耐久性・意匠が魅力
採用増え静かなブームに

 塗り壁の中でも、かつて日本の住宅の外装仕上げの主流だったのがモルタル。近年、施工が早く安価な窯業系サイディングの普及により、外装仕上げとして見る機会は少なくなっていたが、このところ個性的な外観を望むユーザーへの提案や耐久性の向上などを考え、改めてモルタルを見直し、採用するビルダーが増えつつある。モルタルは適切な材料を使って確かな施工を行えば、優れた強度・耐火性・防水性を備え、30~40年はメンテナンス不要な耐久性の高い外装仕上げとなり、刷毛引きやリシン仕上げ、押さえ仕上げなど、混和材料の調整や左官職人の腕によって住宅に様々な表情を与える意匠性も可能だからだ。

 しかし、ヒビ割れ・クラックがクレームにつながることを心配して、モルタルを敬遠するビルダーも少なくない。これは、コストダウンや工期短縮の要請により品質が落ちたことが大きな原因で、昔の住宅のモルタルには、ヒビ割れ・クラックがあまり入っていないのがそれを証明している。
 昔の住宅はモルタルを施工する場合、見た目ががっしりした形状のラスを使い、塗り厚も30ミリはあったというが、今では一時間耐火を2ミリ厚でクリアしてしまうため、以前ほど厚く塗ることは少なくなったようだ。
 また、モルタルの理想の施工方法は、フェルト、ラスを張って下塗りを行い、下塗りのムラを直してから中塗りし、最後に上塗りをする四工程だが、現在では中塗りを省略するなど、コスト・工期との兼ね合いによって、必ずしもこの通りに施工できていないのも大きな要因となっている。


モルタルと木製のサッシ・ベランダがうまく調和している住宅(髙坂ホーム)

割れる原因は木材
モルタル硬化時にも注意

 なぜヒビ割れ・クラックが起きるのか。その原因はいくつかあるが、1つは木造住宅の構造材の乾燥収縮に追従してしまうため。構造材が動く方向にモルタルが引っ張られて割れてしまう。そのため昔はモルタルの重みで躯体の動きを抑えていたという。つまり、川砂を使ったモルタルの比重は2.5なので、塗り厚3センチで平方当たり75キロの重量が躯体にかかっていたことになる。
 もう一つの原因は、モルタルが固まる時に材料自身が収縮することによるもので、これを防ぐためには途中で目地を取るなどの工夫が必要になる。
 もっとも、これらの原因に対処できる十分な施工費が左官業者に支払われていた時代には、ヒビ割れ・クラックが少なかったことから、適正な予算をかければ割れにくいモルタルは十分に実現可能と言える。
 高品質な塗り壁の材料・工法を開発しているタイガー産業(札幌市)の相庭博社長は「モルタルは手作りなので、良いものを作るためには、ある程度の予算と手間をかける必要がある。仕上げは予算に応じて行えばいいが、人間の骨と肉に当たる下塗りと中塗りは手を抜かず、しっかり施工することが大切」と話している。


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コーナー部分や窓廻りは特にクラックが入りやすい

施工ポイント1
品質は手間に比例
モルタル硬化時にも注意

 それでは、ヒビ割れ・クラックが起こりにくいモルタルを実現するためにはどうすれば良いのか。
 高品質なモルタル施工に取り組んでいる畠山左官工業(札幌市)の畠山寿平社長の話によると、1.土地をきちんと調べて、建物の重さに耐えられるよう、基礎廻りをしっかり造ること 2.下地の点検を行うこと 3.ラスは千鳥張りにして、ジョイント部分は確実に結束すること 4.下塗りにグラスメッシュを張ること 5.中塗り(=ムラ直し)は厚さをできるだけ均一にすること―以上が主な施工ポイントになるという。
 1.の基礎廻りをしっかり造ることについては、地盤の状況に応じて対処し、軟弱な地盤であれば杭を打ったり、耐圧版(ベタ基礎)を造ることで、建物の動きをできるだけ安定させることが目的。
 2.の下地の点検は、きちんと貫や胴縁が釘打ちされているかどうかをチェックし、もし不安な箇所があれば大工と相談するなどして対処することが必要だ。特にヒビ割れが入りやすい開口部廻りはしっかり確認すること。


グラスメッシュが効果的

 3.の千鳥張りのラスとジョイントの確実な結束は、モルタルの重量のかかり具合を均一にするためで、力のかかり具合が一部に偏っていると、それだけひび割れが起こりやすくなる。ラスも軽いものはタッカー、重いものはビスやステープルで留め付けるなど、重さや厚さに応じて適切に施工することが大切になる。
 4.の下塗りへのグラスメッシュ張りは、下塗りしてからガラス繊維を網目状に編んだメッシュを張ることで、モルタルの乾燥収縮による動きを抑える。畠山社長は、この方法が施工上の大きなポイントで、ヒビ割れ・クラックの七割は解消されるという。また、目地を適切に入れることも重要とのこと。
 5.の中塗りを均一な厚さにすることは、厚い部分ほど硬化する時に力が加わり、薄い部分にクラックが入るからだ。また、中塗りが上塗りの仕上げの品質を左右するので、特に丁寧に施工する必要がある。

