ドイツ・パッシブハウス生みの親であるヴォルフガング・ファイスト博士を日本に招いて4月18日東京でエネルギーシフト・シンポジウムが開かれ、住宅の断熱化に取り組む全国の300人を超す関係者が集まった。主催は(一社)パッシブハウス・ジャパン。
4時間半にも及ぶ長いシンポジウムは、同社団理事で環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長、ファイスト博士、東京都市大学・宿谷昌則教授、同社団代表理事の森みわ氏が講演し、その後パネルディスカッションが行われた。ここではファイスト博士の講演から要旨を紹介する。
主役は断熱
暖房をほとんど使わずに快適な室内を実現する「パッシブハウス」の最初のアイデアは、27年前(1987年)にスウェーデンで生まれ、中国で建てられた。これを参考に1991年、ドイツで3階建てのタウンハウスを建築したのが最初だ。アメリカの研究者のアドバイスもあり、パッシブハウスを研究に終わらせることなく、一般住宅に普及させることを目的に、省エネルギー・快適性・実現可能な価格を目指した。
研究によってわかったことは、1m2あたり10W/hの暖房負荷になると、暖かさの主役は断熱となり、暖房専用の設備は不要になることだ。暖房設備を削減することで大きなコストダウンが可能となり、省エネ・快適性・コストのバランスがもっとも良くなる。
ただし、これを実現するためには極めて高い気密性能を前提にした高性能な熱交換換気と、断熱壁体並みの断熱性能を持つ開口部が必要だ。熱交換換気は、排気から回収した熱を効率よく給気に渡すと同時に、少しだけ給気を加温して暖房器を兼ねる。また開口部は日射取得と断熱のバランスを地域によって検討する必要があるが、ドイツや北海道では最低限、トリプルガラスと高断熱な枠材が必要だ。
パッシブハウス実現のためには、これらの建材開発がひとつのポイントになってきた。そして、中小企業がじつにたくさんの断熱建材と熱交換換気などを開発し、商品化している。断熱材だけでも製造メーカーを100社を数える。これはパッシブハウスのもうひとつの効果でもある。パッシブハウスが普及する過程で、建材価格も下がってきた。
パッシブハウス基準の意味
1m2あたり10W/hの暖房負荷とは、年間の暖房負荷で1m2あたり15kWhというレベルになる。これがパッシブハウスの基準となっており、設計者は、建設地においてどのようなプランと仕様にすれば基準をクリアできるかを検討しなければならない。そのとき、ツールとなるのがPHPPというソフトだ。日本では「建もの燃費ナビ」として設計アシストができるようになっている。
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講演するファイスト博士
パッシブハウスは公営住宅、学校、幼稚園、オフィスビル、プールにも採用されている(ファイスト博士のスライドより)