第2期で開発された優良田園住宅地の計画段階の地図 |
札幌の東、車で1時間ほどの由仁町では、平成10年に「優良田園住宅の建設の促進に関する法律」が施行されたことに伴い、一部の農地(農用地区域)を「由仁町優良田園住宅地」として開発。平成12年に第1期を募集したところ、本州からも問い合わせがあり、限定10区画に対して145件の応募があった。
1、2期とも完売
稲作を中心とした農業の町として知られている由仁町にも、少子高齢化の波が押し寄せ、農家の中には後継者がいないことや高齢化を理由に、数年後には離農を余儀なくされる人がたくさんおり、このままだと数年後には500ヘクタールの農地が遊休地化してしまうという。その一方で、札幌市在住の人から、家庭菜園ができる土地で定住できないかという相談が数件あったことから、由仁町では平成九年に田園住宅開発事業を開始した。
由仁町田園住宅地は山林や畑に囲まれた閑静な場所に位置し、自然環境に恵まれた田舎らしさが特徴。由仁町と道央圏を結ぶ主要幹線道路が近くにあるので、札幌や新千歳空港へのアクセスがわりと便利という利点もある。
開発面積は第1期が約5700坪で第2期が8500坪、合計で26区画を完売。1区画あたりの面積は300~500坪ほどあるので、家庭菜園やガーデニングなどが自由に楽しめる広さとなっている。道路の配置や敷地割りなどについてはコーポラティブ方式を採用し、区画割は居住予定者が話し合いで決めた。居住予定者同士が何度も顔を合わせて話し合いを進めるといったプロセスが、親睦を深めるきっかけとなっている。
(上)南北に延びる西側道路。ゆったりした敷地に家が並ぶ
(右)第2期目で開発された田園住宅地。背景には緑が広がっている |
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由仁町企画課の納口浩昭主査は「第1期、第2期ともに予定区画数を大幅に上回る応募があり、とても驚いている。自然の中での暮らしを望んでいる人がたくさんいることがわかった」と話している。
現在は第2期の造成工事が終了し、田園住宅地に建てた新しい住まいで生活している人もいる。この場所に建設する住宅は、居住環境や景観の形成に配慮することが必要とされており、地域の自然環境や田園風景と調和した、こだわりの住宅が多く建ち並んでいる。なお、第3期も計画中。
キーワード
優良田園住宅:農山村地域や、都市の近郊などで自然的環境のよい地域に建設する一戸建てで、敷地面積が300平方メートル以上、建ぺい率30%以下、容積率50%以下、3階建て以下の住宅(法律で規定)。優良田園住宅と認められると、市街化調整区域でも住宅の建設ができるほか、農振農用地区域からの除外、農地転用の許可等について配慮される。
平成16年9月現在、優良田住宅建設計画を認定しているのは、北海道では由仁町のほか旭川市、東川町、当別町。このほか宮城県柴田町、山形県山形市、山形県天童市、福井県福井市、新潟県上越市、広島県甲山町、鹿児島県鹿児島市の全国11市町となっている。
由仁・田園住宅-Kさん 環境に憧れて移住 はるす工房・伊藤工務店 特徴的なマンサード屋根
外壁には江別産のレンガを使用。煙突はパッシブ換気の排気塔 |
設計事務所のはるす工房(石狩市、高杉昇代表)では、景観との調和をテーマにマンサード屋根の小さな住宅を設計。施工は地元の?伊藤工務店(由仁町、伊藤清志社長)が行った。
敷地の北側と西側が栗の木などの広葉樹に囲まれ、他の敷地とはひと味違う森の景色が広がっている。この家に住むKさんは画家として活躍しており、一年ほど前に本州から移住してきた。以前から道内をたびたび訪れ、山に生えている木を描き続けてきたという。「昔から北海道の四季や自然に魅力を感じていたので、思い切ってこの地で暮らすことを決意した」とKさんは語っている。
1階のリビング。無垢の梁や2×6材、石膏ボードで仕上げた室内の空間 |
当初から、本物のレンガを外壁に使用し、室内外ともに景観と調和した住まいを希望していたKさん。しかし、予算との兼ね合いから、これらの希望を取り入れるには厳しい状況だったが、工事関係を全て分離発注方式としたり、下地材で内装を兼ねるといった方法で建設コストを削減。レンガ積みの外壁が可能となり、Kさんが希望する住まいを実現させた。
