札幌良い住宅.jp ホーム > 中村よしあき建築研究所 > 未来へつながる、"持続可能な家"をつくる

未来へつながる、"持続可能な家"をつくる

中村よしあき建築研究所

ライター 柴田美幸 | 二世帯住宅 | 家づくりの基本 | 2011.06.24

「エネルギーの需給が今よりさらに厳しくなる未来も持続可能な家」。一級建築士の中村欣嗣(よしあき)さんは、このことを最も大切に考えた住宅設計を行っています。そのためには家づくりが『現代の便利な生活』を1度見直すきっかけになるはず。故郷の岩見沢市を拠点に、北海道ならではの“持続可能な家”を提案し続けている中村さんに、建築家として今の住宅について考えていることを話していただきました。

ドイツの環境先進都市・フライブルグのエコ団地「ヴォーバン」のパッシブハウス
ドイツの環境先進都市・フライブルグのエコ団地「ヴォーバン」のパッシブハウス
北海道の暖房方式はその時代のエネルギー事情や建物性能に応じて、めまぐるしく変化してきた。そしてこの先も変化するかもしれない。
北海道の暖房方式はその時代のエネルギー事情や建物性能に応じて、めまぐるしく変化してきた。そしてこの先も変化するかもしれない。
2世帯住宅に設置した薪ボイラーと熱交換貯湯タンク
2世帯住宅に設置した薪ボイラーと熱交換貯湯タンク
38cm近くにもなる外壁の厚さ。EU最高基準の木製サッシ
38cm近くにもなる外壁の厚さ。EU最高基準の木製サッシ
土間のある空間構成
土間のある空間構成
断熱を高めることで薪を朝晩1回ずつくべるだけ。石油や電気に比べれば確かに手間。
断熱を高めることで薪を朝晩1回ずつくべるだけ。石油や電気に比べれば確かに手間。
雨をしのげる場所があれば取り付け前でもサッシを塗装できる。たいへんだけどこれも持続可能な維持管理の方法
雨をしのげる場所があれば取り付け前でもサッシを塗装できる。たいへんだけどこれも持続可能な維持管理の方法

エネルギーへの問題意識を持った家づくり

現在、家づくりに省エネの意識を持つことは一般的になっています。壁の断熱材を厚くする、照明をLEDにする、太陽光発電を屋根に設置するなど、光熱費を抑えた住宅が望まれるようになりました。しかし、私は"小さなエネルギーで生活すること"が何より重要だと考えています。 実は私も表面的にしかエネルギー問題をとらえていないと気付いたのは、ほんの4、5年前です。設計の仕事で2007年に訪れたドイツでは、社会的に持続可能なエネルギーを選択する意識がすでにありました。相前後して「ピークオイル」の考え方も知り、こうしたことをきっかけに、エネルギー問題を深く意識した家づくりを行うようになりました。 北海道のような寒冷地では、住宅の暖房に使うエネルギーはとても多く、一方で、石油エネルギーにはだんだん供給の限界が見え始めています。また、このたびの東日本大震災をきっかけに、電気エネルギーへの認識も変わりつつあります。 ※ピークオイル 石油資源がすでにピークを迎えており、今後は需要と供給のバランスが崩れることを示唆する言葉。石油が手に入らなくなったあとの世界の危機的状況を警告しています。ピークオイルについては以下のサイトも参考になります。 朝日新聞 東京大学名誉教授 石井吉徳氏

