戦後日本の住宅政策の柱であった住宅建設計画法と住宅建設五箇年計画にかわる新たな制度として、『住宅基本法』の制定が検討されており、来年の通常国会に提出され法案が成立すれば、平成18年度から新たな枠組みのもとで住宅政策が動き出すことになる。
基本性能を重視し、100年の耐久性を想定した住宅は、消費者の願いでもある |
早ければ来年度にも
戦後の日本の住宅政策は、圧倒的に不足していた数を満たすために、公庫融資と公団住宅、公営住宅の3本柱で住宅供給を進め、住宅不足が解消されると質的向上を目指して公庫の共通仕様や各種割増融資などを中心に基本性能のレベルアップを図ってきた。
しかし、少子高齢化、住宅数の充足などを背景にフローからストック重視へと環境が変化、さらに住宅金融公庫や公団といった戦後の住宅供給を支えた特殊法人と公共投資が改革の対象となり、これまでの政策が終わりを告げようとしている。
そこで新たな枠組みとして、性能重視、中古市場の流通性確保、セーフティーネットなどを柱とする新法の制定準備が進んでいる。
住宅基本法は、住宅そのものと住宅環境、宅地問題、不動産としての価値などさまざまな観点から基本目標に沿った具体的方向を定め、政策を実施していくことになるが、基本理念を「国民一人一人が真に豊かさを実感できる住生活」の実現としており、豊かさの構築、そのための基本性能の確保、不動産価値の維持などが重要な課題としてあがっている。
具体的には、耐震性、省エネ性、バリアフリーの3項目が特に重要なポイントとなっている。
耐震性能の向上については、来年度の概算要求などにも盛り込まれているように、十分な耐震性を備えていないと推計される約1150万戸、全住宅の4分の1の耐震性を早急に引き上げる。
また省エネ性については新築住宅の次世代省エネ適合率を平成20年に5割に引き上げる。
このようにすでに目標設定されている分野も含め、住宅政策の基本目標の第一に『住宅の基本的性能の確保』をあげ、建築基準法や住宅性能表示制度など関連法規の改正を行いながら、耐震性、省エネ性と健康・快適性、バリアフリー化、防犯性の向上を目指す。
また、住宅地全体の住環境改善を目指し、建築協定や地区計画の活用、住民などによるまちづくり活動への支援、ニュータウン再生などを推進する。
多様化する住宅ニーズに応えるための市場環境の整備として、ファミリー向け賃貸の供給、中古市場の環境整備、消費者が安心して取引できる仕組みとルール作りを進めるとともに、持家取得に対し引き続き住宅金融面や税制面での支援を行う。
住宅困窮者に対しては、公的住宅を中心として住宅提供を進めるなどセーフティーネット機能を強化する。
これらの基本方針は法律案としてまとめられ、来年にも国会に提出、早ければ18年度には施行される見込みだ。
消費者利益の観点からしっかりチェック必要
【解説】戦後の住宅政策を決定してきた枠組みが、新しい時代に合わせて生まれ変わる今度の住宅基本法は、基本性能の向上をうたい、遅ればせながらも先進諸国で当たり前の住宅政策が日本でも展開される意味では画期的といえよう。
住生活を重視し、いい住宅に長く住む、売るときはしっかりと評価される環境を作ることは、成熟社会の中で暮らしの満足度を高めることにもつながるだろう。
ただ、住宅は人権、生存権であるという立場で運動を推進してきた人たちの立場からは、新法の基本理念は中途半端との印象をぬぐえない。一方で住宅くらい個人と民間に任せるべきという自由放任主義の立場からは、過度の規制が生まれると批判も出ている。
また、実際に住宅品質を向上させるためには基準とチェック体制が重要になるが、この点についてこれまで一度も踏み込んだことがない住宅行政が、新法によってユーザー保護を一歩進め積極的なチェック体制を整備するとは考えにくい。
何より注意しなければならないのは、本来は消費者を保護するはずの規制が各種認定制度などの形で行われ、結果として一部の新たな既得権保護と大手優遇につながる心配があることだ。政策の理念が実際の制度として公平かつ公正に運用されるかどうか、われわれは消費者の利益を物差しに、しっかりとチェックしなければならない。
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