新聞記事

2010年01月15日号から

CO2削減とこれからの家づくり

20100115_01_01.jpg 昨年9月22日、鳩山首相は国連で2020年までにCO2などの温室効果ガスを1990年比で25%削減することを目指すと発表。様々な政策を総動員して実現する考えを示した。国がCO2排出量削減へ向けて大きく動き出す中、これからの家づくりにはどういう視点・考え方が必要になるのだろうか。道立北方住宅総合研究所居住科学部主任研究員・鈴木大隆氏に話をうかがいながら、これからの家づくりの方向性を探ってみた。


◆CO2排出量の現状

20100115_01_03.jpg 化石燃料の燃焼などエネルギーを作る時に排出されるCO2を示す"エネルギー起源"で日本のCO2排出量を見てみると、2008年度は速報値で11億3800万t。ここ10年間では最も少なく、前年度比では6・7%減で2年ぶりの減少、京都議定書の基準年である1990年比では7・4%増となっている。
 7%近い減少に転じたことで、思っているほど事態は深刻ではないと思う見方もあるかもしれないが、暖冷房や給湯など住宅が直接関係する家庭部門の状況を見ると決して楽観できない。
 家庭部門から排出されるCO2は全体の15%で、前年度比は4・6%のマイナスだが、1990年比では約35%もの増加と、依然大幅に増えていることに変わりはなく、鳩山首相の言葉通りに推移させるには、すでに増加している約35%分に加え、さらに25%ものCO2を減らさなければならない。
 また、環境省によると2008年度の家庭部門の減少は「暖冬の影響」としており、省エネが進んだ結果ではない。平年並みの気象条件であれば再び増加に転じることも考えられる。

道内暖房は4割も減ったが・・・

20100115_01_05.jpg 一方、道内に目を向けてみると、家庭でのエネルギー消費量は昔と大きく変わってはいない。
 道立北方建築総合研究所(北総研)がまとめた北海道の戸建住宅の年代別・用途別運用エネルギーを見ると、一次エネルギー換算で1970年代は年間120GJを超えていたが、1980年代以降は概ね110~120GJの間で推移し、暖房エネルギー消費量は4割程度も減っている。これは北海道の産学官が、高断熱・高気密を始めとする住宅の省エネに取り組んできた成果だ。
 しかし、暖房以外のエネルギー消費量、特に照明・家電などで使用されるエネルギーが急増。さらにエアコンによる冷房やロードヒーティングなどの融雪設備を設置する住宅も増加。結果として住宅全体では省エネが進んでいないということになる。
 住宅のエネルギー消費抑制は、世代分化による世帯数の増加や延床面積の増加などの要因もあり、必ずしも技術だけで解決できる問題ではないが、CO2排出量25%削減を考える時、北海道も含め住宅にこれまで以上の省エネ化が求められてくるのは確かなことだ。

◆省エネ政策の方向

20100115_01_04.jpg それでは今後どのような省エネ政策が出てくると考えられるのか。
 先に紹介したように家庭部門のCO2排出量はすでに1990年比約35%増。全体の7・4%増を大きく上回っており、住宅では25%を上回る削減努力が必要という声が出てくるかもしれない。
 この点について、住宅省エネ基準の改定などに携わっている北総研・鈴木氏は「住宅全体のエネルギー消費量増加は、世帯数や延床面積の増加など、今の技術だけでは抑えられない要因がある。住宅でのエネルギー消費が増え続けているからといって、産業や運輸など他部門より高い削減率を課すべきと言うのは簡単だが、延床面積の増加など技術以外の要因が絡んでいるだけに、5~10年後に本当に25%を超える削減率を達成できるのかというと、かなり難しいのではないか。住宅のエネルギー消費量増加の問題は非常に複雑なだけに、慎重に考えないといけない」と話す。
 鈴木氏は家庭部門も含めて全部門一律25%のCO2削減となった時に「財源や制度設計も含めて9割以上は既存の住宅ストックに力を向けないといけない」と、既存ストックの省エネ化が重要との見方を示している。
 例えばドイツでは住宅を新築・売買・賃貸する時、オーナーは年間のエネルギー消費量が一目でわかる「エネルギーパス」の提示を今年7月から義務化した。日本でも既存ストック対策として最初に導入するとしたらそのような規制、もしくは省エネ法を強化して大規模修繕に一定の断熱改修を義務付けることが考えられるという。

エコポイントで誘導

 ただ、問題はユーザーの反応。これは新築でもリフォーム・改修でも一緒だが、現実的にユーザーが省エネにどこまでお金を出してくれるかは非常に難しい話。そこでエコポイントなどを利用することにより、それぞれのユーザーの家の事情がある中でわずかでもいいから確かな省エネを誘導することが必要になってくる。
 「目標とする省エネレベルに到達するため、階段をあと2、3段登らなければいけないとした場合、一気に2、3段駆け上がろうという政策を打ち出しても、現状では住宅会社にもユーザーにも受け入れられないだろう。まずは今年1段登ってみないことには次の1段が見えてこない。その最初の1段が住宅版エコポイントであり、住宅会社やユーザーにどう受け止められるかを見たうえで、次の政策も決まってくるのでは」と鈴木氏は語る。

◆家づくりの方向

20100115_01_02.jpg CO2排出量25%削減を前提とすると、これからの住宅は、どの程度の性能レベルが目標となるのだろうか。
 鈴木氏は「断熱・気密を進めなければいけないことは確か。そのために住宅版エコポイントも躯体断熱に的を絞ったものになっている。まず先に断熱・遮熱など建築的な省エネ対応を十分行ったうえで、省エネ設備機器の導入を考えるべき」と言い、具体的な例の一つとしてライフステージの変化に対応して必要な生活空間だけをしっかり断熱する方法もありではないかとしている。
 簡単に説明すると、それは建物本体の熱損失係数(Q値)として1・2~1・3Wをベースとし、1階部分の断熱については天井ふところに防音対策を兼ねて断熱材を充てんしておくほか、外壁部分には室内側から20~30㎜程度の断熱付加を行っておくか、子供が独立する時に行う。
 住宅の暖冷房負荷の7割は1階部分が占めているので、最初に1階の断熱性を高めておく。将来的に子供が独立して家を出て行くと、実質的に夫婦2人で1階に暮らすことになるが、その時には1階の床・壁・天井がしっかり断熱されているため、暖房負荷の3割を占める2階を暖房する必要もなくなり、暖房消費エネルギーは3割減となるという考えだ。
 同じく断熱改修においても部分改修は有力な選択肢の一つになる。
 ただ、このような省エネ手法を評価する方法が現状はない。キチンと比較・検証できるモノサシを作ることが必要になってくる。
 太陽光発電やエコキュートなどの設備導入は確かに有効な省エネ手法になるが、機械に頼った省エネはイニシャルコストや交換・更新時のユーザーの負担も大きいほか、現状では誰もが導入できるものではない。逆に熱損失を抑えるため断熱強化にかかるコストは、それらの設備機器ほどかからないし、しっかり施工すればその効果は100年以上期待できる。
 まずは断熱強化や日射遮へい、通風への配慮など住宅本体での省エネ対応をしっかり行い、そのうえで自然エネ利用・高効率設備を導入するという考え方をベースとした家づくりが、これから目指すべき方向となりそうだ。


試読・購読のお申し込みはこちら 価値のある3,150円


関連記事

powered by weblio


内容別

月別

新着記事