マニュアル執筆者の鎌田紀彦助教授
|
在来軸組の気密化標準工法となっている新在来木造構法の新しいマニュアルの中で、床断熱の場合の床の気密は下地合板などのボードでとり、床に防湿シートを張ってはいけないと書かれていることから、現場で混乱が起きている。この点について、同工法の開発者であり、マニュアル執筆者でもある室蘭工業大学・鎌田紀彦助教授に取材した。
「シートを使ってはいけない」と記載
このマニュアルは昨年新住協から発行された「新在来木造構法マニュアル2002」。先張りシートなどを使う従来のシート気密工法に加え、主に外壁下地合板で気密層を形成するボード気密工法の提案など、新しい研究成果が取り入れられている。
今回問題になっているのはボード気密工法・床断熱の場合の床の気密工法。マニュアル37ページによると「床断熱の際は、床に防湿シートを張ると結露する可能性があるため、床には防湿シートを張ってはいけない」と記載されている。
疑問は、『シートを張ったら結露するから使ってはダメだということは、これまで施工してきた工法がすべて誤りになるということか』という切実な現場の声だ。
マニュアルをよく見ると、シート気密工法についても床の気密工法として床下地合板が採用されており、シートは参考図から省かれている(図参照)。
床下地合板を気密層にした場合はシートを使わなくてもいいというのなら納得できるが、使うと結露するというのであれば、重大な問題だ。鎌田先生の答え
「結露のほか、水漏れも考え、ない方がよい」 鎌田助教授によると、床の断熱材のたれ下がりなどがなく完全に施工されていれば、結露は発生しない。つまりこれまでのシートを使った工法が間違っていたわけではない。
ただその場合でも、できれば床下地を気密層とし、防湿シートの施工はやめたほうがよいという。その理由はこうだ。
1.基本的に床の断熱・気密施工は複雑で、施工ミスが起きやすく、その時は結露の危険がある
2.床面を非透湿性のクッションフロアなどで仕上げた水廻りで、床に大量の水をこぼすと、その水がクッションフロア下にしみ込み、防湿シートの上で逃げ場を失って木材の腐れを呼ぶ可能性がある
3.床を従来の厚さの畳で仕上げる場合、その断熱性によって畳下の温度が下がり、カビが生え結露しやすくなる
4.床面の防湿については、床下地合板を気密層として使い間仕切壁の下部なども気密層を連続させれば、室内からの透湿による床組み木材の結露・腐れは心配ない。
このうち2.と3.については以前から問題が指摘されており、十分注意が必要とされていた。
4.の防湿については少々説明が必要だ。鎌田助教授によると、現在の施工法では地盤防湿を行い地盤面からの湿気はほとんどシャットアウトされている床下換気口や土台まわりの隙間から床下の換気は十分行われている―ことから、床組みは壁内よりも結露の危険性が低く、床下地合板によって気密性さえ確保できれば、透湿による床組み木材の結露を心配する必要はないむしろ防湿シートを使うことで高まる結露や漏水による危険のほうが問題、ということだ。
「間仕切下部などの気密化をしっかり行う」
床下地合板で気密層を作る場合は、継ぎ目のテープ止めや間仕切壁下部をしっかり処理することが必要。土台・外壁部との取り合いは土台先張りシートなどで気密化と気流止めを行う。
なお、防湿シートを使わないほうがいいのはボード気密の場合に限らず、シート気密の場合も同じ。マニュアルの参考図のように、床下地材で気密さえ確保すれば防湿措置はいらないということだ。公庫仕様では「省略可能」 防湿シートを省略した床気密工法は、ツーバイフォー工法が先行して公庫仕様書に認められ、現在は標準施工法になっている。在来木造も公庫仕様書北海道版に掲載され、床の防湿シートは省略できると記載されている(28ページ)。ただ、防湿シートを使ってはいけないとは書かれていない。 |
ボード気密工法の納まり(床合板12ミリの場合)
シート気密工法での標準的納まり(床面には防湿シートがない)
床の防湿材を省略する場合の注意点(公庫仕様書北海道版)
|