今年1年の道内住宅業界を振り返ってみると、灯油価格の高騰を背景に高省エネ化を目指す動きが活発化したことに加え、ユニット化や門型ラーメン構造の応用によって従来の木造工法を進化させる動きも見られるなど、近年になくハード面重視の取り組みが目立った。またその一方では基礎断熱した床下でのカビ発生、換気不良によるシックハウス被害などが表面化。技術不足・知識不足の施工が大きな問題になりかねないことを改めて示した1年となった。ここではそれらの動きを中心に今年1年を総括した。
グラスウール軸間充てん100ミリ+外付加100ミリによる200ミリ断熱の現場 |
高断熱化 灯油高騰が後押し
昨年から始まった熱損失係数(Q値)低減による高省エネへの取り組みは、灯油価格が依然として高値で推移したこともあり、北海道のほか、本州の寒冷地でも積極的な動きが見られた。
北海道ではNPO新住協が次世代省エネ基準比で暖房エネルギー消費量の半減を目指したQ1.0(キューワン)プロジェクトを今年も推進。特に旭川支部では会員各社がグラスウールを軸間に100ミリ充てんし、さらにその外側にも100ミリを付加する外壁200ミリ断熱に取り込んだ。既存規格の部材をうまく利用することで北欧レベルの断熱性を確保し、冬期の日射取得が期待できない旭川での高省エネ化を進めており、今年度内に12棟前後が竣工する見込み。200ミリ断熱は、札幌でもNPO新住協のアシスト企画が施工。新住協以外でも札幌のテーエム企画が施工中のショールーム兼事務所で採用するなど、全道的に広がりそうな気配だ。
北信商建が長野市内に建てた無暖房住宅のモデルハウス
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また、スウェーデンで最初に建設された無暖房住宅に挑戦するビルダーも現れた。長野の北信商建では、全国に先駆けて無暖房住宅に取り組み、今年1月に初のモデルハウスをプレオープン。外壁と天井の断熱をセルローズファイバー400ミリとするなど熱損失係数(Q値)を0.75Wとした躯体に太陽熱を暖房・給湯に利用するFBソーラーシステムを組み合わせており、ユーザーの住宅以外にも別のモデルや教会を含め6棟をすでに施工している。
千歳市の協栄ハウスでも、このほどツーバイテンスタッドにBIB充てん235ミリ+押出スチレンフォームB3種100ミリ外付加とした外壁335ミリ断熱などによる無暖房住宅のモデルを建設。シミュレーションによると年間灯油消費量は170程度になるといい、来年には商品化も期待されている。
東北では岩手でQ値1.0Wを切る断熱性能を目指して地域の気候に根ざした家づくりを考えるDotドット)プロジェクトの第1号住宅が盛岡市内に完成し、Q値0.94Wを達成。このほかにも、同じく岩手のユートピアみちのくがQ値1・2Wと北海道レベルの高断熱住宅、秋田の知的オオタホームがNPO新住協のQ1.0住宅をそれぞれ建設するなど高省エネを差別化にもつなげようとする意欲的なビルダーが目立った。
アーキビジョン21が開発したモデューロ。クレーンを使って工場生産の木造ユニットを組み立てる |
工法開発 木造の可能性広がる
工法的には木造の新たな可能性を追求する動きが目に付いた。
千歳本社のアーキビジョン21では木造ユニット工法の「モデューロ」を今年から本格販売。4寸角の柱や15ミリ厚の構造用合板、240ミリ×120ミリの梁などで構成する工場生産の木造ユニットをクレーンで組み立てていく工法で、何度でも組み立て・分解が可能なため、別の土地に移っても移設して住み続けることができる。岩見沢の新企画社もツーバイフォー住宅をユニット化した「ジョイントハウス」を開発。実行価格ベースで3~5%のコストダウンと約1ヵ月の工期短縮が見込めるという。
木造で鉄骨造並みの大開口や大空間を実現する木造ラーメン構法も北海道にお目見えした。札幌の桧山建設綜業では富山のグランドワークスが販売する門型ラーメンフレームシステムを札幌市北区の木造3階建て建売住宅(販売・ベストホーム)に採用。間口が2間半と狭いものの、門型フレームによって1階正面に組込車庫と玄関の設置を可能にした。
和風モダンのテイストを取り入れた青木建設のモデルハウスの和室。壁は塗り壁に紅葉を散らした仕上げとしている |
デザイン提案
モダン系が主流に
デザインに目を向けると、大手ハウスメーカー、地場ビルダーともに団塊ジュニア層を狙ったモダンスタイルが根強い人気。大手ではスウェーデンハウス北海道支社がオープンな空間の中にステンレスキッチンや金属製階段を採用した「ヒュース ロア」、地場ビルダーでは釧路の青木建設が和室の造り込みを特徴とする和風モダン、帯広のTRADがグレーと黒を基調にした内外装の洋風モダンのモデルハウスをそれぞれ提案し、好評を得ていた。
