充てん付加断熱30ミリ程度 |
外張り主体の高断熱化と結露防止 |
外張り+充てん付加断熱工法の納まり例 |
道立北方建築総合研究所では、外張り断熱の高断熱化と気密施工の簡略化を目的に、防湿層なしで壁内結露を発生させずに充てん付加断熱を行う工法を平成17~19年度に旭化成建材(株)と共同で研究。このほど旭川で行われた平成20年度調査研究報告会で、都市防災科の高倉政寛研究職員が研究成果を発表し、外張り断熱材の熱抵抗値を札幌以南で充てん付加断熱材の2.5倍以上、旭川圏で同じく3.4倍以上とすれば、壁内結露が発生しないことを報告した。
今回の研究結果をもとに、防湿層なしで充てん付加断熱材を施工している旭川市内の住宅 |
防湿なしで高断熱化
この研究は、外張り断熱による気密施工の簡略化と同時に、軸間にグラスウールなど繊維系断熱材を充てん付加することによって、次世代省エネ基準より断熱性能を15%以上向上できる工法の提案を目的としたもの。
国土交通省の超長期住宅先導的モデル事業に選ばれた北海道の“北方型住宅ECO”が次世代省エネ基準より厳しい1.3W/m2K以下の熱損失係数(Q
値)を義務付けるなど、地球温暖化やエネルギー価格の高騰などによって、住宅は積雪寒冷地を中心によりいっそうの省エネ化が求められているのが現状。
しかし、付加断熱によって断熱性能の向上を図りやすい軸間充てん断熱に対し、外張り断熱は胴差回りの先張りシートが不要になるなど、気密施工にかかる負担は充てん断熱より少なくなるものの、断熱材を厚くしていくと、外装材の垂れ下がりといった問題なども心配されることから、断熱性能の向上には限界がある。そのため、外張り断熱では軸間に断熱材を付加する方法が現実的だが、外張り断熱材と充てん付加断熱材の間に防湿・気密層が位置していると、それぞれの断熱材の性能・厚さによっては防湿・気密層の室内側で露点温度となり、壁内結露が発生する恐れがある。
そこで同研究所では、外張りに使うプラスチック系ボード状断熱材に外壁の主な断熱と気密層としての役割を持たせ、防湿・気密シートなしでの施工を可能にするとともに、壁内結露も起こさない断熱仕様を検討した。
試験体
No. |
断熱層構成 |
断熱特性 |
観察結果 |
外張断熱材
(フェノールフォーム)の厚さ |
充填付加断熱材
(グラスウール)の厚さと密度 |
充填付加断熱材に対する外張断熱材の熱抵抗比 |
熱貫流率
(K値) |
合板面
の結露 |
カビの
有無 |
試験体1 |
25ミリ |
50ミリ(16K) |
1.13倍 |
0.41 |
あり |
あり |
試験体2 |
50ミリ |
50ミリ(16K) |
2.25倍 |
0.27 |
湿り気
あり |
なし |
試験体3 |
45ミリ |
30ミリ(32K) |
2.55倍 |
0,31 |
なし |
なし |
試験体4 |
45ミリ |
70ミリ(32K) |
1.09倍 |
0.24 |
あり |
あり |
試験体5 |
50ミリ |
30ミリ(32K) |
2.83倍 |
0.28 |
なし |
なし |
試験体6 |
50ミリ |
60ミリ(32K) |
1.42倍 |
0.24 |
湿り気
あり |
なし |
試験体7 |
60ミリ |
30ミリ(32K) |
3.40倍 |
0.25 |
なし |
なし |
試験体8 |
60ミリ |
40ミリ(32K) |
2.55倍 |
0.23 |
なし |
なし |
断熱構成を変えた8つの試験体の実験で明らかになった壁内結露とカビの有無 |
熱抵抗比率がカギ
まず、シミュレーションによって、次世代省エネ基準の外壁熱貫流率を15%程度上回るには、外張り断熱材と充てん付加断熱材の性能・厚さ比がどの程度であれば良いか、また、断熱構成の違いによって壁内の湿度がどうなるかを検証。次に外張りにフェノールフォーム、充てん付加にグラスウール(ボード)を使って、それぞれの厚さが異なる外壁の試験体をいくつか造り、屋外側の温度を変化させて、壁内の温湿度や結露・カビの発生状況を観察した。
これらの結果、地域ごとに各断熱材の熱抵抗値の比率によって、耐力面材室内側で発生する結露・カビの状態が大きく変わってくることが判明。壁内の結露やカビの発生を抑えるには、外張り断熱材の熱抵抗値を充てん付加断熱材より一定以上大きくする必要があり、札幌以南では充てん付加断熱材に対する外張り断熱材の熱抵抗値を2.5倍以上、旭川圏では3.4倍以上とすれば良いことがわかった。
具体的にこれらの条件を満たし、次世代省エネ基準を15%程度上回る断熱仕様は、札幌以南でフェノールフォーム45ミリ外張り+グラスウールボード
32K30ミリ充てん付加など。旭川圏でフェノールフォーム60ミリ外張り+グラスウールボード32K30ミリ充てん付加など。
コスト負担は約9年で回収
昨年10月には旭川でこの断熱工法を採用した住宅が竣工し、冬期に壁内の温湿度の推移をユーザーが居住した状態で測定した。外壁構成は外張り断熱材としてフェノールフォーム60ミリを施工し、耐力面材のOSB9・5ミリを挟んで室内側にグラスウールボード32K25
ミリを充てん付加。
その結果、シミュレーションや実験と同様の結果が得られ、壁内で常時結露することはなかったことも確認されている。
なお、同研究所のコスト試算によると、次世代省エネ基準で定められている外壁の熱貫流率0.3W/m2Kを2割上回る0.24W/m2Kとした場合、
17万4000円のアップ。ただ、年間の暖房エネルギー使用量(札幌40坪・室温20℃)は、灯油換算でおよそ200の削減となり、灯油価格を100円/
とすると年間2万円程度ランニングコストが節約できるため、9年程度でコストアップ分は回収可能になる。 |