建物は、在来木造工法による延床面積25坪の2階建て。
内装は、床に2×6材を張り、壁・天井に石膏ボードや構造用合板を張った仕上げ。このように下地に使った建材がそのまま内装仕上げ材になっているので「墨付けができないので目見当で釘を打ったり、石膏ボードや床材に使用した2×6の貼り合わせ箇所がずれないようにきれいに仕上げるなど、いつも以上に細かいところへ注意を払った」と伊藤工務店の伊藤公人専務は話している。
間取りは、玄関と階段を中心に空間を2つに分け、西側にリビング、東側にダイニングキッチンと水廻りを配置、2階にアトリエと寝室を設けている。室内は石膏ボードの壁と、柱・梁・床に使用した無垢の木材が質素な仕上がりだが、ストーブを置いているコーナーにレンガを張ったり、レトロな家具やストーブで室内を飾っている。他にも、愛知県の有名な常滑焼の破片をモルタルに混ぜることで玄関の土間を彩っているが、これはKさんのアイデア。
今は玄関先の花壇にたくさんの花が彩り鮮やかに咲いているが、400坪もある敷地はほとんど手つかずの状態。来年の春から家庭菜園やホームガーデンをはじめていく予定だ。
はるす工房の高杉昇代表は「建物が周囲の景観を損なわないように、田園住宅地であるということや、敷地の周辺が栗の木などの緑に囲まれているということに配慮して設計を進めた。室内のコーディネートは、画家としてのKさんの感性が光るところ」と話している。
由仁・田園住宅-Nさん 木にこだわった住まい シーエスホーム 自然に抱かれDIY楽しむ
三角屋根に白い木製窓、破風が印象的な外観。右がDIYで造っている物置 |
カントリーハウスや別荘などを中心に手掛けている(有)シーエスホーム(札幌市、朝比奈悟社長)では、無垢材をふんだんに使った三角屋根のシンプルな住宅を田園住宅地に建設した。
「田舎で暮らすのが昔からの夢だった」と語るNさんがここへ移り住んだのは昨年の11月のこと。職場がある札幌まで毎日車で通う日々を送っているが「もう少しでここでの生活を満喫できる日がやってくる」と話す。数年後には定年を迎えるため、今からその日がくるのを楽しみにしているようだ。
敷地の北側は、小さい林が自然のまま残っているので、畑というよりは木々に囲まれた山奥という感じだ。自然の中でのんびりと過ごしたいというご主人にとってはもってこいの場所だ。
建物はツーバイフォー工法で延床面積40坪、敷地面積は400坪。
縦張りしたパインの羽目板をグレーに塗装した外壁は、白い木製サッシが全体のプロポーションを整えている。室内は、床、壁、天井など全体にパインを張った仕上げ。
今回の住宅工事は、2階の造作工事をNさんが自分で行うハーフビルド形式を採用した。ハーフビルドとは、建物を上棟して屋根工事と外部工事までをビルダーが行い、内部造作を施主が行うという方式だ。建設費が若干安くなるということもあるが、なによりも造ることの楽しみや完成したときの達成感は格別。
時間を見つけてはご主人が夢中になっているのは、DIYでいろいろな物を造ること。造作工事で余った木材をもらい、家具や収納などを造っている。また、そのうち設置する薪ストーブを置くために、室内の一画にレンガを積んでストーブの置き場所を造った。今は玄関先で物置併用ガレージの製作に取り組んでいる。
「夜は、ここから見る星空がとてもきれい。このような場所で過ごせるだけで幸せな気持ちになる」とNさんは語る。
シーエスホームの朝比奈悟社長は「自然とのふれ合いがテーマの住宅は最も得意な分野。無垢材をふんだんに使った家づくりは、たくさんの人に喜ばれている」と話している。
由仁・田園住宅-Sさん 趣味のゴルフを堪能 トベックス 憧れのログハウスで生活
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(上)いくつかの野菜や穀物を栽培しているSさんの裏庭
(左)ダグラスファーの太い丸太が力強さを演出している
