e-ハウジング函館が宅地造成した追分サスティナブルビレッジに建つ会員のモデルハウス |
7~9月の第3四半期は、6月20日に施行された改正建築基準法の影響で新築住宅の確認・着工戸数が減少し、住宅市場は一時的にエアポケットに入った状態となった。そのような中で目に付いたのは、地元の家づくり・まちづくりを地元業者の手で進めようと奮闘するビルダーグループの取り組みや、イメージ戦略を強化するハウスメーカー・ビルダーの動きだった。また、構造・工法面では土間コンクリートの蓄熱性を活かした暖房・換気の提案なども目立った。
大手などの侵出阻止
今年前半の道内住宅市場は戸建てマイホームが前年比で6%減となり、好調を口にする住宅会社はほとんどなかった。特に地方ほどその傾向は強く、郡部では大手ハウスメーカーや都市部の住宅会社に市場を奪われているところも少なくない。
そんな状況の中で地場の住宅会社の技術力・提案力を地元ユーザーにわかってもらおうという動きが函館と網走で本格化した。
函館では函館市とその周辺地域の地場工務店が中心となって活動を続けている「e―ハウジング函館」が、函館に隣接する北斗市で自ら宅地造成し5月から販売開始した追分サスティナブルビレッジで、会員3社がモデルハウスを7月末に同時オープン。2日間で150名のユーザーが来場するなど大きな成果を収めた。地場工務店1社だけでは困難な宅地造成も、グループで力を合わせて行えば大手のハウスメーカーやデベロッパーにも対抗できることを示したと言える。
網走では網走市内の建設業者が集まって昨年発足した「フォレスト44」が、初の移動型住宅展示場を9月にオープン。6日間にわたって完成・施工現場の公開や様々なイベントを実施し、網走市民にその存在をアピールした(詳細は8面参照)。
美幌町の森林から住宅用途向けに切り出されたカラマツの原木。地元の木を地元で使う地産地消において、地場工務店が重要な役割を担うようになってきている |
地産地消で存在感
地方の行政が中心となって推進している地産地消の枠組みの中で、地場工務店が重要な役割を担うケースも出てきた。
道北の下川町とオホーツクの美幌町では、いずれも地元の森林が国際的な森林認証であるFSC認証を取得し、町と地元の製材業者や工務店がFSC認証材を使った住宅づくりを進めている。住宅でFSC認証材の使用を表示するためには、FSC認証材を他の木材と混ざらないよう、適切に管理していることを示すCoC認証を取得する必要があるが、下川町では(株)丸昭高橋工務店(高橋利久社長)が道内の工務店としては初めてCoC認証を取得し、積極的にFSC材使用住宅の建設を推進している。
また、美幌町では地場産のFSC認証材を使い、CoC認証を取得した地元工務店で新築・増改築を行ったユーザーに最高75万円を助成する制度を9月から開始。8月1日時点で4社の地元工務店がCoC認証を取得しており、町では地場経済の活性化と同時に、町外の住宅会社の流入にも歯止めをかけていきたい考えだ。
イメージ戦略を重視
「ユーザーに対し?どんな要望にも応えます?と言えるのがハウスメーカーにはない工務店の良さだったが、今やそれでは通用しなくなってきた。ユーザーは?どんな住宅を建ててくれるのか?がわかりやすいハウスメーカーや工務店に流れている」とは札幌市内のある工務店社長。そのようなユーザーの意識の変化に対し?この業者ならこういう住宅を建ててくれる?と思い描いてもらえるよう、商品開発や広告宣伝で自社の住宅のイメージを明確に打ち出す戦略を取る住宅会社も目に付くようになってきた。
土屋ホームが新発売した「Lids(リズ)」の1タイプであるサザンヨーロッパの外観パース |
例えば(株)土屋ホーム(本社札幌市、川本謙社長)では8月に発表した新商品「LidS(リズ)」で、家族のコミュニケーションと子供の教育をテーマとしたシンプルモダン、日本家屋の伝統様式を取り入れたジャパニーズモダン、リゾートライクなサザンヨーロッパの3タイプを用意。この3タイプをもとにユーザーが思い描いている暮らしに合わせたイメージづくりと総合的なプランニングを行う。家づくりの流れをストーリーになぞらえ、その序章となる商品提案だ。
また、札幌の(株)三五工務店(田中寿広社長)ではフルオーダーの注文住宅と、安全・安心な住環境を求めやすい価格で提供するイージーオーダーのリコハウスに加え、自然素材にこだわりながらもローコストを実現したコーラルハウスを商品ラインアップに追加。多様なユーザーニーズをカバーする自社の商品力・提案力を目に見える形でアピールしている。
同じく札幌の寿建設(株)(池田寿和社長)では、自社の中心顧客層で家づくりにこだわりを持つ30代後半から40代のユーザーに的を絞り、現在のデザインの主流である、シンプルモダンとは一線を画した和風モダンをモデルハウスで提案。他社との差別化につなげている。
協栄ハウスが採用した土間床暖房の施工の様子 |
土間の蓄熱性に着目
構造・工法面では、積極的に土間コンクリートの蓄熱性を活かす取り組みが徐々に増えてきた。千歳市の(株)協栄ハウス(石黒浩史専務)では床下の土間コンクリートにパイピングを施し、夜間にヒートポンプボイラーで作った温水を回してコンクリートに蓄熱。1階は床暖房、2階は1階床下にたまる暖気を送風機を使ってダクトから送り出す暖房方式を考案した。Q値(熱損失係数)0.99W(/m2K)という高い断熱性を活かし、夜間の土間コン蓄熱だけで24時間全室暖房に挑戦している。
また、札幌の(株)アシスト企画(岡本勝社長)は、土間床に埋め込んだパイプに電気ボイラーの温水を回す1階全面蓄熱暖房を採用した企画住宅「S+(エスプラス)」を開発。これまでの高断熱・高気密の性能を維持しながらコストダウンを実現した。 |