平成16年2月15日号から
指針値引き下げの動き
アセトアルデヒド
 昨年7月の改正建築基準法、いわゆるシックハウス新法の施行と前後して、アセトアルデヒドが厚生労働省の指針値をオーバーしている実態を紹介したが、政府では最近、アセトアルデヒドの指針値を変更し、ハードルそのものを下げてしまおうという動きが見られる。その第一弾として国土交通省からこのほど、住宅性能表示制度に定められている「室内空気中の化学物質の濃度等」の測定物質からアセトアルデヒドを除外する変更案を公表した。
 今回はアセトアルデヒドの指針値をめぐる問題について、その背景を探った。


アセトアルデヒドは二日酔いの有力な
原因の一つと考えられているが…。
まず国交省が対応
性能表示基準からアセト削除

 国土交通省が示した住宅性能表示制度の基準変更案はこうだ。
 これまで性能表示制度では、「室内空気中の化学物質の濃度等」の測定対象物質として、ホルムアルデヒドのほかトルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、アセトアルデヒドの六物質を定めていたが、この中からアセトアルデヒドを除外してホルムアルデヒド以下五物質にするというもの。ホルムアルデヒド以外の物質の測定は、これまで通り任意選択。
 WHOが1999年(平成11年)に発表した室内環境ガイドラインのアセトアルデヒドの指針値50マイクログラム/立方メートルという数値について、林野庁が昨年11月、WHOに算出根拠を問い合わせたところ、50マイクログラム/立方メートルは間違いで、300マイクログラム/立方メートルが正しいことが判明。これを受けて厚労省でも指針値再検討の準備に着手した。
 国交省では、こうした状況の中でアセトアルデヒドの濃度表示を続けていくことは、ビルダーや消費者の混乱につながることが予想されるとの理由で、測定対象物質から当面の間、アセトアルデヒドを除外する考えだ。
 今回の変更案に関する資料は、国交省のホームページのほか、国交省窓口や郵送でも入手可能。意見募集は三月三日までFAX・郵送・電子メールで受け付けている。問い合わせは同省住宅局住宅生産課パブリックコメント担当( 〒100-8918、東京都千代田区霞が関2-1-3、Tel.03・5253・8111、内線39426、Fax.03・5253・1629、E-mail:seisan@mlit.go.jp)へ。

(参考)室内濃度が指針値を超過した新築住宅の割合
化学物質
ホルムアルデヒド
トルエン
アセトアルデヒド
指針値
日本 0.08ppm
日本 0.07ppm
日本 0.03ppm
WHO 0.17ppm
12年度
28.7%
13.6%
13年度
13.3%
6.4%
14年度
7.1%
4.8%
9.2%
※室内空気中の化学物質濃度の実態調査(平成14年度)より
 アセトアルデヒドの実態調査は、平成14年度から実施
6倍も甘くなる?
その理由はWHOのミス?
 国交省は変更理由の中で、WHO(世界保健機関)の間違いを理由に挙げている。その間違いとは、簡単にいうとWHOがアセトアルデヒドの許容濃度を本来300マイクログラム/立方メートルとすべきところ、間違って50マイクログラム/立方メートルと記載していたという内容だ。
 いま現在、日本の指針値はWHOが間違いだったとする50マイクログラム/立方メートルとほぼ同じ48マイクログラム/立方メートル。48または50マイクログラム/立方メートルは、気中濃度で0.03ppm、300マイクログラムなら0.17ppmとなり、この値が新しい指針値になるなら、アセトアルデヒドの指針値をオーバーしていた住宅もほとんどがクリアできるハードルのレベルということになる。
 当然、現状追認の基準引き下げではないか、という疑惑がわいてくる。

人体影響はどうか
現状追認ではないのか

 まず、人体に与える影響から見ていきたい。公衆衛生の専門家によると、健康な一般的成人であれば、50マイクログラムでも300マイクログラムでもすぐに健康を害すレベルではないという。住宅内ではなく作業環境ではWHO許容濃度(300マイクログラム)と比べても300倍も濃度が高い90ミリグラムが許容濃度と定められており、ラットによる実験からはさらに高濃度の270ミリグラムが許容濃度とされている。50マイクログラムというレベルは、これに安全係数をかけた値であり、相当の安全を見た値であると言えるのだそうだ。
 しかし、問題は二つある。まず一つは幼児も暮らす住宅など室内環境の基準として、本当に300マイクログラムでいいのか、という点。もう一点は、WHOの数値は本当にただの間違いなのかという点だ。
 一点目の幼児や化学物質に過敏な人に対して安全なのかという点については、これからの専門家の議論を待たなければならない。
 問題はもう一点目のWHOの件だ。そもそも“WHOの間違い”を指摘したのは、厚労省ではなく、なぜ林野庁なのか。その不自然さは、集成材など接着剤を使う木質建材業界と近い関係にある同庁の立場とあわせて考えると、どうも素直に受け止められない。
 また本当にWHOに間違いがあったのか、それが日本の国内指針値に影響を与える内容なのか、という点についても相当の専門家以外には確かめようがない。
 仮にWHOに間違いがあったとしても、厚労省が策定した国内の指針値は、先に説明したラット実験からの許容濃度=270ミリグラムから安全係数をかけて算出されたもの。WHOが安全係数についての見直しをしたというなら話は別だが、そうでない限り、指針値の根拠はしっかりしており、簡単に変わるものではないはずと専門家は指摘している。


