平成20年10月25日号から
Q値1.3Wの断熱仕様
 
 エネルギー価格の高騰によって住宅の省エネ性を高める動きが活発になってきた。これまでにも民間レベルで熱損失係数=Q値を向上させる取り組みは見られたが、国の超長期住宅先導的モデル事業に選ばれた北方型住宅ECOは換気による熱回収なしで1.3W以下を義務化、来年4月に迫った省エネ基準の改定でも道内などⅠ地域のQ値は1.3Wに強化されるのではないかという声も出ている。北海道の住宅はQ値1.3Wを標準とする時代がやってきそうだ。


Q値1.3W時代の主な断熱仕様
躯体の断熱を優先
 ひとくちにQ値1.3Wと言っても、北方型住宅ECOのように熱回収なし、つまり躯体の断熱性能だけで達成する方向と、現在の次世代省エネ基準のように熱交換換気による熱回収効果も含めて達成する方向がある。
 しかし、断熱は建設時にしっかり施工すれば、その効果は100年以上変わらないが、機械設備で100年以上動き続けるものはまずない。また、地球環境保護の視点からもスクラップ.アンド.ビルドから良質な住宅ストック形成への転換が必要になっていることを踏まえると、熱交換換気は付加的.補助的な省エネ手法とし、1.3Wを躯体の断熱性能だけでクリアすべきだろう。
  Q値1.3Wをクリアする断熱仕様については、現在、北方型ECOの建設を進めている道内住宅会社の施工例を参考に見ていくと、まず在来の充てん断熱では付加断熱が必要不可欠。外壁は軸間に高性能グラスウール16K100ミリを充てんしたうえで、押出スチレンフォームB3種や高性能フェノールフォームで 50~60ミリを外付加するか、グラスウール100ミリを外付加して200ミリ断熱とする。
 後は外張り断熱やツーバイフォー工法でも同じだが、天井.屋根は400ミリ前後、床は250~300ミリ、基礎は布基礎両側または布基礎外側と土間下合わせて150ミリ程度の断熱厚を確保し、窓は物件によって異なるが、PVCサッシ.トリプルガラスで強化するケースが目立つ。

防湿層の位置に注意
 一方、これまで発泡プラスチック系断熱材による外張り断熱で施工していた住宅会社は、充てん付加断熱に行かざるを得ない。この場合に注意したいのが防湿. 気密層の位置だ。安全を優先して充てん付加断熱材の室内側に防湿.気密シートを施工するのであれば問題はないが、従来の外張り断熱と同様に防湿.気密シートを軸組屋外側に施工し、外張り断熱材と充てん付加断熱材で挟んだ形とすると、それぞれの断熱材の性能.厚さによっては壁内結露を引き起こす可能性がある。
  この点について、カナダではすでにR-2000のマニュアルの中で、外壁全体の熱抵抗値のうち、外張り断熱材が3分の2、充てん付加断熱材が3分の1を占めるようにすれば良いという研究結果を示している。
 また、道立北方建築総合研究所(北総研)では今年の調査研究報告会で、外張りする発泡プラスチック系断熱材に主な断熱と防湿.気密層の役割を持たせ、防湿。気密シートなしで充てん付加断熱を行っても壁内結露を起こさない断熱仕様について発表。充てん付加断熱材に対する外張り断熱材の熱抵抗値を札幌以南で 2.5倍以上、旭川圏で3.4倍以上とすれば、壁内結露が発生しないと報告している。

ツーバイはやり方様々
 ツーバイフォー工法はどうかというと、他の工法よりも断熱仕様は柔軟に対応しやすい。開口部が少なければツーバイシックススタッドにより140ミリ断熱でも1.3Wをクリアするが、ツーバイシックススタッド+付加断熱で160ミリ前後の断熱厚を確保する例もあれば、ツーバイエイトスタッドによる180ミリ断熱を採用する例もある。
 ただ、いずれの工法でも建物の形状やプランによっては、想定していたよりもQ値が下がらない場合があることに注意したい。真四角の総2階というシンプルな建物ならいいが、出隅.入隅が多かったり、平屋や1階に組み込み車庫がある場合、2階の床組を1階に現しにする場合などは、例え200ミリ断熱でも 1.3Wをクリアできないこともある。その場合は天井の断熱厚を増やすか、開口部の性能を上げることになるだろう。

計算方法の統一が必要
 また、今回の超長期住宅先導的モデル事業に関して言えば、次世代基準レベルの省エネ性能など、国が義務付けた基本性能を指定性能評価機関で確認してもらうわけだが、Q値の計算方法は各評価機関で統一されていない。このほか、室蘭工業大学鎌田研究室が開発した熱損失係数などの計算ソフト.QPexを使う場合、バージョン2ではスカート断熱を考慮した計算を行うため、次世代省エネ基準の計算方法でQ値を算出する評価機関ではスカート断熱を行う物件のQ値が甘めに出るケースがあるという。
 いずれにしても、住宅会社にとっては混乱を招く話であり、国や道には統一されたQ値計算の指針を示してもらいたい。

