平成18年1月5日号から
石油高騰時代の省エネ住宅
 

苫小牧で公開中のモデルハウス(右側がQ1.0住宅)
 昨年から灯油価格が上昇の一途をたどり、北海道など積雪寒冷地で暮らすユーザーには非常に頭の痛い問題となっている。このような中でビルダーはどのような提案を行うべきなのかを考えた時、まずはどのエネルギーを利用しても省エネで家計への負担が少ないこと、つまりエネルギー価格の上昇が家計を直撃しない住まいを造ることが大切になってくる。より高い省エネ性能の実現へ、一歩を踏み出す時がきた。

●光熱費から見た新築マイホームの目標
エネルギー価格の影響受けない

 ひとくちに省エネ住宅と言っても、まずは何を基準にそう判断すればいいのだろうか。熱損失係数(Q値)に表される断熱性能や年間暖房灯油消費量などいくつか基準になるものは挙げられるが、やはりユーザーに対して一番分かりやすいのは「光熱費が一体年間にどれだけかかるのか」ということだろう。
 年間の光熱費が灯油や電気の値上がりによって仮に5万円増えたとしたら、それは年間で5万円ローンが増えたのと同じことになり、その分、出費をどこかで削らなければならなくなってくる。特に北海道では依然として景気の回復が見込めず、雇用面でも不安をぬぐえないことを考慮すると、光熱費の増加は一般家庭にとって切実な問題だ。
 そうなると年間の光熱費を○○万円以内に抑えられる住まいはユーザーに対する説得力も十分。他社との差別化としても非常に効果的と言える。

年間の光熱費試算(本紙算定による)

暖房・給湯は灯油 調理はIHクッキングヒーター
給湯・調理・一般電灯の消費エネルギーはどの条件でも同じと仮定した
20万円以内が目安
 次に具体的な目標をいくらぐらいに設定するかだが、ここでは年間20万円以内を目安にしたい。
 その根拠は、一昨年札幌市内に建てられた高断熱・高気密住宅の光熱費に関するデータにある。この住宅は延床面積50坪で、150ミリ断熱の外壁や木製トリプルガラスの窓などを採用し、暖房負荷1万1000kWを達成したことにより、年間の光熱費が20万円強となっている。その住宅のオーナーが以前暮らしていた40坪弱の戸建てでは、暖房面積24坪の部分暖房で年間光熱費が20万円弱と、新築した住宅とほぼ同じ。つまり断熱・気密性能を高めたことで、部分暖房と同じ光熱費で全室暖房が可能になったわけだ。
 これまで灯油や電気が値上がりした時には、全室暖房ができる住宅でも使わない部屋の暖房を止めたりして光熱費を節約していたというユーザーの話を良く聞くが、部分暖房では家の中に浴室やトイレなどの寒い場所ができ、高齢者は暖房した部屋から移動した時には寒暖差によって脳卒中を引き起こす恐れがある。
 また、暖かい湿った空気が温度の低い場所に流れ込めば、結露が起きてカビ・ダニの発生やクロスなど内装材の汚れにつながり、ひどければ居住者が健康を損ねたり、構造材を傷めたりすることにもなりかねない。それでは節約どころか余計な出費を強いられることになる。

開口部に高性能な木製窓を使うなどして断熱性能を高め、パッシブソーラーなども採用することで、暖房費の大幅削減を目指したい


暖房・給湯は灯油
調理はIHクッキングヒーター
給湯・調理・一般電灯の消費エネルギーはどの条件でも同じと仮定した
 北海道の平均的な住宅が大体45~50坪ということを考えれば、金額的に年間20万円の光熱費は暖房費の負担が大きい北海道の住宅として納得できるレベル。その金額で例に挙げた札幌市内の住宅のように、快適な全室暖房ができる省エネ住宅を提案することができれば、ユーザーにとって非常に魅力的に映るはず。年間光熱費20万円を目標とした省エネ住宅を考えたい。

