平成19年10月5日号から
地方業者が反転攻勢へ
平成19年7~9月期総括

e-ハウジング函館が宅地造成した追分サスティナブルビレッジに建つ会員のモデルハウス
 7~9月の第3四半期は、6月20日に施行された改正建築基準法の影響で新築住宅の確認・着工戸数が減少し、住宅市場は一時的にエアポケットに入った状態となった。そのような中で目に付いたのは、地元の家づくり・まちづくりを地元業者の手で進めようと奮闘するビルダーグループの取り組みや、イメージ戦略を強化するハウスメーカー・ビルダーの動きだった。また、構造・工法面では土間コンクリートの蓄熱性を活かした暖房・換気の提案なども目立った。

大手などの侵出阻止
  今年前半の道内住宅市場は戸建てマイホームが前年比で6%減となり、好調を口にする住宅会社はほとんどなかった。特に地方ほどその傾向は強く、郡部では大手ハウスメーカーや都市部の住宅会社に市場を奪われているところも少なくない。
 そんな状況の中で地場の住宅会社の技術力・提案力を地元ユーザーにわかってもらおうという動きが函館と網走で本格化した。
 函館では函館市とその周辺地域の地場工務店が中心となって活動を続けている「e―ハウジング函館」が、函館に隣接する北斗市で自ら宅地造成し5月から販売開始した追分サスティナブルビレッジで、会員3社がモデルハウスを7月末に同時オープン。2日間で150名のユーザーが来場するなど大きな成果を収めた。地場工務店1社だけでは困難な宅地造成も、グループで力を合わせて行えば大手のハウスメーカーやデベロッパーにも対抗できることを示したと言える。
 網走では網走市内の建設業者が集まって昨年発足した「フォレスト44」が、初の移動型住宅展示場を9月にオープン。6日間にわたって完成・施工現場の公開や様々なイベントを実施し、網走市民にその存在をアピールした(詳細は8面参照)。


美幌町の森林から住宅用途向けに切り出されたカラマツの原木。地元の木を地元で使う地産地消において、地場工務店が重要な役割を担うようになってきている
地産地消で存在感
 地方の行政が中心となって推進している地産地消の枠組みの中で、地場工務店が重要な役割を担うケースも出てきた。
 道北の下川町とオホーツクの美幌町では、いずれも地元の森林が国際的な森林認証であるFSC認証を取得し、町と地元の製材業者や工務店がFSC認証材を使った住宅づくりを進めている。住宅でFSC認証材の使用を表示するためには、FSC認証材を他の木材と混ざらないよう、適切に管理していることを示すCoC認証を取得する必要があるが、下川町では(株)丸昭高橋工務店(高橋利久社長)が道内の工務店としては初めてCoC認証を取得し、積極的にFSC材使用住宅の建設を推進している。
 また、美幌町では地場産のFSC認証材を使い、CoC認証を取得した地元工務店で新築・増改築を行ったユーザーに最高75万円を助成する制度を9月から開始。8月1日時点で4社の地元工務店がCoC認証を取得しており、町では地場経済の活性化と同時に、町外の住宅会社の流入にも歯止めをかけていきたい考えだ。

イメージ戦略を重視
 「ユーザーに対し?どんな要望にも応えます?と言えるのがハウスメーカーにはない工務店の良さだったが、今やそれでは通用しなくなってきた。ユーザーは?どんな住宅を建ててくれるのか?がわかりやすいハウスメーカーや工務店に流れている」とは札幌市内のある工務店社長。そのようなユーザーの意識の変化に対し?この業者ならこういう住宅を建ててくれる?と思い描いてもらえるよう、商品開発や広告宣伝で自社の住宅のイメージを明確に打ち出す戦略を取る住宅会社も目に付くようになってきた。

土屋ホームが新発売した「Lids(リズ)」の1タイプであるサザンヨーロッパの外観パース
 例えば(株)土屋ホーム(本社札幌市、川本謙社長)では8月に発表した新商品「LidS(リズ)」で、家族のコミュニケーションと子供の教育をテーマとしたシンプルモダン、日本家屋の伝統様式を取り入れたジャパニーズモダン、リゾートライクなサザンヨーロッパの3タイプを用意。この3タイプをもとにユーザーが思い描いている暮らしに合わせたイメージづくりと総合的なプランニングを行う。家づくりの流れをストーリーになぞらえ、その序章となる商品提案だ。
 また、札幌の(株)三五工務店(田中寿広社長)ではフルオーダーの注文住宅と、安全・安心な住環境を求めやすい価格で提供するイージーオーダーのリコハウスに加え、自然素材にこだわりながらもローコストを実現したコーラルハウスを商品ラインアップに追加。多様なユーザーニーズをカバーする自社の商品力・提案力を目に見える形でアピールしている。
 同じく札幌の寿建設(株)(池田寿和社長)では、自社の中心顧客層で家づくりにこだわりを持つ30代後半から40代のユーザーに的を絞り、現在のデザインの主流である、シンプルモダンとは一線を画した和風モダンをモデルハウスで提案。他社との差別化につなげている。


