平成15年11月5日号から
全壊60棟、半壊81棟、日高に集中
平成15年十勝沖地震住宅被害
 今年9月26日に発生した「平成15年十勝沖地震」は、マグニチュード8.0、最大震度6弱を記録し、道内の広範囲にわたり大きな被害をもたらした。特に日高管内では浦河町と静内町を中心に、全道の住宅被害棟数の約半数に当たる700棟以上の住宅に被害が出ており、住宅に限れば地震の影響を最も受けた地域となった(10月17日現在、道庁まとめ)。これについて道立北方建築総合研究所(北総研)では、地盤が泥炭層で揺れが大きく、老朽化した住宅や、以前の地震の被害をしっかり直していなかった住宅が多かったのではないかと推測している。

地震で大きく傾いた日高地方の古い住宅(写真提供:北総研)
軟弱地盤と老朽化
構造材腐朽で全壊の住宅も

 今回の十勝沖地震は、道内で戦後に起きた地震としては初のマグニチュード八クラスで、その影響は広い地域に及んだのが大きな特徴となっている。震源地に近い十勝・釧路・日高管内はもとより、札幌でも液状化現象によって傾いた住宅がテレビに映し出されたのは記憶に新しい。
 住宅の被害状況については10月17日現在、全壊60棟、半壊81棟、一部破損1369棟、床下浸水1棟、合計1538棟の被害が報告されており、このうち日高管内が48%、釧路管内が32%、十勝管内が13%。全壊の住宅に限って言えば、日高管内が4分の3を占めている。
 日高管内で住宅被害が顕著だったことについて、9月30日から10月3日まで調査を行った道立北方建築総合研究所環境科学部都市防災科の戸松誠研究職員によると「日高管内は地盤が泥炭層だったために揺れが大きくなったことに加え、損壊した建物は比較的老朽化が進んでおり、全壊やそれに近い建物では、土台や柱が腐朽しているケースがあるなど、悪い条件が重なっている住宅で被害が目立った」と話しており、地盤が悪く揺れが大きいところで、構造材が腐朽している古い建物が壊れたという、起こるべくして起こった被害と言える。
 また、同研究所では、4時50分の地震発生時から1時間ほど経って起こった余震の揺れが大きかったことや、昭和57年に起きた浦河沖地震で被害に遭いながらも応急措置だけで済ませていた建物が残っていたことも、日高管内で被害が多かった原因ではないかと推測している。 

札幌で液状化現象
事前調査は戸建では困難

 札幌市清田区で起こった液状化現象は、以前から地震に関係なく起こっていたといい、今回の地震で一気に発生規模が大きくなったようだ。写真の住宅は北(裏側)へ約38センチ傾いた。
 液状化は砂層が多い地域で起こるので、札幌の場合、北部で起こるかと思われていたが、南部の清田区で起こったのは、この土地が沢を埋め立てで、もともと地下水位が高い砂地盤の土地であったことが原因と考えられている。なお、地盤が液状化を起こす可能性があるかどうかは、きちんとボーリングを行って地盤解析を行うしかないが、戸建住宅レベルで行うのは難しいという。
 このほか、公共物件に関しては比較的大きな被害は少なかったが、大量に落下した釧路空港の天井材などのように、仕上げ材など構造体以外の部材の弱さが目立ったという。

出隅部分の上下に亀裂が入って傾いている日高地方の住宅(写真提供:北総研)



液状化で傾いた清田区の住宅の一部では、既に補修工事が始まっている

地場ビルダーの被害分析とその対策
 
 基礎  摩擦杭で不同沈下 耐圧板の被害が少ない
 軟弱地盤が原因と考えられる不同沈下は、十勝管内豊頃町では団地まるごと起きている例もあるが、隣家が傾いていないのに傾いている家もあり、単純ではない。
 豊頃町などの場合、軟弱な泥炭層が20~30メートルにも及んでおり、古くは丸太をいかだ状に組んでその上に住宅を乗せた。池の上にハスの葉っぱを載せたようなこの構造は、実は地震に非常に強いことがわかった。
 この地域で杭を打つ場合、20~30メートル下の支持地盤まで届く杭を打つことは住宅では事実上難しく、6~7メートルの摩擦杭を打つことになるが、これが不同沈下を起こしている例が多い。杭が効いた部分と効かなかった部分があるためと考えられる。一方、いかだ組みと同じような構造となる耐圧板によるべた基礎は不同沈下を起こしていない例が多い。揺れが収まると元通り泥炭層の上に浮かんでいるからだ。
 これらの分析から、泥炭層が厚い地域は今後、耐圧板基礎とし、スラブはダブル配筋の200ミリ厚以上にすべきだと語る関係者も多い。