変更には十分な説明が必要

 ただ、現状にあわせて基準値や指針値のハードルが低くなるという例は別に珍しいことでもないとも言う。仮にそうだとしても、政府はハードルを下げる根拠と、それによる健康への影響などについて、国民に十分な説明をする責任があるだろう。

アセトアルデヒドの用途(化学物質の環境リスク評価、環境省資料):酢酸、過酢酸、無水酢酸、酢酸エチル、ラクトニトリル、ポリアセトアルデヒド、ペンタエリスリトール、エチルアルコール、アクロレイン、パラアルデヒド等の製造原料、魚の防腐剤、防カビ剤、写真現像用、燃料配合剤、溶剤(硫黄、ヨウ化リンなど)、還元剤、医療用、香料等


アセトアルデヒドの経時変化を測定したグラフ。濃度が厚生労働省の指針値の3倍以上になると、適切な換気を行っていても指針値以下になるのに4~6カ月かかる
(北見工大・坂本教授の資料より)

アロエ化石の塗り壁
斜里・丹羽工務店 一発塗り可能でローコスト

吹き抜けの階段の壁に施工した例。
子供が自由に描いた絵の跡をそのまま残している
 (有)丹羽工務店(斜里町、丹羽豊成社長)では、6500万年前のアロエの化石を主成分とし、調湿効果やホルムアルデヒド吸着機能を持つ内装用塗り壁材・ダイアトーマス(発売元・ハルモリック(株))を昨年春から採用。健康性の高さに加え、簡単・ローコストな施工で室内の意匠性を高められることから、ユーザーに好評だ。
 同社では住宅需要が減少する中、これからはユーザーにインパクトを与えられる建材によって他社との差別化を図る必要があると考え、室内のデザインにアクセントを付けられる健康建材系の塗り壁材の採用を検討。様々な製品が市販されている中で、コストが安く、クロスの上からでも一発仕上げができるなど施工が簡単なことから、ダイアトーマスの採用を決めたという。
 ダイアトーマスは、アメリカの外科医が主にギブスの材料として使っていた素材を元に塗り壁用として開発されたもので、アロエの化石が主成分。体積の85%を占める細孔によって調湿性に優れ、有害な化学物質もほとんど放散せず、水溶性なので廃棄時の環境負荷も少ない。
 施工は新築の場合、ジョイント処理を行った石膏ボード下地に、下地の色が見えない程度の厚さで1回塗りするだけ。シーラー処理などは不要だ。材料はすでに練られた状態で納品されるので、現場で下準備をする必要がなく、接着性が高いのでリフォームではクロスの上から直接塗ることもできる。キズができても上塗りだけで補修でき、汚れは中性洗剤を含んだスポンジで落とせるのでメンテも容易。

材工で2000円/平方メートル
仕上げも様々な提案可能

 同社ではこれまで7軒の新築物件で、吹き抜けや床の間、トイレの壁などに部分的に使用。それぞれ仕上げは金ゴテ押さえや櫛引きなど4パターンほど行っており、材料に砂を混ぜてラフな仕上がりにすることもあるそうだ。実行価格は材工で平方メートル当たり2000円と、一般的な珪藻土の塗り壁材よりもローコスト。現場見学会に訪れたユーザーからは「室内全面に使いたい」という声も聞かれたという。
 同社の丹羽豊文専務は「コストをかけず、簡単な施工で室内のデザインに個性を出せるのが大きな魅力。同じ種類の外装仕上げ用塗り壁材も販売されているので、今後はそちらも試してみたい」と話している。

ダイアトーマスを使った間仕切壁を
デザイン上のアクセントとして使った室内


製品プロフィール
製品名 ダイアトーマス
部位等 内装仕上げ
価格 2,000円前後/平方メートル
(丹羽工務店における材工での実行価格)
問い合わせ ハルモリック(株)
静岡県静岡市清水楠152-1
0543-48-1111

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