平成16年1月15日号から
地震に強い家づくり
十勝沖地震の被害分析から

液状化で傾いた札幌市清田区の住宅。北(裏側)へ約38センチ傾いた。このあたりは札幌北部と異なり泥炭ではないが、沢を埋め立てもともと地下水位が高い砂地盤だったことが原因と考えられている。なお、地盤が液状化を起こす可能性があるかどうかは、きちんとボーリングを行って地盤解析を行うしかないが、戸建住宅レベルで行うのは難しいという
 昨年9月26日に発生した「平成15年十勝沖地震」は、マグニチュード8.0、最大震度6弱を記録し、北海道内の広範囲にわたり大きな被害をもたらした。昨年は東北地方でも大きな地震が発生するなど、このところ日本列島は大型の地震にたびたび襲われている。阪神・淡路大震災を契機に建築基準法が大きく改正されたが、耐震設計はだいじょうぶか。被害地域からの現場の声をもとに、地震に強い家づくりを特集した。

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◆被害概要◆

2003十勝沖地震の震源地と被害の大きかった地域
軟弱地盤と老朽化
十勝少なく日高・釧路多い

 十勝沖地震の被害は、日高・十勝・釧路管内を中心に札幌など広範囲にわたっているが、住宅被害は日高管内の約850棟、釧路管内の約790棟に集中し、両管内で8割を占めている(道庁まとめ)。
 この結果について道立北方建築総合研究所(北総研)では、1.地盤が泥炭層で揺れが大きい2.住宅が老朽化している3.以前の地震の被害をしっかり直していなかった―ことが主な原因とみている。実際、比較的新しい住宅の全壊・半壊の被害はほとんど確認されていない。
 十勝管内で住宅被害が少なかった理由はハッキリしない。人口集中地区の帯広で揺れが小さかったこともあるだろうが、住宅の耐震性が高い建物が多かったとも考えられる。いずれにしても十勝の住宅が西隣の日高や東隣の釧路に比べ被害が少なかったことは、地域の工務店とユーザーの意識の高さの現れとも言える。これは、地震後すぐに被害調査を行った工務店が十勝では日高・釧路よりたくさんいたことからもうかがえる。
 新しい住宅に大きな被害がなかったとは言え、地震被害が発生した地域のビルダーは、各社が施工した住宅の点検などを通じて被害状況の調査、分析と対策をはじめている。
 キーワードは北総研の報告にもあるとおり、1.地盤と2.建物の状態だ。



◆基礎(泥炭層)◆

支持地盤まで届かない摩擦杭は結果的に不同沈下を招いたケースが多いという


住宅金融公庫の工事共通仕様書に掲載されているべた基礎の詳細。構造計算が必要になる、コストが上がるなど難しい面もあるが、地震による不同沈下を想定すると、ユーザーにとって決して高いものにはならない
摩擦杭で不同沈下
べた基礎の被害が少ない

 軟弱地盤が原因と考えられる不同沈下は、十勝管内豊頃町では団地まるごと起きている例もあるが、隣家が傾いていないのに傾いている家もあり、単純ではない。
 豊頃町などの場合、軟弱な泥炭層が20~30メートルにも及んでおり、古くは丸太をいかだ状に組んでその上に住宅を乗せた。池の上にハスの葉っぱを載せたようなこの構造は、実は地震に非常に強いことがわかった。
 この地域で杭を打つ場合、20~30メートル下の支持地盤まで届く杭を打つことは住宅では難しく、6~7メートルの摩擦杭を打つことになるが、このケースは不同沈下を起こしている例が多い。杭が効いた部分と効かなかった部分があるためと考えられる。
 一方、いかだ組みと同じような構造の耐圧板によるべた基礎は不同沈下を起こしていない例が多い。揺れが収まったときには元通り泥炭層の上に浮かんでいるからだ。
 これらの分析から、泥炭層が厚い地域は今後、耐圧板基礎とし、スラブはダブル配筋の200ミリ厚以上にすべきだと語る関係者も多い。
 摩擦杭の問題は専門家も危険性を指摘している。摩擦杭とはいうが実際は杭の突起部分が地中に食い込むことで支える構造になっており、数を多く打たないと沈下にバラツキが出て、結果として不同沈下となる危険性が高いという。
 また万が一、傾きが発生したときは、既存の基礎を壊して上屋をジャッキアップし、新たに基礎を打たなければならないのに対し、べた基礎の場合は上屋の荷重が均等なら不同沈下しにくいし、仮に不同沈下を起こしても修正は簡単だという。


