新聞記事

2009年01月15日号から

チャレンジ2009/北海道から全国へ

 (株)木の繊維(本社札幌市)は、道内で木質繊維断熱材を作ろうと2007年7月に設立されたばかりのベンチャー企業だ。木質繊維断熱材は、大きな熱容量、難燃性、防音性能、LCCO2の小ささなど様々な特徴を持っている。昨年暮れには苫小牧市植苗に工場建屋が完成、今年4月から試験操業を開始する予定だ。同社の大友詔雄(のりお)社長にこれまでの経緯や抱負などを語っていただいた。

3年間頑張って製造ライセンス取得
20090115_2_1.jpg 木質繊維断熱材との出会いは今から5年ほど前、NERCと協力関係にあるドイツの環境・エネルギーコンサルタント会社のECOS(エコス)からの紹介です。ドイツは1994年、日本の憲法に相当する基本法に「次世代の為に自然を守る責任がある」ことを盛り込むなど環境先進国として知られています。
 断熱材に触ってみると繊維が柔らかいのが印象的で、「これはいい」と思いました。しかも材料は針葉樹が最適だと知り、北海道での「地産地消」事業にうってつけとライセンス取得交渉を始めました。
 ドイツから木質繊維断熱材を輸入して実際にユーザーに使ってもらって「いいものだ」と感じていただき、ドイツ側にも「日本には受け入れる素地ができている」と理解してもらうなど地道な努力を重ねました。この間取得までに3年かかりました。
 ただ、事業化には多大な資金が必要でNERC単独では取り組めません。(株)中山組(本社札幌市)が「力を貸しましょう」と申し出てくださり、工場建設予定地に隣接していた丹治林業(株)(苫小牧市)にも賛同いただいて(株)木の繊維を正式に設立できました。
 工場は建屋が昨年12月に完成。今年4月から試験操業に入り、まずは断熱マット品を生産します。原料は道産トドマツ、カラマツの間伐材などが中心。このほか、「UDボード」の生産も計画しています。床用防音材や多目的の硬質付加断熱材兼外壁下地として使えます。
20090115_2_2.jpg 生産過程で工場で使う熱エネルギーには、バーク(樹皮)ボイラーを採用しています。燃料となる樹皮はいろんな含水率の物が運ばれてきますので、流動床ボイラーや、ボイラーの排熱利用で乾燥させる仕組みにしました。投資額はかさみますがランニングコストで回収できます。
(写真上...木質繊維断熱材を手にした大友詔雄社長 写真下...急ピッチで建設中の工場建屋。現在は完成し、製造機械の搬入が始まる)


熱容量が大きいから室温変化を抑える
20090115_2_3.jpg 木質繊維断熱材の魅力は、まず熱容量の大きさです。箱の中に断熱材を敷き、電球を点けて断熱材下の温度を測定しました。開始後10分で鉱物繊維系の断熱材は温度が7℃上昇、一方木質繊維断熱材は断熱性能を表す熱伝導率は同じでも、わずか0.3℃の上昇。電球を消すと、鉱物繊維断熱材は急速に温度が下がるのに対し、木質繊維断熱材はほとんど変化しません。木質繊維断熱材は5倍以上熱容量があり、熱を断熱材に貯め込むからです。このため室内の温度変動を抑えられます。
20090115_2_4.jpg ニセコに建てた住宅で、厳冬期に暖房で20℃超まで温度を上げてから完全に暖房を切り、その後の温度変化を調べたところ、2週間後も室温は7~10℃に保たれました。暖房費の大幅削減が期待できます。このデータが出たことでみなさんの反応も変わりました。
 2つめは、製造から廃棄に至るまでのCO2排出量を表す「ライフサイクルCO2(LCCO2)」の小ささです。当社で詳しく調べたところ、木質繊維断熱材は鉱物繊維断熱材と比べ半分以下。さらにCO2の固定効果がLCCO2の3倍以上あり、実質的にCO2を出さないと言えます。
 3つめはきわめて付加価値が高いことです。これは地産地消実現の大事なポイントです。原料1トンあたりの製品価格で比べると、木質繊維断熱材は少なくともチップの10倍、木質ペレット燃料の3倍以上もあります。
 操業開始までは、ドイツから製品を輸入し、1あたり2万円台前半で販売しています。輸入品は売っても赤字ですが、国内生産に切り替えれば同価格で販売しても事業として成り立ちます。
 従来の断熱材より割高ですが、ランニングコスト低減が期待できます。
(写真上...道内住宅の実例が出たことで評価が変わった 写真下...付加価値が極めて高いのも地材地消に重要な要素)

販売網は全国へ11年度には年間30万m3
 事業計画では、初年度5万でスタートし、3年目に30万のフル生産に移行する予定です。全国販売し、拠点は北海道、東北、関東甲信越、中部の計4ヵ所です。
 営業面では、建材ルートの開拓のほか、大手ハウスメーカーにも採用を前向きに検討していただいてます。まずはお客さまに使っていただいてご意見や評価をいただくことが基本だと思います。
 お客さまから、「既存の丸鋸は面倒だ」というお話がありました。丸鋸の刃渡りのサイズでは、厚み10㎝以上ある断熱材は一気に切ることができないのです。そこで当社は専用裁断具を開発しています。100V対応の電動丸鋸でスパッと切れてほとんどくずが出ません。この記事が掲載される頃には試作品が完成し、皆さんに試していただける予定です。
 今後は防耐火認定をなるべく早く取りたいですね。素材単体と構造体としての認定両方です。4月の試験操業開始時点で道立北方建築総合研究所(北総研)や道立林産試験場(林産試)の協力も仰ぎながら進めていきたいと思っています。


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■会社プロフィール
株式会社木の繊維
本社:札幌市中央区北1条西4丁目 札幌ノース プラザ8階
011-398-5210
http://www.kinoseni.com/
設立:2007年7月12日 資本金:1億5600万円
代表取締役 大友詔雄

■大友詔雄さん
北海道大学工学部卒業。工学博士。同大学で教鞭を執りながら1999年に北大発ベンチャー企業として㈱NERC(自然エネルギー研究センター)を設立、センター長として自然エネルギー利用などのコンサルティングを行う。2007年に同大学を退官し㈱木の繊維の代表取締役社長に就任。

■木質繊維断熱材
間伐材や林地残材の樹皮を取り除き、細かく破砕して作ったチップを繊維状にし、バインダーを数%混ぜて成形する。断熱性能は道内でよく使われる鉱物繊維断熱材並みの0.038W/K。製造過程で水を加える必要がない乾式製法。


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