大勢の住宅・建築業界関係者で埋まった北総研多目的ホール
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道立北方建築総合研究所では、去る6月8日、旭川市内の同研究所内で平成18年調査研究報告会を開催。「建築物のストックマネジメント」をテーマに、耐震性・耐久性の向上に関する技術開発などを中心とした研究発表が行われた。
当日は今年4月に就任した片桐久司所長の挨拶で始まり、植村徹生産技術部長が17年度に行われた「建築物のストックマネジメントの形成」に関する研究テーマをひと通り紹介した後、第1部の研究発表「戸建住宅を中心としたストックマネジメントに関する技術開発」に移った。
第1部では、最初に生産技術部の植松武是研究職員が「地震被害軽減を実現する小型免震素子の開発と外壁の耐震・断熱改修構法の開発」を報告。
このうち外壁の耐震・断熱改修構法の開発については、室蘭工業大学建設システム工学科教授の鎌田紀彦氏が考案した構法を、室蘭工業大学、NPO住宅外装テクニカルセンターと共同研究している。様々な必要断熱厚に対応できること特殊な部材を使わずに済み、地場工務店がすぐに着手可能であること施工・加工手間や廃棄物の発生を最小限に抑えられること―をコンセプトとしている。
袋入りのグラスウールを使って気流止めを行う改修構法の手順
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既存モルタルで耐力
外壁の耐震・断熱改修構法は具体的に2つの構法が提案された。1つは外装材の土台・胴差・桁廻りを水平に切り取って土台・梁などと柱の仕口を確認し、必要に応じてプレート金物などによる補強を実施。その後、袋入りのグラスウールを気流止めとして壁内の土台や梁廻りに入れてから構造用合板で塞ぐ構法。
もう1つはラスモルタルの既存住宅を対象としたもの。壁の上部・下部のモルタル外装材を切除し、柱と土台・桁などとの仕口の確認・補強、気流止めを行って、補強用面材で塞いだ後、既存モルタルの上から桟木を釘で躯体に留め付けてモルタルを耐力として活用。同時に桟木を下地として付加断熱も行い、その上から縦胴縁を打って通気層を設け外装材を施工する。
既存モルタルを耐力として活かした付加断熱・耐震改修構法 |
既存モルタルを活かす構法については、施工・加工手間が少なく、特殊な技能も不要で、廃材の発生やモルタルの剥離も抑えられるほか、モルタルを残すことで防火性も上がる。
実験結果について植松氏は「特殊な材料を用いずに18~45ミリの付加断熱厚を確保することができ、壁倍率も3.0程度になった。簡便な耐震・断熱改修構法として提案できる」と話しており、今後は北海道推奨の改修構法として施策を展開していく予定だという。
ねじれ抵抗や耐荷重などの性能を向上させた改良型免震素子
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また、地震被害軽減を実現する小型免震素子の開発については、平成14~15年度に開発した住宅用免震素子の性能向上を目的としたもので、基礎と土台の間に設置して地震の力が建物の上部構造にかからないようにするもの。改良によってねじれ抵抗や耐荷重を向上させるとともに、地震時のスライド幅を±200
ミリから±400ミリに拡大。実験では阪神・淡路大震災クラスの地震でも安定した性能を発揮することが確認されたほか、既存住宅の基礎にも設置可能な後付け用アタッチメントも開発した。
札幌市で行ったサイディングの劣化促進試験と暴露試験における製法別の劣化度の比較 |
積層プレス品が有利
続いて、居住科学部の廣田誠一研究職員が、「戸建住宅向け鋼板外装・部材の開発」(本紙5月15日付2面で紹介)、生産技術部の吉野利幸主任研究員が「サイディングの耐凍害性」、環境科学部の伊庭千恵美研究職員が「PCCを用いた外装システム」について報告を行った。
サイディングの耐凍害性の報告では、原料調合や成形法、養生法の異なる25種類のサイディングを用いて札幌、北見、上磯(現北斗市)で10年間の屋外暴露試験を行ったところ、成形方法別で見ると抄造成形品は多くの製品が3~6年、押出成形品は一部の製品が4~6年でそれぞれ凍害が目立つようになったが、積層プレス成形品は10年経っても外観に凍害は見られず、木片や木繊維、気泡、気泡代替材が混入され、密度を高めた製品が凍害に強かったことが判明。
PCCの外装材適用も検討
PCCを用いた外装システムの報告では、油成分である樹脂によって水を通しにくく、加工が容易で強度が高いといった特徴を持つパネル・PCC(ポリマー・セメント・コンポジット)を利用した外装システムについて研究成果を発表。これまでPCCは床材として使われてきたが、実験の結果、吸水率は他のサイディングと比べ極めて小さく、透湿率は押出スチレンフォームと同等、曲げ強さは窯業系サイディングやALCより優れていることがわかった。
裏面に通気層となる溝を付けたPCC外装単体
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また、裏面に通気層の代わりになる溝を掘った場合、溝の断面積が大きい物や溝のピッチが狭いものについては通気層がなくても、通気層を持つ一般的な木造工法と同等の放湿性能を持つことが確認されたほか、吸水率の低さを生かし、オープンジョイントによる外装の高寿命・フリーメンテ化、基礎断熱の外装への適用などもできそうだ。
この後、休憩を挟んで北海道大学名誉教授の石山祐二氏による特別講演「建物の長期活用を目指して」と、第2部「一般建築物の維持管理を中心としたストックマネジメントに関する技術開発」に関する研究発表が行われ、閉会した。 |