ツーバイフォーを振り返って

 ツーバイフォー工法のオープン化から今年は満30周年、R-2000実験住宅から15年という節目の年。道内ではマイホームの4棟に1棟がツーバイフォー工法で建てられるようになってきた。そこで、改めてツーバイフォーを振り返り、そして今後を考えてみたい。高倉氏は工法オープン化前からツーバイフォーに取り組み、R-2000プロジェクトのリーダーでもあった、いわば『歴史の証人』。高倉氏が語る“昔と今”は、未来を見つめる基礎とも言える。

高倉 俊明氏
((株)ほくでんライフシステム参与)
オープン化前後
エネルギーを注ぐ
認知されるまで苦労続き

 ツーバイフォー工法がオープン化から30年が経ったが、われわれはもう一度これまでの取り組みを見直し、考え直す時期にきているのではないだろうか。フレーマー養成を始めて二十年、R-2000実験住宅建設からも15年を迎え、苦言と提言を述べさせていただきたい。
 ツーバイフォー工法は、高度成長期に合理化工法として注目されたが、当時の建築基準法では、建築するには1棟1棟、基準法に合致した家かどうかの認定を受ける必要があった。一方、広く普及させるには工法のオープン化が必要ということで、旧建設省と共同で作業を進めた。この作業は膨大で、当時の日本ホームビルダー協会内で様々な構造の実大模型を作って構造試験を行ったり、プランも百数十種類作った。
 こうしたプロセスを経て1974年7月に旧建設省が「枠組壁工法に関する技術基準」を公布、8月からオープン化された。専用の公庫共通仕様書も工法オープン化と同時に完成させようと共同作業で作った。

2×4普及へ
断熱・気密化進める
R-2000をお手本に

 ツーバイフォー工法を普及させるには啓蒙活動が不可欠と、1976年にはアメリカのツーバイフレーマー達が3人1組でクルーとなり、実際に家を建てながら全国を回った。翌1977年秋からはカナダがキャラバン隊を組織し、何億もの費用を使って全国数十の都市を回った。この取り組みは3年あまりに及んだ。その後カナダとはR-2000も含めて、お付き合いが深い。
 導入された頃は、工法の合理性、強度に目が向いていたが、省エネ性能などには目が向いていなかった。もっと普及させるには「あたたかい家」をキャッチフレーズにしようと研究が始まった。換気・気密などの技術を海外から導入しようと1980年頃からカナダのR-2000住宅に注目、日本ツーバイフォー建築協会内にR-2000研究会を作り、1989年には調査団がカナダに赴いた。
 日本でも平成11年3月に次世代省エネ基準が告示されたが、断熱性能も気密性能も地域によって基準値が違う。これに対し、R-2000は気候に関係なく気密性は全国同一基準。断熱・気密化の本来の意義を考えればR-2000の考え方が妥当だと思う。
 北海道はツーバイフォーの工法シェアが全国ナンバーワンだが、その北海道の中でも十勝はもっともシェアが高い。ツーバイフォー普及に欠かせないのが技能者の育成で、十勝はフレーマー養成を熱心にやり、本物のツーバイフォー住宅を建てる人材を育成してきた。ツーバイフォーの技能士も数多く出している。工務店の社長がきちんとした考えを持っていて、技能を身につけさせようとした結果だ。全国で過去2回フレーミング競技会が行われたが、北海道は準優勝を飾っている。こうしたものが脈々と受け継がれてきて、今のツーバイフォー住宅がある。

今後の2×4
慢心してはいけない
基本を守り性能重視で

 これから望むことは、ここ数年、業界では様々な法律が施行されて混乱が生じているが、大手にはできない地場産業ならではの家を残していってほしい。
 品確法は中央のハウスメーカーにはメリットがあるかもしれないが、1対1でお客様としっかり相対している地場の工務店には不要な法律だと考えている。
 性能評価もする必要はないだろうと考えているが、自分たちが建てている住宅の性能レベルがどんなものかは、お客様に聞かれれば即座に答えられるようになってほしい。
 今後住宅市場は縮小が確実視されており、一時期年間150万戸、180万戸とアメリカよりも多かった着工戸数は70万戸、50万戸まで落ちるだろうと言われている。その中で生き残るのは工務店しかない。
 ただ、若干心配な状況もある。断熱基準を部位別の熱貫流値でクリアするために住宅全体のバランスが悪くなっていたり、消費者も何でもかんでもクレームにする風潮が根付いてしまったようだ。
 また、阪神・淡路大震災でツーバイフォー住宅は倒壊しなかったことで注目されたが、在来木造の家も倒壊した家屋は非常に古い家屋だった。ツーバイフォービルダーは、慢心してそれ以降は真剣に技術研究をしていないのではないかと心配だ。在来工法は地震の教訓をバネに必死になって改良を続けてきている。
 まずは基本をきちんと守ったツーバイフォー住宅が必要だ。アメリカ、カナダでは昔ながらの方法を守ってきちんとやっている。カナダやアメリカのツーバイフォー住宅は日本とは違う。日本はいじりすぎて基本から離れてしまっているのではないかと思う。
(平成15年10月31日、十勝2×4協会設立25周年の記念講演から)

