大震災の影響で夏場の電力供給に余裕がなくなり、東北、関東、中部では夏場の省エネ(今年の場合は節電)のために「冷房期間を短くする」「負荷を小さくする」ことがとても大切になっています。
この機会に北海道も含め冷房をどう減らすかを考えてみたいと思い、研究者に取材を申し込んだところ、意外な答えが返ってきました。1つは「冷房をケチるべきではない」こと、もう1つは「第3種換気との併用が省エネでかつ効果的」ということなのです。
換気量は0.5~1.0回/h程度
夏場を涼しく快適に、かつ省エネに生活するには、断熱に加え、日射遮へいと通風(自然冷却)、そして効率のよい冷房機が必要であることはいうまでもありません。
既存住宅での配慮や対策については、空気調和・衛生工学会が4月、ホームページ上に「日々の安全や衛生、健康や最低限の快適性を損なうことなく、電力不足に伴う緊急の節電対策の留意点(暫定版)」をまとめて掲載しました。
これらについては紙面の関係で後日掲載します。またホームページからpdfファイルをダウンロードできます。
(夏期の業務用ビル並びに住宅における節電対策の留意点)
さて、今回のメインテーマは冷房と換気の関係です。
というのも、多くのかたは冷房効果を上げるために換気はとめたほうがいい気がするでしょうし、換気も第3種より第1種全熱交換型がいいと聞いたことがあるのではないでしょうか。
最新の研究では、どちらも正反対の答えが出ているそうです。
取材したのは国立保健医療科学院生活環境研究部・主任研究官の田島昌樹博士。田島先生は換気と省エネルギー分野の専門家です。
戸建てとビルは違う
ビルは基本的に24時間空調で、しかも冷房負荷がピークになる午後の時間帯にルスということはあり得ません。
ところが戸建ては、昨夏のような酷暑でも冷房運転は間欠でon/offします。さらに、昼間はルスの家が多く、冷房は止まっています。
このように間欠運転、しかも部分冷房の戸建てでは、そもそも熱交換換気の省エネルギー効果は限られるのです。
このことを試算によってまとめたのがグラフです。全館連続暖冷房の場合はもうちょっと違う結果になるのですが、基本的に関東以西では暖房でさえも間欠運転になります。ですから間欠運転を前提にしたほうが現実的でしょう。
まず、年間トータルで見た場合、熱交換換気を入れなくても、一次エネルギー消費は変わらないか(Ⅱ、Ⅲ地域)、入れるとむしろ増えてしまいます(Ⅳ地域以西)。これは、熱を回収して暖冷房負荷を減らしても、換気運転にかかる電力消費負荷が増えてしまうからです。
省エネルギーの観点からは、熱交換換気を導入するメリットはほとんどありません。
冷房は暖房の1割以下
棒グラフを見てもわかるように東京などⅣ地域でも冷房のエネルギー消費は暖房より少なく、実際の使用状態になるとさらに少なくて暖房の10分の1以下、5%という例もあります。ただし、ビルでは冷房のほうが多くなります。住宅はビルといっしょに考えることができないのです。
全館連続暖冷房でも、冷房時に熱交換換気を運転するメリットはほとんどありませんから、エネルギー的には暖房時だけ運転するほうがいいことになります。
もう一度強調しますが、冷房エネルギー消費は想像よりはるかに少ないのです。
熱中症予防と冷房
酷暑となった昨年は熱中症で医療機関へ搬送された人が5万人を超え、搬送後に亡くなった方だけでおよそ170名に達しました(消防庁まとめ)。高齢者が冷房をとめた室内でなくなるケースも多く、「温度計を設置して、室温28℃を超えないようにエアコンをつけて」といったアドバイスがされていました。
今年は電力供給の減少から「冷房温度を上げて」と節電を呼びかけていますが、高齢者には「冷房を入れてください」と伝えています。通風ができるからといって冷房を止めるのはよくありません。
もう一つ付け加えたいことは、去年のような酷暑では冷房が絶対に必要、逆に今年が平年並みの暑さなら、冷房負荷は昨年の4分の1から5分の1に減るので、熱中症対策を考えても遠慮せず冷房を利用したほうがいいということです。
冷房負荷がこれほど違うのは、暖房と違って冷房は室内と屋外の温度差がさほど大きくないこと。その中で昨年の暑さは平年より5℃以上も高くなったり、40℃の日もあり、内外温度差が大きくなったことに加え、外気温が上がるとエアコンの効率が下がるためです。
エアコンの選択と効率
効率を考えると、小さなエアコンを大きな空間で運転するのがもっとも効率がよいことがわかっています。負荷の大きなところで使ったほうが効率が上がるという意味です。
日射遮へいや遮熱がしっかりしていれば、エアコンはよく効くので○畳用という目安よりもずっと広い面積で使ってだいじょうぶです。
冷房時に換気をとめる?
これは住み手の問題なので、夏の暮らしかたとしてアドバイスする時に参考にしてください。
結論は、換気回数で1・0回/h程度の換気を行うと、もっとも省エネになる一方、0・5回以下だと冷房負荷が増えます。
意外に思うかもしれませんが、室内には人体や冷蔵庫など発熱源があり、断熱化によって熱をため込む能力が高くなると、その排出にはちょっと窓を開ける、機械換気を増やすなど換気や通風を行った方が良いのです。窓全開はNGですが・・・。
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答えてくれた田島昌樹先生