平成20年9月25日号から
断熱・気密が原因でフラッシュオーバー?
帯広市の住宅火災を検証

辻本教授の視察を報道する記事
 8月28日早朝、帯広市内で住宅が全焼し遺体が発見された。地元紙「十勝毎日新聞」は当日1面トップで報道、3日後の31日には東京から現地入りした大学教授にインタビューを行い、“住宅の断熱・気密性能の高さが大きな被害をもたらした”とする記事を掲載した。高断熱・高気密が火災による被害を拡大させたとしたら重大な問題だが、本当にそうなのか。帯広市消防本部と現地入りした大学教授などに取材した。

高断熱ほど危険なのか
 火災事故の概要は以下の通り。
 1.西3条南29丁目の会社社長宅から早朝5時30分ごろ出火、軽量鉄骨造2階建て住宅を全焼。
 2.家族2人が死亡。死因は一酸化炭素中毒。他の家族も入院。
 3.出火原因は不明。付け火などを疑わせる痕跡はない。
 地元住民によると、火の勢いがすごかったといいうが、近所に住む一級建築士によると、通報から5分程度で消防が到着したにもかかわらず、準耐火構造の住宅が全焼したことに驚いた、としている。
 3日後の同紙では防火や火災安全工学の専門家で、東京理科大学工学部第二部建築学科教授の辻本誠氏が30日に同現場を視察したことを報じ、同教授が1. 「通常の火災に比べて燃え方が激しい」2.「断熱材などによる気密性の高さが、強力なフラッシュオーバーを引き起こしたのでは」と分析した上で、3.「冬の寒さが厳しい北海道では、省エネで環境にもいい高断熱住宅が喜ばれる」4.「こうした惨事が起きたことで、断熱性を追求することがすべていいとはいえなくなるのでは」との見方を示した―と記事を締めくくっている。
 もし、この記事の通りなら、高断熱・高気密住宅ほど火災が起きると危険ということになる。
 住宅業界はこの火災と報道をどう見るのか聞くとともに、事実関係を整理するために帯広市消防本部に取材した。

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米国研究者と交流
十勝2×4協会 2×4使用部材の研究協力

辻本教授の視察を報道する記事
 今年設立30周年を迎える十勝2×4協会(会長・神谷雅章神谷建設(株)社長)は11日、帯広市内で約20人の会員が集まり、フレーミング検定や気密測定を行った。また、現場にはアメリカからワシントン大学森林資源学部教授で世界各地の住宅研究を行っているアイバン・イースティン木材製品国際貿易研究所センター長と同研究員のジョー・ルース氏が訪れて視察するとともに、同会会員と活発な情報交換を楽しんだ。
 当日は朝9時過ぎに起きた十勝沖地震の影響でイースティン教授一行の到着が少し遅れるハプニングがあったものの、現場では日本語堪能なルース氏と、案内役の全米林産物製紙協会のエドワード・松山氏が中心となり、アメリカ産の製材や建材の使用状況について視察。現場は2件ともI型ビームのTJIやLSLなどが使われており、イースティン教授らは道内でTJIの使用が増えてきているという会員の話に耳を傾けていた。

どんな建材が使われているかをチェックする一行。写真左から順に、アイバン・イースティン教授、ジョー・ルース氏、エドワード・松山氏事
 その後話題は200年住宅の取り組みにまで及んだ。松山氏が「200年住宅へ応募するために住宅のコストはどれくらいアップしましたか」と尋ねたのに対し、会員ビルダーが「ふだんから2×6の充てん断熱など優れた断熱性能で建てているので、さほどコストアップにはならない。むしろ書類を作るのに時間とコストがかかった」と軽妙に返す場面もあった。
 同協会のフレーミング検定は、会員ビルダーの現場を同協会の検定員が釘の打ち方・使い方、構造面での無理がないかなどを検査、その結果は毎月行われる例会で報告される。会員ビルダーは最低年1度は受けなければならない。また気密測定も同様に年1回以上受ける必要がある。
 今回はTRAD(株)のモデルハウスで測定し、相当隙間面積は0.4/m2だった。

