平成16年12月25日号から
地場と技術にこだわる
2004年総括

主要な梁にカラマツ、小梁にエゾマツ・トドマツを使った保科工務店の現場

ダブル断熱と、3寸5分の無落雪緩勾配屋根を採用した芦野組の新住協村モデルハウス
 戸建マイホームの着工量が前年と比べて若干低いペースとなるなど、いまひとつ新設住宅が伸び悩む中、2004年の道内住宅市場は、昨年のシックハウス新法施行のような大きなトピックスはなかったものの、道産材の採用による地域の活性化と魅力ある住まいの提案をはじめ、次世代設備によるさらなる快適性と省エネ性の向上、従来の施工の課題を解決する工法の採用など、ビルダーの積極的な取り組みが目立ち、行政サイドでも北方型住宅の新たな展開を模索するなど21世紀にふさわしい北海道の住まいを目指す動きが活発だった。ここではそれらの動きを中心に、今年1年の道内住宅業界を総括した。

 トピックス  道産材普及へ一歩
 今年の道内住宅業界の動きの中で、最も目立ったのが道産材利用。行政サイドでは、道が今年度から道産材利用促進対策事業として、産地表示と地材地消の促進を平成18年度までの3カ年計画でスタート。道内を六圏域に分けて木材の産地表示を行い、圏域ごとに森林業・製材業・工務店等で構成するグループに対し、年間2棟まで産地表示木材使用住宅の構造柱の費用を半額補助する。十勝支庁や渡島支庁ではかねてから行っている地場産材のバスツアーを一般ユーザー対象に行い好評を得ているほか、各地域で地場産材利用のセミナーも活発に行われた。
 民間サイドでも、三井物産林業が道産カラマツの啓蒙普及に力を入れており、ビルダーと共同でカラマツ集成材を使った住宅の構造見学会などを開催。十勝では地場産カラマツを使った家づくりに取り組む建築・林業関係者による「とかちの木で家をつくる会」が発足したほか、主要構造材に道産カラマツ集成材を採用する江別・(株)保科工務店と釧路のしんたくハウス工業(株)、江差産の桐を床下の収納スペースに使った七飯・(株)葛西建設など、積極的に道産材を採用するビルダーも少なくなかった。

 ビルダーの動き  鷹栖に提案型モデル
 続いてビルダーサイドのトピックスを挙げると、新木造住宅技術研究協議会旭川支部の会員工務店5社が鷹栖町に建てた新住協村が、道内の住宅づくりに一つの方向性を示した。
 このプロジェクトは、同協議会代表理事の室蘭工業大学・鎌田紀彦教授の監修によるもので、無落雪勾配屋根やカーポートなどの採用によって雪処理負担を軽減し、熱損失係数1.45ワット以下と次世代省エネ基準を上回る断熱性能によって厳寒期でも快適な室内環境を実現。同時に3寸5分の屋根勾配など伝統的な在来工法のデザインや高窓換気による防暑対策、高品質な収納システムも共通して採用した。
 また、同協議会北海道支部では熱損失係数=Q値1.0を合言葉に、暖房エネルギー消費量次世代基準比半減を目指したQ1.0(キューワン)プロジェクトを現在進行中で、来年秋に全道一斉公開する予定だ。
 なお、同協議会は11月からNPO法人として新たなスタートを切り、代表理事には鎌田先生とSTV興発(株)会長・安田弘氏が就任。今後は良質な住宅の普及を望む一般市民と一緒に、より高い省エネルギー性やライフサイクルCO2、地震・火災に対する安全性、市民活動をキーワードに、第二次高断熱・高気密住宅運動を進めていく考えだ。


土台と柱をホールダウン金物の代わりにJBRA-1システムのアラミド繊維シートで緊結したエステートツカサの現場
次世代設備も続々

地下室をU-style工法で防水施工しているイシオカ建設の現場
 ビルダー個々の動きを見ると、構造・工法面ではホールダウン金物の代わりにアラミド繊維シートで軸組接合部を補強できるJBRA-1システム(開発・J建築システム(株))を札幌・(有)エステートツカサ、地下室をポリマーアスファルト系吹付塗膜防水剤ですっぽり包み込んでシームレスな防水層を形成する「U-style(ユー・スタイル)工法」(道内施工店・(株)ナカジマ)を札幌・イシオカ建設(株)が、それぞれ新築住宅に初施工。いずれも施工の簡略化と安全な構造を実現できる工法として、今後も注目を集めそうだ。
 高断熱・高気密化が一段落する中、設備面では環境配慮や省エネを考えた次世代設備を設置する住宅が増えてきた。徐々に採用例が増えつつあるヒートポンプは、八雲・(有)ノースランドホームが地中熱利用、小樽・(株)江田建設が換気廃熱利用により住宅の省エネ化を推進。特にノースランドホームでは、簡便な掘削方法と国産機器を採用し、材工で120万円と地中熱利用では劇的なローコスト化を実現。

