日本には元気な工務店がたくさんいる。巨大化を目指すことなく、軸足を地域と住宅業に置きながら、住宅会社の経営に集中したり、業種の幅を広げたりと、さまざまなかたちで活躍している。今回は宮城の工務店3社を編集長が訪ねました。
カネソ 曽根建業
実力十分の地場中堅
いまから35年前のことだった。当時、大手ハウスメーカーの大工として働き、お客さまから新築祝いに呼ばれて行ってみたら、「家を建てたい人が2人いるから行ってみなさい」と住所・電話を教わった。2棟建てたらそれぞれのお客さまが2件ずつ紹介をくれた。振り返ってみるとそこが現副社長と2人での創業だった。
自然体でそう話すのが㈱カネソ曽根建業の曽根輝雄社長(仙台市泉区)。特に独立するつもりもなく直接受注をもらい、紹介、紹介で徐々に仕事は拡大。自社物件と同時に大手の下請も施工し経営が安定してきたころ、お客さまから「寒いんだよねー」とひとこと言われたのが悔しかった。平成に入ってすぐのことだったという。
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佐七建設
20年かけ徹底した地域主義
年に10棟、ライフスタイルや家の希望をていねいにヒアリングしてプランニング、吟味した地場産材と地場の職人で家をつくり続けるのが仙台の北、大崎市の㈲佐七建設だ。佐々木実氏は昨年長男に社長を譲り、会長となった。地域工務店として生き残るために、大手の対極に自らの会社を置き、打ち合わせと設計方法のシステム化を達成。そのノウハウについて業界内のセミナーもこなす佐々木会長は、先代から建築業を引き継いで悩み、勉強して一歩ずつむしろ慎重すぎるくらいじっくりとここまで作りあげてきた。
地域主義工務店を掲げている。まず、地元の材を使う。構造材はスギ材。小屋組にマツを使いたいが地マツがほとんどない現状を受け入れ、横架材にもスギを使っている。
米どころの地域性を生かし、タタミも稲わらから地元産材。もちろん建具も左官も近所の工事店に頼む。
最初は簡単ではなかった。ただ、家づくりの理念や地域の職人がおかれている現状と将来などを協力業者とじっくり話し合いながら、いっしょにつくることを提案し、徐々に理解が得られるようになったという。
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鈴木環境建設
エアコン1台で快適な家目指し
東日本大震災の揺れと大津波を経験した仙台の北東に位置する石巻市。鈴木貞良さんは当時、地場有力工務店の幹部だった。未曾有の災害の後だからこそ、それまでのしがらみを断ちきって、自分自身が納得できる形で故郷復興の礎を築こうとしている地域のみんなの助けになりたい。そう決意して脱サラ。鈴木環境建設㈱を設立し、断熱性能を高め設備に過度に依存しないネットゼロエネルギーを目指す家づくりをはじめた。
目標としたのはエアコン1台で全室暖冷房できる家。暖房環境として温水パネルヒーターが最良であることは十分わかっている。理想は高断熱躯体に温水パネルヒーターだ。ただ、震災と避難所生活を経験し、家族の暮らしを守る断熱性能をまず高めようとすると標準仕様の原価が上がってくる。それなら、ひとつの提案として断熱性能を高めた上でエアコン1台で暖冷房できる家を目指す方法もあると考えた。
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流されすぎず頑固にもならず
東北の中心都市、宮城県仙台市とその近郊エリアは、100万人を超す都市住民と、農村や中山間地などが続く都市と地方の集合体だ。このエリアで、信念や理念を曲げずしたたかに大手メーカーと対峙する工務店を紹介した。
仙台地域は、地場工務店にとって札幌より条件が厳しいと思う。住宅の基本的な仕様は関東と同じ。雪は降るし氷点下にもなるが、根雪はないし真冬日もほとんどない。こういう気候の地域は、全国一律型商品を持つ大手にとって攻略しやすい条件が整った地域でもある。乱暴な表現かもしれないが、住民は多くが南(東京)を見ており、地域性をあまり意識していない。
そういう地域で基本性能の高さとものづくりをベースに据えながら、3社はそれぞれの信じる家づくり、それぞれが得意なやり方で道を切り開いてきた。
企画型のハウスメーカーとの違いを際立たせ、集客方法は宣伝広告に頼らず、看板と口コミ、そして住宅公開。
震災復興景気で大手ハウスメーカーの受注は震災前の3倍とも言われている。しかし、地場工務店は棟数を急増させることができない。むしろ、震災から1年は既存顧客からの修繕要望に追われ、新築を待ちきれないOB客が大手に流れ、その数が管理顧客名簿の1/3に及んだという工務店社長の話も聞いた。
こういった時代や環境変化を敏感に感じ取りながら、流されすぎず頑固にもならず生きてゆく姿が強く印象に残った。