上下とも「釘」が危ない!(保坂貴司著、エクスナレッジ刊)から


◆上屋の被害◆
面材と釘で決まる
壁量足りないとクロス亀裂も

 木造躯体に関しては、正しく施工されている限り、大きな被害は発生していないようだ。地震の多い地域なので、ユーザー・ビルダーともに意識が高いというとも言える。細かく見ていくと、在来木造についてはまとまった報告がないが、ツーバイフォーに関しては十勝のビルダーの調査から次のようなことがわかっている。
 まず、筋交い併用で外壁下地にシージングボードを使った十年以上前の仕様の住宅は、ボードの切れ目でクロスが切れるなどの被害が出ている。ただ釘頭が飛び出すなどの大きな被害にはなっていない。一方、外壁下地に構造用合板を使った最近の仕様ではクロスの切れも起きておらず、内装下地石膏ボードをビス止めした住宅では、躯体の被害はまったく起きていない。
 これらの例から、教科書通りではあるが施工時のボードの張り方と釘、そして面材が極めて重要であることがわかった。そして、どの工法でも、ムリのない設計をすることが安全への第一歩であることを示唆している。

地震対策と耐震強化
 今回の地震を教訓に、在来木造とツーバイフォー、そして既存住宅の改修に分けて、専門家が提案する補強を中心に地震に強い家づくりを見ていきたい。



中間仕切のZマークホールダウン金物と筋かい


制振構造・ジーバは、筋かい端部に衝撃吸収ダンパーを仕込む
◆在来木造◆
面材が最も効果的
筋かいなら2ッ割に金物

 まず在来木造だが、ツーバイフォーとは異なり床のプラットホームをつくることが難しく、屋根面も固めにくいという違いがあるが、それでも耐震性強化のためには壁に面材を採用すべきだと構造の専門家は指摘している。
 この場合、筋かいと壁面材を併用することがあるが、例えば同じ2.5倍でも、体感上の強度は合板の2.5倍とは違うと言う。端的に言えば、筋かい併用は地震の時の揺れが大きい、技術的には変形が均一化しない。一方、外壁下地と内装下地両方に耐力壁となる面材を使う場合は、こういう問題は起きない。面材同士は足し算でOK、面材と筋かいは足し算にはならない。面材と筋かいはそれぞれ別の特性を持っているので、強化の方向は併用ではなく、筋かいなら筋かいそのものの強化を考えるべきだ。
 筋かいは2ッ割を使ってプレート金物などで強化する。3ッ割では接合部がいかれる前に筋かいがもたないケースがあるという。2ッ割にプレート金物を併用すると、面材にも負けない耐力となるが、北海道の場合、別の問題として断熱材をどうやって充てんするかという頭の痛い問題がある。そうすると、結局振り出しに戻って面材を使ったほうがいいということになる。
 なお、地震時の浮き上がりを抑えるホールダウン金物は、なるべく設置数を減らしたいというのが現場の本音だろう。耐震性という面から見ると単純な長方形平面が多い北海道では、四隅にホールダウンをつけることがまず重要。面材を張った壁なら、強度はじゅうぶんだと専門家は指摘している。もちろん法律上はホールダウンが増える場合もある。

制振・免震
在来木造の制震構造を60万円で

 最後に面材や筋かいを使った強度アップとは異なる“免震”について触れておきたい。
 木造住宅の場合、免震といってもあまりなじみがなく、工法的にも基礎部分に設置したベアリングで揺れを受けダンパーで揺れを収めるといった大がかりなものになる。これに対し、このほど開発された在来木造専用の制振構造「ジーバ・WSD工法」は、筋かい端部に衝撃吸収ダンパーを仕込み、揺れを受け流すというもの。価格も一棟分で60万円程度、免震構造と比べ破格に安い。新築はもちろんだが、構造的に弱い既存建物の改修に効果的と開発元では言っている。
◆ツーバイ◆

