新聞記事

2012年06月15日号から

鎌田紀彦室工大教授が論破 「断熱住宅は暑さにも効果的」

NPO新住協総会@広島市

 NPO新住協の総会・全国研修会が6月1日広島市で開かれ、総会後の基調講演で代表理事の室蘭工業大学鎌田紀彦教授は、北海道など寒冷地はもちろん、蒸暑地域においても「断熱」が効果的であること、『断熱するほど室内に熱がこもる』現象は事実上起きないことを試算によって確かめた。試算を元に蒸暑地域で本格的な夏場の測定を行うとともに、Q値・燃費計算ソフトQPEXに暖房燃費と同レベルの精度の冷房負荷シミュレーションを追加する。

冷房効果は高いのに、なぜ?

20120615_01_02.jpg 断熱住宅を建てている会社、または住んでいるオーナーは、断熱が冷房の効きをよくし涼しい家になることを知っている。しかし、「断熱するほど熱がこもる」と反撃されるとイマイチ反論できない。また、寒さについて北海道人が「寒さのレベルが違う」とこだわるように、九州を筆頭に蒸暑地域は「暑さのレベルが違う」と寒い地域からスタートした断熱住宅への抵抗もある。また、暑い地域は断熱より「遮熱」が有効という意見もある。
 鎌田教授は基調講演の中でこれらの声の一部を認めながら、『高断熱化が冷房負荷低減に効く』ことを立証して見せた。この夏は本格的な計測を行う。
 鎌田教授の講演をまとめた。
   *   *
 室内に熱がこもる「断熱」より、熱をはね返す「遮熱」のほうが暑い地域では有効であるとするヘンな考え方がある。そこで、冷房することを前提に、断熱レベルの高低で冷房エネルギーがどのように変わるかシミュレーションした。
 まず、4月から10月くらいまでの6~7ヵ月間の冷房負荷を計算した。通風なしで計算すると断熱レベルを高めれば高めるほど冷房負荷が大きくなる。一方、通風ありで計算すると高断熱化に比例して冷房負荷は小さくなる。
 なぜそのような違いが出るのかを調べるために、冷房負荷の大きい九州・宮崎市を例に、7月22日、9月5日、10月13日の3日について、冷房負荷を24時間ごとに計算してみた。その結果がグラフ。
 1日中冷房が必要な気温推移になる7月22日は、断熱性能が高くなるほど冷房負荷が小さくなる。断熱が冷房に効くことがわかる。

夏日程度の時期に熱がこもる

 ところが9月5日になるとそれが微妙になる。外気温が30℃前後になる昼間は断熱が有利に働くが、朝晩は逆転し断熱が不利に働く。
 外気温が25℃くらいまでしか上がらない10月13日は、冷房負荷が完全に逆転し、断熱性能が低いほど冷房負荷が小さくなる。すなわち断熱するほど冷房負荷が増える結果となった。
 「断熱住宅は熱がこもるので暑い」、「熱がこもるので省エネにならない」という指摘は、10月13日に関しては当たっていることがわかった。
 ではなぜ暑さのピークではなく夏日程度のときに冷房負荷が大きくなるのか。これは、断熱住宅は"自然温度"が高くなるので、ある意味当たり前の現象。問題は、気温25℃以下のときに通風換気をせずに冷房に頼るのが普通かどうかという点になる。
 仮に通風しないなら、夏日程度の時期は断熱住宅が不利であるといわざるを得ないし、逆に通風換気(通風冷却)が普通なら、断熱住宅では熱がこもるとしても、それは実際の暮らしの場面ではほとんどないと言える。

蒸暑地でも通風が効く期間がある

20120615_01_01.jpg 商業ビルや騒音の大きい地域以外では、住宅では窓を開けて涼をとるのが普通でありそれでも涼しくならないときに冷房を使う。このことを冷房必須期間と通風有効期間という言葉でとらえ、冷房必須期間は冷房運転を前提とし、通風有効期間は窓を開けることを前提として計算すると、断熱するほど冷房負荷が低減する結果となる。通風有効期間だけを見ると、断熱性が高くても低くても冷房負荷はほとんど変わらないことがわかった。
 ちなみに冷房必須期間の設定は、外気の湿気の高さに注目した計算を行っており、北海道は冷房必須期間がない地域となる。冷房必須期間と通風有効期間の設定が実態に即しているかどうかはもう少し見極める必要がある。冷房必須期間は、例えば岩手・盛岡市は7月26日~9月6日、長野・松本市が6月27日~9月10日となる(別表)。
 新住協では今年、西日本で本格的な夏の暑さと冷房負荷測定を実施。試算結果を検証する。
 日本は、ほぼ全域で暖房が必要になる一方、北海道を除くほぼ全域で冷房も必要になる。電力不足を契機に省エネの必要性は全国的に認められたが、その方法として「断熱」が冷房地域を中心に、まだ認められていない現実もある。断熱住宅を推進してきた北日本・東日本の基本技術と解決策が、今後本格的に西日本に広がるか。日本はこれからまた暑い夏を迎える。

上グラフ:
蒸暑地域の代表、九州・宮崎市の冷房負荷を見ると、最も暑い時期は高断熱住宅が有利なのに、日最高気温が25℃程度に下がると高断熱ほど不利になる...。なぜか

下表
冷房必須期間の試算値。北海道には冷房必須期間がない

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