●暖房費が計算できる家、できない家
まず断熱性能アップ
 それでは年間光熱費20万円を達成するためにはどうすればいいのかを考えてみたい。
 北海道は光熱費に占める暖房費の割合が高く、給湯や照明なども含めた年間エネルギー消費の約6割を占めると言われている。省エネには家電製品や照明のスイッチをこまめに切ったり、お湯の使用量を抑えたりといったことも含まれるが、実は住宅の断熱性能を高めて暖房エネルギー消費を減らすことが北海道では最も効果的な省エネで、家計にも優しいわけだ。
 そこでまずは断熱性能を高め、室内からの熱損失をできる限り抑えることが必要。床・壁・天井の断熱厚を増やすのと同時に、窓や玄関ドアの開口部も木製サッシや木製断熱ドアを使うなど高断熱タイプの製品を採用することが求められてくる。
 さらに大きな開口部を設けて太陽熱を積極的に取り入れるパッシブソーラーや窓の断熱性能を補う断熱スクリーンの導入、COP(投入エネルギーを1とした時に得られるエネルギーの割合)が高いヒートポンプやコージェネレーションシステム、効率の良い熱交換換気といった省エネ機器の使用なども選択肢となってくるが、基本的な考え方としては断熱性能をしっかり高めた構造体を造ること。そのうえでプランニングや設備機器による省エネを検討する。

暮らしやすさも向上
 実際、断熱性の高い住宅は、低い室温でも体感的に寒さを感じることはなく、快適性も非常に高くなる。これは体感温度が一般的に「室温+周囲の壁の表面温度÷2」に相当するため。壁(窓)の断熱性が高くなればなるほど表面温度は高く、体感温度も上がるわけだ。

断熱性能が高い住宅は、軒や庇できちんと日射遮蔽を行えば冷房エネルギーも最小限で済む
 体感温度が上がれば暖房設定温度を低くすることができ、それだけ暖房に使うエネルギーが少なくなるほか、高断熱・高気密住宅の課題となっている冬期の乾燥感もやわらげることができる。道の資料によれば、暖房設定温度を1℃下げると、暖房に使う灯油を年間約100リットル減らすことができ、灯油代にすると約7000円の節約になるという。
 一方、断熱性の向上は地球温暖化の影響でだんだん暑さが厳しくなってきている夏期にもその威力を発揮する。日射遮蔽をきちんと行っておけば冷房エネルギーをなるべく使わずに済むことになり、結果として1年を通じて省エネに暮らせる家になる。

環境保全にも貢献
 また、エネルギー使用量が少なくなるということは、それだけ地球温暖化の原因とされているCO2(二酸化炭素)の排出量を減らすことにもつながってくる。
 平成17年2月に地球温暖化防止京都会議(COP3)で採択された京都議定書が発効となり、国際法として正式に効力を持ったことで、日本は2008年から2012年の期間中に6種類の温室効果ガスを1990年度比で6%削減することが義務付けられたが、特に住宅のエネルギー消費の伸びは産業部門や運輸部門などと比べて高いため、省エネ化による温室効果ガス削減が急務となっている。
 特に道内は冬期の暖房が欠かせないため、家庭から排出されるCO2の割合が全国より高くなっている。断熱性能に優れた住宅を造ることは、そのような現状を解決するとても有効な手段の一つで、家計に優しいのはもちろん、環境に対しても優しい住まいとなる。


暖房エネルギー消費が多い北海道の家庭は、CO2排出量も全国より多い
注:( )内が全国の比率


室蘭工業大学の鎌田先生の研究室が開発したQ値計算ソフト「QPex」。年間暖房灯油消費量も算出できる

暖房エネ削減がカギ
 年間光熱費20万円を実現するためには、住宅の年間消費エネルギーの中で約6割を占める暖房エネルギーをどれだけ少なくできるかが大きなカギを握る。繰り返しになるが、暖房エネルギーを少なくするためには、高い断熱性能を実現することが前提条件。まずはどれだけ断熱性能を高めれば、どれだけ暖房費が減るのかを確かめてみることが必要だ。
 断熱性能に応じた暖房費の計算は、Q値を計算できるソフトがあれば可能だし、表計算ソフトのエクセルを使って算出することも可能。暖房に使われるエネルギーは灯油、電気、ガスとあるが、一番わかりやすいのは熱損失係数から年間暖房灯油消費量を算出し、1リットル当たりの単価を掛けるやり方だろう。

