平成19年8月25日号から
訴求力ある反面、大きなクレームに
暖房費表示”でトラブル多発

「冬場の暖房料金が1万円を切ることが可能」と書かれたチラシ広告(拡大しています)
 新築住宅の広告チラシなどで「冬期間の暖房費が月1万円以内で済む」「暖房費は半額以下」など、断熱性能ではなく暖房費がいくらかかるかというユーザーがわかりやすい謳い文句を掲載する住宅会社が増加、それと同時に、住宅購入者から今年冬の暖房コストが想定以上にかかったという苦情が多く寄せられ、トラブルの原因となっている。なぜこのような事態が増えているのか、事例も含め検証する。

冬期間の暖房費月1万円以下のはずが5万円
 まず、今春発生したトラブルのうち、住宅会社とユーザーの間で問題になっている札幌市内のケース2例を紹介する。
 1例は大手ハウスメーカーの建売物件。「断熱性など住宅性能が高いため、冬期間の光熱費が月2万円を切る」というセールストークで購入したものの、冬期間1カ月の光熱費が5万円を超えたケースが続出。急遽ハウスメーカー側がこの冬に光熱費で月あたり2万円を超えた額については補償するとともに改善を約束した。
 もう1例は、「家中まるごとポッカポカ。」のキャッチコピーに加え、次のような文章を広告に掲載していた住宅会社の事例である。
 「『○○の家』は高気密で蓄熱性能が非常に高いこともあり、1階から3階まで建物まるごと全フロアーに床暖を装備しながらも、冬場の暖房料金が平均月額1万円を切ることが可能になります。(以下省略)」
 さらに広告は在来木造住宅と同社の鉄筋コンクリート住宅を比較すると、光熱費や修繕費などのライフサイクルコストは、50年間で約3000万円の得になると強調。当時住宅購入を検討していたAさんは、この広告を見てモデルハウスを訪問。営業担当者から「木造住宅は耐久性が低く寒い」と言われたことで、子供の頃に暮らしていた実家の住居環境と木造住宅を重ね合わせ、鉄筋コンクリート造なら断熱性能が高いに違いないと想像し購入。ところがこの冬の暖房費の支払額が1月から4月までの期間で、月あたり5万円を超えてしまったことで、住宅ローン支払額の7万円を加えて、ひと月の支払いが総額12万円という予想外の負担となってしまったという。
 同時期に購入した近隣住民も同様だったことが判明、現在住宅会社との交渉を続けているが、住宅会社側が「1年目は構造躯体が冷えていて暖房費が余計にかかる」「暖房の使用方法にもよる」といった返答を繰り返したため、法的な措置も検討中だという。


光熱費はエンドユーザーにもわかりやすく、訴求力が高い半面、表示価格を大きく上回れば当然クレームとなる
広告表現を信用
 一般ユーザーに断熱材の厚みや性能値などを伝えるよりも、冬期間の暖房費の目安を伝えた方が分かりやすく、ユーザーの反応が良いこと、灯油高騰などで光熱費抑制に関心が高まっていることなどから、このように暖房費の目安を表現するハウスメーカーが増えている。実際の断熱性能などが本当に優れていて、広告表現通りの性能を出すことができるかどうか一般ユーザーが検証することは難しく、広告の表現を信用して購入する。
 ところが実際は表示通りの費用で収まらない例もある。原因は断熱・気密性など住宅性能のほか、各家庭によって暖房の設定温度や使用実態が異なることなど、ほかにも様々な不確定要素もある。クレームが発生すると、住宅会社側はこれらの不確定要素を主張、信じて購入したユーザー側が不信感を募らせ、先に紹介したような大きなトラブルに発生しているケースもあるようだ。

住宅会社は広告で何を売る”のか
 住宅会社がユーザーから関心を得るために取り組んでいる広告手法を見ると、新築住宅広告のチラシでは、主に周辺施設を含めた立地、エクステリア、価格、間取り、仕様、キッチンやオール電化など設備関係、そして内覧会やキャンペーンの案内などを掲載しているものが多い。住宅雑誌を見ると、各社とも室内空間のイメージや間取りなど、イメージとデザイン、設計面の特徴を強く打ち出している広告が主流だ。

チラシ戦略はデザインや間取り、立地、価格訴求が主流になっているようだ(写真は本文と関係ありません)
 ある意味では企業名とロゴを他社のものに取り替えても気づかれない、つまり企業としての個性やこだわり、技術や性能は控えめに表現し、週末のお買い得物件、キャンペーン情報を提供するタイプの提案が増えているともいえる。このようにデザインや価格などで訴求する住宅業者が多くを占めるなかで、一部は耐震性能や断熱工法、室内環境などをセールスポイントに掲げているが、こうした住宅業者は少数派のようだ。
 デザインやプラン、価格はユーザーの関心を集めるが、他社も同様の提案を行っており、競合他社との差別化、受注の決め手にはなりにくい。こうした提案はきっかけづくりとして最低限必要だが、実際は土地の手配や企業イメージ、営業マンの能力などで勝負が決まる傾向が強まっているという。