R-2000仕様で造られたモデルハウス
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根を下ろした2×4とR-2000

十勝からのレポート
ツーバイフォーNO.1
 日本で最もツーバイフォー住宅が普及している地域。それが新築戸建住宅の2戸に1戸がツーバイフォーという北海道・十勝地方。ここではツーバイが押しも押されもしない、一般工法として地域に根づいている。

30年前からコツコツ

 十勝地方のツーバイへの取り組みは、全国的に見ても早く、オープン工法として日本に上陸した翌年、今からおよそ30年前にはアメリカへ研修旅行に出発。現在、十勝には全国から大勢の見学者が訪れる。基本に忠実にコツコツと経験を積んできた設計と施工が、今、全国的に評価されているからだ。
 取り組みのスタートは、ハウスメーカーに負けない工法を工務店の手で、ということだった。ツーバイフォー工法の特徴である高い断熱・気密・耐震性能と、施工の合理性、コスト抑制などが、北海道の住宅に必要な性能そのものだったからだ。
 導入初期は、大工たちは初めての工法に必死に取り組み、また設計技術者は自らも金づちを持ちながら設計と施工管理を進め、そして経営者たちは合理的なアメリカ式の生産管理方法の修得に努めた。
 このような努力とユーザーからの支持があってツーバイフォー工法は大きく成長したが、一方在来木造工法に取り組むビルダーはツーバイに刺激されて技術を磨き、それが相乗効果となって地域全体の住宅レベルを上げている。
 1社だけ、誰か1人だけではできなかった。それがツーバイフォー30年間の歴史だ。

R-2000を超える
 この歴史の中で大きな転換期は「R-2000」住宅が日本に紹介されたこと。
 それまでツーバイフォーは、“在来木造に比べて暖かい”といわれていたものの、なぜ暖かいのかをわかりやすく説明することがなかなかできなかった。また在来木造も室蘭工業大学鎌田紀彦助教授によって改良工法が提案され、技術的にはツーバイフォー並みの断熱性能が可能となった。
 R-2000は1.ツーバイシックス断熱2.気密性能を気密測定によって確かめ、その基準は欧米方式の測定方法で漏気回数1.5回以内(相当隙間面積1.0平方センチ/平方メートル相当)3.全室暖房4.セントラル換気―という極めて高い認定基準をクリアしなければならない。この基準は気密性を中心に現状のわが国の最高基準である次世代省エネルギー基準をも上回るもの。
 当時、まだ気密測定をするという習慣がなかった日本では、とにかくこの基準の高さに驚いた。しかし、十勝からは全国の6社のうち2社も、R-2000実験住宅の建設にチャレンジ。そしてその成果を地道に検証し、今では多くのビルダーが竣工後に気密測定を実施、性能を確かめてから施主に住宅を引き渡すようになった。その性能基準は今やR-2000をさらに上回るレベルに設定しているビルダーもいる。

高品質・そして低価格
 ツーバイフォーが解禁になってしばらくしても、建設コストは在来木造よりやや高いというのが現実だった。しかし、ツーバイはもともとが合理化された工法。コストダウンの余地はまだまだある。そう考えていち早く在来木造よりも割安な価格を実現し、消費者に提供したのも十勝だった。
 住宅の原価のうち、材料費は在来とツーバイでそう大きな違いがあるはずはない。合理化でどこまでムダを削り、工事費を抑えられるか。地道な原価改善の運動が続く。
 コストは間取りによっても変わる。ツーバイ向き、在来向きの間取りがあるなかで、わりとシンプルなプランに向いているツーバイは、シンプルな外観と間取りが好きな北海道に受け入れられやすかったとも言える。いずれにしても、日本中を見渡すといまだにツーバイが在来より高くつく地域が多いなか、原価改善によって高性能を身近なものにした地道なプロジェクトが、そこにはあった。
 今や住宅の性能は、在来木造でもツーバイフォーでも同じレベルを達成することができる。ではツーバイフォーの魅力は何か。シンプルな作りで性能・価格のバランスがいいこと。十勝の大地に似合う三角屋根の住宅。それはツーバイフォーそのものとも言える