施工力が性能を左右
 ただ、仮に年間の暖房費が10万円で済む断熱仕様で建てたとしても、実際にそうなるかと言えば、なる場合もあるし、ならない場合もある。断熱性能や暖房費が計算通りになるかどうかは、施工力にかかっているからだ。設計上の断熱性能を計算通りに発揮させるには、確かな施工が大切。施工精度・資材等の選択・現場管理それぞれに高いレベルが求められる。それを実現したうえで、全棟気密測定を行い、気密性能を保証することで、ユーザーに自社の施工力をアピールするのも一つの手だ。
 ちなみに道内で全棟気密測定を行っているビルダーは、ほとんどが相当隙間面積(C値)で1cm2/m2以下を保証している。1cm2/m2以下であれば、隙間風はなく快適で、断熱欠損も起きにくいために計算通りの断熱性能が期待できる。また、壁内結露の可能性がずっと低くなるので構造材の腐朽なども起きにくく、換気も効率良く行うことが可能だ。

●目標は次世代省エネ基準以上
Q値1.4Wが必要
 年間光熱費20万円をクリアするためには、断熱性能の目標をどのレベルに設定するかが大きなポイントになる。
 言うまでもないがまずは暖房エネルギー消費を減らすこと。照明・給湯など暖房以外にかかるエネルギーが大体1ヵ月で1万円前後とすると、年間で暖房にかけられるエネルギーは8万円前後。そうすると灯油で暖房する場合、リットル当たりの単価を70円とすると、年間1150リットル程度に抑えなければならない。
 それでは年間の暖房灯油消費量を1150リットルにするにはどの程度の断熱性能があればいいのか。表のように延床面積を140m2(42坪)とすると、札幌では次世代省エネ基準の見なし仕様に相当するQ値1.4W(m2/・K)が必要だ。
 ここで言う見なし仕様とは、次世代省エネ基準をクリアする仕様として住宅金融公庫が床・壁・天井など部位ごとに断熱材の種類と厚さを示したもののことで、在来木造では外壁は柱間に100ミリ、軸組の外側に25ミリの断熱材が必要になる。しかし、同基準は在来木造の場合、柱間に100ミリの断熱材を入れただけでも熱損失係数を計算すれば多くのケースでクリアできる。これをボーダー仕様と呼んでいるが、見なし仕様に比べると実際の断熱性能は劣るのが現状だ。


計算通りの暖房費を実現するためには、断熱・気密も含めて確かな施工力が必要
目指すは150ミリ断熱
 冬の寒さが厳しい道北・道東地域になると、見なし仕様で1150リットルを達成するのは難しい。外壁を100ミリ+50ミリの150ミリ断熱にして熱損失係数を1.2W程度まで高めれば、帯広や北見は1180といいところまでいくが、旭川では1220リットルと70リットルほどオーバーする。1000リットル程度を可能にする外壁200ミリ断熱で施工する方法もあるが、コスト負担も大きくなってくるため、パッシブソーラーやヒートポンプなど断熱仕様以外の部分での対策を考えたほうがいい。
 実際に目標とすべき断熱レベルは地域によって異なってくるが、できれば次世代省エネ基準の見なし仕様を上回る150ミリ断熱を目標にしたい。ここまでの断熱性能があれば、年間暖房灯油消費量の削減はもちろん、木製窓など開口部の断熱も強化されることで窓からのヒンヤリ感も解消されるほか、低温暖房によって火照りや空気の乾燥感が緩和され、暮らしやすさは大幅にアップするからだ。

