「冬場の暖房料金が1万円を切ることが可能」と書かれたチラシ広告(拡大しています) |
新築住宅の広告チラシなどで「冬期間の暖房費が月1万円以内で済む」「暖房費は半額以下」など、断熱性能ではなく暖房費がいくらかかるかというユーザーがわかりやすい謳い文句を掲載する住宅会社が増加、それと同時に、住宅購入者から今年冬の暖房コストが想定以上にかかったという苦情が多く寄せられ、トラブルの原因となっている。なぜこのような事態が増えているのか、事例も含め検証する。
冬期間の暖房費月1万円以下のはずが5万円
まず、今春発生したトラブルのうち、住宅会社とユーザーの間で問題になっている札幌市内のケース2例を紹介する。
1例は大手ハウスメーカーの建売物件。「断熱性など住宅性能が高いため、冬期間の光熱費が月2万円を切る」というセールストークで購入したものの、冬期間1カ月の光熱費が5万円を超えたケースが続出。急遽ハウスメーカー側がこの冬に光熱費で月あたり2万円を超えた額については補償するとともに改善を約束した。
もう1例は、「家中まるごとポッカポカ。」のキャッチコピーに加え、次のような文章を広告に掲載していた住宅会社の事例である。
「『○○の家』は高気密で蓄熱性能が非常に高いこともあり、1階から3階まで建物まるごと全フロアーに床暖を装備しながらも、冬場の暖房料金が平均月額1万円を切ることが可能になります。(以下省略)」
さらに広告は在来木造住宅と同社の鉄筋コンクリート住宅を比較すると、光熱費や修繕費などのライフサイクルコストは、50年間で約3000万円の得になると強調。当時住宅購入を検討していたAさんは、この広告を見てモデルハウスを訪問。営業担当者から「木造住宅は耐久性が低く寒い」と言われたことで、子供の頃に暮らしていた実家の住居環境と木造住宅を重ね合わせ、鉄筋コンクリート造なら断熱性能が高いに違いないと想像し購入。ところがこの冬の暖房費の支払額が1月から4月までの期間で、月あたり5万円を超えてしまったことで、住宅ローン支払額の7万円を加えて、ひと月の支払いが総額12万円という予想外の負担となってしまったという。
同時期に購入した近隣住民も同様だったことが判明、現在住宅会社との交渉を続けているが、住宅会社側が「1年目は構造躯体が冷えていて暖房費が余計にかかる」「暖房の使用方法にもよる」といった返答を繰り返したため、法的な措置も検討中だという。
光熱費はエンドユーザーにもわかりやすく、訴求力が高い半面、表示価格を大きく上回れば当然クレームとなる |
広告表現を信用
一般ユーザーに断熱材の厚みや性能値などを伝えるよりも、冬期間の暖房費の目安を伝えた方が分かりやすく、ユーザーの反応が良いこと、灯油高騰などで光熱費抑制に関心が高まっていることなどから、このように暖房費の目安を表現するハウスメーカーが増えている。実際の断熱性能などが本当に優れていて、広告表現通りの性能を出すことができるかどうか一般ユーザーが検証することは難しく、広告の表現を信用して購入する。
ところが実際は表示通りの費用で収まらない例もある。原因は断熱・気密性など住宅性能のほか、各家庭によって暖房の設定温度や使用実態が異なることなど、ほかにも様々な不確定要素もある。クレームが発生すると、住宅会社側はこれらの不確定要素を主張、信じて購入したユーザー側が不信感を募らせ、先に紹介したような大きなトラブルに発生しているケースもあるようだ。
住宅会社は広告で何を売る”のか
住宅会社がユーザーから関心を得るために取り組んでいる広告手法を見ると、新築住宅広告のチラシでは、主に周辺施設を含めた立地、エクステリア、価格、間取り、仕様、キッチンやオール電化など設備関係、そして内覧会やキャンペーンの案内などを掲載しているものが多い。住宅雑誌を見ると、各社とも室内空間のイメージや間取りなど、イメージとデザイン、設計面の特徴を強く打ち出している広告が主流だ。