断熱性能にはピンとこないユーザー
 では断熱・気密性能はユーザーへの訴求材料にはならないのだろうか。住宅会社からは「環境や省エネでは受注の決め手にならない」「断熱性能などを営業マンが一生懸命説明すると、ユーザーは一定の水準に達していて当たり前の話をされていると感じるのか反応は良くない」という声も聞かれる。
 断熱性能はピンとこないが、ガソリン代や灯油代の高騰を受けて、暖房費がどれだけかかるのかという経済性へのユーザーの関心は高まっており、「省エネ住宅を建てたら燃料費はどれだけ安くなるのか」という説明を求められたり、「省エネ住宅という認識で購入したのに、実際は暖かくなかった」「思った以上に暖房費がかさんだ」といった入居後の不満となって表れるケースが増えている。
 その結果、住宅会社はあまり関心を持たれない断熱・気密性能については強調しない方法をとるか、逆に省エネ住宅はランニングコストが安く結局お得で、例えば冬期間の毎月の暖房費が1万円前後という、生活実感から分かりやすい試算も加えて提案する手法が有効ということになる。灯油高騰の影響もあって、“暖房費半減”といったキャッチはわかりやすく訴求力あるメッセージとなるようだ。
 技術的にも、断熱・気密性能が一定以上であれば住宅の熱計算と暖房負荷計算でかなり正確な暖房費の試算ができるようになっている。暖房温度設定など暮らし方という変動要素はあるものの、それらを織り込むことは十分可能だ。
 またオール電化住宅の場合は、光熱費が一本化され、しかも毎月請求されるため、光熱費がとてもわかりやすいという面もある。

問題は表示と実態の違い
 「冬期間の暖房費が月1万円を切ることが可能」という広告表現を使い、実際の暖房費との格差が大きければ、ユーザーを騙す結果になる。この住宅会社はRC造で、基本性能が木造住宅よりはるかに優れているとユーザーに説明した上で、施工コストの低減で木造住宅並みの価格で提供できるというのが売り。
 ユーザーもその説明に納得して購入するわけだが、入居した年の冬に暖房費が月約5万円かかってクレームになると、「1年目は躯体が冷えている」「面積が大きい家だから暖房費もかかる」と説明されても納得できないのは当然だ。
 最初の例では、住宅会社側が費用負担と同時に対策を約束することで、その対応に購入者は一定の評価をしている。
 いずれの例も住宅の断熱・気密性能がじゅうぶん備わっていたかどうかは明らかではない。問題はむしろ表示と実態の違いであり、購入者にとっては“寒い”“高い”という感覚的な苦情や価値判断にかかわることより、具体的な金額で改善を要求することができる。断熱性能をはじめとする住宅性能はその技術的裏付けとして重要であることに変わりはない。
 次号では今回明らかになった暖房費表示と実態の違いを踏まえて、広告手法や技術的裏付けなどについて考えてみたい。

確認申請書の設備関係者欄
記入は建築設備士のみ
「登録番号」の扱いで混乱

確認申請書第二面にある【建築設備に関し意見を聴いた者】の欄。赤字部分が新たに追加された項目だが、意見を聴いた者が建築設備士でなければ氏名や勤務先なども含めて記入する必要はない(クリックして拡大)
 今年6月20日の改正建築基準法施行にともない確認申請書の様式等も改訂されたが、新しく追加された記入事項を巡って住宅会社が混乱するケースが出てきている。第二面の【4・建築設備に関し意見を聴いた者】の一項目である【ヘ・登録番号】がそれだ。結論から言えば意見を聴いた者に建築設備士の資格がなければ何も記入する必要はないが、逆に何も書かないことに不安を募らせる住宅会社もある。