ノースランドホームが採用した地中熱ヒートポンプユニット
 また、小樽・(株)トベックスでは、独自の雨水利用システムと、太陽光と風力によるハイブリッド発電システムを備えるログハウス住宅を建設。北海道ガス(株)ではガスエンジン発電ユニットで電気を供給すると同時に、発電時の廃熱で作った温水を暖房・給湯に利用するガスコージェネレーションシステムの実証住宅を公開し、来年春の発売に向けて検証を行っている。和風で新たな提案 一方、デザイン面ではモダンがキーワードとなり、コンセプトとしてはシンプルモダン、北欧モダン、レトロモダン、現代和風という四つの方向に分かれた。このうちシンプルモダンでは、外装をブラックとグレーの角波鉄板で張り分けた室蘭・(株)宇佐美建設のモデルハウス、北欧モダンではグレーのモルタルの外壁に赤で塗装した腰壁の羽目板とコーナー柱を使った(株)川田建設工業のモデルハウス、レトロモダンではレトロな洋館をモチーフにした橋組住宅事業部のモデルハウス「ノエル」、現代和風では伝統的な在来工法のプロポーションを取り入れた鷹栖町の新住協村モデルハウスなどが挙げられる。ビルダーのこだわり このほか、木と造りにこだわり、樹種や使い方に宮大工としてのノウハウをつぎ込んでいる札幌・(有)北一タカハシ建設、道産材や無垢材と大工の手づくりにこだわる札幌・カサシマ建設、R-2000の断熱ディテールに忠実な施工をしている札幌・(有)リビングドクターなど、いずれもビルダーならではのこだわりをアピールした住宅の提案も目に付いた。第二の市場を創出 リフォームでは、室蘭・(株)内池建設が使われていない中古住宅を新築同様に再生したリサイクル住宅を事業化し、第二の新築市場と言えるマーケットを独自に創出したのが注目を集めた。解体にかかる費用を差し引いても新築より250万円ほど安くなるという。また、札幌・(株)プリフォームは自然素材リフォームのモデルルーム「リフォームスタジオ」を札幌市内にオープン。付加価値重視のリフォームを提案している。
 さらに築30年のマンションの外壁を樹脂サイディングのゼオンサイディング(販売・ゼオン化成(株))で更新した札幌・(株)アイテックと岩田建設(株)、外断熱とクラックに強い塗り壁を同時に実現できる外装システムであるシュトーサーモ・クラシック(販売・(株)ダンネツ)でRCマンションの外壁を改修した小樽・(有)北美建など、木造以外で高耐久な外装材に着目したリフォームが見られるようになってきた。

ブラックとグレーの角波鉄板を張り分けた宇佐美建設のモデルハウス外観

伝統的な在来工法のプロポーションを取り入れた新住協村のモデルハウス(ヨシダホーム)
アガチス材の玄関収納とかまの化粧合板で仕上げた天井など、木と造りにこだわる北一タカハシ建設施工の住宅

内池建設が築38年の古家を新築同様に再生した住宅

来年度からスタートする北方型住宅のイメージ
 行政の動き  北方型住宅を再構築
 道産材に関すること以外で行政サイドの動きとしては、来年度からスタートする次世代北方型住宅の概要が明らかになった。断熱・気密性能が次世代省エネ基準レベルとなったほか、F☆☆☆☆以上の建材の使用と適切な換気システムの採用、高齢者の転倒・転落防止措置と車いす使用者への配慮、給排水管等の維持管理のしやすさなどが従来基準との相違点。
 また、次世代北方型では住宅の設計・施工が基準通りかをコンピュータでチェックし、そのデータをユーザー・ビルダー・第三者がそれぞれ保管するサポートシステムを導入。設計にあたってはBIS、施工・管理にあたってはBIS-Eという新しく創設された資格が必要となる。

アセトを巡り混乱
 シックハウスに関連して、厚生労働省が定めたアセトアルデヒド濃度の室内濃度指針値引き下げの動きも話題となった。WHO(世界保健機構)が室内環境ガイドラインの指針値としていた50マイクログラムを300マイクログラムに訂正したことが事の発端だが、これを受けて国土交通省では住宅性能表示制度で「室内空気中の化学物質の濃度等」の測定物質からアセトアルデヒドを除外、厚労省も指針値を再検討している。
 このほか、住宅保証機構では、今年度から性能保証住宅の設計・施工基準を改訂し、木造のフラット屋根を禁止したほか、地盤に応じた適切な基礎設計を行なうためのチェックシートを公開した。ただし、特例として道内ではM型無落雪屋根とともにフラット屋根も認めている。


M型無落雪屋根の施工例(参考図)

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