平成18年3月25日号から
運転良好だが課題も多い
IBEC 住宅用燃料電池の研究成果報告

IBECの研究で横浜市内の住宅に設置された住宅用燃料電池システムの燃料電池ユニット(左)と貯湯ユニット(右)
 (財)建築環境・省エネルギー機構(IBEC)では10日、札幌市内のホテルポールスター札幌で同機構が研究を進めている住宅用燃料電池の市場導入についての情報提供を目的とした「住宅用燃料電池の導入に関する技術研究成果報告会」を開催。同機構住宅研究部長由本達雄氏、日本環境技研環境計画室青笹健氏及び須田禮二氏が既存住宅に設置した燃料電池の運転状況等の分析結果を報告したほか、北海道ガス(株)の担当者が研究・開発の現状と今後の課題について講演した。

全国8ヵ所で試験
  今回の研究では道内を含む様々な世帯で電力・給湯需要の実測を行ったほか、全国8ヵ所(このうち道内2ヵ所)の既存戸建住宅に開発途上の燃料電池を設置してモデル運転を行い、運転状況や導入効果などを1年間にわたって調査。データを分析したところ、燃料電池の運転状況は概ね良好であることが確認された。発電機の定格出力は700~1000W、貯湯槽の容量は150~200リットル。

住宅用燃料電池コージェネレーションシステムの仕組み
 燃料電池の種類は「固体高分子型」と呼ばれるタイプ。作動温度が低いために大量生産が可能で、コンパクト化しやすいことが特長だ。さらに高効率な「固体酸化物型」も実証段階に進みつつある。これらがシステムとして完成し、本格的な市場導入が行われるようになれば、CO2削減に大きく貢献することが予想される。

起動時間短縮が必要
 研究・開発の現状と課題についての報告を行った北海道ガスの担当者は「最新式の燃料電池は発電効率や廃熱回収効率がかなり高いレベルに達しているが、解決すべき問題も山積している。まず起動に時間がかかる。スイッチを入れてから発電開始まで約45分、機種によっては1時間かかることもある。これは改質装置が燃料から水素を作り出す準備をするのに時間がかかるためだ。エネルギーをたくさん投入すれば起動時間を短縮できるが、それでは省エネシステムとしての意味がなくなる。
 耐用年数は現時点では3~5年程度とされているが、最低でも10年はもってほしいところだ。価格についてもメーカーは120万円を目標として掲げているが、現実的に考えるなら40~60万円くらいが妥当ではないかと思う。寒冷地バージョンの最適運転制御システムも必要だろう」と話し、普及に至るまでには多くの課題が残されていることを指摘した。

会場は大勢の参加者で埋まり、燃料電池に対する関心の高さを窺わせた
 設置スペースは2.0~2.4m2くらいが目安といい、燃料電池本体はそれほど大きくないが、付属機器や配管・メンテナンスのためのスペースを確保するとコンパクトとは言えなくなること、寒冷地では保温材や保温ヒーターなどの凍結防止措置が必要になることが報告された。
 施工日数は基礎工事・養生に7~8日、搬入・設置に2~3日、配管に2~3日、配線に2~3日、試運転に3~5日かかり、今回のモデル運転では燃料電池の発注から製作・搬入まで5~6ヵ月、電力会社との協議や契約準備手続き等に2~3ヵ月を要したという。