記入欄増加に戸惑い
  今回の法改正では確認申請書の様式が見直され、明示すべき事項や添付図書などの追加・拡充を実施。例えば、第二面の【3・設計者】の欄は、以前は複数の設計者が関わっていても代表となる設計者のみを記入し、下請けなどその他の設計者は別紙に記入することとなっていたが、建築物について各設計者の責任を明確にするために様式上、構造設計や設備設計などを行なった者を含めて建築物の設計を行った設計者全員の氏名や事務所名、建築士登録番号、作成した設計図書などを同じ箇所に記入するようになった。なお、設計者の指示に基づくトレースやCAD作図などの補助業務を行った者については、記入する必要はない。
 同様に【4・建築設備に関し意見を聴いた者】についても、意見を聴いた全員の氏名・連絡先を記入するようになったほか、記入項目として氏名や連絡先以外に【ヘ・登録番号】と【ト・意見を聴いた設計図書】が新たに追加された。この登録番号が混乱の元となっている。
 暖房や換気などの設備設計に関しては、住宅・建築物の設計者が設備機器発売元や工事店に対し意見やアドバイスを求めることが多い。アドバイスを求められた設備メーカー・工事店が建築設備士の資格を持っていなければ登録番号の欄には何も書くことがないのだが、確認申請書に構造設計や設備設計に関わった設計士すべての情報を記入するようになったことから、暖房や換気の設計で意見やアドバイスを聴いた者についても登録番号の欄を必ず埋めなければならないと考える住宅会社が出てきており、ある設備機器発売元の担当者は「何か資格はないのか」と聞かれるようになったと話す。
 しかし、国土交通省が定めた確認申請書の様式の注意書きを見ると、【4・建築設備に関し意見を聴いた者】の欄は「建築設備に関する知識・技能について国土交通大臣が定める資格(=建築設備士)を有する者の意見を聴いた時にその者について記入し、登録番号の欄は建築設備士の登録番号を書く」とある。
 意見を聴いた者に建築設備士の資格がなければ、登録番号はもちろん、氏名や所在地も記入する必要がない。道の建築指導課にも確認したが、やはり「資格を持っていない者に聴いた場合は記入する必要はない」とのこと。

実態は無資格設計も
 ただ、この問題を掘り下げていくと、別の重大な問題がある場合が多い。それは暖房・換気設備の設計を建築士の資格がない設備機器発売元や工事店が行っているケースが多いという点だ。特に高い専門的知識が必要となるセントラルシステムの場合、ほとんどが住宅会社ではなく、設備機器の発売元や工事店が行っている現実がある。
 この場合は『意見を聴いた』のではなく、下請の設計者として設計者の氏名や事務所名、建築士登録番号、作成した設計図書を記入しなければならない。
 実態を法律に合わせるなら設備機器の発売元や工事店が設計事務所登録をする必要がある。
 法律と実態があっていない現実を今回の法改正がくしくもあぶり出す結果となったわけだが、その背景には専門化・煩雑化する設計内容をすべて1人の建築士が行うことが難しくなっている実態がある。
 建築設備士は空調・換気、給排水衛生、電気等の分野で、建築士から意見を聴かれれば答えるという業務にとどまり、設計行為はできない。

電力測定器の新型
コーナー札幌  6台同時、200V対応も

「電力測定器」測定データはメモリーカードで保存可能
 環境測定器メーカーのコーナー札幌(株)は、100Vコンセントタイプの家電製品や200V用機器の電力使用量を1台で6台まで測定できる電力測定器を新発売した。
 新築住宅に引っ越したのをきっかけに、照明が増えたり様々な家電購入などを行った結果、ランニングコスト削減を期待して新築した高断熱高気密住宅の電気代支払いが、予想を上回り家計を圧迫するケースがある。電力会社からの請求書で、1カ月当たりの電力総使用量と使用額を把握することはできるものの、個別のエアコンや冷蔵庫、照明器具などが実際にどの程度電力を消費しているのか、また普段コンセントに付け放しのアダプター類などは待機電力としてどの程度電力を消費しているのかを知ることはできないのが現状。
 同社では研究機関からの依頼で、100V家電製品の使用電力量を正確に測定できる機器開発に着手し、昨年9月に1台タイプを発売。このほど新たに家電製品6台を同時に測定できる商品を発売した。
 例えば、ラジオのACアダプター(待機電力)を測定すると、4.1Wと表示されるので24時間で98・4W、30日で2.952kW。1kWを約25円とすると、1カ月間、ラジオのアダプターをコンセントに接続したまま使用しないでいるだけで約73・8円の支払いが発生することがわかる。このように具体的な金額を把握することで、日常生活での省エネにも取り組みやすくなる。
 同測定器の標準価格は100V専用1台タイプ9万5千円(税別)、100V・200V切替6台タイプ20万円(税別)。
 同社の菊地洋代表取締役専務は「当社ではこれまでも気密測定器や風量測定器、温湿度測定器など住宅環境に関する測定機器の開発を行ってきた。今回開発した電力測定器を利用して、より効果的な省エネに役立てることができれば」と述べている。
 問い合わせは同社営業部(Tel.011・863・1911)へ。

試読・購読はこちら

このページの先頭へ

運営サイト

株式会社北海道住宅新聞社
〒001-0029 札幌市北区北29条西4丁目2-1-201
tel.011-736-9811 fax.011-717-1770

当サイトで使用している写真およびテキストの無断転載を禁止します。

Copyright (c) 北海道住宅新聞社. All Rights Reserved.