新聞記事

2013年09月15日号から

建築紛争フォーラム 道内の建築関連訴訟の事例報告 結露・凍害・寒さ、説明不足も

 (一社)日本建築学会・司法支援建築会議運営委員会では、今月1日に「第5回建築紛争フォーラム?積雪寒冷地における建築紛争の現状と課題?」を札幌市内で開催。札幌地方裁判所民事第3部総括裁判官・長谷川恭弘氏が「札幌地裁における建築事件への取り組み」をテーマに基調講演を行ったほか、司法支援建築会議北海道支部会員が道内での建築紛争事例を報告・議論した。
 ここでは佐藤民佳氏が凍上・凍害、山本明惠氏(恵和建築設計事務所)が落雪、天崎正博氏((株)アトリエブンク)が断熱・結露、駒木根洋一氏(コムプロ企画)が室内環境について、それぞれ関わった建築訴訟の概要を紹介する(長谷川氏の基調講演は次号に掲載)。

凍上・凍害
地盤凍結で擁壁押し出される

 【ケース1】札幌市郊外の木造住宅を中古で購入したオーナーが、ブロック塀とコンクリート擁壁に瑕疵があるとして、売り主と仲介業者を訴えた。請求金額は約600万円。
 現地調査したところ、ブロック塀は瑕疵が認められなかったが、コンクリート擁壁は3㎝ほど隣地側に傾いており、土壌の凍結によって擁壁が横に押し出されたものと推測された。
 調停では擁壁裏側に断熱材を施工する補修方法と概算費用を算出。約130万円で調停が成立した。

20130915_02_03.jpg 【ケース2】札幌市郊外の新築木造住宅で布基礎の根入り深さが凍結深度の60cmに満たず、フーチングも屋外側にしか造られていなかった。
 訴訟でオーナーは造り直しを求めたが、布基礎を造り直すとなると時間・費用とも莫大になるため、調停ではスカート断熱を採用して凍結深度を浅くし、地盤面に土間コンを新設することで室内側のフーチングなしでも建物重量を支える補修方法を提案。550万円の補修費用で調停が成立した。


落雪
屋根回りの断熱・気密欠損が原因に

20130915_02_01.jpg 【ケース1】札幌市内の木造2階建て住宅で、三角屋根に設けた小屋根(ドーマ)回りの雪がスムーズに落ちず、軒先につららができて外壁を傷めたほか、2階天井からの漏水も発生。オーナーはハウスメーカーに賠償を求めた。
 雪が本体屋根と小屋根との谷部分に溜まって凍り付き、断熱・気密施工が不十分だった小屋裏2階からの暖気で凍結・融解を繰り返していたのが原因。断熱・気密施工のやり直しや軒先・外装材の補修を行うことで調停成立した。

 【ケース2】築30年を超える石狩市内の木造2階建て店舗併用住宅で、片流れ屋根から落ちた雪により隣地の木製の塀と樹木が破損。隣地の住人が損害賠償と落雪防止策を求めて訴訟した。
 2階部分の増築で屋根が隣地方向へ伸びたことが原因で、雪止め金物を屋根全面に均等に付け、塀と樹木を賠償することで調停成立となった。


断熱・結露
断熱・気密不足で押入や壁内結露

 【ケース1】札幌市内の木造2階建て住宅で、北西角の部屋の押入内で結露が起こり、寝具が水浸しになったため、その賠償を施工したハウスメーカーに求めた。
 調査の結果、北西の部屋は断熱が不十分で、押入内の空気を動かす通気措置もなかったため、結露が起こったと判断。寝具代金10万円の支払いで調停が成立した。


20130915_02_02.jpg 【ケース2】道東の木造2階建て店舗併用住宅で、施工中に屋根の笠木回りから屋内への漏水があったため、その部分の納まりを変更して建物を完成させた。しかし、引き渡し後も室内の床が濡れるため、オーナーは笠木下地の隙間や外壁のクラックから雨水が浸入しているとして工事のやり直しを住宅会社に求めた。
 笠木回りは雨水が浸入する状態ではなかったが、外壁を解体したところ、断熱材のグラスウールの中心部まで湿潤した状態だった。これは耐力面材の構造用合板の上にアスファルトルーフィングを張り、通気層を取らないままモルタル・しっくいで仕上げたため、壁体内に入った水蒸気が屋外に放出されずに結露したものと判断。
 壁体内のウレタン吹付けによる断熱改修と、防湿・気密施工のやり直しにかかる費用等150万円の支払いで調停成立した。


室内環境
言葉足らずで招いた不信感

 【ケース1】"高断熱・高気密"ということで建て替えしたが、期待したほど暖かくなかったため、建築士に調査を依頼したところ、気密施工に関する不良箇所を発見。オーナーは外壁部分の施工やり直しを求めて800万円規模の損害賠償請求を行った。
 調査の結果、天井のトップライト回りに断熱・気密施工が施されてなく、吹抜けのリビング天井部分で断熱不足だったほか、「暖房費が半分になる」という説明によって、灯油消費量が半分になるよう暖房設備を運転していたことが判明。調停で、暖房費が半分になるというのは、相当隙間面積=C値が一般的な住宅の半分という住宅会社の表現が誤解につながったと見なされたが、トップライトの断熱施工やリビング天井部分の断熱補強など18万円相当の補修を住宅会社は行うこととなった。

 【ケース2】坪100万円程度の注文住宅で、冬期に仕上げ材に割れやひずみ、破損が発生。オーナーが構造・暖房・換気の補修・改善費用を損害賠償として住宅会社に要求した。
 当初は構造の不具合が疑われたが、調べたところ、暖房・換気などの設備設計に問題があることが判明。オーナーの要望に住宅会社が忠実に対応するあまり、建物の性能限界を超えた設計や不都合が数多く存在していた。
 例えばリビングの大開口付近に暖房器を置かないでほしいなどという要望も、それによって室内温熱環境が悪化する可能性があるにもかかわらず、説明不足のまま言う通りに施工。そのような設計・施工上の配慮不足や不備が原因となっており、目に付く欠損や不備、破損については住宅会社が全面的に保守・保全負担することになった。


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