 上屋  ボード張り・釘ピッチが重要
 合板仕様で被害なし 木造躯体に関しては、在来木造については今のところまとまった報告がないが、ツーバイフォーに関してはビルダーの調査から次のようなことがわかっている。
 まず、外壁下地にシージングボードを使った10年以上前の仕様の住宅は、ボードの切れ目でクロスが切れるなどの被害が出ている。ただ釘頭が飛び出すなどの大きな被害にはなっていない。一方、外壁下地に構造用合板を使った最近の仕様ではクロスの切れも起きておらず、内装石膏下地ボードをビス止めした住宅では、躯体の被害はまったく起きていない。
 これらの例から、教科書通りではあるが施工時のボードの張り方と釘のピッチ、そして面材が極めて重要であることがわかった。


2003十勝沖地震の震源地と被害の大きかった地域


液状化によって波を打った道路(豊頃町)。揺れの強さがうかがえる
 対策  基礎強化と面材の変更など
 今回の地震を教訓に、仕様変更をはじめたビルダーもいる。被害が比較的大きかった十勝管内幕別町にある(株)岡本建設(岡本忠社長)では、地震被害を調査した上で、札内・帯広市以西の被害の少なかった地域と幕別本町・池田町などの被害が多かった地域、さらに豊頃町など杭を打っても支持地盤まで届かない地域に大きく分け、それぞれ構造的な仕様を変更することを検討している。
 帯広市以西などは従来通りの仕様。幕別本町などはベースの幅を厚くするとともに外壁下地を12ミリ厚の構造用合板に変更、石膏ボードはビス止めとする。また豊頃町などは地盤調査した上で耐圧板基礎を標準とし、場合によっては強化石膏ボードの使用も検討している。
 同社岡本修専務は「大きな被害がなかったのでホッとしているが、仕様の見直しは必要だ。地域の事情がよく分かる工務店として、構造に最善をつくす家づくりをこれからも進めたい」としている。



支持地盤まで届かない摩擦杭は結果的に不同沈下を招いたケースが多いという

住宅金融公庫の工事共通仕様書に掲載されているべた基礎の詳細。構造計算が必要になる、コストが上がるなど難しい面もあるが、地震による不同沈下を想定すると、ユーザーにとって決して高いものにはならない

ほたて漆喰で健康住宅
伊達・藍杜工房 地場産物をリサイクル
 藍杜工房(株)では、産業廃棄物として扱われているほたての貝殻を再利用した室内用の塗り壁材「ほたて漆喰壁」の販売を昨年6月から開始しており、天然素材を活用した新しい健康素材として注目を集めている。 
 同社がある伊達市の水産加工場からは、貝柱をとったほたての貝殻が年間16万トンもの産業廃棄物として排出されている。その貝殻を有効活用できないかという考えから、ほたての加工を行っているぎょれん室蘭食品など3社が、ほたての貝殻を塗り壁材として製品化するために共同研究を行う母体として藍杜工房を設立した。
 本州では古くからハマグリやカキなどの貝殻を粉砕させ漆喰に混ぜて使用されてきた歴史がある。そこで、ほたての貝殻も塗り壁材として再利用できるのではということからほたて漆喰壁の製品開発が進められた。
 ほたて漆喰壁は、ほたての貝殻を高温で焼いて粉砕させた貝灰(かいばい)に、石灰と海藻糊、無機顔料などを混ぜ合わせたもので、化学物質を含まない自然素材だけを原料にしている。ほたての貝殻を高温焼成することで独特の生臭いにおいがなくなり、抗菌作用が高まることが研究で確認されている。
 施工は、石膏ボード下地を基本としジョイント部分はグラスファイバーテープで補強してから、専用下塗り材セメントノロを一?厚でシゴキ塗りし、その上から下塗り材が乾燥する前にほたて漆喰壁を3.5ミリ~5ミリ程度の厚さに1回塗りで仕上げて完成させる。
 色は素地、白、薄桃、薄黄、薄灰、山吹の全6色。価格は仕上げ材が20キログラム/袋で6000円。下塗り材は市販品を使用。材工費は平方メートル当たり3000円程度が目安。
 問い合わせは同社(伊達市梅本町4-2 JCGビル2F、Tel.0142・23・8811)まで。

ほたて漆喰壁で仕上げた室内。臭いもなく原料には天然素材を使用

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