新聞記事

2010年08月05日号から

暮らしに寄り添う建築を目指して/ウーマンズ・アイ vol14

札幌・アトリエmomo 櫻井百子さん

20100805_04_01.jpg 円山のマンションの一室には、個人で仕事をする"一国の主"たちが集まっている。職業は様々だが、その多くは女性。櫻井さんも、ここにたったひとりの建築事務所を開いた。同室の仲間たちがお互い助け合って仕事をしており、「みんな違う業界だからこそ、気楽にグチを言いあったり、仕事を紹介し合ったりできるんです」と櫻井さん。仕事が終わってからみんなで飲みに行くのが、なによりも楽しい時間だという。

出産・育児を機に潔く決断

20100805_04_02.jpg 櫻井さんは高校で理系クラス、大学で建築学科と、男性に囲まれて過ごすことが多かった。「そんなに男女の差を意識したことがなかったけれど、女扱いされたくない、という意識はあったかもしれません」。何をするにも完ぺきにしなければ気が済まない性分だった。それは「女だから」と言われたくない、という無意識の表れだったのかもしれない。しかし子どもが生まれたことが転機となる。
 出産後は職場だった建築事務所を1年休職し育児に専念。その後復帰してからは、仕事をとりまく状況がすっかり変わった。保育園へ迎えに行く時間で仕事が区切られ、熱を出したといって急に呼び出される。子どものいる生活は、予測不能の連続だ。「でもいい意味でおおざっぱになったというか、無理しなくていいんだ、できることをしようと思えるようになりました」。
 子どもがいて、無理なく働くためには「独立するしかない」と考えた櫻井さんは、事務所を退職する。「2つのものから選ぶとき、潔いほうを選ぶ。半端になるならやめます」。育児と仕事をきちんと両立させたい、という櫻井さんらしい決断だった。

設計者の前に生活者である

20100805_04_03.jpg 2008年に念願の個人事務所を設立したが、30代という若さで一軒の家を任せてもらうには信頼が必要になる。
 そこでまずホームページを工夫した。建築家という存在を身近に感じてもらえるよう、親しみやすいデザインにし、建築家になるまでの詳細なプロフィールも掲載した。また建築業界以外の人たちと積極的に交流し、刺激を受けた。
 櫻井さんがエコハウスに取組むようになったのも、こうした交流がきっかけ。環境問題について活動している人には、環境に負荷の少ない材料の選び方など学ぶことが多かった。櫻井さんは、暮らし方を変えていく提案を、建築でできないか考えるようになる。そして昨年、「下川町21世紀環境共生型モデルハウス」のコンペで最優秀賞に選ばれ、環境を大切にした家づくりの指針となるエコハウスを設計した。
 「暮らしに寄り添う距離は、女性のほうが近いかもしれません」と櫻井さんは言う。例えばキッチンのゴミ箱の位置、物干しの高さなど、自分が生活の中で「こうだったら便利だな」と思うことを図面に書いてみる。すると施主の奥様に共感されることも多い。
 同時に思い込みで設計しないよう心がけてもいる。「これからの時代、キッチンを"女の城"として考えるのは違うかもしれません。ご主人や子どもも使いやすい"みんなの城"として提案していきたい」。設計者の前に生活者であるからこそ、気付きがたくさんあるのだ。

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下川町のエコハウス『美桑』。林の奥にひっそりと、奥ゆかしくたたずむというコンセプトで設計した
平尾建築事務所時代に担当した住宅のキッチン。大工の造作でコストを抑えながら細かい提案などを実現した


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