チラシ戦略はデザインや間取り、立地、価格訴求が主流になっているようだ(写真は本文と関係ありません) |
ある意味では企業名とロゴを他社のものに取り替えても気づかれない、つまり企業としての個性やこだわり、技術や性能は控えめに表現し、週末のお買い得物件、キャンペーン情報を提供するタイプの提案が増えているともいえる。このようにデザインや価格などで訴求する住宅業者が多くを占めるなかで、一部は耐震性能や断熱工法、室内環境などをセールスポイントに掲げているが、こうした住宅業者は少数派のようだ。
デザインやプラン、価格はユーザーの関心を集めるが、他社も同様の提案を行っており、競合他社との差別化、受注の決め手にはなりにくい。こうした提案はきっかけづくりとして最低限必要だが、実際は土地の手配や企業イメージ、営業マンの能力などで勝負が決まる傾向が強まっているという。
断熱性能にはピンとこないユーザー
では断熱・気密性能はユーザーへの訴求材料にはならないのだろうか。住宅会社からは「環境や省エネでは受注の決め手にならない」「断熱性能などを営業マンが一生懸命説明すると、ユーザーは一定の水準に達していて当たり前の話をされていると感じるのか反応は良くない」という声も聞かれる。
断熱性能はピンとこないが、ガソリン代や灯油代の高騰を受けて、暖房費がどれだけかかるのかという経済性へのユーザーの関心は高まっており、「省エネ住宅を建てたら燃料費はどれだけ安くなるのか」という説明を求められたり、「省エネ住宅という認識で購入したのに、実際は暖かくなかった」「思った以上に暖房費がかさんだ」といった入居後の不満となって表れるケースが増えている。
その結果、住宅会社はあまり関心を持たれない断熱・気密性能については強調しない方法をとるか、逆に省エネ住宅はランニングコストが安く結局お得で、例えば冬期間の毎月の暖房費が1万円前後という、生活実感から分かりやすい試算も加えて提案する手法が有効ということになる。灯油高騰の影響もあって、“暖房費半減”といったキャッチはわかりやすく訴求力あるメッセージとなるようだ。
技術的にも、断熱・気密性能が一定以上であれば住宅の熱計算と暖房負荷計算でかなり正確な暖房費の試算ができるようになっている。暖房温度設定など暮らし方という変動要素はあるものの、それらを織り込むことは十分可能だ。
またオール電化住宅の場合は、光熱費が一本化され、しかも毎月請求されるため、光熱費がとてもわかりやすいという面もある。
問題は表示と実態の違い
「冬期間の暖房費が月1万円を切ることが可能」という広告表現を使い、実際の暖房費との格差が大きければ、ユーザーを騙す結果になる。この住宅会社はRC造で、基本性能が木造住宅よりはるかに優れているとユーザーに説明した上で、施工コストの低減で木造住宅並みの価格で提供できるというのが売り。
ユーザーもその説明に納得して購入するわけだが、入居した年の冬に暖房費が月約5万円かかってクレームになると、「1年目は躯体が冷えている」「面積が大きい家だから暖房費もかかる」と説明されても納得できないのは当然だ。
最初の例では、住宅会社側が費用負担と同時に対策を約束することで、その対応に購入者は一定の評価をしている。
いずれの例も住宅の断熱・気密性能がじゅうぶん備わっていたかどうかは明らかではない。問題はむしろ表示と実態の違いであり、購入者にとっては“寒い”“高い”という感覚的な苦情や価値判断にかかわることより、具体的な金額で改善を要求することができる。断熱性能をはじめとする住宅性能はその技術的裏付けとして重要であることに変わりはない。
次号では今回明らかになった暖房費表示と実態の違いを踏まえて、広告手法や技術的裏付けなどについて考えてみたい。 |