12年後の再取材 H邸は「現代の民家」の原型

北海道住宅新聞社編集長 白井 | オーナー体験談 | 家づくりの基本 | 自然素材 | 2009.03.26

12年ぶりに訪問したH邸は、記憶よりもコンパクト。徐々に思い出してきました。知恵があふれていて、やさしいデザインのおうちだった。

取材日は小雪が混じる天気。小ひさしに雪が載った状況からもサッシを保護していることがわかる
取材日は小雪が混じる天気。小ひさしに雪が載った状況からもサッシを保護していることがわかる
「現代の民家」の原型になったH邸の1階平面。敷地などの関係で1階に広い寝室が取れなかったため、和室を寝室代わりに使えるように設計し、布団を収納する押し入れも近くに設置した
「現代の民家」の原型になったH邸の1階平面。敷地などの関係で1階に広い寝室が取れなかったため、和室を寝室代わりに使えるように設計し、布団を収納する押し入れも近くに設置した
障子を閉めたリビング。「はじめてHさんのお宅におじゃますると、日本茶と和菓子を出していただいた。和風をおすすめして受け入れていただけそうと思った」と中村さん。Hさんも「とても落ちつくし、夕暮れに明かりをつけて障子を閉めると本当にステキ。お客さまはビックリされます」ととてもお気に入り
障子を閉めたリビング。「はじめてHさんのお宅におじゃますると、日本茶と和菓子を出していただいた。和風をおすすめして受け入れていただけそうと思った」と中村さん。Hさんも「とても落ちつくし、夕暮れに明かりをつけて障子を閉めると本当にステキ。お客さまはビックリされます」ととてもお気に入り
穏やかにお話しいただいたHさん
穏やかにお話しいただいたHさん
2階のホールは吹き抜けに面したテーブルと、背面は上質なつくりの棚がある書斎のようなスペース
2階のホールは吹き抜けに面したテーブルと、背面は上質なつくりの棚がある書斎のようなスペース
集中換気システムやダクト類をいつでも点検・掃除できるように、トイレの背面に配置。ふだんはパネルで目隠しされている
集中換気システムやダクト類をいつでも点検・掃除できるように、トイレの背面に配置。ふだんはパネルで目隠しされている
当時を振り返る中村さん。すぐに答えが見つからない質問はじっくり考えてから答える
当時を振り返る中村さん。すぐに答えが見つからない質問はじっくり考えてから答える

H邸についたとき、ちょうどこの家を設計した建築家・中村欣嗣(よしあき)さんと会いました。いつものように公共交通機関で来たのでしょう。くるまは見あたりません。
事前に取材項目を整理していました。建ててから14年目。どんなトラブルがあって、どこが傷んできたか。新築にない味わい、木の色の変化とかはどうか。当時考えた設計者の答えは、10数年たって正解だったか?


もう一つの狙いは、いつも新しい住宅ばかり紹介するなかで、新築時の「ツルツル・ピカピカ」がなくなった、いわば手あかのついた家を紹介することで、住宅づくりをまた違った目で見ることができるようになるのではないか、と思ったからです。

家を建てること、業者選び、建てたあとの保守。わからないことだらけ

前置きが大いに長くなりましたので、結論をさきにまとめたいと思います。 H邸は暮らしぶり、家具の配置まで、当時とほとんど変わっていませんでした。拍子抜けするほどトラブルも傷んだ部分もない。 9年目に外部、屋根と外壁、木部を塗装。あとは暖房ボイラーの交換だけ。これらもすべて織り込み済みの修繕だったそう。欠陥住宅を考える会(当時)に入会して学び、家を建てた経験が生かされています。

「一般の消費者は家を建てること、業者選び、建てたあとの保守。これらすべてがわかりません。わからないことがむしろ普通ではないかと思います。まわりにはトラブルを抱えた方も多いのですが、わからないままトラブルにあって、はじめて困るんです。そしてどこに相談していいのかもわかりません。
わが家の場合は、住宅展示場を見て"信用していいのかしら、ダメなのかしら"そう迷っていたときに中村よしあきさんと巡り会いました。家を建ててからも、わからないことはいつも相談しています。そのたびにたくさん調べてきてくださる。いまでも頼りにしています」とHさん。


設計者である中村よしあきさんと注文主のHさんは、いまでも「わからないことを質問し、解決する手助け」という関係が続いているようでした。

設計の狙いは実現しているか?

今年から3リッターハウス(パッシブハウス)が基本になるという中村よしあき建築研究所。しかし14年前のH邸も木製のトリプルガラスサッシなど、断熱仕様は2009年レベルよりむしろ高いほど。 暮らし心地は、「お友だちが来ると必ず"クーラー入っているの?"と尋ねられるほど、申し訳ないくらい冬暖かく夏涼しい。扇風機がいらない年もあります」、とHさん。

中村さんに、設計の狙いは実現しているかを尋ねました。
まず外部。土地の制約などでひさしがつけられなかったので、木製窓の上は小ひさしを出して窓を保護した。木部は脚立などで塗れるところまでとした。じっさい、得意ではないご主人も木部の保護ワックスを自分で塗っているそう。
間取りについては、建築家・中村さんが考える「現代の民家」の原型になっています。現代の民家とは、食べて寝て、排泄して入浴、が同じフロアでできること。そして構造体をできるだけ表した家を言うそう。
H邸は、1階の和室を将来寝室としても使えるよう考えてあり、「現代の民家」が実現できる設計になっています。
また、これも当時としては先進的な地下室に、洗濯機ともの乾し場、そしてボイラースペースを集め、ボイラー交換や設備更新を考えた点検口や搬入口がつけられています。


中村さんは取材時に当時の設計図面を持ってきてくださいました。小生が質問すると、確認のために図面をチェックしながら「一生懸命やってるな」とぽつり。リビングや吹き抜けに面した2階ホールなどに使っている障子の図面がとてもたいへんだったことを思い出したそうです。

「障子は高価なものではありません。ドレープとレースのカーテンと同じくらい。あとは設計の手間だけ。その手間を惜しんではいけないと、いま一度反省しました」と中村さん。

記者のひと言

この日はもう1件、小樽市に移動して地場の工務店さんが建てた築17年の住宅を取材しました。2件の取材を通じて感じたのは、住まい手と暮らしに変化が現れるのは子供が独立したり、建て主の身体能力が著しく低下していく70代前後あたりからのようですが、建物は配慮があれば10数年でくたびれることはない、ということ。ただし、断熱・気密性能が低いと、建てたすぐあとから後悔の毎日が始まるかもしれませんし、耐久性を考えていないと、10年を待たずに補修が必要になるかもしれません。
Hさんは心からありがたいと感謝しているようでした。「住宅のことはわからないから、誰に頼るといいのか、それがとても重要」2件の取材の共通した答えでした。

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