適切なコスト配分も考える
 断熱性能を高めるにはその分だけコストアップにもつながってくるが、目に見えない断熱部分は内外装や設備機器とは異なり、建てた後から手を加えるのは難しく、新築時のコストアップ分を上回る予算が必要になってくる。それを考えれば、限られた予算の中で断熱性能の高い住まいを造るために、最初にお金をかけておく部分と、後からでもお金をかけられる部分をユーザーにしっかり説明し、適切なコスト配分を行った設計を提案することもビルダーの腕の見せ所となる。
 
断熱性能別の年間暖房灯油消費量( )及び灯油代(カッコ内が灯油代)
地域 仕様 Q値 (W/m2・K) 延床面積(m2)
120m2
140m2
160m2
180m2
200m2
札幌・ 軽井沢 150ミリ断熱
1.2
840
980
1,120
1,260
1,400
(58,900)
(68,700)
(78,600)
(88,400)
(98,200)
次世代省エネ見なし仕様
1.4
980
1,150
1,310
1,470
1,640
(68,700)
(80,200)
(91,600)
(103,100)
(114,600)
次世代省エネボーダー仕様
1.5
1,050
1,230
1,400
1,580
1,750
(106,400)
(124,100)
(141,800)
(159,600)
(177,300)
函館・ 室蘭・ 150ミリ断熱
1.2
800
940
1,070
1,200
1,340
(56,100)
(65,500)
(74,800)
(84,200)
(93,500)
次世代省エネ見なし仕様
1.4
940
1,090
1,250
1,400
1,560
(65,500)
(76,400)
(87,300)
(98,200)
(109,100)
次世代省エネボーダー仕様
1.5
1,000
1,170
1,340
1,500
1,670
(70,100)
(81,800)
(93,500)
(105,200)
(116,900)
旭川 150ミリ断熱
1.2
1,040
1,220
1,390
1,560
1,740
(72,900)
(85,100)
(97,300)
(109,400)
(121,600)
次世代省エネ見なし仕様
1.4
1,220
1,420
1,620
1,820
2,030
(85,100)
(99,300)
(113,500)
(127,700)
(141,800)
次世代省エネボーダー仕様
1.5
1,300
1,520
1,740
1,950
2,170
(91,200)
(106,400)
(121,600)
(136,800)
(152,000)
帯広・ 釧路・ 北見・ 網走・ 150ミリ断熱
1.2
1,010
1,180
1,350
1,520
1,690
(71,000)
(82,800)
(94,600)
(106,500)
(118,300)
次世代省エネ見なし仕様
1.4
1,180
1,380
1,580
1,770
1,970
(82,800)
(96,600)
(110,400)
(124,200)
(138,000)
次世代省エネボーダー仕様
1.5
1,270
1,480
1,690
1,900
2,110
(88,700)
(103,500)
(118,300)
(133,100)
(147,900)
盛岡・ 青森・ 150ミリ断熱
1.2
720
840
960
1,080
1,200
(50,500)
(58,900)
(67,300)
(75,700)
(84,200)
次世代省エネ見なし仕様
1.4
840
980
1,120
1,260
1,400
(58,900)
(68,700)
(78,600)
(88,400)
(98,200)
次世代省エネボーダー仕様
1.5
900
1,050
1,200
1,350
1,500
(63,100)
(73,600)
(84,200)
(94,700)
(105,200)

