今年初め、北広島市内にユニークな採熱方式を使った地中熱ヒートポンプの住宅が完成した。道内で初めてエナジーパイルによる採熱と水平採熱方式を併用し、暖房だけでなく給湯や冷房もまかない、この冬の電気代も予想通り低い水準に収まっている。
2種類の採熱併用
地熱ヒーポンを採用した住宅の外観。盛土しているため、農地面からは高台にあるように見える |
設計は白田建築事務所(札幌市、白田智樹主宰)で、施主が環境問題に関心があり、ヒートポンプ暖房を使ってみたいと相談を受けた。白田氏は前年にニセコで換気排熱ヒートポンプの住宅を手がけた経験があった。施主が農家で敷地が広いという条件から、COPの面では高効率が見込めるが市街地では採熱管の埋設工事が困難で採用が難しかった地中熱ヒートポンプに取り組むことになった。
日本スティーベル(株)の地中熱ヒートポンプを使用。建物躯体などの施工は(株)広谷工務店(北広島市、廣谷貢社長)が担当した。今回は外張り断熱で室内を構造材現しで仕上げる予定だったことから、大工自らが墨付けし、木材の扱いにたけた棟梁が担当した。
地中熱ヒートポンプは、一年中安定した温度の地中熱を利用するが、採熱管を50~100メートルの深さまで埋める必要があり、そのための掘削費用がかかるのが難点だった。今回は宅地造成前の土地が道路面より2.5メートルほど下がっており、盛土する前に水平に採熱管を敷くことで掘削コストを節約した。水平採熱方式はドイツなどで実績があるが、採熱のために広い面積を必要とするため道内戸建住宅の採用実績はなかった。またパイル工事が必要な地質で、(株)アイザワが開発した採熱用U字管を内蔵したH型PCパイル「エナジーパイル」を採用して掘削コスト削減も計画。結果的に両方式とも採用し、1階は水平採熱方式、2階はH型PCパイル方式で採熱してそれぞれ別のヒートポンプで稼働することになった。
採熱管を水平に埋設している。この後、写真左の道路の高さまで盛土をする |
給湯や冷房にも利用
2世帯住宅のため、延床面積は310.95?(93.94坪)と通常の2軒分。さらに給湯にも使うため熱量を多くとる必要があり、水平採熱は採熱管を住宅前の378?に総延長600mほど埋設。ここから得られる熱は約5.3kWほど。一方、エナジーパイルは深さ5メートルのものを70本埋設した。ここからは約4.0kWの熱が得られる。この熱を熱交換器で冷媒に伝え、さらにヒートポンプの圧縮機で60℃にして、給湯用配管と暖房用配管に分配して給湯と床暖房に使っている。
暖房はCOPを上げるために送水温度を下げても暖かさが得られる床暖房に1階2階とも統一している。なお、暖房用送水温度は45℃前後に設定し、室温設定が22℃のとき床面温度は実測で26℃前後となっている。ヒートポンプによる暖房・給湯出力は、設計値として1階が約7.6kW、2階が約5.7kWで、COPは3.1~3.3ほど。
2階は内装仕上げせずに合板や構造材を現しにしてコストダウンをはかった |
通常の2軒分の設備工事が必要なのと、得られた熱を給湯や冷房にも使うため設備工事が大がかりになるため、道が募集していた新エネルギー導入促進事業に応募し、採用された。補助金として工事金額の2分の1補助を受けた。今後は事業の一環として北海道工業大学工学部建築学科の半澤久教授らがヒートポンプの実証実験を行うことになっている。
最大で月4万円強
住宅の構造は在来木造軸組工法でネオマフォームの外張り断熱を採用、断熱厚は外壁が50ミリ、屋根は66ミリ、基礎部分は押出スチレンフォーム75ミリ。サッシは木製トリプルサッシで、断熱・気密性能とも次世代省エネ基準をクリアしている。換気は第3種セントラル換気をフロア別に2台使用。
構造材は道産エゾ・トド材を使用し、これは広谷工務店が1年かけて人工乾燥と天然乾燥を組み合わせて平衡含水率まで落として安定させ、狂いにくくしたものを使用している。
外装は乾式レンガタイル貼りが主体で、デザイン上のアクセントとして道南杉の板材を部分的に貼っている。正面玄関横には波形ポリカーボネート板を張って目隠し効果と明かり取りの両方をねらっている。内装は1階壁はクロス貼りで仕上げているが、2階壁はコストダウンも狙って構造用合板を現しにしている。床材は無垢の道産ナラ材を使用し、塗装は施主が担当。床暖房だが、床面温度が比較的低いこともあり、今のところナラ材の変形・反りなどはないという。
2階は内装仕上げせずに合板や構造材を現しにしてコストダウンをはかった |
白田氏は「コストダウンのためには仕上げの一部を省略したり、メンテナンスを施主が行う前提にして工事を一部省略するなど材料・工事そのものを少なくすることを考えている。その方が施主の住宅づくりに参加する意識が高まってよい効果が出る」といい、ヒートポンプ工事も含めた総工事費は約4800万円(設備工事費、補助金含む。設計費用、宅地造成費用は含まず)に抑えている。白田氏は「今後もヒートポンプシステムを提案していきたい」と話している。
ヒートポンプの効果は、施工直後の2月の電気代が、上下階合わせて4万4千円ほどにおさまった。これは、暖房だけでなく、給湯、調理のオール電化部分すべてが含まれている。これには施主も予想以上と満足しているという。
施工を担当した広谷工務店は、「外張り断熱はほとんど初めての経験で、構造材を現しにするため通常の墨付けができないなどとまどう部分もあったが、比較的早く慣れることができた。また材料を大事に扱う大切さを改めて認識した」と話している。
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