平成20年9月5日号から
充てん付加断熱30ミリ程度
外張り主体の高断熱化と結露防止


外張り+充てん付加断熱工法の納まり例
 道立北方建築総合研究所では、外張り断熱の高断熱化と気密施工の簡略化を目的に、防湿層なしで壁内結露を発生させずに充てん付加断熱を行う工法を平成17~19年度に旭化成建材(株)と共同で研究。このほど旭川で行われた平成20年度調査研究報告会で、都市防災科の高倉政寛研究職員が研究成果を発表し、外張り断熱材の熱抵抗値を札幌以南で充てん付加断熱材の2.5倍以上、旭川圏で同じく3.4倍以上とすれば、壁内結露が発生しないことを報告した。


今回の研究結果をもとに、防湿層なしで充てん付加断熱材を施工している旭川市内の住宅
防湿なしで高断熱化
 この研究は、外張り断熱による気密施工の簡略化と同時に、軸間にグラスウールなど繊維系断熱材を充てん付加することによって、次世代省エネ基準より断熱性能を15%以上向上できる工法の提案を目的としたもの。
 国土交通省の超長期住宅先導的モデル事業に選ばれた北海道の“北方型住宅ECO”が次世代省エネ基準より厳しい1.3W/m2K以下の熱損失係数(Q 値)を義務付けるなど、地球温暖化やエネルギー価格の高騰などによって、住宅は積雪寒冷地を中心によりいっそうの省エネ化が求められているのが現状。
 しかし、付加断熱によって断熱性能の向上を図りやすい軸間充てん断熱に対し、外張り断熱は胴差回りの先張りシートが不要になるなど、気密施工にかかる負担は充てん断熱より少なくなるものの、断熱材を厚くしていくと、外装材の垂れ下がりといった問題なども心配されることから、断熱性能の向上には限界がある。そのため、外張り断熱では軸間に断熱材を付加する方法が現実的だが、外張り断熱材と充てん付加断熱材の間に防湿・気密層が位置していると、それぞれの断熱材の性能・厚さによっては防湿・気密層の室内側で露点温度となり、壁内結露が発生する恐れがある。
 そこで同研究所では、外張りに使うプラスチック系ボード状断熱材に外壁の主な断熱と気密層としての役割を持たせ、防湿・気密シートなしでの施工を可能にするとともに、壁内結露も起こさない断熱仕様を検討した。

試験体
No.
断熱層構成 断熱特性 観察結果
外張断熱材
(フェノールフォーム)の厚さ
充填付加断熱材
(グラスウール)の厚さと密度
充填付加断熱材に対する外張断熱材の熱抵抗比 熱貫流率
(K値)
合板面
の結露
カビの
有無
試験体1 25ミリ 50ミリ(16K) 1.13倍 0.41 あり あり
試験体2 50ミリ 50ミリ(16K) 2.25倍 0.27 湿り気
あり
なし
試験体3 45ミリ 30ミリ(32K) 2.55倍 0,31 なし なし
試験体4 45ミリ 70ミリ(32K) 1.09倍 0.24 あり あり
試験体5 50ミリ 30ミリ(32K) 2.83倍 0.28 なし なし
試験体6 50ミリ 60ミリ(32K) 1.42倍 0.24 湿り気
あり
なし
試験体7 60ミリ 30ミリ(32K) 3.40倍 0.25 なし なし
試験体8 60ミリ 40ミリ(32K) 2.55倍 0.23 なし なし

断熱構成を変えた8つの試験体の実験で明らかになった壁内結露とカビの有無
熱抵抗比率がカギ
 まず、シミュレーションによって、次世代省エネ基準の外壁熱貫流率を15%程度上回るには、外張り断熱材と充てん付加断熱材の性能・厚さ比がどの程度であれば良いか、また、断熱構成の違いによって壁内の湿度がどうなるかを検証。次に外張りにフェノールフォーム、充てん付加にグラスウール(ボード)を使って、それぞれの厚さが異なる外壁の試験体をいくつか造り、屋外側の温度を変化させて、壁内の温湿度や結露・カビの発生状況を観察した。
 これらの結果、地域ごとに各断熱材の熱抵抗値の比率によって、耐力面材室内側で発生する結露・カビの状態が大きく変わってくることが判明。壁内の結露やカビの発生を抑えるには、外張り断熱材の熱抵抗値を充てん付加断熱材より一定以上大きくする必要があり、札幌以南では充てん付加断熱材に対する外張り断熱材の熱抵抗値を2.5倍以上、旭川圏では3.4倍以上とすれば良いことがわかった。
 具体的にこれらの条件を満たし、次世代省エネ基準を15%程度上回る断熱仕様は、札幌以南でフェノールフォーム45ミリ外張り+グラスウールボード 32K30ミリ充てん付加など。旭川圏でフェノールフォーム60ミリ外張り+グラスウールボード32K30ミリ充てん付加など。

