新聞記事

2013年04月15日号から

"喜びのおすそ分け"でクレームを防ぐ

編集長の目

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 "アリが出た"だけでクレーム、"常時換気を止めて結露"しても呼ばれ、状況を説明すると、ふた言めには"シロウトだからわかんないの当然じゃない"とさらに苦情を言うのが昨今の消費者。その扱いに頭を悩ます会社は多い。
 対策としては、引き渡し説明と取扱説明書の記載充実という法対応をしっかりした上で、自社の家づくりに共感してくれるユーザーと家づくりをするのがいいことは確かだが、ユーザーを選別することは現実には難しい場合のほうが多い。300件に1件の確率でモンスターに近い消費者に当たるとも言われる。
 ただ、この手の苦情対策を進めると、地域に根ざす建築業の良さが出にくくなる。どうしたら、消費者の満足を高め、地域ビルダーの良さを発揮できるのか。そんなことを昨年夏くらいから考えている。
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 というのも、この1年間、主に子育て世代の親子を対象にした簡単な農作業と料理教室を月に1回ほど開き、顔の見える関係の中なら、"ふれあい"とか"お互い様"といったコミュニケーションを基本に据えた関係づくりができるかもしれない、と感じているからだ。ただし、それを実現するためには、ボクたちがねばり強く働きかける必要がある。
 自分はいま50歳。ボクらを含め上の世代は基本的に文句の多い世代だ(^_^)。しかし、文句もコミュニケーションのひとつである。ところが、今の子育て世代は面と向かって文句を言う人はほとんどいない。むしろ素直に指示通り動いてくれる。しかしリアクションがない。最初はそのことが怖かった。
 徐々に慣れてくると、また違った面が見えてきた。彼らは基本的に家族単位でしかコミュニケーションをしないが、家族同士ではしっかりコミュニケーションを取り合う。つまり、信頼していない人間とはコミュニケーションを取らないだけらしい。
 そうなら、信頼を獲得すればいい。どうやって?
 もうひとつ目についたのが、子育てや家事といったこれまで主婦が担当してきた仕事に不慣れなこと。子どもを保育所などに預けて働きに出るお母さんの数は増え続けており、主婦はとても忙しいのだ。加えてコミュニケーションが不足しているので、知識の入手方法も限られるのだろう。
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 『そんな家庭ばかりじゃない』『こんな話がクレーマーとどう関係するか』という声が聞こえてきそうだ。
 先に触れた体験型教室は多いときで60人超の参加者となる。対してスタッフは10名程度の少人数。そのため考えついたのは、クレームを減らすより喜びを全員に感じてもらう運営だった。
 クレームは、自分が無視されている、粗末に扱われている、と感じたときに起きやすい。では、粗末に扱っていないことを伝えきれるか、といえば難しい。むしろ、喜びを伝えることの方が簡単なのではないか。そして喜びを伝えられれば、クレームというテンションの下がる感情より満足というテンションの上がる感情に誰もがつつまれたいと思うはずだ。
 そして、まず運営側が楽しむこと。楽しみの輪から漏れている人の手を取って輪に戻ることを実践してみた。そうすると、想像以上にみんな楽しみの輪に入ってくれる。そう、大切な日曜日を家族で楽しむために来ているのだから、本来楽しみたいのだ。
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 家づくりに使う時間を消費者側から見ると...。平日は仕事や子育て、家事で忙しく、大切な休日に家づくりの打ち合わせをする、現場を見に行く。そういう時間だから、楽しく過ごせたら大切な思い出になるはずだ。まず、ビルダーサイドもいっしょに楽しむ。その結果、クレームが減ったらとてもありがたいし、こんな地域ビルダーらしいサービスはほかにない。
 もう一歩進んで、心配事が表面化する前の声がけ、より良い方法の提案などを遠慮なくしていく。たとえお節介と思われようとも。
 さらにもう一歩進んで対象を広げ、地域住民に対してもお節介をしてみる。楽しい場をつくる、楽しさの輪に参加する。みんなを誘う。そうやって楽しさを振りまくと、だんだん笑顔が増えていく。

 いまの世の中はお節介焼きなど「絶滅危惧種」だ。でも喜びのおすそ分けは、お節介を焼かない限り広げることができない。


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