協栄ハウスが採用した土間床暖房の施工の様子
土間の蓄熱性に着目
 構造・工法面では、積極的に土間コンクリートの蓄熱性を活かす取り組みが徐々に増えてきた。千歳市の(株)協栄ハウス(石黒浩史専務)では床下の土間コンクリートにパイピングを施し、夜間にヒートポンプボイラーで作った温水を回してコンクリートに蓄熱。1階は床暖房、2階は1階床下にたまる暖気を送風機を使ってダクトから送り出す暖房方式を考案した。Q値(熱損失係数)0.99W(/m2K)という高い断熱性を活かし、夜間の土間コン蓄熱だけで24時間全室暖房に挑戦している。
 また、札幌の(株)アシスト企画(岡本勝社長)は、土間床に埋め込んだパイプに電気ボイラーの温水を回す1階全面蓄熱暖房を採用した企画住宅「S+(エスプラス)」を開発。これまでの高断熱・高気密の性能を維持しながらコストダウンを実現した。

暮らし提案のタネまき1
住まいに彩りと癒し
「キリム」の魅力に迫る
 「住宅を販売する際に、今まで以上にユーザーの心に響く提案力や知識、情報の引き出しの数が必要だ」と感じている方に、毎月5日号で新企画「暮らし提案のタネまき」と題し、多様なユーザーニーズ、暮らしに関連する様々な話題を紹介する。
 第1回は欧米のライフスタイル、インテリアのアイテムとして定着、日本でも流行の兆しを見せる「キリム」について、札幌で専門店「キリムギャラリーペケレット」をオープンさせた横山豊・和美ご夫妻に話を伺った。


トルコの民家を訪問しキリムを仕入れる横山夫妻
キリムに癒され脱サラ
 トルコ、イランなどの西アジアや中央アジアにかけて(広くはモンゴル、モロッコまで)、遊牧民の女性は羊の毛などを紡いで糸にして、その土地の方法で染め手織りし、敷物や玄関ドア、袋物などあらゆる生活用品を作ってきました。彼女たちが自分や家族のために織った平織りの織物を「キリム」といいます。
 特に色や柄が多彩なトルコのキリムは、1950年代から60年代には欧米のコレクターたちが買い集め、その後急速に拡大し、今では欧米のインテリアのアクセントとして欠かせないアイテムです。キリムは表現が自由でアーティスティック。大胆な色使いながらどんな空間にもマッチし、色や柄の違うものを合わせても違和感がないのもキリムの不思議な魅力です。
 以前私はコンピュータメーカーに勤務、横浜で暮らしていました。夫婦の共通の趣味がキリム。10年近くオールド、アンティークのキリムを収集していました。日常のストレスが多く、コンピュータに囲まれた生活をしていましたので、自宅に帰り、織り手の心のこもったアートなキリムの空間がとても居心地が良く、癒されていました。染めは天然でも天然染料でなくても、模様が珍しくオリジナルであることの方が大切です。
 最近、日本人も自宅のインテリアや家具にこだわる人が増えてきたようです。そうした中にもっとふさわしいキリムが使われるといいなと常々思っていました。私達が住宅雑誌を見る時「この吹き抜けにオールドキリムが下がっていれば空間が引き立つのに」とか「このソファーの前に素朴な肌触りのキリムがあればくつろぎのスペースができるのに」と思うわけです。
 そこで53歳で一念発起、退職しトルコへ向かいました。イスタンブールに始まりカイセリ、コンヤ、エシュメなど今では数少ない織り手を捜しながら各地の村々を回り、織り手のおばあちゃんなどからキリムを購入、約1500点の商品を揃え、昨年10月に札幌市内にトルコキリム専門店「ペケレット」を開店しました。