Q1モデル長期公開
札幌・アシスト企画 エコウィルでCO2さらに削減

施工中の外観。付加断熱材を充てんしながら同時進行でタイベックを張っている様子
 (株)アシスト企画(札幌市、岡本勝社長)が取り組んでいるQ1.0住宅は、今月18日から札幌市北区新川でモデルハウスとして一般公開を開始し、2年ほどは常設モデルとして公開した後、販売する予定だ。新住協のQ1.0プロジェクトのテーマでもある、環境保護の考え方を徹底し、ガスコージェネレーションシステム「エコウィル」を試験的に採用した。モデルハウスの公開と同時にランニングコストのデータ取りを行い、その結果によっては一般ユーザーへ提案していきたいとしている。
 Q1.0モデルハウスの敷地面積は50坪ほどで、北東と北西が道路に面した角地。この敷地の南東側には3階建ての住宅が建っているため、リビング・ダイニング・キッチン・ユーティリティーといった生活空間を2階に配置することで日射を取り込める設計とした。また、そうすることによって、手稲山を望む南西側のリビングに、くつろぎに加えてロケーションを楽しめるというメリットが生まれた。
 建物は新在来木造構法を採用した延床面積45坪の2階建て。断熱スペックは、基礎が押出スチレンフォームB3種100ミリ外張り、外壁がロックウール40K200ミリ充てん、小屋裏がセルローズファイバー25K400ミリ吹き込み。外壁の構造は軸間にロックウール40K100ミリを充てんし、柱の外側にOSB合板を張り、その上に幅105ミリ×厚さ45ミリの根太を455ミリピッチで釘打ちし、そこにロックウール40K100ミリを充てんした200ミリ断熱。

複数の外装材を使い、木製ルーバーをアクセントとした外観
 窓は木製サッシ・アルゴンガス入りトリプルLow-Eガラスを全ての窓に採用。換気は熱交換換気システム。給湯・暖房にはエコウィル。これらの仕様で換気の熱交換効率80%、換気回数0.1回/hで計算したQ値は0.983W/m2K。エコウィルによる暖房消費を年間灯油消費量に換算すると496リットルになる。

映える造作家具
 外観は角波鋼板、平板鋼板、塗り壁の3種類を使い分け、室内外ともにモダンデザインとしている。室内は間取りや意匠性に合わせた造作家具も大きな見どころ。
 キッチンではシンクの下に、家庭の生ゴミを処理するディスポーサー排水処理システム(販売元、日本ゼスト)を初採用した。これは、シンクに生ゴミを投入するだけで自動的に処理してくれるシステムで、粉砕された生ゴミは排水と一緒に外に設置された処理層に送られ、バイオの力で分解・処理するシステムだ。

木製サッシによる大開口部が映えるモダンリビング
 また、化学物質を中和・分解するSODリキッド工法を同社では標準仕様としており、このモデルハウスでも採用している。
 同社の松浦俊則営業課長は「Q1.0住宅に関心を持ってくれているユーザーが多勢いるので、たくさんの人に見てもらえるよう最低でも2年ほどは公開する予定だ。性能だけでなくモダンデザインやこだわりの造作家具など、当社の提案力と技術力をPRしていきたい」と話している。

基礎 押出スチレンフォームB3、100ミリ外張り
ロックウール40K100ミリ+100ミリ
屋根 セルローズファイバー25K400ミリ
木製サッシ・トリプルLow-Eアルゴン入り
換気
換気 熱交換換気(顕熱90%)
暖房 ガスコージェネレーション
Q値 0.983W/m2・K
暖房エネルギー試算 496リットル(灯油換算)


より快適で省エネ
札幌・奥野工務店 給気加温し排気熱は回収

ユーティリティーの天井に設置されたヒートポンプの空気熱交換器(写真上)と水熱交換器ユニット(写真右手前)
 (株)奥野工務店(札幌市、奥野智史社長)ではこのほど、暖房エネルギーの削減と第3種換気の給気の冷気感解消を目指し、換気排熱利用ヒートポンプ(キーテック工業(株)製)と、給気を加温して室内に給気するヒートフレッシュエアーサプライシステム((有)北欧住宅研究所開発・特許出願中)を導入した住宅を恵庭市内で完成させた。
 この住宅は延床面積約40坪の2階建てで、硬質ウレタンボードを軸組に外張りするソトダン21工法で施工。
 同社では以前から次世代省エネ基準をクリアする断熱性能と、相当隙間面積の平均が0.2cm2/m2という高い気密性能を生かして、空気熱源のヒートポンプによる低温暖房を採用するなど、積極的に省エネ性・快適性を高めてきたが、灯油価格の高騰が続く中ではよりいっそうの省エネが必要と考えたという。そこでイニシャル・ランニングコストを含めてユーザーと話しあった結果、いくつかある暖房メニューのうち最もコストパフォーマンスがいいと判断した換気排熱利用ヒートポンプを採用することになった。

