長谷川氏
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寒地住宅に関して産学共同で研究を行い、その成果を広く一般に普及・啓蒙する活動を行っている北方圏住宅研究会(長谷川寿夫会長、北海道大学大学院工学研究科)では、今月4日、かでる2・7で「省エネ・健康・長寿命住宅を造るには」と題した一般セミナーを開催し、一般市民から建築関係者まで多数が参加した。前半は長谷川会長が「住まいづくりの基本・トータルバランス」をテーマに、後半は(有)北欧住宅研究所川本清司所長が「―知らないうちに損なわれるあなたの健康―シックハウス新法後も患者が多発している現状とその対策」をテーマに講演を行った。
長谷川氏の講演では、断熱・気密・暖房・換気に加え、快適な住まいづくりの実現には防暑への配慮も大事だと述べた。
また「構造材が常に乾燥状態にあれば施工後も腐ることはない。居住環境、省エネルギー、耐久性の3つを実現するには、断熱・気密・暖房・換気が絶対に必要」と語った。
川本氏
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実測データ公表
後半へ進み川本所長の講演では、この5年間に行ってきた室内のVOC濃度測定で、厚生労働省が示している化学物質について、指針値オーバーが確認された4件の住宅の測定データを発表するとともに、居住者が人体にどのような影響を受けているのか、また、その処置方法や対策について講演した。
C邸住宅側2F洋室の化学物質測定値(ppm) |
A邸では、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、p‐ジクロロベンゼンが指針値オーバー。婦人と子供たちは引越途中で体調を崩し、北里大学でシックハウス症候群と認定された。原因は酢酸ビニール系接着剤、油性ペイント、有機溶剤のエステル系溶剤の使用と、換気量不足が問題点としてあげられる。気密レベルが1.33/m2で換気量は強で0.39回/hという結果だった。A邸を建設した住宅会社は4000万円ほどの和解金を支払うことで解決した。
B邸では、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、アセトアルデヒドが指針値オーバー。気密は0.2/m2、換気量は0.35回/h。5物質が指針値をオーバーした原因として造作家具が数多くあり、そこで使われた塗装によるものと思われる。B邸の家族は誰もシックハウスにかからなかった。
C邸は医院と住宅が通路でつながっている。婦人が体調を崩し、シックハウス症候群と診断された。VOC濃度を測定した結果、医院2Fのスタッフルームと住宅2Fの洋室のVOC濃度が高いことが判明。換気量の測定では、医院側は0.33回/h、住宅側は0回/hという結果。その後すぐに換気装置に改良を加え、医院と住宅の換気量をともに0.54回/hにし、それから1ヵ月後に再びVOC濃度を測定した結果、ホルムアルデヒドは0.054ppmから0.02ppmまで減少した。その他の物質も減少。
その後、すぐに換気量を0.54回/hから0.78回/hほどに変更する工事を行い、医院と住宅の通路のドアを気密性の高いものに変更。また、医院の北側の暖房と給湯ボイラーの排ガスが窓や給気口から室内に侵入し、その度に婦人が体調を悪化させていたことから、医院側のボイラーを排ガスが発生しない電気ボイラーに取り替えた。医院と向かい合う住宅側の南面の窓は引き違い窓から、気密性の良い外開き窓に変更。これらの処置で施主と施工側は合意を得たようだ。
その後の経過によると住宅内ではほとんど発症しなかったという。この件は、全てF☆☆☆☆の建材を使用していたが、換気システムの設計および施工が不良だったためと考えられる。
D邸では、入居後すぐにシックハウス症候群と診断され、後に化学物質過敏症と診断されている。6物質の測定中アセトアルデヒドのみが指針値の約3.4倍という高濃度だった。換気量はわずか0.27回/hで、換気経路としてもショートサーキットを起こしていたので、換気装置を全面的に変更した結果、最大で1.46回/hという換気回数を達成。
1ヵ月後のVOC濃度測定では指針値の8分の1に減少し、他の物質は元々低かったので問題はない。しかし症状が化学物質過敏症に悪化した施主側は、2階の北西の洋室と中2階の寝室で体調悪化を訴えている。VOC濃度がどの程度で発症するかは個人差があるが、換気回数を大幅に増やし1.46回/hを継続することによって、改良後1~2年以内には全てのVOCは指針値の10分の1以下に減少するものと思われる。
なお、アルデヒド類は高速液体クロマトグラフにより測定。その他のVOC測定にはガスクロマトグラフを使用し、分析は北見工業大学機械システム工学科坂本弘志教授(工博)によるもの。
住宅会社の対策
最後にシックハウスにならないための対策として、換気の正しい設計方法や注意点を述べ、使用する建材や接着剤にも最大限に注意を払うことが必要不可欠だとした。
住宅会社の対応として、川本氏は次のような順序で確認を行うことがポイントだとしている。1.ヒアリングの段階で入居予定者にアトピー性皮膚炎やその他のアレルギー性疾患にかかっている人がいないか確認する
2.工事完了後、入居前に指針値が定められている物質の測定を行い指針値クリアを確認する。
ここまで行えば、入居者に化学物質からくる何らかの症状が発症しても法的には責任を負わないが、心配なときは3.本格入居の前に体験入居をしてもらい症状が出ないか確認
4.問題がある場合は指針値の半分以下まで化学物質の濃度を引き下げてみる 5.それでもダメな場合は建築的な解決は難しいので、医師に相談してもらう―という対応を勧めている。
注意点としては過敏症であることを隠している入居者もいることに注意する化学物質の濃度測定はアクティブ法またはパッシブ法で行い、検知管方式はあくまで目安と考えること(検知管方式は濃度結果が低く出る傾向にあり、あとからトラブルになった例がある)換気風量測定は測定器がくるっている場合もあるので、定期的に検査(較正)を行うこと。 |