新聞記事

2011年09月15日号から

特集 家づくりを見直す。震災から何を学ぶか。

 3月11日の東日本大震災から半年が過ぎても、その日のことは記憶に新しいが、北海道も太平洋岸は数百年に1度の割合で巨大地震が発生していることがわかっている。また札幌も地震が少ないとは言え、約180年前の1834年に石狩川河口を震源とする震度6クラスの石狩地震が札幌近辺で発生し、最近の研究では震度7の直下型地震の可能性が指摘されている。

 今回の特集は、編集部が札幌の地震リスクを知るきっかけになった「北海道の地震」(1994、北海道大学図書刊行会)の著者である島村英紀博士に北海道の地震の危険性についてインタビュー。また、J建築システム(株)・手塚純一社長に液状化の対応について話を聞くとともに、工務店として地震の脅威にどう向き合っていくのかをテーマに札幌圏の有力地場工務店経営者による座談会を行った。始めに島村博士のインタビューを紹介する。

島村英紀博士
研究の進歩でわかった危険
20110915_01_02.jpg20110915_01_01.jpg ―札幌や旭川など道内の一部地域では「大きな地震が少ないから安心」と思っている方も多いようですが、先生から見るとどうでしょうか?
島村 北海道で地震が多い地域は2つあります。1つは、襟裳岬の南から千島列島、カムチャッカ半島あたりまで伸びる千島海溝ですが、世界で一番地震が起きるところです。北海道は日本でも有数の地震の多い地域と言えます。
 もう1つは北海道の西側です。今までは比較的安全であると思われていましたが、1993年の北海道南西沖地震によって研究が進み、道北の幌延や留萌、積丹半島沖、奥尻島、渡島半島西側などに沿って地震を起こすプレートの境が新たにできつつあることがわかってきました。北海道は西、東と大きな地震が起きる舞台に挟まれて存在していると言えます。
 北海道には、文字で書かれた歴史というものが残っていません。先住民族が文字を持たなかったため記録が残っていないのです。京都だと千年以上前から地震の記録が残っていますが、北海道は記録がないだけなのに安全だと思ってしまう。

道東に大津波の痕跡
泥炭地の多い札幌も危険
20110915_01_03.jpg ―先生の本に書かれていた、1834年の石狩地震が衝撃的でした。
島村 札幌は、有感地震(体に感じる地震)そのものが少ない地域です。東京では2週間に1度は有感地震があります。札幌だと半年か1年に1度ぐらいしかありません。そんな札幌でも19世紀半ばには大きな地震があったわけですが、その前となると記録がないのでさっぱりわかりません。
 北大の構内などで石狩地震の液状化の痕跡が見つかりました。液状化というのは震度6クラス以上でないと起きません。ですから、過去起こっていたということは、とても恐ろしいことです。
 実は函館本線の北側は泥炭地が多く、とても悪い地盤なんです。1968年の十勝沖地震の時に震度を調べたところ、鉄道の南側が震度3、北側が震度5と2段階も違っていました。
 同じように、襟裳岬から東、すなわち道東では今度の東日本大震災のような大津波が来た形跡がかなり見つかっています。アイヌの伝承の中にも残っているそうです。ただし伝承ですから正確な日付や地震の規模はわかりません。北海道は地震の歴史の空白地帯と言われています。だけど地震がなかったというわけではなくて、日本の他地域と比べてもそれ以上に地震があった地域かもしれません。
 奥尻島も北海道南西沖地震が起きるまでは地震がほとんどない地域と思われていましたし、函館も今から三十数年前には函館群発地震が約4年にわたって続きました。

日本海側にプレート
南西沖地震で明らかに
 ―地震学の進歩で何がわかりましたか?
島村 地震が演劇だとすれば、どういう舞台でどういう役者が揃うかという研究がかなり進んできました。予知は難しくても、どういう地震がどのへんで将来起きる可能性があるかということについては、ずっとわかってきました。さっき話した北海道の日本海側にプレートがあるというのも、舞台の研究ということになります。ここでは、北海道南西沖地震クラス、ひょっとするとそれよりも大きい地震が将来も起きる可能性があります。
 1940年の積丹半島沖地震は、昔はどのような性質の地震かがわかりませんでした。というのも、当時地震計は北海道全体で3つしかありませんでした。しかし、今では北海道の日本海側にできかかっている新しいプレート境界付近で起きる地震だということがわかってきています。また、1971年のサハリン南西沖地震や1983年の日本海中部地震もそのプレート境界付近で起こる地震のグループだとわかってきました。

震度3でビル被害
建基法も最新の地震学を
 ―地震学から見て、地震に強い建物や街づくりについて何か提言はありますか?
島村 特定の周波数の地震波を出し続ける地震があり、中高層ビルなどに影響があることが、ここ数年でわかってきました。東京の六本木アークヒルズビルでは2004年の中越地震(マグニチュード6・8)の時に震源から200㎞以上も離れているのにエレベーターを吊っているメインロープの一部が切れました。このときの東京は震度3に過ぎませんでした。
 一方、大きなビルなどには地震計が備えられています。しかし「企業秘密」ということで大地震の時の記録はほとんど見せてもらえません。ほんとうはこういったものがわかればずいぶん設計に生かせると思います。
 住宅や建物を作るときにはいろんな周波数の地震波が来ることを考えてほしいと思います。ただ、建築基準法やゼネコンの技術者たちは昔のままの地震学を使っています。私としてはもっと勉強してほしいと思います。

島村英紀先生
元・北大地震火山研究観測センター長。現在は武蔵野大学特任教授
海外にもたびたび渡航して海底地震計を設置し、地震研究を進めた(写真提供・島村英紀先生)
島村先生の著書・北海道の地震」が、取材のきっかけとなった衝撃の1冊


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