畠山左官工業が昨年施工した住宅


下塗りしてから張ることでモルタルの乾燥収縮の動きを抑えるグラスメッシュ

施工ポイント2
構造体から分離
変形・振動の影響を排除

 ヒビ割れ・クラックが構造材の乾燥収縮に追従して起こるのであれば、モルタルを構造体から分離させてしまえばよいという考え方もある。(有)一高高橋工業(札幌市、高橋守一社長 tel.011-763-8233)が開発したヒビ割れ防止特許工法がそれだ。
 この工法は、独自に開発したU字ステープルと特殊キャップを使用。ラスの留め付けをU字ステープルで行うことによって、構造体から5ミリほどラスを浮かせ、U字ステープルの頭には特殊キャップを被せることで、ラスとU字ステープルの接点がモルタルで固定されないように工夫されており、木材の乾燥収縮や地震などによる構造体の変形・振動がモルタルに伝わるのを遮断する。
 一般的なモルタル仕上げより割高だが、築10年以上の住宅でもヒビ割れは20メートル未満に収まっており、ユーザーにも好評だ。


工程管理や材料も有料

 このほかにも、塗り作業に入っている時には大工が造作工事などで構造体に振動を与えないようにすること、工程と工程の間は十分に時間をおいて乾燥させ、硬化させてから次の工程に入ることなどが挙げられる。下地としてバラ板を張る現場をみかけることもあるが、モルタルの水分を吸ってボロボロになるので、これは避けるべきだ。
 材料にも注意が必要で、川砂は塩分や泥が入ってない良質なものを選ぶことが大切。塩分や泥が混ざっていると、ラスが錆びてしまうからだ。



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一般的なモルタルとヒビ割れ防止特許の違い



一高高橋工業の施工例。築10年以上経っているが、クラックは20メートル未満とあまり目立たない

仕上げは多種多様
防火性・耐久性にも優れる

 モルタルが見直されている理由の一つに挙げられるのが、優れた意匠性だ。素材感・重量感があり、年月が経つごとに風合いを増していく様は、決まったデザインの中からしか選ぶことのできないサイディングとは異なり、ユーザーの所有感を満足させる大きな要因にもなっている。
 仕上げとしては、金鏝で強く押さえて手早く仕上げる押さえ仕上げが一般的だが、そのほかにもモルタルに砂を配合して上塗りした後に刷毛をまっすぐ引いて仕上げる刷毛引き仕上げ、モルタルの表面を掻き落としたリシン仕上げ、モルタルをブラシなどで叩き付けて表面に定着させるドイツ壁仕上げ、色モルタルを塗った後に木目や板目を描く擬木・擬板仕上げなど、多種多様な仕上げ方法があり、ユーザーの好みに応じた外観を提案できる。
 また、モルタルは延焼防止の機能もあり、木造住宅でも高い耐火・防火性を持たせることが可能だ。
 道立寒地住宅都市研究所(現北方建築総合研究所)が行った防火性能試験によると、材料を炉に入れて20分間150℃プラスマイナス10℃で加熱する基材試験では、減少率が12ミリ厚のサイディングで22%前後のところ、モルタルは5.7%と非常に低く、燃焼しづらい特性であることが判明。また、表面試験では、煙の発生が少なく、屋外側からの加熱が室内側の空間温度に与える影響も抑えられることが明らかになっている。
 このほか、しっかり施工すれば30~40年以上は機能を保ち、コンクリートよりも高い防水性を有しているのも大きな特徴だ。


基礎断熱の亀裂が課題

 基礎断熱を採用する場合、布基礎部分の化粧は断熱材の上からモルタル仕上げとするケースがほとんどだが、そこで問題となっているのがクラックの発生で、多くのビルダーが頭を悩ませている。
 なぜクラックが入るのかというと、布基礎に施工した押出スチレンフォームなどの板状断熱材が、熱によって膨張伸縮するためと言われており、外壁のモルタルが構造体の乾燥収縮の動きに追従して割れてしまうのと同様に、基礎のモルタルは断熱材の動きに追従することにより、割れてしまうわけだ。
 外壁と同じように、ラスを入れてグラスメッシュを埋め込んだり、基礎断熱のクラック防止を考えて開発された炭素繊維入りのプレミックス樹脂モルタル「CFモルタル」(タイガー産業)を使うなど、ヒビ割れ・クラックを防ぐための対策を考えたい。



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仕上げを工夫することで、様々な模様を付けることができる



基礎断熱仕上げのクラック防止に効果的なタイガー産業のCFモルタル

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