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ログハウスの専門ビルダー(株)トベックス(小樽市、戸部勇司社長)では、第一期で分譲された田園住宅地に、柱や梁に太い丸太を使用したポストアンドビーム工法のログハウスを建設。
ご主人が定年をむかえスローライフを楽しんでいるSさん。「ゴルフ場の近くにログハウスを建てて、ゴルフ三昧の生活をするのが夢だった」と語る。
Sさんは、第1期の分譲地を購入した8家族のまとめ役。現役のころ建築関係の仕事で培った知識を活かし、道路の配置や敷地割りなどの話し合いを円滑に進めた立役者だ。
昔からログハウスに憧れを抱いていたSさんは、いつの日か自分でログハウスを建てたいという想いもあり、カナダや北欧を訪れ北方圏の住宅を見て歩き建築を学んだほどだ。しかし、現役の頃は忙しい日々を送っていたため、自分で建てる時間が無く、ログハウスを専門に手掛けているトベックスが施工を行うことになった。
建物は、柱や梁にログ材を使用したポストアンドビーム工法。基本的には在来工法と同じで、延床面積三六・五坪の二階建て。柱・梁には直径四五?もあるダグラスファーの丸太を使用。外観は、1階にパインのログパネルを縦張り、2階はモルタル下地にボンタイル仕上げ。室内はコンパウンドを塗った壁にパインを腰壁に張っている。
間取りは、1階に水廻り、リビングダイニング、主寝室を配置。1階だけで生活できる設計となっている。2階は洋室を2つ配置し広い多目的ホールも設けている。
ここで生活を始めてから3年ほど経つが、暇な時間には、バーベキューコーナーや六角形のあずまやを造っている。また550坪ある敷地の半分を使い、ジャガイモ、キュウリ、スイカ、トマトなどを栽培し家庭菜園を楽しんでいる。
敷地東側の南北に延びた森は、第1期で分譲された田園住宅地全体の景観を保っている大事な森。しかし、そこは田園住宅の敷地外であるため、この森を守るために八家族でこの土地を共同購入した。この森の中では現在Sさんが散策路を造っている最中だ。
同社の戸部勇司社長は「Sさんは昔からログハウスに憧れていた。そんな方の家づくりを手伝うことができて良かった」と話している。
由仁・田園住宅-Kさん 家族で畑仕事を楽しむ テラニシ 景観に合わせたモダン演出
南側に面した大きな開口部。この窓から小高い丘に広がる牧草地の景色が見える |
(株)テラニシ(札幌市、寺西毅社長)では、外壁にレッドシダーやレンガ、塗り壁などを巧みに使い分けることで、南に牧草地が広がっている風景と調和した外観のデザインを演出。この田舎らしい風景を生活の中に取り入れた、間取りやプランも大きな特徴となっている。
吹き抜けのような開放感があるリビングは天井高が3メートルあり、南面の大きな開口部が印象的だ。この窓から見える景色は、小高い丘に広がる牧草地とその奧にある小さな森までを見渡せる。
外観は、1階にレッドシダーを横張りし、ウッドデッキがある南面には、オーストラリア産の乾式レンガを張っている。アプローチと勝手口を囲っているコンクリート打放しの壁は、デザインの演出と同時に、風や近くを歩いている人の視線を遮る役目を果たしている。3種類の仕上げ材を使い分けることで、モダンを演出し単調さを避けた。2階は、モルタルボードを張り塗装仕上げとなっている。
建物は新在来構法による延床面積50.6坪の2階建て。断熱性能面ではダブル断熱(付加断熱)を採用。1階に設置しているFFストーブ2台で室内全体を暖房している。
Kさん一家がこの新しい家で暮らしはじめたのはつい先月のこと。「家族で畑仕事を楽しみながらの生活を送りたかった」と話し、敷地面積330坪のうち150坪を家庭菜園として利用する予定だという。
外構廻りを整えるのはこれからになるが、来春から畑仕事をはじめられるよう、すでに敷地の北側には黒土を盛っている。これから堆肥を混ぜるなどして、少しずつ準備をしていく。ご主人は「仕事帰りや休日には、辛いことを忘れて畑仕事に没頭したい」と話す。夫婦そろって畑仕事を楽しみにしているようだ。
同社の寺西毅社長は「景色とのバランスを考えた外観の設計が一番苦労した。デザインだけでなく断熱性能を高めることにも力を入れているので、冬にはその快適さを知ってもらえるのでは」と話している。 |