(左)構造見学はもちろん、完成住宅の見学にも訪れる人は多い
(右)十勝管内音更町の現場。十勝は日本海側と比べ雪が少ないため、市街地でも三角屋根が多い


アーリーアメリカン調のデザインが十勝にはよく似合う

北海道・十勝地方は日高山脈の東側、大雪山系の南側に位置する。十勝川などによる広大な平野と丘陵地帯では大規模農業が盛ん。ツーバイフォーのシェアは、東隣の釧路圏、北東隣のオホーツク圏とともに全国トップクラス

平成14年 十勝管内2'×4'住宅確認申請棟数ランク
順位
会 社 名
申請棟数
1
星屋(株)
56
2
日崎建設(株)
45
3
(株)土屋ツーバイホーム(本社札幌)
26
4
北栄建設(株)
22
5
(株)岡本建設
21
6
北日本建設(株)
17
7
篠河建設(株)
15
8
㈲丸光吉田工務店
14
9
(株)小澤建設
11
9
大和ハウス工業(株)(本社大阪)
11
9
(株)広岡建設
11
12
(株)千葉工務店
10
13
(株)赤坂建設
9
13
(株)天野建設工業
9
13
松本建工(株)(本社札幌)
9
本社所在地の記載がない限り、地元ビルダー。広大な十勝では、農家を中心に市街化区域以外にも住宅需要があり、これらは確認申請がいらない。
なお、翌年以降営業していない会社はランキングから除外した。またユニット工法のセキスイハイムは含まず。

クレームから逃げず、地場で信頼を得る

十勝No.1 (株)星屋 社長 星屋 洋樹さん
(株)星屋は現在、十勝のトップビルダーとして日本ツーバイフォー建築協会の帯広ブロック長なども務めている。
 今から20数年前、十勝にも大手ハウスメーカーの進出がささやかれ出した頃、地域ビルダーとして生き残るためにはどうしたらよいのか、星屋社長は日々考えていた。「十勝の地元業者として自立し、どこの大手ハウスメーカーの下請けもやりたくなかった」と当時を振り返りながら言う。ハウスメーカーの攻勢に負けないためには、高性能な家を安く提供しなくては」と考えた。
 そこで目を付けたのがツーバイフォー工法。高性能で均質な住宅を建てることができ、制約のないオープン工法だったこと、既に十勝で建てているビルダーが増えてきたことなどから、導入に踏み切った。
 「20年前に初めて導入した時は、十勝のみなさんに助けられました」という。誰が建てても良いとはいえ、質の高い住宅にするにはツーバイフォーの専門技術を身に付けた人材が欠かせない。同社ではツーバイフォーを先に手がけたビルダーから人材の紹介や指導を受け、徐々にツーバイフォー住宅が軌道に乗ってきた。昭和63年頃には早くもツーバイフォーが新築の中心を占めるようになり、十年ほど前からはほぼ全部がツーバイフォー工法だという。
 同社では、地場ビルダーが強いことについて、「地域で長くやっていくには、クレームから逃げることはできない。家を建てた後もお客様とのつながりを大事にすることで信頼を得て、地域に根づいていける。安かろう悪かろうの家づくりでは長続きしない。いい家をより安く提供するのが大事だが、これは大手にはできないこと」と見ている。そして、「十勝では地元ビルダーが高性能住宅を安く提供することが当たり前になっているため、大手メーカーがなかなか入ってこれないのではないか」と分析している。
 同社は、「住宅の性能は一定レベルまで達した。あとは、優れた基本性能をベースにお客様のニーズにどこまで応えられるか」だと考えている。
 そのために社員ひとりひとりがきめ細かな提案ができる教育をも実施。また、最近は専門の造園業者と協力し、ガーデニングの相談・指導が気軽に受けられるシステムを用意した。このほか、ユニバーサルデザイン、住宅のセキュリティにも力を入れるなど、常に新しいニーズを敏感に読み取り、家づくりに生かしている。 