また、ミサワホーム北海道ではリビング・ダイニング・キッチンを広間という一つの空間とみなした生活提案を行った「GENIUS-HIROMA(ジニアス―ヒロマ)」を販売、ジョンソンホームではパティオ(中庭)を使った暮らしを提案したモデルハウス「サンタフェ」を公開するなど、空間の使い方を提案する商品も見受けられた。
壁をカラマツ合板、天井をトドマツ合板で仕上げた吉田建設の住宅
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道産材使用 大手も地場も積極的
道産材を内外装に積極的に使う動きも続いており、住友林業札幌支店では道産材使用率が総体で9割に達する「マイフォレスト」を4月から発売、下川町のキタ・クラフトや東神楽町の藤井工務店ではカラマツを外装材に使うなど、大手・中小地場問わず道産材利用が進み、小平町の吉田建設ではトドマツ集成材の柱やカラマツ・トドマツ合板による内装仕上げを行った住宅を公開して地元ユーザー200名以上を集めた。道南杉を外装材に使う例も増えており、札幌のTAO建築設計事務所では部分的に使う場合も含めて全棟で採用している。
また、北海道木材産業協同組合連合会(道木連)では道産材を使った住宅建設の普及促進を図るため、同組合が認定した道産材を総木材使用量の半分以上に使用した住宅を「北の木の家」として認定する制度を開始。北海道労働金庫の住宅ローン金利が優遇されるメリットがある。
乾式タイルの目地が浮き上がった現場。施工不良によるベースサイディングの浮きが原因 |
トピックス 施工力不足が重大な問題に
ビルダー個々の動き以外では、シックハウス新法施行後に新築した住宅で換気不良によるシックハウス症候群になったり、乾式タイルを採用した住宅でベースサイディングの施工不良によりタイルが浮き上がってきたという事例が発覚。いずれもきちんとした施工がなされていなかったのが原因だが、シックハウスにかかったユーザーは裁判を起こすなど事態は深刻だ。また、基礎断熱した床下でカビが発生するなどの例も今年はよく耳にした。施工力不足・知識不足が思いもよらないトラブルに発展することがあると改めて認識しておかなければならない出来事であったと言える。
行政の動き
耐震偽装対策に重点
今年の行政の動きとしては、耐震偽装事件を背景とした建築基準法や建築士法などの改正、住宅業者の責務を明確にした住生活基本法の施行やそれに基づく基本計画の策定などがあった。
今年6月の建築基準法や建築士法など関連4法の改正では、確認・審査の厳格化や違反建築物の設計者等に対する罰則強化などを内容とし、一部を除き来年6月下旬までに施行されるが、確認・審査の厳格化は、7階建て相当以上の鉄筋コンクリート造を対象にした指定機関による構造計算審査と、3階建て以上の共同住宅を対象とした中間検査をそれぞれ義務化するという内容が中心で、戸建住宅はほとんど関係ない。
ただ、国土交通省では建築確認の見直しを進める中で、2階建て以下の木造住宅の建築確認で省略していた耐震強度の審査を義務化する方針を固めており、ビルダーも構造計算などの対応を迫られそうだ。
道建設部が断熱材と断熱窓の出荷数から推計した新築住宅の次世代省エネ基準達成率とその将来推計。住生活基本法の北海道計画案では平成27年までに達成率を75%に高めることを目標としている
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また、違反建築物の設計者等に対する罰則強化として、耐震基準など重大な実体規程違反に対する罰則を「罰金50万円」から「懲役3年または罰金300万円(法人は1億円)」にするなどの措置を規定。住生活基本法で性能などに目標 住生活基本法は、これまでの住宅建設計画法と住宅建設五箇年計画に代わるもので、国や地方自治体、住宅関連業者、居住者の役割を明確にするとともに、性能重視、中古市場の流通性確保、セーフティネットなどを柱としている。
基本計画を国と各都道府県で定めることとなっており、北海道の基本計画(素案)によると、平成27年までに新築持家の次世代省エネ基準達成率を平成16年時点の52%から75%、既存住宅で一定の省エネ対策を講じた住宅の比率を平成15年時点の83%から90%に高めるなど、省エネに関しては国の基本計画を上回る目標を掲げている。
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