2階床下に納めたヒートフレッシュエアーサプライシステム本体

1階玄関ホール天井にある給気グリル。加温された新鮮外気が水平に広がる形状の製品を採用している
 また、寒冷地で課題となっている第3種換気の給気の冷たさを解消するため、放熱器を内蔵した加温チャンバーで給気を加温するヒートフレッシュエアーサプライシステムもユーザーに提案して設置した。換気排熱で温水作る  換気排熱利用ヒートポンプは、これまで第3種換気で屋外に捨てていた排気の熱で予熱した冷媒ガスを圧縮機のコンプレッサーで圧縮し、高温状態になった冷媒ガスの熱を水熱交換器で取り出して暖房用温水を作る仕組み。暖房用温水を使って空気熱交換器内で冷媒ガスの温度を上げることにより、COP(投入エネルギーに対して得られるエネルギーの比率)は約3・6を達成している。システムの稼働はホットタイム22を使っており、通電時間がカットされる時間帯はバックアップ用灯油ボイラーで温水を作っている。
 ヒートフレッシュエアーサプライシステムは、第3種換気による負圧を利用して放熱器を内蔵した加温チャンバーに新鮮外気を導入し、42、43℃に加温して室内に給気する。給気が水平に広がる給気グリルを採用することにより、気流感なども抑えている。
 今回の住宅の給気から排気までの換気の流れを見ると、外壁面から150φの断熱消音ダクト2本を通して導入した新鮮外気を加温チャンバーで加温し、1階は玄関ホールの天井、2階はホールの床の給気グリルから室内に給気。汚染空気は1階5ヵ所、2階4ヵ所、床下1ヵ所の排気グリルからダクトを通じて1階天井ふところの換気ファンで引っ張り、換気ファンの直後に設置した空気熱交換器で排気熱を回収した後、屋外に排出している。

暖房エネ約4割削減
 同社ではこの2つのシステムを導入するにあたって、構造的にこれまでの仕様から変更した部分はなく、工期的にも従来と同じ。ヒートフレッシュエアーサプライシステムを含めた換気設計については北欧住宅研究所の川本清司所長が行い、システムの効果を最大限発揮するために、ダクト配管による圧力損失を最小限に抑えている。
 川本所長は「ヒートフレッシュエアーサプライシステムは暖房用放熱器ではないが、加温能力が約1700kcal/hあり、37.6m2の面積を20℃に保温可能。これまでの実績から1割程度の省エネ効果があるが、給気口廻りの冷気感がなくなったことで、暖房設定温度を低くしても体感的には寒さを感じなくなったことが省エネにつながっている」と話しており、次世代省エネ基準レベルの住宅では換気排熱ヒートポンプと組み合わせることで、約4割の暖房エネルギーが削減可能と見ている。

高省エネを目指した今回の住宅の外観
 コスト的には、換気排熱ヒートポンプが放熱器など暖房機器を含めユーザーへの見積価格で270万円ほどになるが、今回の住宅は独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業の補助金制度に抽選で当選したため3分の1の金額が補助される。ヒートフレッシュエアーサプライシステムは本体のほか、ダクト配管を含めた設置工事や点検口の製作などを含めて実行価格30万円弱になるという。

今後は窓の断熱強化も…奥野社長
 奥野工務店の奥野社長は「換気排熱ヒートポンプは高い断熱・気密性を前提とした低温暖房となるので、給気の寒さをより強く感じることにもなりかねないが、ヒートフレッシュエアーサプライシステムを導入することでそのような問題も解消可能になる。今後もユーザーからの要望があれば採用し、さらに快適性・省エネ性を高めるためにも、住宅の熱的な弱点となっている窓の断熱強化を考えていきたい」と話している。

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