150ミリ断熱の仕様
Ⅰ地域

 部  位 在来木造ダブル断熱 ツーバイシックス 在来木造・ツーバイ外断熱*1
 天  井 BW400ミリ
 屋  根 高性能GW16K265ミリ フェノール66または120ミリ
 壁 高性能GW16K100ミリ+GWボード45ミリ 高性能GW16K140ミリ フェノール60ミリ
中間階の横架材部分 GWボード45ミリ 押出B3種50ミリ内付加
 床 外気に接する部分 高性能GW16K200ミリ BW235ミリ フェノール100ミリ
その他の部分 高性能GW16K200ミリ BW235ミリ
土間床等の外周部 外気に接する部分 押出B3種100ミリ
その他の部分 押出B3種35ミリ
開口部(窓) 木製トリプルガラス・アルゴンLow-E相当
換気 第三種セントラル*2,*3
BWとはグラスウールブローイング、GWとはグラスウール、押出とは押出スチレンフォーム、フェノールとはフェノールフォームをいう
Kとは密度を表し一般に高密度ほど断熱性が高い。またB*種とは性能種別で3種がもっとも断熱性が高い
断熱手法のバリエーションは様々考えられる
*1 押出やウレタンは一部を除きフェノールより断熱厚が厚くなる
*2 第一種を使う場合は顕熱
*3 一層の省エネのためには排気熱回収ヒートポンプを活用


どうなる? 石油価格
今後の見通し

 これらの高騰要因は、短期的に解決するのは困難と言える。原油の生産能力増強は、OPEC・非OPECともに進めているが、実現には1~3年を要すると思われるので、原油市況は引き続き高めに推移する可能性が高い。
 ただ、現状の70ドル/バーレルという水準は法外で、まもなく55ドル/バーレル程度に落ち着くと思われる。イラクの生産が回復すれば50ドル/バーレル近くまで下がるかもしれないが、過去2度のオイルショックや湾岸戦争のときとは状況が異なり、ある程度のところで高止まりしてから推移するだろうと言われている。
       *         *
OPEC:石油輸出国機構。イラン・イラク・サウジアラビアなどが結成した産油国の組織。石油メジャーと呼ばれる欧米の石油資本に対抗するために1960年に設立された。
バーレル:体積の単位。約159リットル
B/D:バーレル/日。1日の産油量を表す。

道内の供給状況
 道内の灯油使用量は、戸建住宅で年間平均2000リットル弱。マンションなどの集合住宅でも年間平均1300リットル程度使われている。灯油の小売価格の上昇が1月から14円/で、その後横ばいで推移していると仮定すると、戸建住宅では年間2万8000円の出費増となる。
 道内の住宅は本州の住宅と比べて、室内の設定温度が高く、平均室温は道内の23℃に対して、長野県では20℃という結果が出ている。木造2階建て延床面積130m2の高断熱・高気密住宅という条件で、室内の設定温度を2℃下げれば167リットルの石油を節約できることになるが、このことは石油の燃焼によって発生するCO2の削減にも貢献する話なので、これを機に石油の節約をビルダー・ユーザーともに考えていきたい。


次世代省エネ基準改正案のポイント
 

次世代省エネ基準をクリアする断熱仕様の現場。改正案を見ると道内や東北などではこれまでの施工方法を変える必要はない
 昨年12月、住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する「建築主の判断の基準」と「設計及び施工の指針」、いわゆる次世代省エネ基準の改正案が国土交通省と経済産業省から公表された。平成11年3月末に告示されてからもうすぐ7年になる同基準の改正は、平成13年以来4年ぶり。その内容は、主に・地域などの温暖地での普及に焦点を当てたものとなっており、来年度からの施行が見込まれる。

温暖地での普及狙う
 国土交通省によると、今回の改正案は、今年8月の改正省エネ法公布で、建築物の所有者にも省エネ措置の実施が努力義務となり、一度届出が出された建築物は届出事項に関する維持保全の状況について所管行政庁への定期的な報告が義務付けられたことや、工法の多様化、技術の進展などを踏まえたもの。
 基準を構成する「建築主の判断の基準」と「設計及び施工の指針」の両方ともに改正案が出ているが、住宅の具体的な設計・施工方法を示した「設計及び施工の指針」では、躯体・開口部の断熱性能等の維持保全に係る規定を追加住宅全体の省エネ性能を損なわない範囲で、設計・施工方法に係る規定を改正―の2つが大きなポイントで、名称も「設計、施工及び維持保全の指針」に変更している。
 ただ、結論から言えば北海道や東北など温暖地以外では今までの施工方法を特に変える必要はない。今回の改正案は・地域などの温暖地の住宅のボトムアップを狙って作られたからだ。