ツーバイフォーは釘打ちが特に重要
釘類の太さに注意
釘頭をメリ込ませない

 ツーバイフォーについては、施工時のボードの張り方と釘のピッチ、そして面材が重要になる。筋かいの併用はやめ、合板類で壁量を確保したほうがよい。
 ここで特に大切なのは面材を留める釘。釘が効いていないと力が伝わらない。品質そのものの問題もあるが、大切なのはその太さ。施工上はピッチと釘頭だ。
 釘は第一にせん断力に抵抗することが求められる。このため胴径が一番重要。径が半分になると強度は8分の1に低下する(3乗に比例)。
 施工上は釘頭をめり込ませないことが大切。ただ、ネイラーで打ち込むとなかなか力を加減できないという面もある。そういう意味では、釘と同等以上の胴径と釘頭をもつ改良型ビスを使ったほうが安全だが、径が小さいと引き抜きには抵抗できても肝心なせん断には抵抗できないので、十分に注意が必要。ビスの径はネジ山ではなく、谷で見ること。
◆既存住宅◆
まずは耐震診断
壁量増設と接合部の強化


J建築システム手塚純一社長
 在来木造住宅の耐震改修でまず大切なのは、どの部位がどの程度劣化しているのか、そしてそこにどのような補修を行えばいいのかを判断するための耐震診断を行うこと。これがしっかりしていないと、適切な補強計画がたてられない。
 耐震診断と改修方法について、J建築システム(株)社長で、工博でもある手塚純一氏は次のように語っている。
 計画段階で、地震が起こった時、建物全体にどんな力が働き、各部位・部材がどんな抵抗をするのか、部材同士の接点などは大丈夫なのかといったことを力学的に評価する必要がある。
 また、現在の建築基準法を満たす構造計画になっているかどうか、構造計算によって裏付けを取ることも必要。目視や打診、結露によるシミの有無などによって状態を把握するのはもちろんのこと、できれば適切な評価ができる設計事務所等や耐震診断ソフトを利用したい。

一間半の開口なら補強必要
 例えば現行の耐震規定(新耐震設計法)が定められる前に建てられた昭和56年以前の住宅の場合、南面に一間半の開口部があり、その両側が袖壁程度であれば、まず南面外壁部分を補強する必要があると思っていい。どのように補強するかは耐震診断によって決定する。
 具体的な改修方法としては、1.壁量の増設と2.軸組接合部の強化が挙げられる。壁量を増やすには、面材を軸組に張る方法と、筋交いを入れる方法があるが、面材を張るほうが施工しやすく、釘も留めやすい。面材を張ることで壁体内が密閉状態になり、内部結露等が心配なら、筋交いを入れることになるが、仕口などの納まりが複雑になり施工しにくいのが難点。
 また、箱型や門型の木製フレームで開口部を耐力壁化する工法(J-耐震開口フレーム・J建築システム開発)もある。開口部の機能を損なわずに耐震補強できるほか、耐震改修と同時に間仕切り壁を撤去して大きな空間を作る場合には、間仕切り壁のあったところに設置することで空間の歪みを防止できる。
 軸組接合部の強化は、Zマーク表示金物などの既存金物を利用する。ただし、取り付ける部分の木材の劣化状況によっては、金物がほとんど効かない、または時間とともに効き目が薄れるということもある。その場合、アラミド繊維シートや変形の平金物を使うやり方もあるが、どの方法で行うかは設計者が耐震診断に基づいて判断する。

軸組内側に木製のフレームを設置して開口部を耐力壁化する
「J-耐振開口フレーム」。新築・増改築問わず高い効果が得られる
軸組内側に木製のフレームを設置して開口部を耐力壁化する「J-耐振開口フレーム」。新築・増改築問わず高い効果が得られる

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