持続可能なエネルギーの利用

私たちは生活の便利さを追求し、便利であることが豊かさにつながっていると考えてきた結果、多量のエネルギーを必要とするようになりました。いちど手にした便利さを手放すことはそう簡単にはできません。ただ、エネルギーを多量に消費している責任があると思います。 私ができることは、なるべく消費エネルギー量が少ない住宅づくりをお客さまに提案することです。たとえば薪ストーブや薪ボイラーなど、北海道に豊富な木質バイオマスを使用した暖房機器・給湯設備と、それに対応した高断熱・高気密性能やパッシブハウス(無暖房住宅)、生ゴミを再利用できる暮らし方などです。しかしこうした提案には難しさもあります。人の手をわずらわせるからです。昭和30年代ごろの暮らしを考えてみてください。薪ストーブはまず薪を割らなくてはならないし、煙突掃除もしなくてはいけない。今の生活より不便なわけです。"不便"を今あえて選ぶことができるかどうか。 今後の私たちの暮らしに、エネルギーへの意識の転換が必要になるのは確かです。つまり豊かさを何に求めるか、どれだけのエネルギー使用が許されるのか? あるいは持続可能な消費エネルギーはどのくらいなのか? この問いに対する完全な答えは今はないし、この先も答えを出すのは難しいでしょう。でも建て主さんには、エネルギー問題をきっかけに持続可能な生活とはどういう生活なのか、その器とはいかなるものか? ということをいっしょに考えていただきたいし、少なくてもその備えだけはしておきたいと考えています。

かつての暮らしから、未来を考える

独立前のゼネコン時代の私は最初に東京、その後名古屋にいましたが、どちらも一生住むところではないと感じていました。故郷の岩見沢へ帰り独立することは、自然に選択した気がします。帰ってきてから本格的に寒冷地住宅について勉強しました。本当に北海道の環境に合う家を、自分の建築の思想としてかたちにできるのではと考え、現在にいたります。 私には原風景として、子どものころの岩見沢があります。当時の岩見沢は石炭を運ぶ要所で、線路っぷちで石炭を拾っていたことを覚えています。鍋を持って豆腐を買いに行きました。風呂桶やさん、製材所に材木屋さん、子どもの徒歩圏内で日常の必需品や家の修理の材料・道具が手に入りました。昭和30~40年代前半の日本は、今の半分以下のエネルギーで生活していた時代です。そのころの生活の工夫や知恵といったものが、今後の北海道の家づくりや持続可能な家のヒントになるかもしれないと思っています。

大事にしたいこと

家づくりに、びっくりするような特別なものはいりません。たとえ家族構成など状況が変わっても一生住み続けられる家をつくることが重要です。それは、家族構成が変わり住む人が高齢化したり、そのあと別の人が移り住んでも「いい家だね」と素直に思える家。だから私は暖房エネルギーも含め、未来を見据えた家づくりをこころがけています。 だからといって今の生活をないがしろにするわけではありません。「生活」の部分は施主に属していて住み手がつくっていくものです。私の仕事は住み手の暮らしを支える「器=家」の最適解を見つけることだと思っています。例えると、お客さまの希望を縦糸に、長く住み続けるための提案を横糸に、織り上げたものが家という器になるイメージです。

東日本大震災で価値観が大きく変化しました。わたしたちはエネルギーも食料も限りがあることにうすうす気づきはじめ、地球の包容力とその限界を目の当たりにしています。見た目にきれいで便利・手間いらずという生活が、じつは非常にもろい基盤の上にあることも気がつきました。
以前から採用していましたが、最近のお客さまには「木製サッシを自分で塗ってください」と提案しています。木製サッシの採用は断熱性や木のぬくもりということもありますが、外部の再塗装を通じて家のことに積極的にかかわるきっかけになるからです。
とにかく施主がやれそうなものはできるだけ施主にやってもらう。できることからやっていく必要があると思っています。やりながら、私と一緒に考えてほしい。
現在、岩見沢をはじめ札幌にも設計した住宅が多数あります。離れた場所での施工でもポイントは必ず現地で検査・確認していますので安心していただけるはずです。
最後に、繰り返しになりますが、これからはエネルギーのことを考えずに家づくりはできなくなるでしょう。今だけにとらわれない先のビジョンを持っておくことが大事だと思います。

記者の目


今の日本の状況は、東日本大震災を期にあらゆる価値観が変わりつつあるときだと思います。エネルギー問題がより切実に受け止められている今、中村さんが建築で実践しようとしていることが、重要な意味を持っていると感じます。豊かさの基準を改めて見つめ直した家を、中村さんとなら、つくることができるはずです。

企業情報を見る
このページの先頭へ