co.jp/
製品名 サイレンサー
部位等 欄間のガラリ
価格 5,500円/個
問い合わせ ジェイベック(株)
札幌市東区東苗穂1条2丁目3-9
011-781-8201
http://www.jbeck.co.jp/
製品名 秋田杉
部位等 柱・腰壁など
価格 2,500円/本
(3.65m・105角の柱。
ミサワハウスにおける実行価格)
問い合わせ ?高橋材木店
秋田県北秋田郡鷹巣町
綴子字蟹子沢38-2
0186-62-1478
工法名 ナラ炭
部位等 地盤
価格 1,000円/10?
(ミサワハウスの実行価格)
問い合わせ (有)丸徳建材店
秋田県北秋田郡鷹巣町米代町2-29
0186-62-1370


北総研庁舎





人間を中心とした省エネ
道外断協講演会 鈴木科長 北総研庁舎を語る

鈴木科長
 北海道外断熱建築協議会(荒谷登会長)では、去る4月22日、札幌ホテルリラで総会と講演会を開催。講演会では道立北方建築総合研究所居住環境科長の鈴木大隆氏が「北方建築総合研究所の環境負荷低減技術と性能検証」と題して、(財)建築・省エネルギー機構主催による第10回環境・省エネルギー賞の国土交通大臣賞を受賞した同研究所庁舎の運用状況や省エネ効果等について報告を行った。講演要旨は次の通り。

気候考えた建物配置
 旭川の新庁舎で自慢できるコンセプトが、『人間中心の建物である』ということ。建物のエネルギーの運用方法全てを人間がコントロールすることができる。これを私たちは、あるボタンを押せば全て連動して自動的に調整してくれる『オート』に対して、『ヒューマンセンター』と呼んでいる。また、ハイテクではなく、ローテクで建物を構成することにより、何かトラブルが起きても、地場の技術だけで直せるようになっている。

壁・天井の仕上げ材にほたて漆喰を混ぜて多孔質性を持たせた
 庁舎の形状は基本計画の中で検討を重ねて決められたもので、間口8メートル、長さ80メートルの研究棟と実験棟、それらの中間に位置する幅10メートルのアトリウムで構成されている。庁舎全体は南から西側に30度傾け、南南西を向いているが、これは夏の間に南南西の風がよく吹くことを考慮した。風を正面から受ける形にすると、建物に入ってきた風が上に抜けて、熱気の排出に有効になるからだ。
 また、人間は昼光利用が始まる時間に西側に向いていると日差しに鈍感になるので、建物を西側に向ければロールブラインドを下げることも少なくなるだろうと考えた。昼光利用を行う多くの建物は、日中に日射遮へいできているにもかかわらず、ロールブラインドを閉めっぱなしにしているケースが多いが、この庁舎ではロールブラインドの使用率が高くないことを見ると、建物を南南西に向けるという試みはうまくいったのではないかと思っている。


管理研究棟の庇は鋼板外装から浮かせて取り付けているため、高窓の掃除がしやすく、雨の跳ね返りも少ない
白熱球色使い照明エネ低減
 自然光利用を考え、管理研究棟の外壁には夏期の日射を遮り、冬期に積雪の反射光を取り入れる庇が付いている。庇は支持部材を介して鋼板外装材から浮かせてあるので、鋼板外装材との隙間からモップで高窓の掃除もできるようになっているし、庇に当たった雨の跳ね返りによる窓の汚れも少ない。
 照明に関してはエネルギーの低減が非常にうまくいっているが、照明エネ低減に関して一番悩んだのは不必要な照明をいかに消すかということだった。特に自動調光の照明は必要ない時でも必ず少しは明かりが付いており、電気を無駄に使っている。そこで不快な色の照明を使えば誰かが消すのではないかというアドバイスを得て、白熱球色の明かりを採用した。夜は非常に穏やかな光になり、省エネと同時に温かみという効果も得られている。ただし、夜は自動調光の制御が難しく、実際にどの部分の照度を感知して調光しているのかよくわからない。もっとうまくコントロールできるようにすることが今後の課題だ。
 アトリウムの屋根面は、冬期は雪がたくさん積もり、採光効果がなくなるのではないかと言われていたが、雪が積もれば断熱材の役割を果たしてアトリウム内を保温、日が射せば室内からの熱も加わって2日もあれば融けてしまう。

暖房は1台連続運転
 暖房は管理研究棟の窓下に設置した温水パネルによる輻射暖房と、導入外気を地階の温水コイルで温めてから床下を通して室内に送る温風暖房の二通りで行える。移転当初は温風暖房を主としていたが、現在では輻射暖房をメインとすることで、以前より暖房エネ消費量を抑えられるようになってきた。
 一つの試みとして昨年12月から40万キロカロリーのボイラー2台の交互運転を止めて、1台による連続運転を2ヵ月やってみた。2台交互運転はボイラーの耐久性を考えてのことだと言われているが、実際に効果があるのかはよくわからない。二台交互運転の時は、燃焼効率五〇%を切っていたが、一台の連続運転では同50%を上回る状態になり、ひと冬過ぎてみれば累積ガス消費量は約3割減っていた。
 運転方式でこれだけ変わるのであれば、まだほかにも無駄な部分があるのではないかと思っている。


アイスシェルター内部の様子

管理研究棟と実験棟をつなぐアトリウム
体感効果高い氷冷房
 夏期は自然通風と躯体蓄冷に加え、真夏になると窓下の温水パネルに19~20℃の冷水を通す。若干結露するが問題ないレベルだと思う。さらに暑い時には100トンの氷を製氷・貯蔵したアイスシェルターの空気を夜10時から朝の3時くらいまで導入していた。
 昨年は外気温が日中で約30℃、夜間で約20℃の時、管理研究棟の3階の室温は1時30℃を超えることもあったが、パネル冷房を使うと30℃以下になり、アイスシェルターの冷気導入でさらに下げることができた。アイスシェルターで除湿された12~15℃の冷気が床のスリットから出てきて床面を流れるのは、体感的に非常に効果がある。
 換気はアトリウム空間のドラフト効果を利用したパッシブ換気を行っており、内外温度差20℃の時に1時間当たり2500立方メートル程度の換気量を確保している。庁舎内にいる人間は50~60人程度なので、十分まかなえると考えている。


北総研とその他の庁舎の年間運用エネルギー消費量
エネ消費は一般庁舎の半分
 これらのシステムや工夫によって、庁舎で使われる年間運用エネルギー消費量は、一次エネルギー(※)換算で官庁一般庁舎のほぼ半分である625メガジュール/平方メートルとなっている。ガラス面積の多さと独特の建築形態によって暖房エネルギーは増加しているが、それと引き換えに冷房や照明などのエネルギーを大幅に削減しており、当初想定した通りの省エネ効果を実現した。
           *         *
※1次エネルギー…石油(原油)・天然ガス・石炭・原子力・水力など自然界に存在し、加工や変換を行う前のエネルギーを指す。私たちが普段、光熱費としてとらえている灯油、都市ガス、電力などは2次エネルギーと呼ぶ。

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