小さな協会の大きな25年間

十勝2×4協会 会長 岡本 修さん
 ―十勝2×4協会は平成15年で25周年ですね。
 「昭和54年に11社で産声をあげ、十勝という小さな地域で四半世紀もの長い間、活動してこられたのも、お客様のご支持とご協力いただいた関連機関、企業の皆さまのお力添え、そして諸先輩方の尽力があればこそと、感謝しています。十勝にツーバイフォーを根づかせるという大きな目標を掲げ、がんばってきましたが、少しずつ目標に近づいていると思います」
 ―十勝は技術的にしっかりしていると聞きます。これまでどんな取り組みをしてきましたか。
 「まず第一に構造的にムリのない設計を行うことです。また協会ではフレーミング検定という現場試験を独自に行っており、会員は年に1回、必ずこれを受けなければならないことになっています。十勝は地震が多く、昨年9月の十勝沖地震でもそうだったのですが、ムリのない設計で基本通りに現場施工を行った住宅は、被害がほとんどありません。一番大切なのは基本です」
 ―気密測定検査も実施していると聞きました。
 「平成二年から行っています。R-2000と同じ基準を目標値に設定し、年に1回の検査を実施。気密測定は確かな住宅をお引き渡しするためであると同時に、施工チェック・改善のためでもあります」
 ―日ごろはライバルである同業者が一緒にツーバイフォー普及のためにやってこられた原動力は何ですか。
 「地域の皆さんのために家づくりをするということだと思います。わたしたちはみんな地域工務店です。十勝に住む1人として、暮らしや環境について関心を持っています。住宅づくりはそこからかけ離れたものではなくて、まさに暮らしと環境そのものだ、という目線と、大手住宅会社に負けない設計・技術力。その両方を大切にしていくことがこれからも必要だと思います」十勝2×4協会…十勝の工務店が組織するツーバイフォービルダーの協会。品質改善への地道な努力と、同協会を中心とする十勝全体の工務店の活力が、全国的にも注目を集めている。岡本修さんは第5代の会長。
数字で見る十勝のツーバイフォー
 十勝地域でツーバイフォー住宅が戸建ての5割を超えているといわれているが、新設着工ベースで見た場合、十勝という地域に限定したツーバイフォー住宅の着工戸数を知る公的データはない。
 そのため、住宅金融公庫のマイホーム融資に占めるツーバイフォー住宅のシェア(グラフ)や、建築確認申請から推し量ることになる。
 公庫データ上は、ツーバイフォーシェアは40%程度で、地域別のトップ。全道平均の28%、全国平均の12%を大きく上回っている。これに続くのが釧路・網走・胆振の各地域。主に道東を中心にツーバイフォーが高いシェアを占めている。
 一方、確認申請を見ると、平成14年1年間のツーバイフォー確認申請は594棟。これにはアパートも含まれているが、十勝の戸建住宅は年間1000棟といわれており、その半分程度はツーバイフォーが占めていると見ることができる。
 14支庁別では、十勝は石狩(札幌圏)に次いで2番目の申請量。人口36万人程度、全道比6%の地域が占めるツーバイの全道シェアは15%にも達する。
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2×4と十勝工務店の30年

ウッズ建築設計事務所 山口 正さんに聞く

ウッズ建築設計事務所山口正所長
 多くの地場工務店がツーバイフォー工法を採用する十勝で、設計・技術面で地元を引っ張ってきたのが?ウッズ建築設計事務所を主宰する山口正氏。同氏は工法の十勝導入時期からその中心として活躍し、工法の背後にある合理化思想を、現場だけでなく経営面にも反映させようと北米のビルダーを研究。現在ではツーバイフォー工法普及のため、講師として全国を回っている。同氏から見たツーバイフォー30年と十勝を語っていただいた。
平成15年10月31日、十勝2×4協会設立25周年の記念講演をもとに本紙が取材した。

