トップ > 「環境」と「家計」にやさしい住宅事例1
小林義孝さん(53歳)は東京出身。学生時代にスキーで長野県の志賀高原に通ううちに、近くの湯田中渋(しぶ)温泉郷に住む奥さまと恋に落ち、こちらに暮らすことに。信州で最初という断熱工事会社を創業し、現在も忙しい日々を送っています。住まいは古くからの集落にあり、標高およそ800メートルの高地で、長野市内からは約400メートルも高くなります。春の到来は札幌よりも遅いくらい。雪も寒さも長野市内よりはるかに厳しい土地柄です。そのかわりリビングからは長野盆地方向を見下ろす展望が開け、天気のいい日は彼方に戸隠、妙高、斑尾など独立峰5山「北信五岳(ほくしんごがく)」と呼ばれる名峰を望みます。「東京でもなく、長野市内でもなく、この場所がいいんです」と小林さん。
新居が完成したのは2年前の06年のことですが、もともとそこには奥さまの両親が50年前に建てた家がありました。土台に栗の木、柱は杉、屋根も杉の皮を使うなど、実家の山から切り出した良質な木を使って建てられた家でした。いろんな思いがこめられていたことでしょう。しかし、信州の夏は暑く、寝室のある2階は耐えられないほど。そして問題は冬でした。
「この地域では、寝るときに頭に手ぬぐいを巻いて寒さをしのいたものです。吐く息で布団の前掛けが凍ることも普通」と奥さま。結婚当初、小林さんはその家をリフォームし、セントラルヒーティングを入れて冬でも暖かな生活ができるようにしました。しかし、暖房代はかさみます。暖房用の灯油はひと冬で3000~4000リットル。今の単価なら30万~40万円以上という金額です。
また、暖房したことで屋根に積もった雪が中途半端に融けて軒先近くで凍り、その重みで雪止めもろとも道路に落下するという事件が発生しました。小林さんは氷が成長する前に屋根に上がり、氷を割る作業をずっと続けてきました。急勾配の屋根は緊張の連続。“この先体力が徐々に衰えていくことを考えると、いつまでも続けられない”と家を建て直すことに。
「50年前に地元の材料を使って家を建てたときの想いを大切に、今度こそ100年後も安心して住み続けられる家にしたい」。小林さんは50年間お世話になってきた家を前にして、そう決心したそうです。
長野では、「高断熱住宅は夏暑い」という住宅会社もいます。断熱工事会社の社長としては歯がゆい気持ちでした。「日射をさえぎる工夫や風通し、そして正しい断熱工事をすれば、夏場はむしろ涼しいはず」。そう確信していた小林さんは、『無冷房住宅』を目指して外壁の断熱を30㎝以上の厚さにしようと考えます。それが4年前のこと。当時このようなぶ厚い断熱住宅は北海道にもないほどで、非常に独創的な考えでした。
小林さんの考える住宅は、まずしっかりした断熱を行い、その上で環境に優しい暖房、給湯、ほんの少しの冷房を装備する家。できるだけ地元の木を使うことで旧宅の思い出を未来に伝えることも、とても重要なミッションでした。
敷地は間口が狭く、道路側から奥に入るに従って3メートル近く低くなる難しい条件。このため地下1階・地上2階の3層建てで、地下1階と地上1階はコンクリート構造です。
家計にとっては暖房費も気になるところ。暖房はヒートポンプ温水暖房とリビングの蓄熱型薪ストーブというちょっと変わった組み合わせ。石でできたこのストーブは、じっくり蓄熱してじわじわ放熱するので薪の持ちも良く、穏やかな暖かさが心地いいそう。
暖房費は、最も高い月で1万5000円、年間で6万円くらい。約90坪の家を暖房し、しかも北海道のような暖房用の割安な電力料金メニューがない条件ですから驚きです。
給湯は太陽熱温水器を使っています。目立たぬよう屋根の軒下に張り巡らされたパイプが太陽熱で温められ、温水を作ります。灯油ボイラーも併用していますが、夏場はボイラーの力を借りることはほとんどありません。年間の灯油代は1万円ほどで済んでいます。
「24時間全館暖房は、もともとは人が快適で健康に暮らすために普及してきたもの。ところがエネルギー価格が急上昇することで、暖房を止めてみたり温度を大きく下げたり、ガマンしながら暖房費を節約しなければならなくなります。こういったときも、グラスウール30㎝の断熱のおかげで暖房費を抑えながら快適な暮らしを維持することができます。温度は活動の場であるリビングが22~23℃くらい、休息する寝室は16℃ぐらいの方が人間の体のリズムに合っています。こうした部屋毎の温度調節がしやすいのは温水パネル暖房のメリットです」と小林さん。夏場は、狙いどおり冷房がいらない涼しさ。最高気温が35℃になっても、室内は26℃程度までしか上がらないそう。これは日差しをさえぎり風を通す設計と、コンクリート外断熱の力でもあります。
新居に移って一番変わったのは「冬でも家の中を動き回るようになったこと」と奥さま。寒い部屋がなくなったことで、家でじっとしている必要がなくなったのだそうです。お母さまといっしょに畑で取れた野菜で漬物づくりも。
小林さんはと言うと、忙しい仕事のかたわら、共同湯の管理、水源地の保全や森林管理など地域での活動にも精を出します。学生時代のスキーから始まって自然に親しむ生活をつづけ、おのずと環境問題にも目がいきます。そしていま、地域では雪かきの大変さや家の寒さなどから住み慣れた家を離れる人も多く、年々空き家が増えているそうです。「現代の高断熱・高気密住宅なら、こうした悩みも解消できるのに」と残念そう。断熱住宅のすばらしさを広めたい。それが志賀高原の自然を守ることにもつながる。小林さんは次の世代へ森を引き継ぐことも役割の1つと考えるようになりました。
建築概要 | |
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所在地 | 長野県下高井郡山ノ内町平穏 |
竣工 | 平成18年6月 |
気密性能 | 0.54cm2/m2 |
構造工法 | 地階・1階:RC造+ 2階:在来木造工法 |
延床面積 | 地下77.14(23.3)+ 1階113.52(34.3)+ 2階114.28(34.6) =合計304.94m2(92.2坪) |
換気方式 | 排気型セントラル換気システム |
断熱仕様 | ||
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基礎・地階 | 超撥水GWボード48K100ミリ | |
1階外壁 | 高性能グラスウール16K120ミリ外張り+ グラスウールボード48K25ミリ |
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2階外壁 | 充てん:高性能グラスウール16K120ミリ 内側付加:グラスウールブローイング90ミリ 外側付加:高性能グラスウール16K120ミリ+ グラスウールボード48K25ミリ |
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屋根 | グラスウールボード32K35ミリ+ グラスウールブローイング250ミリ |
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玄関ドア | 木製断熱タイプ | |
窓 | 木製トリプルサッシ+ 一部プラスチック サッシLow-Eペア真空ガラス入り |
設備概要 | |
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暖房システム | メイン:空気熱ヒート ポンプによるパネル セントラルヒーティング (冷房含む) 補助暖房:スイス製蓄 熱型高性能薪ストーブ |
給湯システム | メイン:太陽熱利用の 貯湯型温水器 補助給湯:灯油ボイラー |
換気システム | 排気型セントラル換気 システム |
取材協力 | |
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設計 | ㈲ガンバ建築設計 |
住所 | 長野県上田市諏訪形84-1 |
電話 | 0268-22-6703 |
HP | http://www.gamba-web.com/ |
gamba926@lily.ocn.ne.jp |