コスト負担は約9年で回収
 昨年10月には旭川でこの断熱工法を採用した住宅が竣工し、冬期に壁内の温湿度の推移をユーザーが居住した状態で測定した。外壁構成は外張り断熱材としてフェノールフォーム60ミリを施工し、耐力面材のOSB9・5ミリを挟んで室内側にグラスウールボード32K25 ミリを充てん付加。
 その結果、シミュレーションや実験と同様の結果が得られ、壁内で常時結露することはなかったことも確認されている。
 なお、同研究所のコスト試算によると、次世代省エネ基準で定められている外壁の熱貫流率0.3W/m2Kを2割上回る0.24W/m2Kとした場合、 17万4000円のアップ。ただ、年間の暖房エネルギー使用量(札幌40坪・室温20℃)は、灯油換算でおよそ200の削減となり、灯油価格を100円/ とすると年間2万円程度ランニングコストが節約できるため、9年程度でコストアップ分は回収可能になる。

MSの外断熱改修
アイテック 外装は樹脂SDとガルバ

改修前の外観

改修後。色は落ち着いた濃いグレーに
 札幌の設計事務所・(株)アイテック(佐藤潤平社長)は、札幌市中央区北2条西28丁目にある分譲マンション「イトーピア円山」の外断熱改修を含む大規模修繕を受注、今月末完成を目指して現在工事が進んでいる。同社のマンション外断熱改修は、平成16年の「大通ハイム」以来2棟目。
 イトーピア円山は築34年の7階建42戸の分譲マンション。築年代が古いため断熱材は入っておらず、入居者からは「ガス暖房の費用がかさむ」などの声も出始めていた。
 同マンションの管理組合が、道内で初めて外断熱改修した分譲マンション「大通ハイム」を実際に見学し、温熱環境の向上とコンクリート躯体の保護効果による建物寿命の延伸が期待できると採用に踏み切った。
 改修内容は設備面も含めると多岐にわたるが、断熱面ではダウ化工(株)のRC用外断熱工法「そとだんかべメイト」で外断熱改修を行い、開口部は外付けサッシを付加してトリプルサッシにした。
 「そとだんかべメイト」は、スタイロエースと鋼製胴縁材を組み合わせて胴縁を外装材の下地とし、軽量なガルバリウム鋼板や塩ビ樹脂サイディングなどを外装材として使用する工法。他の断熱材に比べて「トータルコストで魅力がある」という。
 今回の外断熱改修では50ミリ厚の断熱板を使い、北向きの側面のみガルバリウム鋼板外装で仕上げ、残りの面はゼオンサイディング・センターロック(発売元・ゼオン化成(株))を採用した。この使い分けについて佐藤社長は、「北向きの側面部分は開口部が一切ないので役物加工などの必要がなく、ガルバリウム鋼板は材料費が比較的ローコストなのでそのメリットが生きてくる。反対に、道路に面した東面など窓が多い部分は役物が充実して施工しやすいゼオンサイディングを選んだ。コストをあまりかけずにきれいに納まるのが魅力」という。
 この改修工事については、道立北方建築総合研究所(北総研)が改修前/改修後の温熱環境を測定することになっている。また上層階でゼオンサイディングの耐風圧特性を測定、先日開かれた北総研の研究報告大会で十分な特性を持っていることが報告された。

推進主体は入居者
 佐藤社長は、「外断熱改修実現までには、改修費用の捻出などのハードルがある。築30年以上のマンションでは、設備の大規模更新なども同時に行うことが多く費用面の不安もある。そこで、工事費の概算見積や長期修繕計画の的確な立て方など資金面も含めた提案を独自開発したパソコンソフトを用いて行っている。今回の改修でも全ての要望が実現できたわけではないが、住民と話しあって各工事内容の優先順位を設定することで予算を確保した。
 最終的には、管理組合など入居者ご自身が推進する主体となっていただくのが一番」と話している。

19年度道内着工
 
 道内全市町村別の平成19年度住宅着工戸数がまとまった。全体では4万2379戸、前年度比15.1%減と、過去10年間で最低の実績。道内の景気が回復しないことに加え、年金問題などの社会不安、そして建築基準法の改正などが重なり、住宅需要が一気に冷え込んだ。このような中、道内各地域の状況について分析した。

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