全国一のシェア
2×4が在来工法
工務店の競争が良い結果生む

 十勝ではここ数年、戸建住宅が1100~1200戸ぐらい建っているが、このうち600~700戸ぐらいがツーバイフォー住宅と推定されるので、ツーバイフォー工法の普及率は推定で五割を超えることになる。一番シェアの高い工法を在来とするならば、十勝ではツーバイフォー工法が在来工法だ。
 ツーバイフォーが普及し始めた頃は、「ツーバイフォー」自体が差別化のポイントになったが、“在来工法”となった現在では、もうセールスポイントにはならない。消費者を引きつけるのは、性能が良くてしかもコストが安い住宅。これを目指して工務店同士が競争したおかげで、十勝ではツーバイフォーが増え、結果として工務店が強くなった。
 十勝のツーバイフォーは、多くを地場の工務店が建てている。一生懸命育成したフレーマーが別の工務店に移っても、やはりツーバイフォーを始める、というふうに草の根的にツーバイフォーが普及していった。本州でツーバイフォーをやるビルダーはパネル化を進めているところも多いが、私は「ツーバイフォーはフレーマーが建てるもの」と考えている。パネル化を進めると人材が育たない心配がある。
 十勝のフレーマーは1棟1棟公庫の仕様書通りに組み立てるという同じ作業を25年間ずっと続けてきた。だから、フレーマーの習熟度は上がり、施工レベルも上がった。


十勝2×4協会では会員が自由に参加できる現場見学会を実施することで、互いの技術を高めあっている

強い工務店
消費者が得をする
大手も同列で争うしかない

 十勝では、大手も交えてビルダー同士の競争が激しい。その一つの理由は、地場工務店が建てるツーバイフォー住宅が他の工務店を活性化させたのだと思う。そうして各工務店が切磋琢磨した結果、全国的に見ても十勝の地場工務店が建てる住宅は高性能で低価格という評価が定着し、大手ハウスメーカーが進出しづらい状況になった。大手の攻勢を抑え、地場の工務店が一歩前へ出たわけだ。
 全国規模のハウスメーカーは、十勝には八社ぐらい進出しているが、どのハウスメーカーも年間20~30戸ぐらいで飛び抜けた会社がない。これに対し地場工務店も、最大手が年間50戸以上を建てているほかは、20~30戸ぐらいの会社がズラッと並んでいる。十勝では大手ハウスメーカーも地場工務店も同列で争っていることになる。こうした激しい受注競争のおかげで一番得をしているのは消費者である一般市民だろう。

十勝2×4協会
先行者が情報を開示
オープンに共通利益を目指す

 十勝2×4協会の理念は、オープンにいこうということ、それとツーバイフォー住宅のシェア拡大が会員共通の利益だという考え方だ。
 ツーバイフォーはオープン工法であって経営・技術面のノウハウもオープンにしよう、と考えている。現場もオープンにすることで常に他人に見られる緊張感を与え、技術水準を高いレベルに持って行くことができた。“学びたい人は現場にきて働いて下さい”というやり方でここまで工法が広まってきた。
 ともすると、先に技術をマスターした人たちは情報をクローズにしたがる。しかしそれはダメだ。仲間に広げ、仲間ががんばることが回り回って自分の商売を守ることになるし、オープンにしたノウハウはノウハウでなくなるので、さらに努力しようという意欲につながる。それが持続的な差別化につながるのだ。
 また、同協会では会員が建てる住宅の質を担保するため、枠組壁工法技能士の在籍やフレーミング検定の義務化、R-2000レベルの気密性能の達成と定期的な公開測定を義務づけ、達成できない会員に対しては退会勧告を出すこともできる。
 会の活動としてこのほか、月1回の例会開催、ツーバイフォーの職人育成、大工も対象にした海外視察、共同広告、他地域との交流などを行っている。

工務店の今後
ノウハウを次世代へ
情報開示は対ユーザーにも

 会員はすべて地場工務店で、商売敵同士がうまく団結できるのか、という声もあったが、大手ハウスメーカーを共通の敵として一致団結してきた。
 工務店という経営形態の最大の問題である技術やノウハウの引き継ぎという問題についても、先輩諸氏の技術をオープンにし、あとを継ぐ世代が吸収することに加え、フレーマーの育成によって、十勝全体としてうまく受け継ぐことができていると思う。
 欠陥住宅問題がテレビなどで取り上げられているが、私の考えでは、欠陥住宅をなくすためには情報を公開することが必要ではないかと思っている。今後は工務店が財務内容も含めた経営情報を消費者に開示することも必要になってくると思う。

ウッズ建築設計事務所 山口正所長

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新春インタビュー
未来を切り拓く『グランドソースヒートポンプ』