多くのチャレンジ
パッシブシステム研究会 300ミリ断熱やハイブリッド換気など

外壁300ミリ断熱やハイブリッド換気などを採用した実証棟
 パッシブ換気など自然エネルギーを利用した住宅技術の開発と普及によって寒冷地における住環境の向上を目指しているNPOパッシブシステム研究会(中野隆二理事長、(有)フォルムデザイン社長)では、去る16日、秋の研修会として札幌市手稲区に完成した同会実証棟の見学会・勉強会を開催。実証棟に採用された300ミリ断熱や、パッシブと第1種熱交換のハイブリッド換気、夏の暑さ対策などについて、設計・施工に関わった同会会員やメーカーの担当者らが説明を行った。
 当日は最初に札幌市手稲区の新興住宅地・明日風のまちに建設された同会実証棟を見学。この実証棟は(株)テーエム企画(札幌市、森成世社長)がドイツの無暖房住宅であるパッシブハウスを目標に建設したモデルハウスで、同社の協力のもと、会の実証棟としても利用している。


アルゴンガス入りLow-Eトリプルガラス仕様のトステム製PVCサッシ(カットモデル)
トステムが樹脂トリプル窓
 始めにテーエム企画の森社長が300ミリ断熱や、ブラインドを挟んで2重サッシとした開口部回りなど実証棟の特徴についてひと通り紹介。続いて三浦眞オフィスの三浦眞代表が「パッシブハウスを考えるうえで換気による熱ロスをどれくらい減らすことができるのか、熱交換効率の確認もしたいと考えた」と、パッシブ・第1種熱交換のハイブリッド換気採用の目的を説明した。
 また、実証棟に使われたトステム(株)のプラスチックサッシ・アルゴンガス入りトリプルLow-Eガラスを、同社北海道支社販促企画課の田中武係長が紹介。この窓はまだカタログや価格表には掲載されてなく、住宅会社の要望に応じて受注生産しているもの。ガラスは日本板硝子製で厚さは3ミリ、3枚中2枚に Low-Eコーティングを施している。2つの空気層は7ミリで、スペーサーは樹脂。それぞれアルゴンガスを封入。
 価格は「Low-Eアルゴンペアガラスと比べて2~2.5倍」(同社田中係長)になるという。


実証棟では夏対策を考えて2重窓の間にブラインドを設置しているが、外側の窓は冬期に結露しないようサッシ下部に5ミリ径の穴を2つあけてサッシ間の空気が対流するようにしている(赤丸部分)
坪40万台で300ミリ断熱
 実証棟を見学した後は、札幌市西区の札幌市生涯学習センター「ちえりあ」に移動し、勉強会を実施。
 最初に同会理事ではるす工房主宰の高杉昇氏が今回の実証棟のコンセプトや導入された技術について講演し、「高断熱化を進めていくと夏の暑さ対策が重要になるが、今回は外壁南面と西面の窓上に庇を付け、さらにブラインドで日射を防ごうと考えた。ブラインドは窓の室内側に付けても効果が薄いので、窓を2重にしてその間に設置したが、窓を2重にすると冬期に外窓で結露が起きやすいので、北海道大学大学院准教授の羽山広文先生に相談し、外側の窓のサッシ下部に5 ミリ径の穴を2つあけてサッシ間の空気を動かすようにした」など、夏対策を始めとする実証棟の設計・施工について解説した。
 この後はテーエム企画の森社長と同社工事主任の北村直基氏が実証棟のコストについて報告。森社長は「当社の標準仕様である200ミリ断熱の住宅と比べた場合、断熱部分だけを見ると坪当たり3万8千円のアップ、坪単価で48万8千円となり、300ミリ断熱の住宅を坪単価40万円台でユーザーに提供するという当初の目標が実現できる」と、300ミリ断熱が坪単価40万円台で実現可能であることに自信を深めていた。

高断熱・高気密は健康守る
 最後に北海道大学大学院准教授の羽山広文先生が「住宅内の疾病発生からみた温度のバリアフリーの価値」をテーマに講演。羽山先生は人口動態統計や札幌市などの救急搬送データを示しながら、ヒートショックが原因と思われる心疾患や脳血管疾患による死亡者、浴室内での死亡者が冬期に多いことを指摘。高断熱・気密化によって、室内のどこにいても寒くない住宅を造ることは寒冷地だけではなく温暖地でも大切であるとしたうえで、「高断熱・高気密住宅は光熱費だけでなく、医療費や介護費の削減にもつながるとユーザーに話してもいいのでは。健康食品が不況知らずと言われるように、健康と安全には価格を付けられないことをユーザーは知っている。高断熱・高気密住宅も住まい手の健康を守るものであることをもっとユーザーに伝えてほしい」ということを、参加した会員に呼びかけた。

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