シートの重ね幅減少
 「設計及び施工の指針」の改正案で木造戸建住宅に関わる部分を詳しく見ていくと、気密層の施工に関する基準で、防湿・気密シートなどシート状気密材を使う場合の重ね幅を100ミリ以上から30以上に変更気密層に防湿・気密シートを使う場合については相当隙間面積を5.0cm2/m2以下とする場合は0.1ミリ厚以上、2.0cm2/m2以下とする場合は0.2ミリ厚以上とする規定を削除し、日本工業規格(JIS6930-1997)の住宅用プラスチック系防湿フィルムまたは同等品であれば厚さは問わなくなった―以上2点が注目される。


今回の改正案は温暖地での普及を第一に考えられたもので、本州でよく使われる防湿・気密シートの耳付グラスウールを採用できるように断熱・気密に関する規定を変更している(写真は旭ファイバーグラスのカタログより)
耳付きGWの使用想定
 これは温暖地でよく使われている防湿・気密シートの耳付きグラスウールの使用を想定した改正。従来の耳付きグラスウールは、防湿・気密シートの耳が10ミリ程度で、シート自体もJIS規格をクリアしていなかったが、最近では耳の幅が30ミリ程度でJIS規格にも適合するシートを使った製品が市場に出回っている。そこで、耳付きグラスウールを使っている温暖地のビルダーが同基準に取り組みやすいよう、シートの厚さと重ね幅の規定を変更した。
 厚さが0.2ミリに満たない防湿・気密シートで重ね幅を30ミリとした場合、長期的な気密性能の確保を不安視する意見もあるが、住宅の断熱に詳しい専門家によると「間柱上でシートを重ねる時、実質的に気密性を担保する重ね幅は間柱の幅と同じ30ミリ程度であり、柱の部分については従来の基準でも真壁で適用していたように、乾燥木材、つまり柱を気密材と見なすことで防湿・気密層の連続も確保できることになる。防湿・気密シートの厚さについても、相当隙間面積で2/以下であれば、0.2ミリ厚でなくても問題はないだろう。ただし、構造材は必ず乾燥材を使ってほしい」と話している。

防湿層にポリ義務化

 断熱材の施工に関する基準では、断熱材を気密材に密着して施工するという要件が削除され、断熱材を気密材と密着させなくてもよいことになった。これは工法・仕様の多様化を踏まえてのこと。また、繊維系断熱材など透湿抵抗の小さい断熱材を施工する場合、防湿層にJIS規格に定める住宅用プラスチック系防湿フィルムまたは同等品の使用を義務付けた。なお、?地域や、床断熱で断熱材の下側が床下に露出しているなど湿気の排出を妨げない構成となっており、床合板の継ぎ目を気密テープなどで処理した場合などは、防湿層を省略可能になった。
 このほか、Ⅴ・?地域では木造住宅で窓の断熱性能を高めた場合に壁の断熱材の熱抵抗の基準値を0.6とすることができるようになっている。
 新たに追加された躯体・開口部の断熱性能等の維持保全に関する指針では、屋根や外壁表面、開口部の建具、庇・軒など日射の侵入を防止する部分のヒビ割れや破損、隙間などを定期的に確認し、それらが見つかった場合には適切な補修を行うこととしている。

自然換気の規定を削除
 換気計画に関する基準では、平成15年に施行された改正建築基準法(シックハウス新法)との整合を図り、自然換気方式についての規定を削除。機械換気方式については、換気経路の圧損低減方法などを具体的に明示した。
 これらの改正案は国土交通省ホームページからPDFファイルでダウンロード可能。
ホームページ:http://www.mlit.go.jp/pubcom/05/pubcomt77_.html

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