(株)日伸テクノ 柴田 和夫社長

柴田和夫社長
 地球環境への負担を抑えるエコロジカルな暖房として注目されているヒートポンプシステム。なかでも一年中安定した温度の地中熱利用は、ヒートポンプ暖房の“真打ち”とされている。しかし普及へのネックとなっているのがイニシャルコストの高さ。
 コストというこの大きな壁に挑戦しているのが日伸テクノ。コストはどこまで下げられるのか。柴田和夫社長にインタビューした。柴田社長によれば、コスト面、性能面両方で家庭用ヒートポンプの普及にメドが付いたという。

北欧メーカーとの交流きっかけに
 ―戸建住宅とはあまり縁のない会社が、なぜヒートポンプに取り組みだしたのですか
 「当社は昭和25年に創業以来、土木、管・さく井工事の専門会社として地すべり対策、治山、急傾斜地の崩壊防止などの防災工事、基礎杭、トンネルなどの掘削・推進工事をメインにやってきました。掘削機械のビット(先端のドリル)部分で二件の特許を持っているなど、トップクラスの技術と実績と自負していますが、ヒートポンプとの出会いは今から十年ほど前、北欧に視察旅行に行ったときが最初でした。そのときは、まだヒートポンプが何かもわからず、月日が流れました。
 平成九年に国際蓄熱会議が札幌で開かれ、技術交流をしていたスウェーデンの掘削会社の地元・ウプソラ大学の教授と交流する機会があり、北海道大学の地中熱研究者でIEA(国際エネルギー機関)国際会議の日本代表者でもある落藤澄教授(現名誉教授)を紹介されました。そうした研究者との交流の中で、地中熱利用システムを設置するには、当社が得意とする高度な掘削技術が欠かせないことがわかり、強い関心を持つようになりました」

 ―日本ではまだほとんど普及していませんが、その原因は何だとお考えですか

 「技術的にはほぼ確立していますが、問題は導入時のコストです。スウェーデンでは、40坪程度の戸建住宅に導入するときは200万円以内で済むと言われていますが、日本では4百数10万円もかかり、補助金制度を利用しても300万円前後必要です。コスト高の原因は、岩盤主体のスウェーデンにくらべて地盤が複雑で、敷地面積が狭いために工事がやりにくく、それが掘削コストに跳ね返ることや、ヒートポンプ本体も輸入品を使うと400V仕様なので200Vに電圧を下げるトランスが必要になり、この費用だけで50万円以上することなどが原因と考えています」

3つの改良で導入コスト約半分
 ―コストダウンは可能ですか
 「掘削コストについては、ドイツ製の新型機械を導入し、掘削速度を従来の最大2倍に向上させたので、1メートルあたりの掘削コストが大幅に下がりました。また、採熱管も道内のメーカーと共同で高性能でローコストなポリエチレン製の専用品を開発。これにより掘削―採熱管の埋設―埋め戻しの材工コストが一メートルあたり平均8000円程度、従来のおよそ半分になりました。
 ヒートポンプ機器本体については、輸入品はダウントランスなどの費用を含めると100万円以上の価格になりますので、最初から200V仕様の製造ができる国産メーカーに依頼し、コストダウンを図りました。
 1.掘削コストの削減 2.専用採熱管の開発 3.国内仕様のヒートポンプ機器の開発 ―この3点の改良でパネル施工や配管分も含めた材工トータルの費用を220万円程度に抑えるめどがつきました。国の補助制度を使えば約150円に収まり、ヒートポンプ普及に向けて一つのメドが付いたと思っています」

 ―劇的なコストダウンですね
 「ええ、そうだと思います。また、私たちは施工だけでなく設計も行います。設計面の改良では、地中から得られる熱量を高い精度で予測するための専用計測機器も開発しました。設計と工事両方を請け負うことで、ローコスト化だけでなく確実に性能が出せるヒートポンプ暖冷房システムを提供することができると思っています」

 ―最後に、今年やっていきたいことを教えてください
 「地表とは異なり、地中熱は1年中温度がほぼ一定のため、夏は冷房として使うこともできます。こうしたメリットを生かすと、地中熱ヒートポンプ利用は、住宅分野だけにとどまりません。病院、福祉施設の建物やビニールハウスなどの農業プラント、堆肥舎での発酵促進用など、可能性は無限に拡がります。今までの研究で得た技術と経験を元に、幅広い分野でヒートポンプ利用を進め、地球温暖化の防止に貢献できればと考えています」


ドイツ製新型掘削機。
従来の2倍のパイプで掘削できる


密度ポリエチレン製採熱管を埋設しているところ
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