持続可能な家と街
建築士事務所協会小樽支部.PS研究会 北欧・フィンランドに学ぶ

吉崎恵子氏
 今年で創立40周年を迎えた北海道建築士事務所協会小樽支部では、去る16日、小樽市内で北欧.フィンランドのヘルシンキ市で都市計画を担当している吉崎恵子氏を講師に迎え、「北方圏諸国の一員としての街づくり、家づくりの手法」をテーマに記念講演を開催。また、18日には NPOパッシブシステム研究会が吉崎氏を招き札幌市内で勉強会を行い、ヘルシンキ市で行われている持続可能な住宅づくりと都市計画などを学んだ。
  道建築士事務所協会小樽支部記念講演の講演要旨は次の通り。

デザイン・機能も大切
 ヘルシンキ市は街並みをとても大切にしており、建築基準法で“都市は健康的で美しく、また快適かつ機能的でなければいけない”と定めている。一度建てた住宅・建築物は基本的に建て替えることはなく、メンテナンスを継続して行うことで、持続可能な住宅.社会の形成につなげている。
 持続可能な住宅は、単に物質的な耐久性.省エネ性だけではなく、優れたデザインや機能を兼ね備え、将来の増改築に対応できる構造.設備などを有しているという条件も満たしていることが必要。具体的に外壁でU値(K値)0.24W(/m2)など熱損失が少なく、メンテナンスしやすい構造体や、間仕切り壁を簡単に移動できるシステムの採用、ノーマライゼーション.バリアフリー対応が求められるほか、住まい手も積極的にメンテナンスや内外装.設備等の更新を行うという意識が必要になってくる。
  これらを満たすことによって住宅のステータスも保つことが可能だ。日本では住宅の資産価値は年々下がっていくが、フィンランドで様式の素晴らしい古いマンションなどは新築以上に価値が上がることもある。これはやはり住まい手のメンテナンス.維持管理にかかっている。
 最近の新築住宅に関しては、熱橋を防ぐことができ、構造体への蓄熱という点でも有利なほか、気密層を壊すことなく間仕切り壁を移動できる外断熱が主に採用されている。古い住宅については既存の外壁の屋外側に新たに断熱層を設けている。多くの新築住宅は現在の建築基準を上回る省エネ性能で建てているが、これは建てるならより良いものを造ろうとしているから。フィンランドには“私は安物を買うほどお金持ちではない”という言葉がある。建てる時にお金をかけないと、光熱費や維持管理費が高くつくことを知っているわけだ。

基準はより高断熱化へ
U値
W/(K・m2)
2008年
法規上の
最低基準
2008年
標準の住宅
2008年
低エネジー
ハウス
2010年
法規上の
最低基準
外壁
0.24
ロックウールなら
160ミリ
0.21
0.18
0.14
ロックウールなら
280ミリ
天井
0.15
ロックウールなら
340ミリ
0.15
0.12
0.09
ロックウールなら
580ミ

0.24
EPSなら
50/190ミリ
0.2
0.15
0.14
EPSなら
130/330ミリ

1.4
1.5
1
1
ドア
1.4
1.5
0.8
0.7
フィンランドの建築基準。2010年には現在よりさらに断熱性が強化され、
外壁はロックウールだと280ミリの厚さが必要になる
2年後には300ミリ断熱
 現在、建築基準法で定められている断熱の最低基準は、U値で外壁が0.24W、天井が0.15W、床が0.24W、窓.ドアが1.4Wとなっており、例えば外壁はロックウールなら160ミリ相当になるが、2010年にはさらに基準が引き上げられ、外壁は0.14Wでロックウール280ミリ相当になるなど、 300ミリ断熱が標準の時代に入ろうとしている。これはそれだけエコロジーや快適性の向上に力を入れているから。

やさしい社会を考えた街づくり
 街づくりに関しては、建物の建築範囲や高さなどを規制するだけではなく、使用材料や色、窓の大きさなども考えている。集合住宅では単身者向けの1LDKやファミリー向けの3LDKなどいろんなタイプの住戸を入れることで、様々な世帯が触れ合えるようにしており、これは住民相互が社会的に理解し合える環境の形成に役立っている。建物の一部を幼稚園、共用スペース、高齢者用スペースと、入居者のライフサイクルに合わせて変更できるようにしている点も特徴的。
 ヴォーサリ地区という街では住民混合という考え方で、ブロックごとに民間賃貸住宅、民間分譲住宅、公営賃貸住宅、公営分譲住宅をそれぞれ4分の1ずつ配置し、地域格差.住民格差が生まれないようにしている。フィンランドではこうすることによって、人が人にやさしくできる社会ができると考えている。
 なお、ヘルシンキ市では1950年から始まった地域暖冷房が発展しており、ヨーロッパでは最大規模を誇る。住宅.建築物の95%が利用しているが、暖房のために火を付けたり消したりすることがないので安全なほか、灯油を買ったり貯蔵したりということもないので、手間がかからないのが大きなメリットとなっている。