多彩なキリムが揃う店舗にて。左が横山豊さん、右が和美さん
住まいに合うキリムを
 キリムの中には美術品としての鑑賞に耐えうるような物もあります。一見左右対称に見えるのに左側には木をモチーフにした模様があって右にはないといった手作りの風合いや、白い部分にコットンを使い光の少ないところで白く浮き上がる工夫がなされているものなど。南西部ではラクダの毛が使われていたり、地域による色や柄の違いや年代の違い、家族の伝承や織る人自身が反映されるといった1点ものの面白さがあります。
 ある敷物メーカーの調査では新築住宅を購入し2年ほど経過すると、多くの人が絨毯やキリムなどの織物を購入するそうです。新築時には家を建てることに精一杯だけれど、ふと気付くと床や壁に織物があればいいなと思うのではないでしょうか。オールドキリムの価格帯は玄関マットサイズで3万円台から、1畳サイズで10万円台から品揃えしています。ニューキリムは1万円台からあります。また85年以上の日本では珍しいアンティークも扱っています。
 デパートで展示会を行った際には、お客様が自宅内のイメージを話されて、そこに似合うキリムのアドバイスを求められることもあります。私達は家を建てる時に、あるいはモデルルームを作る時にベストマッチのキリムをご提案し、お客様に楽しんでいただけたらと思っています。
問い合わせ キリムギャラリー ペケレット(札幌市中央区南3条西27丁目3-3カーサオレガノ1階、011・632・7148)
ホームページ:http://www.pekerto.com/

ターゲットは退職者
マイホームきだ 本物レンガでリフォーム
新築当時の外観

1階をパンブリックに張り替えたことでどっしりした外観になった
 (有)マイホームきだ(上富良野町、黄田稔社長)は、約15年前に自ら手がけた新築住宅のリフォームでカナダ生まれのレンガ外装材『パンブリック』を採用し、このほど完成した。本物レンガの風格と耐久性を売りに、今後は退職する公務員などリフォーム資金に余裕のある層をターゲットに営業を進めていく。
 今回リフォームした住宅は、平成2年に同社が2世帯住宅として新築した建物で、外装材は窯業系サイディングを使用。施主は外装材のメンテナンスに気を配っており、ほぼ5年ごとに塗り替え工事をしていた。
 施主夫婦は2階に住んでいたが、勤め先を退職後1階に移り住むことになり、内部のリフォームを決意。今後は年金生活となることから、「5年ごとにメンテ費用がかからない耐久性の高い建材を」とこれを機に外装材を一新し、1階をメンテナンス不要で長持ちするレンガ外装材『パンブリック』にした。
 施主は事前に同社でパンブリックを施工した建物を見て回ったが、重厚なデザインも気に入り、入居者の評判も上々なことから採用を決めた。
 2階も含めパンブリックにする案もあったが、デザイン上の好みもあり窯業系サイディングを2階に、パンブリックを1階に張り分けた。外装材の張り替えにかかった費用は約220万円。
 施工して間もないが、施主夫婦は「冬の暖かさも期待している」と話している。
 パンブリックは、北海道と同様の寒冷地であるカナダ生まれ。13ミリ厚のスライスレンガに、41ミリ厚の防火性ウレタンフォーム断熱板、9ミリ厚の下地合板を一体のパネルとして乾式工法化した高性能外装材。防火構造認定(国土交通省認定・PC030BE-9306)も取得している。
 ウレタン断熱材部分は実付き形状となっている。シーリングレスだが、突きつけ施工した際に実部分に排水用の穴ができるようになっており、外装材表面から浸入した水はここから排出される。既存外装材の状態によっては重ね張りも可能だ。
 製品は35年の歴史があり、カナダでは発売当初に施工した建物もまだ残っているという。レンガは塗り替えの必要がなく、経年変化も味わいとなるのが魅力だ。
 このほか、スライスレンガの遮音効果と断熱材の吸音効果で、車の多い道路に接する建物に採用すると、「音が静かになった」という声が寄せられているという。
 同社の事務所兼社長宅もパンブリックを1階部分に施工しており、夏の朝、2階から1階に降りてくると『ひんやりとした』感じを実感しているという。こうした夏場の遮熱効果も自らの体験として営業でアピールしている。
 黄田社長は、「新築需要自体減り気味だ。新築では、外装材に予算を割けないお客様が多いが、リフォームの場合、公務員の定年退職者など地方でもリフォーム予算に比較的余裕を持っている人がおり、パンブリックを採用していただけるのはそうしたお客様が多いので、今後営業を強化していきたい」と話している。
 国内発売元の岡本インターナショナルでは、「来年は地球環境の保全が重要テーマとなる洞爺湖サミットが開かれ、住宅の断熱性能強化が注目されている。パンブリックの耐久性とともに断熱性など優れた性能を道内でも積極的にアピールしていきたい」と話している。

岡本インターナショナル(株)
兵庫県加古郡稲美町北山2-65
079-492-0280

http://www.pan-brick.com

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