耐震強度偽装事件の再発防止を目的とした改正建築基準法の施行から1ヵ月あまりが経過した。厳しく審査されることになった建築確認は、申請量が前年同期と比べて大幅に減少。そのためか現時点で特に大きな混乱は起こっていないが、一方では今まで提出する必要がなかった書類の添付にともなう事務作業の増加などに不満をあらわにする住宅業者もいる。改正法施行からこれまでの建築確認作業の様子について、行政・住宅業者・設計事務所の声を聞いた。
札幌市における改正法施行後の確認申請等の流れ(構造計算適合判定を伴わない場合) |
申請量は大幅に減少
「これまでより申請量はかなり少なくなっている。そのためか問題が起こったという話も聞かない」(道建設部建築指導課担当者。以下道建設部)、「申請件数はかなり少なくなった印象だ。昨年の6月下旬~7月の6割程度ではないか。特に混乱や問題が生じることはなく、静かにすべり出したと言えるのでは」(札幌市建築確認担当者。以下札幌市)。
このように改正法が施行された6月20日以降、各行政庁では確認の申請量が大きく減少。中でもマンション、木造アパートは改正法施行前に多くの駆け込みがあったため、その反動で現在はかなり少なくなっているという。改正法施行で「混乱を招くのでは」と懸念する業界関係者もいたが、今のところトラブルがあったという声は聞こえてこない。
2階建てや平屋の木造住宅、いわゆる四号物件に関しては、実質的な審査内容は従来と同じとなったため、マンション・木造アパートほど減少していないが、それでも前年同期より落ち込んでいる。その中で今回の法改正で木造とRC造の混構造は両構造の構造計算書の提出が求められるようになったせいか、「見ている限りではまだ一つも申請がない」(札幌市)とのこと。道内のある構造設計事務所は「道内で木造とRC造の両方とも構造計算および構造チェックができる設計事務所は限られている」と話しており、住宅会社側が構造計算をどこに頼んだら良いのかわからないといったケースも考えられるだろう。
9割に軽微な不備
木造3階建てについても札幌市ではまだ申請が出ていない模様(7月26日時点)。これは従来の国土交通大臣認定構造計算ソフトが使えなくなったことや、構造計算ルールの見直しなどが影響しているとの指摘もある。ちなみに7月下旬時点でまだ国交省大臣認定を受けた構造計算ソフトは存在しない。
実際の確認審査の状況はと言うと、「全体の9割に軽微な不備がある」(札幌市)と言い、木造住宅では申請書の誤記や北側斜線制限の真北・角度の未記入が目立つという。軽微な不備については、申請者、つまり建主に対して補正を求める通知書が送付され、自治体によっては設計者に直接電話などで連絡することもあるようだ。
また、業界関係者の一部では外装材の変更など着工後の仕様変更がどう取り扱われるのかを不安視する声も出ていたが、「不燃材が準不燃材になるといったように性能が変わるのであれば計画変更の申請が必要だが、そうでなければ完了検査の申請書にある軽微な変更の欄に記載してもらえればいい」(道建設部)としている。
建築物の規模による構造計算の方法と確認審査の方法(北海道の資料より) |
書類増加に不満の声
申請(代行)する側である住宅業者などは、改正法施行でどのような影響を受けているのか。最もよく聞くのは提出書類の増加にともない準備に手間暇がかかるようになったという話だ。「建築士免許や外装材の防火認定書のコピーなど、提出書類をいろいろ用意しなければならなくなったが、ここまで本当に必要なのか」(札幌・工務店)、「コピー代だけでもけっこうな費用になるし、日本全体で見れば巨大な資源の無駄づかいにも思える」(道南・設計事務所)など、疑問の声は多い。
さらに「民間の確認検査機関の1社に審査期間を問い合わせたところ、事前審査に1週間、本申請に1~2週間と言われた」(札幌・工務店)、「受付時の記載事項チェックに1時間近くかかるようになった」(道東・工務店)など、時間的なロスが増えたことに不満を持つ業者もいるほか、「構造計算適合性判定が必要な大型物件では、法定審査期間が最大70日まで延長できるようになったため、当初計画していた時期に着工できない物件が出てくることも考えられる。そうなったら建主に遅延損害補償を請求されるケースも出てくるのでは」、「すべての住宅業者が今回の改正法の内容を理解し対応できるかは疑問」(いずれも札幌・設計事務所)という指摘もある。
偽装はなくなる? 建築確認にかかる負担の増加もエンドユーザーのためならいたしかたないが、最大の焦点は今回の改正法施行が耐震偽装の抑止力になるのかどうかという点だ。
四号物件に関しては「住宅会社の負担は増えたが、少なくとも建主の知らないところで申請書類や図面が改ざんされるなどのトラブルは減ると思う」(札幌・工務店)という面もあるが、「耐震偽装防止とは直接関係ないところばかりチェックされ、実際の壁量など肝心な部分はチェックされない。これで本当に建主のためになるのか」(道南・設計事務所)など疑問の声も多い。建築士免許の写しの添付などによって誰が最終的に責任を取るのかを明確にしただけだと言う業界関係者もいる。
改正法施行後の確認申請がこのまま大きな混乱なく定着するかどうか、耐震偽装に対し実効力を発揮するのかどうか、結論が出るのはもう少し先になりそうだ。
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