断熱施工中の無暖房住宅。手前に外張り付加用の断熱材が積まれている |
北海道の空の玄関口、千歳市で無暖房住宅が今月末の完成を目指して建設中だ。ツーバイフォー工法で壁の断熱厚は335ミリ。この冬に室内環境の計測を行い、エンドユーザーの声も聞きながら来年には商品化を進めたい考え。
販売可能なコストで商品化
建設しているのは(株)協栄ハウス(千歳市、前田豊司社長)。無暖房住宅に興味を持って今年2月にスウェーデン・ヨーテボリの無暖房住宅を視察。さらに長野県の無暖房住宅・モデルハウスを見学して、千歳でもやってみようと決断した。
千歳市は最低気温がマイナス20℃を下回り、真冬日は2005年で73日を数えるなど札幌よりはるかに寒いが、降雪量は少なく冬場の日照には恵まれている。このため、日の出前後の冷え込みに耐えられるか、昼間の日射で暑すぎないかなど、高緯度のスウェーデンとは違った観点から課題を探り、もう一方では無暖房への取り組みを1棟だけに終わらせることのないよう、魅力的なプランづくりも念頭に置いた。
ツーバイテンのスタッドにグラスウールを吹き込む。「なかなか終わらない」とぼやきながらも、工事関係者の目は無暖房への期待に輝いている |
工法はツーバイフォー工法。断熱は床、壁、屋根で断熱し、開口部は熱貫流率1・0Wの超高断熱木製サッシを使った。
断熱スペックは、床が210の床根太の下に断熱補強の206材を付加し、断熱材受けとして押出スチレンフォーム25ミリを取り付けて根太間に高性能グラスウール16K120ミリを3層充てん。
壁は210のスタッドにBIB工法で充てん、その外側に押出スチレンフォームB3種100ミリを外張り。屋根は構造たる木208の下に断熱補強の208を流し、およそ370ミリをブローイングで充てん断熱した。
問題となったのは各部の納まりだ。
スタッドがツーバイテン材で235ミリ厚。このため床根太の直交方向はいいが、並行方向は床下地に根太がない格好になる。そこでスタッドを受ける床根太をはしご状に組んでその部分だけ断熱を先に施工。フレーミングが終わってから根太の断熱補強を追加した。
ツーバイテンスタッドの室内側は、防湿・気密シート、石膏ボードを張ってから45ミリ角のたる木材で下地を組んで空気層とし、その上に内装下地の石膏ボードを張る2重壁とする。
これは電気配線などで気密層を傷めることのないように室内側に付加し壁を設けるスウェーデンのやり方を参考にしたもので、密閉空気層になることで断熱効果も期待できる。
無暖房住宅の矩計図。初施工でもあり、現場で納まりが変更になっている部位もある |
換気は熱交換換気システム。配管にダクト清掃のハッチを設けた。暖房は肌寒いときに使えるよう、また、夏場対策として冷房兼用エアコンを装備する予定で、いわゆる暖房設備は設置しない。
暖房試算は灯油170リットル
プランは吹き抜けを設けた4LDK。販売を前提としたモデルなので、空間設計で吹き抜けなど大空間を演出。必ずしも無暖房のためのプランにはしなかった。
夏の暑さ対策はかなり悩んだという。接道方位が45度振れており日射遮へいがやりにくいことと、通風を重視すれば窓が多くなる点だ。通風を重視して個室を2面開口にすると、西日の処理と冬の熱ロス増加が問題となる。この点はある程度断熱性能の維持を優先させた。また日射遮へいは、南東面は軒とひさしで対応。軒とひさしの出幅は、夏至と冬至の太陽高度を割り出して決めた。冬場は冬至の正午でも太陽が取り込める一方、夏至の正午は完全に日射を遮へいする。
南西面と北西面については太陽高度が低い西日となるため、さらに気を使ったが、西側の個室窓はオーニングで処理する予定だ。
これらの断熱スペックで熱損失係数は0・78W。暖房面積は150m2。暖冷房のシミュレーションによると、暖房負荷は年間で1600kW、灯油換算で
170リットル程度で、次世代省エネ基準の6分の1に激減する。床面積1m2あたりでは10kWあまり。また冷房負荷は60kW程度でこれも激減となる。
シミュレーション上では暖房負荷が発生するが、エアコンで十分対応可能と同社では見ている。
同社石黒浩史専務は「まずは挑戦だと思う。モデルハウスで施工性とコスト、竣工後のデータ取りを行い、商品化へ向けて販売可能な性能レベルを検証したい。多くのユーザーが受け入れ可能なコストを実現できれば、寒冷地の北海道にとって大きな一歩だと思う」と語っている。 |