ヘルシンキ市ヴィーッキ地区に建てられているエコ住宅
太陽熱利用なども
  18日に行われたNPOパッシブシステム研究会の勉強会では、吉崎氏が「ヴィーッキのエコ住宅地区の実験~エコロジカルな都市計画と建築~」と題して講演を行った。
 吉崎氏の講演要旨は次の通り。

   *     *

 ヴィーッキのエコ住宅地区は、持続可能な発展を目指して作られた地区で、他の地区への波及効果も考えて計画。1994年にエコをコンセプトとした都市計画のコンペを実施、2004年に完成した。
  1997年に作った同地区だけのエコロジカル建設基準は、当時の建設基準との比較でCO2排出量が20%減の3200kg/m2、暖房エネルギー使用量が 34%減の105kWh/m2、電力使用量がプラスマイナスゼロの kWh/m2、建設廃材が10%減の18kg/m2などを規定。このほか、良好な室内環境や太陽光利用、間取りの可変性、地表水の利用などの項目を含め、最高30点の点数制で評価した。
 建てられた住宅は、サンルームから温かい空気を室内に導入したり、粘土や麦わらのブロックなどで蓄熱効果をアップ。太陽熱を暖房.給湯に利用するソーラーヒートプロジェクトに参加した住宅も約400戸を数え、年間暖房エネルギーの10%、年間給湯エネルギーの約3分の1を太陽熱で賄っている。


パッシブシステム研究会の勉強会では、吉崎氏を囲んでフィンランドの住宅事情などに関するディスカッションも行われた
住民の意識がカギ
 この地区の住民の意識調査を行ったところ、エコ地区だからという理由で家を建てた住民はそういなかったが、暮らし始めたらエコ意識が上がってきたことが判明。また、暖房エネルギー.水道.電気の各消費量を調べたところ、各世帯平均で暖房エネルギーは基準をやや上回り、水道.電気はほぼ基準通りになっていることがわかった。
 暖房エネルギーには、温度設定を高くし過ぎた世帯があるほか、室温調整で窓を少しだけ開けていた世帯もあったことなどが原因で、断熱.気密性能が設計値通りに出ていないこともあった。また、水道料が多い住宅は水圧の設定が高かったということもあった。
 これらを踏まえると、室温設定や水道の圧力設定などについて住まい手や管理する人の意識の啓発が必要であること、建設時に施工品質を確保できるように監理を行うことなどが、解決方法になると考えられる。
 エコロジーで持続可能な住宅.街は、設計から施工、そして入居後の維持管理まで密接に結びついていなければならないし、いくらいい住宅を造っても、住まい手の意識が低ければ意味を持たないということが、エネルギー消費量の調査から明らかになった。

お湯が出る散水柱
光合金製作所 寒冷地対応で新需要開拓

トップカバーには水抜きレバーが内蔵されている

ペットや洗車に必要なシャワー水栓を標準装備
(防水パンと水専用カランは別売)

(株)光合金製作所は、屋外用の湯水混合栓「アクラスDK」をこのほど発売した。ワンタッチ式の水抜き機能に加え、春や秋の肌寒い時期に湯水を使ってペットのケアや洗車などができる便利さをPRする。エンドユーザーへのアピールを考え、今回『アクラス』というブランドを名付けた。
  アクラスDKは、最近増えてきたモダン系住宅に対応したシンプルなアルミアルマイト仕上げ。トップカバーには水抜き栓レバーが内蔵され、カバーを開けてレバーを下げるだけで水抜きが行える。お湯の温度調節は本体の左右にある湯水ハンドルをそれぞれ操作して行う。
  ペットやガーデニング、洗車などに使うことを想定しているため、製品には標準でシャワー水栓が付属する。このほか、水専用のカラン取付口も装備し、そこに好みのカランを取り付けることができる。防水パンは市販の製品を使用。
  湯水混合水栓は本州では既に発売されて人気がある。道内では室内の給湯ボイラーから屋外の水栓柱に配管する途中での水抜きをどうするかなど技術的課題があった。同社では特許申請中の技術で解決し、室内に立ち下がり管用の水抜きハンドルを設けた。
  価格はシャワー水栓付きで11万4000円(税別)。水専用カランと防水パンは別売。
  問い合わせは、本社(Tel.0134・32・2135)、札幌営業所(Tel.011・683・3433)。


アクラスの室内外配管例

 


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